2014年12月29日
●キーワード2014
今年のアート・建築・街関連を三つのキーワードで振り返ってみます。(過去ログはこちら)
今年は夏に体調を崩し、その回復をはかりながらの鑑賞となりました。
前年に続いて観る数はかなり減りましたが、魅力的な観方に出会えた一年でした。
□観る楽しみ (コレクターサイド)
コレクターは、通常の鑑賞者よりも「よりアートに近く、楽しむ立ち位置」にあります。「美術館で学芸員の意図に沿って展示を眺める」ことから一歩踏み出して、その楽しみに迫る。そういったいくつかの試みに触れる機会がありました。まるで生き物のような、作品の別の側面が見えてきます。
・超絶技巧!明治工芸の粋@三井記念美術館
明治期に一瞬咲き、儚く消えた超絶技巧の数々が、時代を経て再評価される。その間、作品を収集、公開し続けたコレクターの愛情の賜物。
・名画を切り、名器を継ぐ@根津美術館
絵を楽しむために画面を切り、割れた椀を継ぐ。所有者の使い勝手に合わせて作品をカスタマイズする価値観は、真っ当であると同時に傲慢とも感じられ、往時の鑑賞の意味に触れる。
・現代美術のハードコアはじつは世界の宝である展@東京都近代美術館
世界有数の現代アートコレクションを、その成立、日常使いを俯瞰しつつ鑑賞する。同じ時間軸を生きながらも、コレクターとの距離はとても遠い。
・東山御物の美@三井記念美術館
日本美術の源流ともいえる足利将軍家のアートコレクションを、この目で観る。ひたすらに眼福。
・若冲ナイト@6次元
思いがけず訪れた、若冲をコレクター視点で観る機会。やはり、美術館で見るのとは全然違う、距離感、見え方に感動。
□観る楽しみ (作り手サイド)
鑑賞者の常識を揺さぶる、作り手からの挑戦。
・南部鉄器展@パナソニック汐留ミュージアム
カラフルな鉄器に、その重さ、地味な質感という常識が覆される爽快感。
・たよりない現実、この世界の在りか@資生堂ギャラリー
なんとなく感じていた違和感を、はっきりと認識した瞬間の驚き。まるで自分を包む世界が変質してしまったかのような衝撃。そして、その種を知ったときの安堵。すごいインスタレーションでした。
・「チームラボ 踊る!アート展と、学ぶ!未来の遊園地」内覧会@日本科学未来館
最新技術を駆使したインタラクティブ性と、江戸時代の見え方の再発見。必ずしも成功しているとは思えなかったけれども、その意欲と人気のほどがすごかった。
□大人の修学旅行
2005年にブログを初めて、あっという間に10年が経ちました。趣味を同じくする人たちと一緒に行動する楽しみは、大人の修学旅行のよう。今年はその集大成のような、台湾旅行を満喫することが出来ました。
・台北国立故宮博物院-神品至宝-@東京国立博物館
神品白菜来日!台湾行きの前哨に、上野で鑑賞。作品の周りを渦巻く動線は上手いけれども、鑑賞というより、白菜がその来日騒動を観ているよう。
・みんなで台湾!
念願の大人の修学旅行 in 台湾!台北と九份を満喫。食べ物が美味しかった。体調不良で配慮いただいた同室の方々、一緒に行った皆様に感謝。
・伊東豊雄展|台中メトロポリタンオペラハウスの軌跡 2005-2014@ギャラリー間
今回は足を伸ばせなかった、台中の名物建築誕生物語。来年はぜひ行きたい。
●12月の鑑賞記録
12/5
日本国宝展@東京国立博物館平成館
国宝土偶勢揃いの豊穣な造形。
狩野永徳「琴棋書画図」の力強い描画。
「孔雀明王像」、雪舟等楊「天橋立図」と並ぶ写実の精華。
李迪「紅白芙蓉図」の神秘的な美。
法隆寺「広目天立像」、快慶「善財童子立像」と並ぶ、造形の多様性。
サイドメニュー充実の展覧会。
12/6
◎ティム・バートンの世界@森アーツセンターギャラリー
小品スケッチがズラリと並ぶ渦巻状スペース。動きのある線描、美しい色彩のカワイイキャラクターに釘付け。
ヘンゼルとグレーテル映像。結末にビックリ。
ヴィンセント映像の自閉っぷりも清々しい。満喫。
12/12
◎若冲ナイト@6次元
4.5畳間くらいの空間で、一人で若冲絵画4点と向かい合う。美術館で観るのとは全く違う親密な関係。墨の濃淡、瑞々しさ、紙面の傷も含めて、自然と目に入ってくる。そして浮かび上がる、波間を泳ぐ鯉の躍動感、鶴の脚の筆運び。眼福。
12/13, 12/20
○伊東豊雄展|台中メトロポリタンオペラハウスの軌跡 2005-2014@ギャラリー間
縦横無尽に洞窟空間が連続する超話題空間実現の記録。3階の模型群、中庭のモックアップ、4階の映像。横溢するパワーと情熱に圧倒される。 現場の3D映像に引き込まれる。早く実物が見たい。
12/20
濱中利信コレクション「ゴーリー・ライブラリー」@ヴァニラ画廊
ティム・バートンも影響を受けたというエドワード・ゴーリーの作品展。狭い会場にギッシリと、絵本の装丁を中心にゴーリーの世界を満喫。グッズの充実ぶりにビックリ。
12/21
エルメス「レザー・フォーエバー」@東京国立博物館表慶館
エルメスによるレザー押し展覧会。素材の手触り、匂い、風格。ズラリと並ぶバッグが壮観の一方で、ミニチュアが可愛らしい。エルメスは観て楽しむもの。いいですか、観て楽しむものです。
2014年12月12日
●若冲ナイト@六次元
六次元で開催された「若冲ナイト」に参加しました。若冲絵画のオーナー「古美術 景和」の景山由美子さんがお持ちの「伊藤若冲」の作品(水墨画)を実際に鑑賞しながら、景山さんの話を、「青い日記帳」主宰の中村剛士さん、六次元店主のナカムラクニオさんと共に伺おうという企画です。
□鼎談メモ
「 「プライスコレクション展」で、あれ、伊藤若冲って買えるんだって気づいてしまった。」
「若冲作品を11点集めるに至り、さてどうしようかと。次の人に渡そうと、古美術商を始めた。」
「(作品への影響を考えて、今回は)照明もLEDに変えてる。」
「今日は4点持ってきた。うち1点は若冲の下絵が残っている絵とぴったり合致する絵。下絵で残っているのは3点。たくさん残っていたけれども、火事で燃えてしまった。」
「墨絵は即興と言われるけれども、下絵の段階から濃淡を踏まえて書いている。構図も考えて書いていたんだなあと思う。」
「若冲は猫とうさぎは書いていない。飼いならされた動物は書いていない?牛図はレア。来年サントリー美術館とミホ美術館で若冲生誕300年展。新発見があるかも。牛レア説はどうなる?」
「若冲工房はあったか?古文書には出てこない。」
□鑑賞タイム
鼎談と並行して、一人数分の鑑賞タイム。
4.5畳間くらいの空間で、一人で若冲絵画4点と向かい合います。美術館で観るのとは全く違う親密な関係。墨の濃淡、瑞々しさ、紙面の傷も含めて、自然と目に入ってきます。そして浮かび上がってくる、波間を泳ぐ鯉の躍動感、鶴の脚の筆運び。眼福。
□感想
「美術館で観る」ことと「作品を楽しむ」ことはだいぶ違うなと感じました。その違いは単にガラスの有無や作品との距離ではありません。不特定多数に観てもらう前提で、学芸員の構想に基づき設置される前者。1対1で観ることを前提に、対話のような関係を築く後者。題材は同じでも、目的が違えば、見え方が違うのは当然と気づかされます。すり鉢状に狭まり、奥に4.5畳間のスケール感を有する六次元の空間構成と、若冲作品がもたらす江戸時代の視点が重なり、コレクターだけが体験できる時空間体験を共有できたと思える。そんな貴重な機会でした。