2018年05月23日

●読書メモ 「世界一訪れたい日本の作り方」デービッド・アトキンソン 東洋経済新報社

 副題は「新・観光立国論【実践編】」。日本に住み始めて28年の、元証券会社アナリストで、現在は文化財補修を行う会社の社長を務めるイギリス人の視点による、「稼ぐ」観光論の実践編。

■内容メモ
はじめに-観光はもっとも「希望のある産業」である
 2007年にはおよそ800万人だった「外国人観光客」が、2016年には2400万人を突破、10年足らずで「3倍」にもなったという「現実」と、2020年に4000万人、2030年に6000万人という安倍政権の「目標」を踏まえ、著者は「やるべきこと」をやれば、日本は「世界一訪れたい国」となり、この目標も簡単にクリアできると考える。
 観光大国になる4条件は「自然・気候・文化・食」。日本はこの4条件をすべて満たしている稀な国。なので、日本の観光業にはとてつもないポテンシャルがある。
 世界の観光産業は、2015年には世界のGDP総額の10%を突破、引き続き安定した成長を見せている。すでに自動車産業を上回る規模まで成長した。日本でも、がら空きだった新幹線のグリーン車が観光客風のアジア人や欧米人で座席が埋まる等、変化の兆しが少しずつあらわれきている。
 「観光立国の基礎」ができた状態から、「アジア以外の人々にも日本を好きになってもらい、もっとたくさん訪れてもらうフェーズ」に入っている。

第1章 日本の「実力」は、こんなものじゃない
     「大観光時代」を迎える世界と日本の現状

 WTTCの試算では、観光産業は全世界のGDPの10%、全世界の雇用の11分の1を生み出している。
 UNWTOの試算では、観光輸出の総計は1.5兆ドル、世界総輸出の7%を占める。
 エネルギー、化学製品に次ぐ「第3の基幹産業」という位置づけ。
 UNWTOによると、「国際観光客数」は1950年の2500万人から、2015年には11.9億人まで増加。2030年にのべ18億人になると予測。
 収入ベースで中国、タイのというアジアのツートップをいかに追い越すか。日本の潜在能力をもってすれば、少なくとも中国と競争するトップ2の座は取れて当然。
 日本は文化観光に頼りすぎて、より客層が広い国立公園などの自然観光を十分に整備しておらず、観光客向けの情報発信も不十分。マーケティングとブランディングが弱い。

第2章 「どの国から来てもらうか」がいちばん大切
     国別の戦略を立てよう

 JNTOデータによると、訪日観光客の85.0%をアジアが占めており、中国は全体の26.5%で、韓国は全体の21.2%。
 UNWTOのデータによると、欧州発の観光客が5億9410万人、世界の観光客の50.1%を占める。アジアは2億8950万人だが、伸び率が一番高い。
 日本は「遠方からの上客」と「成長率の最も高い近場からの多数客」を同時に取り込める絶好のロケーション。
 欧州からの観光客を増やしていくための戦略としては、「ドイツ」を狙うべき。

第3章 お金を使ってもらう「魅力」のつくりかた
     「昭和の常識」を捨てて、質を追求しよう

 「昭和の観光業」、「平成の観光業」、「これからの観光業」と言葉を定義。
 「昭和」は日本の総人口が右肩上がりに増加+日本人の観光熱が増加。特別な創意工夫なしで成長できた。「一極集中型」、「質よりも量」。
 「人口」が減少に転じて、「まだ行ったことがない」人が今後増えることは期待できない。
 「平成」は「昭和の観光業」の方法論を、中国人観光客へ適用しているだけ。見限られるのも時間の問題。
 「将来」は「一生に一度行ければいい」という場所から「何度も行きたい」という場所へと変えて「リピーター」にしていく。そのためには「満足度」と「1人あたりの単価」の向上が必要。観光資源は「努力」が求められている。

第4章 自然こそ、日本がもつ「最強の伸び代」
     「長く滞在してもらう」ことを考えよう

 「さらなる高度な整備」とは。日本は特に「自然」に関して、かなり強みがある。体験、アクティビティ、ホテルなどを工夫することで、「もっとも稼げる観光資源」に変貌させることができる。
 国立公園、キャンプ場を、もっと多面的に情報を解説し、子どもから外国人まで幅広い層が理解してもらえる、そしてそこにいることを楽しんでもらえる環境を整備することで、客層を広げることができる。

第5章 「誰に・何を・どう伝えるか」をもっと考えよう
     「So what?テストでうまくいく」

 日本のことをまったく知らない外国人に対して日本の魅力を発信し、新しい「ファン」になってもらうことが必要不可欠。整備をしっかりしてから情報発信に取り組むべき。「誰のために、何を伝えるべきか、何を理解して欲しいか」を考える視点が大切。原文にとらわれず、はじめから外国人が自身の常識や知識に基づいて文章を書いたほうが、はるかに効率的。

第6章 儲けの9割は「ホテル」で決まる
     「高級ホテル」をもっと増やそう

 観光戦略の成否は「5つ星のホテル」によって決まる。アメリカは6.7%の環境客から、世界の観光収入の16.5%を稼いでいる。アメリカには755軒の「5つ星ホテル」があり、この高い水準は、高級ホテルの圧倒的な多さが生み出している可能性がある。
 日本は28軒。2020年の4,000万人、2030年の6,000万人という目標を、世界平均である「5つ星ホテル」1軒あたりの外国人観光客数35万5090人で割ると、2020年には113軒、2030年には169軒の「5つ星ホテル」が必要という試算になる。スタッフの質とそのスタッフが提供するサービスこそが肝心。
 「価格の多様性」が重要。「上客」対応の観光戦略を進めていくうえで有効な手段のひとつが、「IR」(カジノを含む統合リゾート)。日本の向いているのは「リゾート型IR」。地域の「文化」や「自然」と組み合わされた「周遊観光の拠点」とも言うべき役割。「カジノ」は「自然観光」「文化観光」を整備するための「集金エンジン」の役割を果たす。
 「これもダメ」「あれもダメ」と最初から可能性を否定することを考えるのではなく、「目標を達成するためには、何をやらなくてはならないのか」という視点をもって、本当に必要な整備をしていくことが重要。

第7章 観光は日本を支える「基幹産業」
     あらゆる仕事を「観光業化」しよう

 縦割り行政で世界の観光産業のリーディング・カントリーになれるのかという問題。
 カンでものごとを進めていくよりも、目標と計画をもって進めいていったほうが失敗のリスクが減る。
 観光庁に求められるのは、データ分析機能。
 文化とスポーツは観光資源として活用していくという意味でも、国民の間で受け継ぎ振興していくという意味でも、「産業化」が不可欠。
 収益化・産業化に対して否定的な考えが多く「文化財で収益をあげるとは何事だ」と強固に反対されるのが常だった。
 文化財や博物館、美術館の運営に「公共性」という考え方を持ち込むこと自体は、素晴らしい志。この「公共性」の考え方を支えてきたのが、日本の長年の人口激増だったということを忘れてはいけない。自分自身で管理維持費を捻出していくサイクルをつくりだしていく必要がある。
 スポーツに「観光」や「エンターテイメント」の要素がないと、そこにはスポーツをこよなく愛する「ファン」しかやってこない。熱心なファン以外の人たちであっても丸1日楽しめるような総合的なイベントとしてとらえてみることが大切。
 潜在能力を活かさないのは「贅沢」だ。
 「やる」という覚悟を決めるか決めないか。

■感想
  数字を交えた簡潔なテキスト、キーポイントはピンクでハイライト等、読み手に配慮した作りで、本書の要旨を説明。読ませる「報告書」。
 数字に基づく世界と日本の現状把握と日本の課題提示。観光産業の安定した右上がり成長と、第3の基幹産業という位置づけは驚き。
 データ分析からターゲットを絞り込み、ずばり「ドイツ」と言い切る。掲載表のほとんどが、出典を示した上での筆者作成なので、論理から逆算して作成している部分もある気がするけれども、説得力がある。
 人口増から減への移行を踏まえて、観光業に求められる内容を、「昭和」、「平成」、「未来」の3つの時間区分に分けて解説、課題を抽出する論法はシンプルで明解。大きなストーリはその通りとして、切り捨てられる(ように思える)部分も多大。避けては通れない部分をサラリと説明して論を進める怜悧な手法が、視点鋭いアナリストらしい。
 これまで経験してきた慣習が現在でも有効とは限らず、他方正論で全ての感情を制御できるわけでなく。具体的な課題点とイメージが湧いてくる。
 「しっかり整備をして、それから発信。」は正論。その一方で、投資が先で、効果が後ということでもあるので、事業に慣れていない人にはハードルが高い。正論がドンドン述べられて、その度に「うむ」と「うーん」が入り混じる。
 今年はドバイ、アブダビで「5つ星ホテル」に泊まってみたこともあって、「価格の多様性」と「5つ星ホテルがもっと必要」という話は分かりやすい。IRは行ったことがないので、「日本でIR」というのはなかなか抵抗が多そうと直感的に感じる。「集金エンジンなしに整備は成り立たない」という当たり前の話と、具体的な内容との間にはかなりのギャップがある。
 人口増ボーナスがなくなり、急激な人口減が進む中、潜在能力を活かさないのは「贅沢」という現況分析と、行政の在り方まで言及して、「観光」「スポーツ」の産業化を説き、最後に要は「やる」という覚悟で締める。耳に痛いほどの正論。「観光の産業化」を具体化する動きが進んでおり、賛否をめぐって数多くの議論がなされていることが、今の日本の現状を何より表していると感じる。

Posted by mizdesign at 23:38 | Category : b01 本・映画 | Comments [0] | Trackbacks [0]

2018年04月30日

●聴講メモ:シンポジウム「今、日本の建築を考える」(前半)

 森美術館で開催中の「建築の日本展」。その関連プログラム、シンポジウム「今、日本の建築を考える」の聴講メモです。開講10分前に会場到着、ほぼ満席。満席の旨、アナウンスあり。

■モデレーター:南條史生(森美術館館長)
 森美術館では、3~4年に1回建築展を開催してきた。アーキラボ、ル・コルビュジェ、メタボリズム展。少し間が空いて本展。
 日本の現代文化で一番勢いのある建築を通して、日本の文化のアイデンティティを見直す。
 「建築で知られる日本」の意味を込めて、「建築の日本展」としている。
 「日本の建築の含まれている遺伝子が、現代に受け継がれているのではないか」という仮定に基づく、ブロックバスター型の展覧会。

■講演:藤森照信(建築家、建築史家、東京大学名誉教授)
 日本建築の流れ、影響をもたらしたものは分かり難い。ヨーロッパはルネサンス、バロック、モダニズムというふうに、時代と共に様式も変わるので分かりやすい。
 縄文時代の竪穴式は、茅葺民家として、そのまま現代の伝統的建築につながる。
 弥生時代の高床式から、平安時代に寝殿造が生まれ、さらに室町時代に書院造が生まれる。さらに安土桃山時代に茶室、江戸時代に数寄屋造が派生する。この流れはヨーロッパっぽい。
 その一方で、高床式から、古墳時代に神社建築が派生する。また、飛鳥時代に渡来した寺院建築から、(教会の影響を受けて?)、安土桃山時代に城郭建築が派生する。神社と寺院はお互いに影響を及ぼし合い、現代の伝統的建築につながる。
 用途別に様式が持続しており、どう伝統を引き継いできたかが分かり難い。
 箱木千年家。庇がおでこに当たる。竪穴が持ち上がったもの。土壁はヨーロッパの民家と同じ。
 芝棟。屋根の上に草花。雪国の日本海側にはない。防寒のために土を載せのが、上だけに残った。
 縄文の影響を受けた建築家が白井晟一。
 自作紹介。ラ コリーナ近江八幡。芝棟の屋根。モザイクタイルミュージアム。土壁に奥まった小さな入口。自分で言うのも何だけれども、明らかに縄文の影響が感じられる。
 京都御所。高床式から寝殿造に。配置は南向きかつ横長、個として左右対称、全体として非対称。身舎(もや)を中心に、その外側に庇があり、さらに外側に軒がある。柱で囲われている部分が庇で、柱から外に張り出す部分が軒。間仕切りがなく、内部は必要の応じて几帳を立て区切り、内と外は蔀戸(しとみど)を下ろして仕切る。家の中でキャンプをしているような状態。蔀戸を全て上げると吹きさらし。天井を張ることで、内外の連続した開放的な空間に。
 丹下健三は日本建築を本気で学んだ。大東亜コンペ案は伊勢神宮、日タイコンペ案はサンピエトロ。時代の流れを泳ぎながら学んだ。
 清家清 斎藤助教授の家。天井を張ることで内外が連続する、寝殿造の伝統。
 フランク・ロイド・ライト。シカゴ万博鳳凰殿を観て、部屋の中からそのまま外に出られる、日本建築の空間連続性、流動性を知る。
 伊藤豊雄 仙台メディアテーク。水平層を昇っていくときに感じる、絶対的な水平感。
 日本建築はなぜ軒をあんなに伸ばせるのか。桔木(はねぎ)を入れて、テコの原理で張り出している。日本建築で屋根が一番重要な表現。
 書院造と非対称性。ヨーロッパは軸、中国は南北軸+南入り。寝殿造は南に庭を設け、人は東もしくは西から入る。建築は南北軸、人の動きは東西軸なので、全体配置においては非対称性を生じる。書院造における書院は、付書院、床の間、違棚で構成。

■講演:妹島和世(建築家、SANAA事務所代表取締役)
 この展覧会は面白い。9つのテーマから自作を振り返ると。
 PLATFORM Ⅱ。どうやって場所を組み立てるか。少しずつ場所と外がつながっていく。
 直島フェリーターミナル。いかに大きな屋根を架けるか。
 北方団地。縁側(庇)。
 S House。軒のない庇。
 金沢21世紀美術館。ギャラリー廻りをフワフワ歩く。どうしてもガラスはあるけれども、日比野克彦さんの明後日朝顔プロジェクト21開催時に中から見ると、まるでないみたいに見える。
 スタッドシアター・アルメラ。コンペ案パースと洛中洛外図の相似性。全く意識していなかった。
 トレド美術館ガラス館。ガラスの間仕切り。
 梅林の住宅。立体的につながる。5人で住むので小さい部屋をたくさん作る。薄い壁で開口部がスクリーンのよう。
 EPFLラーニングセンター。コンペ審査員から日本的とのコメント。
 ルーブルランス。雁行配置。
 屋根。PLATFORM Ⅰ、ⅡからGrace Farms。NISHINOYAMA HOUSEは10軒の集合。
 荘銀タクト鶴岡ではスケールを落としていく。
 ニューサウスウェールズミュージアムエクステンションとブダペスト・リゲット新国立美術館。展示室に屋根、公園から入っていく。
 無意識に影響を受けているのかな。

■講演:原研哉(デザイナー)
 House VISION 2013、2016世話人。
 HOUSE VISION 2018 を今年9月に北京で開催。

■講演:斎藤精一(ライゾマティクス クリエイティブ&テクニカル・ディレクター)
 建築に対して思っていること。
 Power of Scale。人のスケール。人をセンターに置く、街の在り方、空間の在り方を忘れていないか。人が人のスケールを忘れすぎていないか。
 東京理科大学工学部からコロンビア大学に進んで、911で落胆。次に誰が建てるか?終わってる。広告代理店に転職して、アーティスト活動を経て、ライゾマティクスを設立。
 当時のコロンビア大学建築学部長バーナード・チュミのラ・ヴィレット公園、アーキグラム、スーパースタジオ、バックミンスター・フラー、ニール・ディナーリ等、思想的な建築、実作少ない、CGのが好き。911で辞めて、2006年からライゾマティクスでメディアアートから派生した表現・作品を制作。
 2013年からライゾマティクスアーキテクチャー。建築思考は何にでも使える。理論的に構築して最終的に出口。
 Not Architecture, But Architecture展。建築で学んだことをロジカルに展開。
 今、建築を考える。建築の威厳、人を操作できるものを哲学を以って作る。神の視点を持つだけの責任感が自分にはない。
 虎ノ門、渋谷等で大規模再開発の低層部ファサード等携わる機会が増える。
 建築の在り方自体を忘れている人が多い。
 建築を中心に、場所、文化、人、商業主義のバランスをとることが求められている?
 行政・デベロッパー等は空からヘリに乗って開発パースを見ている。地上からのデザインは誰が見る?建築家・デザイナーは最後に決まる。ライゾマティクスアーキテクチャーが、建築家・デザイナーに最初から入ってもらう等の翻訳・通訳を行う。
 建築だけでなく、車、ネットワーク、エネルギー等他産業と合わせて考える必要。
 建築にIoTを取り入れられないか?
 第3次(4次?)産業革命に建築は入っているか?

■感想
 藤森さんは日本建築系統樹(A4×1)を配布して、日本建築進化の流れを概説。前半は去年読んだ「日本建築集中講義」と内容は同じなので分かりやすい。頭の柔らかい藤森史観を織り込んだ建築展覧会が開催されるとは嬉しいかぎり。ただ、「建築家」になると一気に語りが堅く感じられる。山口晃画伯のツッコミと挿絵のある本で読む方が親しみが湧く。後半は伝統建築と近代・現代建築家との比較を少し交えて終了。ご本人の作品も展示する羽目になるくだりが、ライブ感があって良かった。
 妹島さんはとても手際よく、本展のポイントを絡めて自作を紹介。特に目新しい点はないけれども、本展を面白がっている感じが伝わってきて良かった。
 原さんは「なぜデザイナーの方が建築展に?」という当方の疑問が先に立ってしまい、あまり話に入っていけなかった(なのでメモも全然とっていない)。
 斎藤さんは「人の在り方」と「建築という思考方法」の二つの視点からの話。技術の最先端に立って活動してるいる人が、とてもオーソドックスな視点から話すことで、とても説得力があった。
 藤森さん40分、妹島さん・原さん・斎藤さん各20分の計100分の講演は、あっという間に終了。4者4様でとても面白かったです。いつも思うけれども、森美術館の講演会は人選が上手い。

Posted by mizdesign at 22:17 | Category : a2 建築 | Comments [0] | Trackbacks [0]