2018年09月15日

●「世界を変えた書物」展@上野の森美術館

 上野の森美術館で開催中の「世界を変えた書物」展を観ました。

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 知の壁
 うねる書架が、これから語られるであろう「偉大な書物」にまつわる物語を予感させます。

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 ウィトルウィウス「ラテン語より俗語に翻訳された十巻の建築書」, 1511年。原典は紀元前の成立。現存する最古の建築論書かつ、おそらくはヨーロッパにおける最初の建築論書。本書が当時の建築に与えた影響は不明だけれども、2000年を経てなお当時の「建築」が意味したところを伝える。

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 アンドレア・パラーディオ「建築四書」, 1570年。最初期の職業建築家がウィトルウィウス、アルベルティに倣って記した古典リスペクト建築デザイン指南書。個人の理論を「本」という情報媒体で宣伝することで、時代を超えて、ヨーロッパ、アメリカをパラーディオ様式が席巻する。

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 ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ「古代ローマの廃墟及び建造物景観」, 1748年。古代ローマの遺跡を基に描き出される幻想景観。古典が上書きされて新たな価値を持ち、新古典主義に影響を及ぼす。

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 知の森
 エウクレイデス(=ユークリッド)「原論(幾何学原論)」, 1482年。建築が拠って立つ基本概念の一つ、ユークリッド幾何学=ギリシア幾何学の集大成。世界最長の教科書。

 映像シアター
 ミュージアムトーク。本展監修者竺覚暁の名古屋展(2013年)におけるミュージアムトーク。本来展示の中核であるはずの「図書の背景・価値・相互関係」を液晶モニターの中でノンストップで解説。

 うねる書架造形と稀覯本の表紙や冒頭のみをズラリと並べる見せ方、展示の核となる「背景、価値、相関性」の解説を映像シアターの「ミュージアムトーク」に集約する構成、「知の繋がり」のほとんど情報密度のない巨大なオブジェ等は、ビジュアルインパクトはあるものの、展覧会としてはハリボテという感じ。
 他方、教育教材としてみると、ワークショップ的な作業を通して場を作り上げていく楽しさがとても伝わってくるので、最先端の教育環境づくりに意欲的に取り組む、金沢工業大学のプロモーションとしてとてもよく出来ていると感じました。

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2018年08月18日

●ペンギン・ハイウェイ

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 猛暑から奇跡的に涼やかな気候へと変化したお盆休み後半、何か夏らしい映画を観ようと思い立ち、『ペンギン・ハイウェイ』を観ました。
 原作は「有頂天家族」の森見登美彦、監督は「フミコの告白」の石田祐康。ローカルな魅力と不思議感溢れる世界観の中、ダイナミックな映像体験に期待。
 ものすごくしっかりした小学校4年生のアオヤマ君の目を通して見る、不思議に満ちた世界と、お姉さんとのひと夏の体験。丁寧なエピソードの積み重ねで、日常のようなおとぎ話の世界を構築した上で、いざ非日常の世界へ。話にがっちり引き込まれて、終盤は画面に釘付けでした。
 映画館を出ると、盆踊りで賑わっていて、涼しさと相まってとても心地良かったです。

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2018年08月15日

●読書メモ 「いちばんやさしい美術鑑賞」青い日記帳 筑摩書房

 いつもお世話になっているアートブロガー「青い日記帳」のTakさんが執筆された『いちばんやさしい美術鑑賞 筑摩書房』(⇒筑摩書房特設ページ)が出版されました。

 本の内容については、すでにいくつものブログで丁寧な紹介がされています。

青い日記帳
『いちばんやさしい美術鑑賞』ってどんな本?!

今日の献立ev.
全アートファン必見!『いちばんやさしい美術鑑賞』ってどんな本?(ついに来週発売!)

あいあむらいぶ
ブログ「青い日記帳」Takさんにいろいろインタビューしてみた!~新書『いちばんやさしい美術鑑賞』出版によせて~(前編)

ブログ「青い日記帳」Takさんにいろいろインタビューしてみた!~新書『いちばんやさしい美術鑑賞』出版によせて~(後編)

はろるど
「いちばんやさしい美術鑑賞」 青い日記帳

本書の特徴
 本書の特徴は、「素人による素人のための美術鑑賞入門」
 入門書というと、その分野の専門家が、読者の興味を惹きそうなトピックを並べ、分かり易くかみ砕いて (もしくは図示して) 執筆するスタイルが最近の流行。間口広く、読者層を開拓しようという意図があると思います。個人的には「日本美術の歴史 辻惟雄 東京大学出版会」「日本建築集中講義 藤森照信×山口晃 淡交社」等が特に面白いと感じています。ちょっと工学面に寄ると、「今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい 地震と建物の本 斎藤大樹 日刊工業新聞社」等もこの流れかと思います。

 他方、Takさんは美術を専攻 or 研究している方ではありません。美術が好きで、15年に渡りアート情報を発信し続けてきたアートブロガーです。その情報発信力を買われて、これまで様々なトークイベント・内覧会・美術本等の告知協力を行い、集客実績を上げてこられました。また、トークイベントの司会者等としても活躍されています。これらの活動が出版社の目に留まり、今回の執筆へつながったそうです。とても特殊ではありますが、「素人が書く入門書」です。

 正直なところ、入門書自体は増えているのに、なんで更に一回り素人側に寄った入門書が必要なのかピンとこないところがあるのですが、「売れてます」。見方を変えると、人気ブログの出版化の波が、ついに美術本界隈にも到達したとも言えるのでしょうか。というわけで、読んでみました。

読書メモ
 構成は西洋美術 7章、日本美術 8章の全15章からなり、それぞれ時系列順にエピソードを並べて、美術史を緩やかに包括しています。
 各エピソードの中心に据える美術作品は全て「国内で観られる作品」から選ばれており、各章題には「聞いたこともない画家の作品を鑑賞する時は」という風に、その章で取り上げる鑑賞ポイントを明示する等、読者への気配りが行き届いた造りになっています。
 さらに、テキスト中に最近の流行言葉等を積極的に織り込み、読者をドンドン巻き込んでいく語り口には、これまでの blog で培った美術鑑賞ノウハウ、蘊蓄、体験談等が凝縮されています。

 各章の内容は様々なバリエーションに富み、なるほどと感じる箇所がいくつもあります。「過去の作品」は一定の評価を踏まえた既研究の内容の蘊蓄(=展覧会や雑誌等で以前観た内容との重複)に拠りがちになる一方で、「現代美術」は今まさに価値を創造する過程の只中にあり、並走感に溢れています。個人的には、「第15章 同時代のアーティストを応援しよう」が特に面白かったです。

 本書の位置づけは、「美術になんとなく敷居を感じる人たちの背中を少し押す本」だと思います。これまでの入門書ではカバーできなかった層に届く、リーチの長さがポイント。「好き」が高じて、「価値を創造」したことが何より素晴らしいと思います。本書は概論的な内容なので、今後さらに細分化した様々な展開が待っていることでしょう。

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2018年08月11日

●『いちばんやさしい美術鑑賞』出版記念パーティ

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 いつもお世話になっている「青い日記帳」Takさんが執筆された『いちばんやさしい美術鑑賞 (筑摩書房)』(⇒筑摩書房特設ページ)が出版されました。

 15年間続けてきたblogページを主体とした美術情報発信、トークイベント・内覧会・美術本等における告知・集客の協力。その「美術好きな一般の人たちの好奇心を刺激・行動へとつなげる視線・テキスト・行動力」は、ファン層の拡大に工夫を凝らす人々から引っ張りだこ。これら実績が、美術関係者のみならず出版社からも目に留まるところとなり、雑誌への寄稿も増えてきたところに、いよいよ美術鑑賞本の出版です。

 この出版を記念して、出版記念パーティが開催されました。

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 参加者は、名だたる美術館の館長さんたち、美術書の著者、美術家、様々なメディア関係の方々、友人等、100名を超えました。
 関係者挨拶では、館長さんたちが次々と「Takさんとの出会い、いっしょにトークイベントや内覧会等を盛り上げた思い出」等を披露していきますが、、その内容だけでトークセッションができるほどの充実ぶり。
 中でも、日本画家池永康晟さんの「この本はTakさんからのラブレターだね。」という言葉は良かったです。

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 この秋に開催されるフェルメール展に関連付けた「フェルメール来日作品 人気投票」も開催され、とてもサービス精神旺盛な構成。

 パーティの幹事を務めたのは、「はろるど」さん、「KIN」さん、「かるび」さんのお三方。日頃からお世話になっているTakさんの晴れ舞台を盛り上げようと、張り切って準備されていました。また当日は、何人もの方がスタッフとして参加して、円滑に運営されていました。これも常日頃のTakさんの人望の賜物、素晴らしい会でした。

 私は当日の物販を少し手伝わせていただきました。本がドンドン売れていって、勢いを感じました。隣の机ではOZmagazineの方がアート特集号を出張販売されていて、こちらも好調な売れ行きでした。

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2018年06月30日

●ハン・ソロ@TOHOシネマズ日本橋

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 ハン・ソロ@TOHOシネマズ日本橋
 いろんな人物の顔見せを楽しみつつ、話に引き込まれる。肩を怒らせてプラスターを撃つポーズや、ちょっとビターな結末も良いけれど、ちょっと何か足りない。うーんと首をひねって、ライトセーバーがないことに気がつく。続編があるか気になるところ。

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2018年05月23日

●読書メモ 「世界一訪れたい日本の作り方」デービッド・アトキンソン 東洋経済新報社

 副題は「新・観光立国論【実践編】」。日本に住み始めて28年の、元証券会社アナリストで、現在は文化財補修を行う会社の社長を務めるイギリス人の視点による、「稼ぐ」観光論の実践編。

内容メモ
はじめに-観光はもっとも「希望のある産業」である
 2007年にはおよそ800万人だった「外国人観光客」が、2016年には2400万人を突破、10年足らずで「3倍」にもなったという「現実」と、2020年に4000万人、2030年に6000万人という安倍政権の「目標」を踏まえ、著者は「やるべきこと」をやれば、日本は「世界一訪れたい国」となり、この目標も簡単にクリアできると考える。
 観光大国になる4条件は「自然・気候・文化・食」。日本はこの4条件をすべて満たしている稀な国。なので、日本の観光業にはとてつもないポテンシャルがある。
 世界の観光産業は、2015年には世界のGDP総額の10%を突破、引き続き安定した成長を見せている。すでに自動車産業を上回る規模まで成長した。日本でも、がら空きだった新幹線のグリーン車が観光客風のアジア人や欧米人で座席が埋まる等、変化の兆しが少しずつあらわれきている。
 「観光立国の基礎」ができた状態から、「アジア以外の人々にも日本を好きになってもらい、もっとたくさん訪れてもらうフェーズ」に入っている。

第1章 日本の「実力」は、こんなものじゃない 「大観光時代」を迎える世界と日本の現状
 WTTCの試算では、観光産業は全世界のGDPの10%、全世界の雇用の11分の1を生み出している。
 UNWTOの試算では、観光輸出の総計は1.5兆ドル、世界総輸出の7%を占める。
 エネルギー、化学製品に次ぐ「第3の基幹産業」という位置づけ。
 UNWTOによると、「国際観光客数」は1950年の2500万人から、2015年には11.9億人まで増加。2030年にのべ18億人になると予測。
 収入ベースで中国、タイのというアジアのツートップをいかに追い越すか。日本の潜在能力をもってすれば、少なくとも中国と競争するトップ2の座は取れて当然。
 日本は文化観光に頼りすぎて、より客層が広い国立公園などの自然観光を十分に整備しておらず、観光客向けの情報発信も不十分。マーケティングとブランディングが弱い。

第2章 「どの国から来てもらうか」がいちばん大切  国別の戦略を立てよう
 JNTOデータによると、訪日観光客の85.0%をアジアが占めており、中国は全体の26.5%で、韓国は全体の21.2%。
 UNWTOのデータによると、欧州発の観光客が5億9410万人、世界の観光客の50.1%を占める。アジアは2億8950万人だが、伸び率が一番高い。
 日本は「遠方からの上客」と「成長率の最も高い近場からの多数客」を同時に取り込める絶好のロケーション。
 欧州からの観光客を増やしていくための戦略としては、「ドイツ」を狙うべき。

第3章 お金を使ってもらう「魅力」のつくりかた 「昭和の常識」を捨てて、質を追求しよう
 「昭和の観光業」、「平成の観光業」、「これからの観光業」と言葉を定義。
 「昭和」は日本の総人口が右肩上がりに増加+日本人の観光熱が増加。特別な創意工夫なしで成長できた。「一極集中型」、「質よりも量」。
 「人口」が減少に転じて、「まだ行ったことがない」人が今後増えることは期待できない。
 「平成」は「昭和の観光業」の方法論を、中国人観光客へ適用しているだけ。見限られるのも時間の問題。
 「将来」は「一生に一度行ければいい」という場所から「何度も行きたい」という場所へと変えて「リピーター」にしていく。そのためには「満足度」と「1人あたりの単価」の向上が必要。観光資源は「努力」が求められている。

第4章 自然こそ、日本がもつ「最強の伸び代」 「長く滞在してもらう」ことを考えよう
 「さらなる高度な整備」とは。日本は特に「自然」に関して、かなり強みがある。体験、アクティビティ、ホテルなどを工夫することで、「もっとも稼げる観光資源」に変貌させることができる。
 国立公園、キャンプ場を、もっと多面的に情報を解説し、子どもから外国人まで幅広い層が理解してもらえる、そしてそこにいることを楽しんでもらえる環境を整備することで、客層を広げることができる。

第5章 「誰に・何を・どう伝えるか」をもっと考えよう 「So what?テストでうまくいく」
 日本のことをまったく知らない外国人に対して日本の魅力を発信し、新しい「ファン」になってもらうことが必要不可欠。整備をしっかりしてから情報発信に取り組むべき。「誰のために、何を伝えるべきか、何を理解して欲しいか」を考える視点が大切。原文にとらわれず、はじめから外国人が自身の常識や知識に基づいて文章を書いたほうが、はるかに効率的。

第6章 儲けの9割は「ホテル」で決まる 「高級ホテル」をもっと増やそう
 観光戦略の成否は「5つ星のホテル」によって決まる。アメリカは6.7%の環境客から、世界の観光収入の16.5%を稼いでいる。アメリカには755軒の「5つ星ホテル」があり、この高い水準は、高級ホテルの圧倒的な多さが生み出している可能性がある。
 日本は28軒。2020年の4,000万人、2030年の6,000万人という目標を、世界平均である「5つ星ホテル」1軒あたりの外国人観光客数35万5090人で割ると、2020年には113軒、2030年には169軒の「5つ星ホテル」が必要という試算になる。スタッフの質とそのスタッフが提供するサービスこそが肝心。
 「価格の多様性」が重要。「上客」対応の観光戦略を進めていくうえで有効な手段のひとつが、「IR」(カジノを含む統合リゾート)。日本の向いているのは「リゾート型IR」。地域の「文化」や「自然」と組み合わされた「周遊観光の拠点」とも言うべき役割。「カジノ」は「自然観光」「文化観光」を整備するための「集金エンジン」の役割を果たす。
 「これもダメ」「あれもダメ」と最初から可能性を否定することを考えるのではなく、「目標を達成するためには、何をやらなくてはならないのか」という視点をもって、本当に必要な整備をしていくことが重要。

第7章 観光は日本を支える「基幹産業」 あらゆる仕事を「観光業化」しよう
 縦割り行政で世界の観光産業のリーディング・カントリーになれるのかという問題。
 カンでものごとを進めていくよりも、目標と計画をもって進めいていったほうが失敗のリスクが減る。
 観光庁に求められるのは、データ分析機能。
 文化とスポーツは観光資源として活用していくという意味でも、国民の間で受け継ぎ振興していくという意味でも、「産業化」が不可欠。
 収益化・産業化に対して否定的な考えが多く「文化財で収益をあげるとは何事だ」と強固に反対されるのが常だった。
 文化財や博物館、美術館の運営に「公共性」という考え方を持ち込むこと自体は、素晴らしい志。この「公共性」の考え方を支えてきたのが、日本の長年の人口激増だったということを忘れてはいけない。自分自身で管理維持費を捻出していくサイクルをつくりだしていく必要がある。
 スポーツに「観光」や「エンターテイメント」の要素がないと、そこにはスポーツをこよなく愛する「ファン」しかやってこない。熱心なファン以外の人たちであっても丸1日楽しめるような総合的なイベントとしてとらえてみることが大切。
 潜在能力を活かさないのは「贅沢」だ。
 「やる」という覚悟を決めるか決めないか。

感想
  数字を交えた簡潔なテキスト、キーポイントはピンクでハイライト等、読み手に配慮した作りで、本書の要旨を説明。読ませる「報告書」。
 数字に基づく世界と日本の現状把握と日本の課題提示。観光産業の安定した右上がり成長と、第3の基幹産業という位置づけは驚き。
 データ分析からターゲットを絞り込み、ずばり「ドイツ」と言い切る。掲載表のほとんどが、出典を示した上での筆者作成なので、論理から逆算して作成している部分もある気がするけれども、説得力がある。
 人口増から減への移行を踏まえて、観光業に求められる内容を、「昭和」、「平成」、「未来」の3つの時間区分に分けて解説、課題を抽出する論法は分かりやすい。大きなストーリはその通りとして、切り捨てられる(ように思える)部分も多大。避けては通れない部分をサラリと説明して論を進める怜悧な手法が、視点鋭いアナリストらしい。
 これまで経験してきた慣習が現在でも有効とは限らず、他方正論で全ての感情を制御できるわけでなく。具体的な課題点とイメージが湧いてくる。
 「しっかり整備をして、それから発信。」は正論。その一方で、投資が先で、効果が後ということでもあるので、事業に慣れていない人にはハードルが高い。正論がドンドン述べられて、その度に「うむ」と「うーん」が入り混じる。
 今年はドバイ、アブダビで「5つ星ホテル」に泊まってみたこともあって、「価格の多様性」と「5つ星ホテルがもっと必要」という話は分かりやすい。IRは行ったことがないので、「日本でIR」というのはなかなか抵抗が多そうと直感的に感じる。「集金エンジンなしに整備は成り立たない」というクリアな論理と、具体的な内容との間にはかなりのギャップがある。
 人口増ボーナスがなくなり、急激な人口減が進む中、潜在能力を活かさないのは「贅沢」という現況認識と、行政の在り方まで言及して、「観光」「スポーツ」の産業化を説き、最後に要は「やる」という覚悟で締める。耳に痛いほどの正論。「観光の産業化」を具体化する動きが進んでおり、賛否をめぐって数多くの議論がなされていることが、今の日本の現状を的確に表していると感じる。
 「貧乏になりつつあるんだから、一生懸命工夫して、お金を稼ぎましょう。ここに突破口があるよ、迷ってる余裕はないよ。」というクリアな論理とメッセージに対して、自分なりの考えを整理しておきたい。

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2018年05月06日

●読書メモ 「ハイ・コンセプト」 ダニエル・ピンク 大前研一訳 三笠書房

 副題は「「新しいこと」を考え出す人の時代 富を約束する「6つの感性」の磨き方」。2006年5月20日初版。原題は「A Whole New Mind」。2006年5月20日初版。

内容メモ
 <第1部>「ハイ・コンセプト(新しいことを考え出す人)」の時代
 1 なぜ、「右脳」が成功を約束されるのか
 「二つの脳」の驚くべき役割分担
 バランスのとれた「右脳プラス左脳思考」とは

 2 これからのビジネスマンを脅かす「3つの危機」
 原因は「豊かさ、アジア、オートメーション」
 第一の危機――「過剰な豊かさ」がもたらす新しい価値観
 第二の危機――次から次へと湧き出す「競争相手」
 第三の危機――そんな脳では、すべて「代行」されてしまう!

 3 右脳が主役の「ハイ・コンセプト/ハイ・タッチ」時代へ
 過去150年間を「三幕仕立てのドラマ」にたとえてみる。第一幕は「工業の時代」。第二幕は「情報の時代」。第三幕は「コンセプトの時代」。 「体力頼み」から「左脳の勝負」へ、そしてこれからは「右脳の時代」へ。
 3つのチェックポイント。
 ①他の国なら、これをもっと安くやれるだろうか
 ②コンピュータなら、これをもっとうまく、早くやれるだろうか
 ③自分が提供しているものは、この豊かな時代の中でも需要があるだろうか
 大いに発展したハイテク力を、「ハイ・コンセプト」と「ハイ・タッチ」で補完する必要がある。
 ハイ・コンセプトとは、芸術的・感情的な美を創造する能力、パターンやチャンスを見出す能力、相手を満足させる話ができる能力、見たところ関連性のないアイデアを組み合わせて斬新な新しいものを生み出す能力など。
 ハイ・タッチとは、他人と共感する能力、人間関係の機微を感じとれる能力、自分自身の中に喜びを見出し、他人にもその手助けをしてやれる能力、ありふれた日常生活の向こうに目的と意義を追求できる能力、など。

 <第2部>この「六つの感性」があなたの道をひらく
 1 「機能」だけでなく「デザイン」
 商品やサービス、あるいは、体験やライフスタイルにおいても、もはや単に機能的なだけでは不十分だ。外観が美しく、感情に訴えかけるものを創ることは、今日、経済面において不可欠なことであり、個人のためにもなることである。

 2 「議論」よりは「物語」
 情報とデータがありふれた今日の生活では、効果的な議論を戦わせるだけでは十分ではない。必ず、誰かがどこかであなたの議論の盲点を突き、反論してくるからだ。説得やコミュニケーション、自己理解に肝心なのは、「相手を納得させる話ができる能力」なのである。

 3 「個別」よりも「全体の調和」
 「産業の時代」と「情報化時代」の大半を通じて、何かに焦点を絞ったり、特化したりすることが重視されてきた。だが、ホワイトカラーの仕事がアジアへ流出し、ソフトウェアに取って代わられるようになるにつれ、その対極にある資質に新たな価値が見出されるようになった。それはバラバラなものをひとまとめにする能力で、私が「調和」と呼んでいるものだ。今日、最も重視されるのは、分析力ではなく総括力、つまり全体像を描き、バラバラなものをつなぎ合わせて印象的で新しい全体観を築き上げる能力である。

 4 「論理」ではなく「共感」
 論理的思考力は、人間に備わった特徴の一つである。だが、情報があふれ、高度な分析ツールのある世の中では、論理だけでは立ち行かない。成功する人というのは、何が人々を動かしているかを理解し、人間関係を築き、他人を思いやる能力のある人である。

 5 「まじめ」だけではなく「遊び心」
 笑い、快活さ、娯楽、ユーモアが、健康面でも仕事面でも大きな恩恵をもたらすということは、数多くの例により証明されている。もちろん、まじめにならなければならない時もある。だが、あまり深刻になりすぎるのは、仕事にとっても、満足の行く人生を送るためにも、悪い影響を及ぼすことがある。「コンセプトの時代」では、仕事にも人生にも遊びが必要なのだ。

 6 「モノ」よりも「生きがい」
 私たちは、驚くほど物質的に豊かな世界に住んでいる。それによって、何億もの人が日々の生活に苦しむことから解放され、より有意義な生きがい、すなわち目的、超越、精神の充足を追い求められるようになった。

感想
 本書の趣旨・構成は明瞭。新しい時代を動かしていく力の重要な要素として「ハイ・コンセプト」と「ハイ・タッチ」を紹介する。次にそして新しい時代を生きていくために必要となる「六つの感性」について具体例を大量に挙げて解説する。冒頭で著者自身が最新のMRIスキャンによる研究の被験者として右脳左脳の役割の違いを説明する導入部から一気に本論へ。
 2006年初版の本を2018年に読んで、内容の部分部分に最近聞いた気がするフレーズが表れることから、本書の指摘は私たちの日常生活においてもある程度的を得ているのだろう。また、「六つの感性」は基本的に人間に備わった資質であり、「産業の時代」に衰えた能力は、ツールや演習、参考文献によって身に着けることができるとしていることから、自身の能力のバランスをとる際の参考になるだろう。その一方で、自身の生活において何をどう変えていくかは良く分からないけれども、「学ぶ」ことで生活を向上していくモチベーションが上がった気がする。
 言葉の定義が普段日本語として使う意味と少し違うので、言葉の定義をしっかりと頭に入れておいた方が良い。

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2017年12月10日

●読書メモ 「日本建築集中講義」藤森照信×山口晃 淡交社

 近代建築史家かつ現代建築家と、現代日本画家の共著による、日本建築案内。高い専門知識+能力と、非常にユニークな視点が魅力。実見はほどほどに、スタスタと通り過ぎて、見学後に画伯が先生に感想を伺いつつスケッチにまとめる。このやり取りがとても面白い。

 第一回 法隆寺。揺るぎない美しさと回廊効果。エンタシスの嘘。何度も観たけれども、なるほどと思うことしきり。

 第二回 日吉大社。湿気の多さゆえ、安土桃山の美もしっとり。穴太の石組み。今度行ってみよう。

 第三回 旧岩崎家住宅。ゼネコン・コンドル組もうかる。ニスは失敗。洋館は造形がうるさい。色々やりたかったコンドル先生。趣味のベランダ。九間の広間。以前に行ったときは「さすが三井財閥のお屋敷」と思うだけだったけれども、再訪してみたくなった。

 第四回 投入堂。額みたいな岩、下から生えたような柱、ちょっと凹んで、軒がピュッとなる。平安の美。建物自体完全に木だか石だかわかんない。一度行かねば。

 第五回 聴竹居。モダン建築に和風を取り込んだ最初の建築。だけど辟易。窓枠の面取り。立体幾何学の下地に、複雑かつ几帳面なミニマリズム。観たい。

 第六回 待庵。400年もつバラック。戦場で「囲い」という茶室を造る伝統。開口部を閉めると空間が広がる。がんばって予約して、大山崎行かないと!

 第七回 修学院離宮。平安王朝文化の復活、浄土式庭園。斜め対座軸の書院。なるほど。そうだ、修学院行こう。

 第八回 旧閑谷学校。磨き上げ、漆を塗った「床」効果。土木的力強さの配置、丸まった塀。寝殿造平面の講堂。国籍不明の花頭窓の向こうに白い障子。そうだ、旧閑谷学校行こう。

 第九回 箱木千年家。日本民家の原型、室町時代頃の建築。日本建築史は宗教建築と住宅建築の二本立て。民家=無意識の領域で造られた建築。竪穴式住居の習慣。低い軒、柱のない土壁。集めるのが大変だけど茅葺、茅しかなかったから。そういうもんだ。復元とは?民家が残ってるとは知りませんでした。行かねば。

 第十回 角屋。仕上げと凝りように莫大な手間とお金。土壁に螺鈿!揚屋。青貝の間にてっぺんハジケた花頭窓。外観の町家造り、屋内の武家風造り、インテリアが全然関係ない。建築のインテリアの究極は布化する。書院造→数寄屋。ロマネスク→ゴシック→晩期ゴシック。装飾性を突き詰めると、薄く細く布化。華奢で繊細で、貴婦人のレースの下着。日本の料亭は角屋サバイバル。網代天井、仕切襖。究極の装飾、行かねば!

 第十一回 松本城。関ケ原の合戦以前に造られた、実用に徹した城。5層6階建て。城は日本建築史に突然現れる。先駆けは安土城。構想の基は西欧の教会という説も。城が実用に供されることは極めて少ない。城攻めは兵糧攻めか水攻め。使うときは最期。大砲が発達して、出城は無用の長物に。近代都市は戦争の対象外に。それ以前の都市は、日本なら城下町、ヨーロッパなら城壁で守ろうとした。機会があれば観てみよう。

 第十二回 三渓園。数寄屋の宝庫という点では「東の桂離宮」。数寄屋は外を眺めるための建物。庭とセット。臨春閣は王朝風数寄屋。聴秋閣は「書院のオモチャ」みたいな数寄屋化した書院。ちっちゃくてカワイイ。襖絵は全て精巧な複製。春に観たけれども、また観たくなる。お二人の名調子に、読んでる方まで楽しくなる。

 補講 西本願寺。現存日本最古の能舞台、豪華さの美学二つの書院、薄くて軽い飛雲閣。日本建築のエッセンスが詰まった場所。寝殿造は屋内でキャンプ。書院造は住むために障子・襖をはめて、天井を張って、畳を敷く。さらに床の間 (床と付書院と違棚の三点セット)。その書院造がもっとも豪快に花開いたのが安土桃山時代。聚楽第でピークに達して、二条城や西本願寺につながる。白書院は照明が全て雪洞。その高さのおかけで、金箔が活きている。上から照らすと暗く沈むが、横から照らすと光が反射して金箔部分が明るくなって、絵にすぅーっと奥行きが出る。障壁画と建築が共存。柱とか長押とか建築の基本を明らかにしたうえで、邪魔しないように絶妙に描く。能舞台の奥の松の消えっぷり。聖なる性格を感じさせる曲がった欄干。10年前に縁あって観たけれでも、やはりまた観たい!

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2017年04月30日

●読書メモ 「パラレルキャリア」ナカムラクニオ 晶文社

 「働き方」のサードウェーブがやってきた!近い将来に訪れる「大副業時代」の新しい働き方。それが「パラレルキャリア」なのです。
 巻頭の文言は軽やかに甘く、魅惑的。私も何度かイベントに参加させてもらっている荻窪のブックカフェ「6次元」の店主ナカムラクニオさんの著書。

 ブログを10年以上も細々と書いていると、「何のためにやってるんだっけ?」とたまに思います。基本は「ただの備忘録」なわけですが、そのために費やす時間もそれなりなので、「ブログをなくした方が、より多くの展覧会に出かけられるし、より多くの本も読めるのでは?」となるわけです。そんな迷える子羊に光のごとく射し込むコトバ「パラレルキャリア」。「二足のわらじ」ではなく、「本業+α」。さすが、言葉選びが上手い。思わず手に取ります。

 本の内容は期待とちょっと違いました。期待したのは、パラレルキャリアを実践してきた著者の「経験録+その先のビジョン」に関するエッセイ集。実際には、ヒント10コ×10章のアイデア整理のネタ帳。通底するのは、軽く、めげず、粘り強く。本の出版自体がパラレルキャリアの成果なのだと考えると、凄いなあと思います。

 第1章 パラレルキャリアとは何か?
 「ライスワーク、ライフワーク、ライクワーク」。分類とネーミングが上手い。覚えておこう。

 第3章 新しい仕事の作り方
 「自分の得意を仕事化する」。ちょっと意識して、得意を磨こう。
 6Pの法則のうち、「誰が売るか?」、「どういうプロセスで売るか?」。自分が苦手なところなので、意識しよう。

 第4章 パラレルキャリアの達人たち
 「【衣食住+知】へワークシフト」。これはその通りと共感。
 「自分の【要る場所】を作る」。これはいつも仕事をする上で考えていること。パラレルキャリア上もそうなのね。そりゃそうか。

 第5章 パラレルキャリアの実践
 「ごはん、おかず、デザートのバランスを考える」。ちょっと紙に書いて整理しよう。ご飯に頼りすぎですかね。。。
 「できることは、いますぐやる。できないことは、やらない。」。これも仕事で意識していること。パラレルキャリアでも。。。(以下同文)

 第6章 パラレル思考の作法
 「【人生7年周期説】を考える」。あるかも。

 第7章 パラレルワーク計画
 「【グッドストック】でチャンスを引き寄せる」。心がけよう。
 「楽できる仕組みをつくる」。これもそうですね。
 「【やる気スイッチ】の場所を知る」。これはとても大切。

 第8章 新しい未来の歩き方
 「自分はどう失敗するのかを知る」。大切。
 「【やりたいこと】と【できること】は違う」。とても心に届くフレーズ。でも、題と文章がかみ合ってない気がする。

 第10章 パラレルキャリアの可能性
 8つの計画で考える。always, hourly, daily, weekly, monthly, yearly, life, never。整理してみよう。
 「目標と目的をはっきりさせる」。実行しよう。

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2017年02月26日

●読書メモ 「耐震偽装」細野透 日本経済新聞社

 書名 耐震偽装 なぜ、誰も見抜けなかったのか
 発行 2006年2月24日 1版1刷
 著者 細野透
 発行所 日本経済新聞社

 冒頭の『「限界耐力計算」を用いた「合法的な姉歯物件」』という記述から、「姉歯事件を理解する一助になるかも」と興味が湧きました。著者は「日経アーキテクチュア」編集長等を勤めた建築ジャーナリストで、一級建築士。『じっくり読み進めてもらえれば、どこかでカチッと回路がつながって、全体像が見えてくるはずだ。』という言葉に従い、読み進んでいきました。

 第1章 ヒューザー過ちの軌跡
 建設費と建物強度の関係から、建物強度を落とすことから得られるコストダウン額を推定(建設費はマンション価格から推定。)。その結果は非常に非合理なもの。
 売り主の品質管理能力が欠けていた。さらに誰も見抜けなかった。

 第2章 建築基準法への疑問
 1981年の新耐震設計法の導入までは、大地震と耐震基準改正は「1対1の対応」だった。しかし、2000年の性能設計法の導入は「1対1の対応」になっていなかった。
 上を目指すはずの性能設計法は、「下方調整」のためにも使われた。下方調整のターゲットは、構造設計者が上乗せしていた余裕部分にも向けられ、それもそぎ落とされていった。
 構造専門家の間では、「耐震性は躯体コストに比例する」ことが常識になっている。

 第3章 ブラックボックス化する構造計算
 構造計算の目標は2つある。まず、比較的頻度の高い中小地震(震度5強)に対して、建物に被害がほとんど生じないこと。そして、極めてまれにしか起こらない大地震(震度6強から7)に対して、建物が倒壊せず人命を保護すること。
 構造計算には4つの方法がある。「簡単な方法」、「中間的な方法1 (限界耐力計算)」、「中間的な方法2 (エネルギー法)」、「高度な方法 (時刻歴応答解析)」だ。「簡単な方法」はさらに「ルート1 (許容応力度計算)」、「ルート2 (剛性率、偏心率計算)」、「ルート3 (保有水平耐力計算)」の3タイプに分かれている。
 「高度な方法」は、縮小モデルを使った振動実験に例えられる。
 「中間的な方法」とは、「高度な方法」のエッセンスを要約して、時刻歴応答解析という難しい計算をしなくてもいいようにした簡略法。
 「簡単な方法」は、ジャッキを使った加力実験に例えられる。
 「ルート1」では、中小地震が発生したとき、建物荷重の20%に相当する水平方向の地震力が加わっても、弾性限界を超えないことを確認する。
 「ルート3」は、大地震が発生したとき、建物荷重の40%に相当する水平方向の地震力が加わっても、建物が耐えられる最大の力(保有水平耐力)が、大地震時の躯体に加わる力(必要保有水平耐力)を上回ることを確認する。
 姉歯氏が用いたのがルート3。判定基準が0.5以下だったりした。
 2000年に性能設計法が導入された。構造設計は「中間的な方法1、2」が加わって、4本立てになった。

 日本建築構造技術者協会(JSCA)の偽装事件防止に関する4項目の提案(抜粋)
 [将来望ましいこと]
・確認申請料を10倍にする。
・構造設計者を法的に位置付け、責任をもたせる。
・必要に応じて、建築指導課および民間検査機関はピアチェックを要求できる。
・発注者及び設計者に保険を義務付ける。

 「中間的な方法1」は建物の構造を「1質点系」にモデル化する「等価線形化法」に基づいて、地震時の損傷を推定する。
 マンションが10階建てだと10質点系なのだが、計算を簡単にするために1質点系に仮定してしまう。技術的に間違いなのだが、法律違反ではない。ピアチェックならそこにストップをかけられる可能性が高い。

 第4章 構造設計者の境遇
 かつての設計料は、日本建築家協会が制定した設計・監理報酬料率表に従って決められるケースが大部分だった。
 1975年に、公正取引委員会から「独占禁止法に違反する疑いがあるので、この表を使ってはいけない」と行政指導された。
 1979年に建設省(現国交省)は告示1206号を出した。設計・監理報酬額は概ね略算式で求めるが、難しいのは「業務人・日数」「一日当たりの人件費」「経費係数」の決め方。
 日本建築士事務所協会連合会では、独自に設計・工事監理標準業務料率表を示している。
 日本建築家協会の旧設計・監理報酬料率のうち、設計料率部分が実質的に一つの上限になっている。設計事務所の側が、監理をやる余裕がないと考えて、形式的な監理しかやらなくなっている。

 第5章 確認審査の実態
 確認申請を審査する担当者が偽装をやすやすと見逃してしまった。確認検査機関がミスすると特定行政庁が責任を問われる。
 民間確認検査機関ランキング1位の日本ERIの場合、構造担当者の年間審査件数385件という数字自体が驚き。

 第6章 マンショントラブルの構図
 欠陥マンションの歴史。
 第1期。1970年前後の「万博景気のころ」。水が多い「シャブコン」打設。
 第2期。1970年代後半の「オイルショックのころ」。セメント等の建築資材不足。
 第3期。1990年代前後の「バブル経済期」。人件費高騰、施工技術の極端な低下。
 1998年ころから始まった、「現在のマンションブーム」。バブル期に比べて約70%にまで低下した建設費や、短すぎる工期、優秀な技能者の不足、不十分なチェック体制。

 第7章 躯体コストからの発想
 建物価格=消費税額÷消費税率
 土地価格=分譲金額(税抜)-建物価格
 一般的なマンションの価格=プロジェクト利益(10%)+諸経費(15%)+建設費(40%)+用地費(35%)
 建設費=工事費、設計・監理料、開発申請費用、近隣対策費等
 首都圏の分譲マンションの工事費=構造費(27.9%)+仕上費(36.1%)+設備費(19.2%)+その他(仮設・諸経費)(16.8%)
 首都圏のマンションの構造費=躯体費(76.3%)+土工費(10.5%)+地業費(13.2%)
 姉歯氏が操作したのは躯体費だった。
 建設物価調査会のJBCI(ジャパン・ビルディング・コスト・インフォメーション)によると、首都圏の分譲マンションの建築工事費の平均坪単価は63.4万円、戸当たりの平均工事費は1,700万円。

 建築基準法が定める耐震設計基準は、大地震時に建物が倒壊せず、人命を保護することを目的とした「最低基準」にすぎない。
 国交省は2000年に「住宅確保促進法」を施行し、住宅性能表示制度を導入。耐震等級1、2、3を新設した。
 耐震等級1を2にすると建設費は約2.5%、3にすると約5%アップする。
 耐震構造は地震の揺れに対して「ひたすらがんばって耐える」。
 免震構造は建物を地面から切り離し、間に免振層を設けて、「地震の揺れから逃れようとする」。建設費は約3%アップする。
 制振構造は建物にダンパー(粘りや弾力のある部材)を組み込んで揺れを吸収し、「振動を制しようとする」。千差万別だがおおむね1%程度アップする。
 構造専門家がベストと考えているのは免震構造。

 第8章 どうすれば安全なマンションに住めるか
 筆者が提案するのが「耐震性重要事項説明書」の作成を義務付けることで、その中核をなすのは「躯体費分析マップ」。

感想
 筆者が描き出そうとしたであろう、国も含めた建設業界(特に設計関係者)の疲弊については、ぼんやりながらも伝わってくるものがありました。その点で良くまとまっていると思います。同時に、本書が書かれてから10年以上経過してなお、何らかの有効な対策が実行されたという実感がないことに愕然としました。JSCAの提案しかり、躯体費分析マップしかり。
 結局、自分でしっかりと調べて決断することが大切ということなのかと思いました。

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2009年08月02日

●サマーウォーズ

 毎月1日は映画の日、しかも今月は土曜日!というわけで8/1封切りの映画「サマーウォーズ」を観ました。「時をかける少女 2006」の目に沁みる青空が記憶に鮮明な細田守監督の3年ぶりの新作です。

 今回のテーマは「大家族」。主人公は数学がとりえの内気な男子高校生。ひょんなことから憧れの先輩といっしょに、彼女の実家に旅行することになります。そこは田舎の旧家。家長である祖母の誕生日を祝うために、27人もの大家族が帰省してきます。

 もう一つの舞台は、現在よりも一歩進んだ仮想世界。ルイ・ヴィトンのプロモーション映像「SUPERFLAT MONOGRAM」で見せた世界観に磨きがかかり、利便性に富んだ世界をクールに描写します。

 画面狭しと動き回る、子供たち、大人たち。そして発生する「世界の危機」。田舎のノンビリした風景と、仮想世界の硬質な世界が交錯しながら進行する画面が美しいです。「世界の危機」に立ち向かう主人公の武器は、なんと紙と鉛筆。クライマックスではヒロインも凛々しく立ち回ります。仮想世界の格闘王や、天才技術者、パワフルなおじさんたちといった副主人公たちも画面を盛り上げます。

 平行進行で語る人間関係と、現実と仮想世界。それらをスピーディーでキレのある演出で見せきる手腕は、さすが。リメイクと原作つきが流行りの当世で、あえてオリジナルで勝負するところがとても意欲的。あっという間の114分です。

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2009年07月05日

●辻惟雄「岩佐又兵衛 浮世絵を作った男の謎」

 辻惟雄「岩佐又兵衛 浮世絵を作った男の謎」を読みました。「奇想の系譜」を読んで以来待ち望んだ、「岩佐又兵衛」総決算本です。

 又兵衛が複雑なのは、勝以として落款を残した画家「岩佐又兵衛」と、浮世絵の創始者として数多くの絵巻群を残した「浮世又兵衛」とのダブルイメージの重なりと混乱。両者の乖離が大きくなるほどに現実味を失い、特定人物を意味しない「又兵衛風」という言葉だけが広がってゆきます。

 その伝説の中から事実を引き出し、「岩佐又兵衛」という個人に話を集約していくところが本書の真骨頂です。その「豊頬長頤(ほうきょうちょうい)」な顔つき、絢爛豪華な又兵衛風絵巻物。本書では、彼の放浪の人生、死後の伝説の誕生、近代の又兵衛論争、絵巻物作者についての最新の見解が語られます。学生時代から彼を研究対象とし、50年近くも又兵衛絵画を見続けてきた辻氏の眼を通して語られる又兵衛像はとても説得力があります。時系列上のものさしを得たことで、彼の作品を観る楽しみが俄然増しました。

 本書のラストには、「デロリ」ということばとともに岸田劉生の名が登場します。絵巻物群作者について一応の決着をつけたところで、さらなるテーマを提示して本書は終わります。又兵衛を巡る物語は続きます。

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2009年07月01日

●近藤史人「歌麿 抵抗の美人画」

 近藤史人「歌麿 抵抗の美人画」を読みました。絶対非公開の名宝「スポルディング・コレクション」の調査を通して浮かび上がる歌麿画の変遷を縦糸に、当時の時代背景を横糸にして紡ぎだされる、謎多き絵師の像。筆者はTV局のディレクターだそうで、その手腕を活かした「見せる」素材の集め方と料理の仕方はさすが。

 プロデュース力に長けた版元、蔦屋重三郎。狂歌サロンの中核、太田南畝。サロンに出入りする酒井抱一を初めとする錚々たるメンバー。絵から文へと流れる時代の体現者、曲亭馬琴と十返舎一九。時代背景としての「賄賂政治」田沼意次と「寛政の改革」松平定信。これらの世界の中を、歌麿が颯爽と登場し、稀代の人気者に上り詰め、消えてゆく様を、視覚に訴えるドキュメンタリータッチで描きます。脇役にフランク・ロイド・ライトらを配して、間口の広さは万全。スタイリッシュに造形された歌麿像と美麗な挿絵群とのコラボレーションは、トレンドドラマを観るようです。

 考証部分は専門家の先生方に丸投げして、美味しいところだけを俎板にのせる手法はズルイ気もします。また、改革を期に転身する南畝をさりげなく取り上げて、対比的に歌麿の一途さを浮かび上がらせる手法もあざとい。そんなところも含めて、今風な浮世絵参考図書です。

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2009年06月28日

●ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破

 「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」を観ました。超絶緻密なクライマックスシーンとサービスタップリな次回予告で幕を閉じた「序」から待つこと2年近く。いてもたってもいられず、公開初日のレイトショーに出かけました。

 新旧キャラ大活躍!「旧世紀版」の人気キャラエピソードを軸にしつつも、冒頭やクライマックスでは新キャラも大活躍。美しくリニューアルされた画面を楽しみつつも、徐々に「一巡目」からずれてゆくスリルが「破」の醍醐味です。「ポカポカ」や涙目にはまる人も多いのでは。赤い機体の登場時にウルトラマンの効果音が鳴り、ジェットビートルが飛んだりして「エヴァ以前」のファンにも嬉しい作り。

 大幅にパワーアップしたメカアクション!噂の仮設五号機、飛んで走って空中回転して大活劇を演じる3体のエヴァシリーズ。さらには「裏モード」も登場して、テンション最高潮。

 効果的なBGM!第三新東京市の夜明け。街が目覚める描写が視覚的にも聴覚的にも美しい。ヒロインのクライマックスシーンで流れる挿入歌。シンプルな歌詞が心を打つ。そして「この人だけは守りたい」という想いが起こす奇跡。

 練りに練られたプロット!108分の制約の中で、新しい要素を取り込み、キャラの心情を描き、ありとあらゆる期待に答え、物語をきっちりと次作へつないでスタッフテロップへ。ものすごく面白かったです。

 何よりエンターテイメント!本編の最後に、衝撃的に登場するあの人。劇中でつぶやいた言葉の意味にビックリ。。。更に追い討ちをかける次回予告。腰に腕をあてて立つ隻眼のキャラに重なるように「Q」。1分ほどで美味しいところを全て持っていって幕。本当に面白かったです。Blu-ray出たら買うかも。本体持ってませんが。

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 有楽町ビックカメラで開催された「エヴァ携帯」イベントの様子。10万円近い価格設定ながら、あっという間に予約受付終了だったそうです。もっとも、オークションサイトに大量に並んでいますが。。。

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2009年06月19日

●恋する西洋美術史

 池上英洋「恋する西洋美術史」を読みました。扉をめくると、熱烈に口づけを交わす男女の図版が次々と表れます。その官能的な美しさは、絵画というよりもHな本のようで、周囲の視線が気になって本を閉じてしまうほどです。

 強烈なイントロダクションに引き込まれて、描かれた「愛」の世界へ。
 章構成は以下のとおり。
 第一章 恋する画家たち
 第二章 愛の神話
 第三章 愛のかけひき
 第四章 結婚-誓われた愛
 第五章 秘められた愛
 第六章 禁じられた愛
 第七章 愛の終わり

 西洋絵画を題材に、様々な愛の形を紹介します。作者の視線はその甘い誘惑に溺れることなく、残酷な結末にたじろぐことなく、客観的に(少々冷酷に)読み解いてゆきます。絵画が描かれた時代と現代とのモラルのギャップや、神々や画家たちの愛ゆえの盲目を浮き彫りにすることで、絵画を血肉の通った物語へと変換します。

 文庫本なので深みはありませんが、西洋美術史「愛」のカタログとして一読の価値ありな一冊だと思います。

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2009年05月31日

●スター・トレック

劇場公開中の「スター・トレック」を観ました。スタイリッシュな予告編がとにかくカッコイイです。建造中のエンタープライズ号の雄姿、青春ドラマのようなエネルギー溢れる画面。これは大画面で観たい!と久々にシネコンへ。

 前半は青春映画。一方の主役はカーク。運命の誕生から、荒れた少年時代を経て「愛と青春の旅立ち」を突っ走る。もう一方の主役はスポック。優れた論理的思考力と自己の存在矛盾の間で揺れながら、幼年期から青年期まで一気にジャンプ。二人のエピソードが交差し、合間にクルー達との出会いを挟みながら、気がつけばピカピカのUSSエンタープライズ号が宇宙へ舞う。その美しさは、もう感涙モノ。

 中盤はスペースオペラ。スペースバトル、砂漠の浮きステージでの剣戟格闘戦、雪の惑星での怪物との追いかけっこ、星を破壊する超兵器。「スターウォーズ」を髣髴させながらも、怪物は「遊星からの怪物X」のようでもあり、本当にサービス精神旺盛な作り。ヨーダばりの登場をしたのは。。。

 そして二人がお互いを認め合うところから、物語が大きく転換します。ワープ中の宇宙船へ飛び乗るのは朝飯前で、不死身のカークが敵を討ち(主役は死なない)、美味しいところを一人占めのスポックがピュンピュンと空を翔る(その宇宙船って元はといえば。。。)。そして一斉射撃で大団円(ひでえ。。。)。かくしてUSSエンタープライズ号の冒険の旅が始まったのであった。

 新生「スタートレック」の最大の見所は、練りに練られたプロットでしょう。ものすごい勢いで名場面を矢継早に展開しつつも、ストーリーラインは常に明快。バラエティー豊かな画面作りで、新しい観客へのサービスたっぷり。マニアックな言い回しで、年季の入ったファンへの思いやりもたっぷり。劇中の伏線もキレイに回収して、後に残るのは爽快感と、次回作への期待感。最高にエンターテイメントな快作です。

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2008年08月10日

●いとうせいこう・みうらじゅん「見仏記」

 文:いとうせいこう、絵:みうらじゅん「見仏記」を読みました。冒頭、みうらじゅんが小学生の頃に作ったという”仏像スクラップブック”の異様な濃さで掴みは充分。紙面いっぱいに貼られた白黒コピーの仏像と、びっしりと書き込まれた手書きのイラスト+解説感想文+俳句(季語なし)。稚拙さは熱さの裏返し。夏休みの自由研究でこれのお寺版を作った(未完成。。。)身としては、もう恐れ入ってしまいます。

 奈良 興福寺・東大寺。メジャーどころからスタート。仏様を「ブツ」と呼び捨て、信仰心をばっさりカット。後に残るのは、純粋に仏像が好きなマニア心。お宝ゴロゴロの興福寺宝物館で邪鬼に愛情を注ぎ、仏をミュージシャンに見立て、塗装のはげをワビサビと見立てることに怒りを感じる。東大寺三月堂に至って、畳に寝転がって不空羂索観音を見上げる。仏様を観る目が変わってしまいそうなスタートダッシュ。

 奈良 法隆寺・中宮寺・法輪寺・法起時・松尾寺。メジャーシリーズその2。法隆寺金堂で「住みたいよねえ、ここに」とつぶやくみうらさんはホンモノだと思った。百済観音から法輪寺へと至るあたりから、ちょっと冗長に感じ出す。何故かというと、僕は建物ばかり観ながらこの辺りを歩いたから。建物マニアにこの部分はちょっと退屈。

 京都 六波羅蜜寺・三十三間堂・東寺。「多数」のパワーで圧倒的な千体仏は、杉本博司さんの写真をハラミュージアムアークで観たばかりでタイムリー。

 東北 慈恩寺・立石寺、立花毘沙門堂・万蔵寺・成島毘沙門堂、毛越寺・中尊寺・黒石寺。伝来ミスで頭の小さな仏様が誕生した?全般的に不発気味。

 奈良 新薬師寺・五劫院・東大寺戒壇院・浄瑠璃寺。奈良第3弾、小粒でピリリシリーズ。個人的に評価の高い(土門拳の写真が好き)、新薬師寺十二神将登場!仏像メリーゴーランドにはまいった。やたら俗っぽい宣伝と、観光コースから外れる悲哀。そして浄瑠璃寺。「ロイヤルストレートフラッシュ持ってても負ける」九体阿弥陀の”揃っている強さ”を、「見たいリスト」に追加する。行くなら吉祥天開扉日がベスト。

 奈良 室生寺・当麻寺・聖林寺。女人高野は建物は何度も観ましたが、仏像は金堂しか覚えていません。もったいないことをしたものだと反省。当麻寺も水琴窟は聞いたのに。。。

 奈良 薬師寺・唐招提寺・西大寺。メジャーシリーズその3。余談の「仏像を美術として見る旅は、ガイジンの真似として始まったと言えそう」という指摘になるほどと思った。「我々にとっての観光は、元来ガイジンの目で日本を見るべく出来ていた」から「鑑真を招来した天平の頃から変わっていない。」と結びつける飛躍がステキ。

 九州 東長寺・大宰府・観世音寺・天満宮・大興善寺。九州遠征。観世音寺の馬頭観音を見たいリストに追加する。「なぜ仏(ブツ)は(九州に)根付かなかったんだ」?

 九州 龍岩寺・真木大堂・富貴寺・神宮寺。九州遠征その2。龍岩寺は岩に張り付いたお堂らしい。そういえば、三仏寺投入堂も未踏だった。真木大堂の大威徳明王はすごいらしい。観世音寺の馬頭、不空羂索とトリオを組んで、是非東博へお越し願いたい。無理なら九博あたりでも。。。

 京都 神護寺・清涼寺・広隆寺。クライマックスで登場するのは広隆寺弥勒菩薩半跏思惟像。でもその前の十二神将のところの「やっぱ、藤原時代から劇画感覚入るね」という言葉から、俄然見たい気が上昇する。

 京都 大報恩寺・泉涌寺・平等院鳳凰堂。クライマックスその2。建物と一体で観る仏像。鳳凰堂の窓から覗く阿弥陀様の顔、小学校の遠足で行ったなあ。極楽浄土の再現を今観たら、どんなことを思うだろう。

 抜群のスタートダッシュで観る者を引き付け、あっという間にゴール!かと思ったら、意外と時間がかかりました。仏(ブツ)と呼び捨てる言い回しや、ミュージシャンへの例えが今一つしっくり来なかったのが原因でしょうか。「ガイジンの目で見る日本」というフレーズを始め、読みどころも多数あり。著者のノリが好きな方と、カジュアルに仏様に接したい方におすすめします。

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2008年06月24日

●勝間和代「お金は銀行に預けるな 金融リテラシーの基本と実践」

 勝間和代「お金は銀行に預けるな 金融リテラシーの基本と実践」を読みました。これまでの二冊に比べると、実践書としての色合いが非常に濃いです。
 「振込手数料無料」の売り文句に惹かれて、S銀行にお金を預けている身としては気になるタイトル。ついでに利率優遇という特典に惹かれて、そのほとんどは定期。ただし、振込手数料無料は回数制限があり、定期は1年で自動解約されて普通口座に移されます。口座を開設して、資金を移動して。囲い込み戦略にスッポリとはまっております。購入の決め手は、前書でのさりげない宣伝。

 リスク(risk)と危険(danger)。リスクは計量可能で、コントロール可能なもの。コントロールできないリスクは、単なる危険(ギャンブルなど)。
 迷う前に、株式や債券などのリスク資産の購入を決意することと、各資産をどのくらいの割合で持つかという判断になる。なるほどなるほど。
 「There is no such thing as a free lunch.」 (タダ飯なんてものはない)。金言。
 銀行は主に定期預金と住宅ローンで儲けていて、手間暇のかかる普通預金や決済サービスではさほど儲かっていない。定期預金の方が国債より利率が低いことを意外と知らない。おおーっ、そうなのか!
 不動産で特に問題となるのが、住宅ローンは銀行を始めとする数多くの企業の大きな儲け口になっているという点。金融資産という考え方からいうと、土地の値段が値上がりしにくいときは住宅ローンを組むべきでない。金融資産としてみた場合の、住宅ローンの位置付け。とても刺激的。自分にとっての「安全地帯」の考え方を練り直そう。
 「じゃんけん理論」。確かにあるが、現実的かは推して知るべし。
 各種金融商品を簡単に解説して、実践へ。分散投資、分散投資、分散投資。
 「金融リテラシーを身につけるための10のステップ」。ゴール設定が具体的で、読者の顔が見えてるなと思った。

 「金融を通じた社会責任の遂行」。前章でひとまず完結。最後は金融と世界の結びつき。確かに、生きて行く上で避けては通れない。
 そして、書を閉じたら始める第一歩。「タダ飯はない」を肝に銘じて踏み出しましょう。「おいしい家庭料理」を目指して頑張る日々。

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2008年06月21日

●勝間和代「勝間式「利益の方程式」」

 勝間和代「勝間式「利益の方程式」」を読みました。明快かつ丁寧に、「今」求められる課題への取り組み方を説く、勝間シリーズ二冊目。

 年をとるにつれて健康のありがたさを実感し、健康について急に管理をするようになるのと同じように、日本経済の中年期にさしかかり、予防対策と生活習慣の引き締めを説く。一冊目を読んでNike+iPODを購入し、ランニングの管理を始めた身としては、勝間ビジョンに興味津々。

 日本人が意外と利益を上げていないことを例証する項で、生産性がアメリカの半分以下しかない産業として「小売、建設、食品加工業など」とあるのを見て、ああやっぱりねと納得。朝から深夜まで仕事してるもんなあ。。。
 適切なワークライフバランスを説く際に、「儲からない仕事を辞めること」といわれるとドキッとする。そのあとで利益の作り方を料理に例えて、「これらの基礎知識と手法を学べば、プロ級の料理とはいかなくても、おいしい家庭料理であれば、誰でも作れるようになります。」と本書の位置付けをするバランス感覚が旬だなあと思う。
 そして本題「勝間式「万能利益の方程式」」。「利益=(顧客当たり単価-顧客当たり獲得コスト-顧客当たり原価)x顧客数」。以下、懇切丁寧に変数の一つ一つを解説してゆきます。
 一円単位の単価を上げる工夫、コストを下げる大切さ。「良い商品・サービスなら売れる」という思い込みの指摘。ブランド=体験の大切さ。顧客が魅力を感じる部分を、細かに抽出する必要性。ミシュランの本が売れる理由を、「これまでミシュランに載ったレストランに行けなかった人が、その憧れから眺めて、レストランに行った気になるために買う」というのは、なるほどと思う。BRUTUSもそうだもんなあ。顧客単価に応じて、マーケットの大きさは決まっていると説き、「Willful Thinking (こうなったらいいな)」を戒める。顧客単価と顧客数は相反する。この視点はシビアに持つ必要あり。
 顧客に気持ちよくお金を払ってもらう仕組「松・竹・梅」のプライシング。そういうことね。「ヒューリスティック」判断プロセス。未知のものに触れた時、詳細な比較検討はごくまれにしか行なわない。経験則や学習内容に応じて、瞬時に決断してしまう。この視点はプレゼン時に大切。
 「粉モノ屋は儲かる」。なぜなら「小麦粉は世界中の中で、カロリー単価が最も安い商品の一つだから」。2008年に入っての小麦粉の30%値上げも盛り込んで、それでもまたまだ米に比べるとカロリー単価が安いとフォロー。他の例として新書ブームを取り上げる。さりげなく自著「お金は銀行に預けるな-金融リテラシーの基本と実践」を紹介。気になって買ってしまった。
 結局は地道なベンチマーク。コピー用紙の裏を使うより、人をなるべく少なくする。つまり本当に鍵となる原価要素だけを管理する。オーバースペックはコツコツ退治。肝に銘じよう。
 「S字カーブの法則」。イノベーター2.5%、オピニオンリーダー(13.5%)、アーリーマジョリティ(34%)、レイトマジョリティ(34%)、ラガード(16%)。オピニオンリーダーとアーリーマジョリティの間にキャズム(溝)がある。ブログはキャズムを超えたとして、その細分化の一つである美術ブログはキャズムを超えられるか?

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2008年06月05日

●羽生善治「決断力」

 羽生善治「決断力」を読みました。現代最強棋士のお一人、梅田さんの本に登場する「高速道路」論、コンピューターを駆使した分析を行なう柔軟な姿勢。というわけで購入。

 KISSアプローチ。"Keep it simple, stupid."。ごちゃごちゃ考えない。
 早い段階で定跡や前例から離れて、相手も自分もまったくわからない世界で、自分の頭で考えて決断してゆく局面にしたい思いがある。
 「仕事にゆき詰まったときは整理整頓」。
 直感の七割は正しい。
 リスクの大きさはその価値を表しているのだと思えば、それだけやりがいが大きい。
 これまで、誰もが怖くて「できなかった」分野で画期的な何かが起こる可能性がある。
 自分の形に逃げない。
 「道」や「芸」の世界に走ると言い逃れができる。だが、それは甘えだ。
 コンピューターの強さはどういうものか。おそらく人間の強さとは異質なものだろう。
 さほどシャープに感じられないが同じスタンスで将棋に取り組んでいる確実にステップを上げていく若い人のほうが、結果として上に来ている印象がある。
 自分の将棋が目の前の一勝を追う将棋になってしまう。今はいいが、将来を考えると「良くないな」と気づいた。

 印象に残るフレーズをメモすると上記な感じ。謙虚に他人の声に耳を傾け、己に厳しく勝負に向かい合い、リスクを恐れず新しいことに取り組んでゆく。切れ味鋭い刀のごとき内容。

 だけれども、書物としては物足りない。ビジネス書を意識したのか、各章ごとにビジネスにも通じる一言で締めるのがいかにも蛇足。高い山の頂からわざわざ降りてきて、いっしょに見上げて一言述べる感じ。編集の人が欲張って焦点を絞り込めなかったのだろうか。「高速道路」だけを繰り返し述べる梅田さんは、そこがしっかりしているなと思いました。

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2008年05月29日

●梅田望夫「グーグルに淘汰されない知的生産術」

 梅田望夫「グーグルに淘汰されない知的生産術」を読みました。以下メモです。

 「本の俯瞰性」。複数の情報を一目で視認できる特性を一言で表す上手い言い回し。羽生名人の名言「学習の高速道路」を完全に使いこなす手腕を見ても、梅田さんの言葉の選び方、文脈への組み込み方は上手い。
 「グーグルが担わない技術を確立している人こそが」。スタンスの明示。勝間さんと対照的な物言い。

 梅田望夫、「『ウェブ時代をゆく』を語る」。前出コラムの掲載号。
 「fix it (直せ)」が口癖の上司との対決。志向性重視vsオールラウンダー。この対立項は興味深い。梅田さんvs勝間さんもこの軸線に乗りそう。
 茂木さんはアインシュタインよりもダーウィンだそうだ。お二人の対談集も読みたくなった。
 まつもとゆきひろさん「嫌いなことを仕事にしてはいけませんね。病気になります」。シンプルで強い一言。強烈な特性がそれを支える。

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2008年05月20日

●D.カーネギー「人を動かす」

 D.カーネギー「人を動かす」を読みました。
 簡潔で力強いタイトル、「レバレッジ・リーディング」での絶賛、春になると書店に平積みになる本。大仰な書名からして手強そうと敬遠していましたが、ちらりと立ち読みしてみて、思いのほか平易で読み易い文体だったので興味が湧きました。「動かす」より「動かされる」立場ではありますが、反対の視点も知っておこうと購入。

 構成は「人を動かす三原則」、「人に好かれる六原則」、「人を説得する十二原則」、「人を変える九原則」の四部。それに加えて、付録として「幸福な家庭をつくる七原則」が納められています。一原則ごとに一章が割り振られて、非常に平明かつ簡潔に、数多くの例を交えつつ原則を確認してゆきます。三、六、十二、九の非常に簡潔で揺るぎない構成、豊富な例を登場させつつも常に話の中心に相手の自尊心を尊重する姿勢を貫くスタンス、長丁場を全く飽きさせることなく語りきる密度。1936年初版の本を1981年に改訂、引用例を新しいものに入替、現代の読者にも親しみ易い本にしたそうですが、70年を経て古さを感じさせない作りは、不朽の名著と呼ぶに相応しい出来。技術的用語に頼らず、あくまで人を中心に据える姿勢と、絶え間なく手を入れて鮮度を保つ努力の賜物なのでしょう。この本の影響が、最近読んだ多くの本に見られることを考えると、原則モノのテンプレートと言えそうです。

 それにしても、付録の「幸福な家庭をつくる七原則」はちょっと異質。それまでアイデア豊富に人を動かしていた達人たちが、一転家庭では酷い目にあう。もうちょっと気をつけないとダメよといわんばかりのエピソード集。家庭はそれほどに手強いということ?

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2008年05月09日

●茂木健一郎「欲望する脳」

 茂木健一郎「欲望する脳」を読みました。「欲望」と「脳」という相反しそうなイメージを結びつけるネーミング。快楽の中を漂いつつ現実と切り結ぶ茂木論理の飛躍と展開を期待して購入しました。本書は、集英社のPR誌「青春と読書」に連載された「欲望する脳」に一部加筆、修正を加えた、全24章からなるショートエッセイ集です。

 冒頭に孔子「七十従心」が登場し、その境地とはいかなるものかと謎賭けします。それが全編を通してのキーテーマとなります。
 「己を律した聖人の人生訓を底本にした、茂木流時事説話」と思えた前半は、かなりテンションが下がりました。章が短いので、快楽に浸る間もなく、あっという間にまとめ。字数の制限か、キーワードの羅列はツライ。茂木節とショートエッセイは相性が悪いのでは?と思ってしまいました。

 しかし、それだけではない。読むにつれて、そんな思いが募ります。
 「14 欲望の終わりなき旅」。荻尾望都さんとの対決。それまで仙人の如く淡々と達観してきた茂木節が少し変調します。「人間、追い詰められるとなんとかなるものである」。傍観から舞台へ上り、「終末開放性」を足がかりに既定論を踏み越えて行きます。
 「15 容易には自分を開かず」。若冲登場。「鳥獣花木図屏風」、「動植綵絵」、ついでにフェルメールの名も。一気に興味が高まり、BRUTUS「若冲を見たか」が思い浮かびます。そして「糸瓜群虫図」を材にとって、「「自分」という宇宙に立て篭もることで、開かれた地を獲得してきた」と結びます。ゾクッ、ゾクッと茂木ワールドが広がってゆきます。
 「18 アクション映画とサンゴの卵」。「ヒーローが必ず勝つアクション映画とサンゴの卵が海に放出されて、淘汰されていくプロセス」。その対比と、同一性の指摘。
 「19 欲望と社会」。「偶有性」登場。「私たち人間は、自分の脳の「使用説明書」を知らずに日々生きている」。
 「20 一回性を巡る倫理問題」。秘仏拝観を通して、「一回性」の論理に辿りつく。それは万能の理論ではなく、諸刃の剣。「うさんくささを甘んじて受け入れなければならない」。
 「21 魂の錬金術」。シャチは溺れて死ぬ。その凄惨なる末路。そして話は冒頭に回帰します。「否定的な感情を消し去りさえすれば良いというのは、精神における行き過ぎた「衛生思想」ではないのか?」。「「負」から「正」への転換の技法」。「七十従心」はもの凄い勢いで解体され、再構築されて、まるで何事もなかったかのごとく現実との折り合いを説く。このスピードとメリハリと接点の持ち方が飛び抜けています。
 「22 生を知らずして死を予感する」。「七十従心」解題その2。それは、死後に完成する理想像。えーっ!
 「23 学習依存症」。エピローグ。学習の悦楽と「七十従心」。
 「24 一つの生命哲学をこそ」。グランドフィナーレ。「可能無限」が溢れる現代。「欲望」が「利己的」のニュアンスを失って、その先は。。。

 時間をかけて書き綴られたせいか、それとも意図的なのか。論調が少しづつ変化してゆき、テーマが当初のイメージから大きく変容してゆく過程はスリリング。聖人を固定化せず、変化し続ける存在として捉えて、強さも弱さも合わせて論じるスタンスも独特。大上段に構えず、小論の積み重ねと飛躍で話を引っ張る大技は、読んでいてドーパミンが分泌されます。

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2008年04月25日

●長谷川高「家を買いたくなったら」

 長谷川高「家を買いたくなったら」を読みました。最近の読書を通して「自分だけの場所」が必要だと思うようになったのですが、さてどうやって手に入れようかと思ったところで目に入った本です。多くの人が気になるテーマに対して、漠然と「家を手に入れたくなったら」と囁きかけるタイトルが上手いです。冒頭にはキレイな写真に少しキャプションを添えて、タイプ別の理想の家の例が数ページ並びます。帯には「がんばらないで「理想の家」を手に入れる」。「はじめに」は、「ちゃんと答えが書いてあります」という力強い言葉で締めくくられています。

 本編はまだ購入は先という方に向けて、焦らずがんばらず「理想の家」のイメージを固めることを薦め、その探し方、お金の話、タイプ別の物件の注意点、購入時及びその後の注意点を順に述べてゆきます。広く浅くタイプ別に網羅する視点は、入門のための概論という感じです。冒頭の写真をケーススタディとして、それぞれの事例を掘り下げるのかと思ったのですが、そういった部分はありません。

 内容がおかしいわけではありませんが、「買わせる」ポイントをしっかりと押さえた本の作りの方が遥かに印象に残りました。考えてみれば、不動産を扱う方は「売る」プロです。この分野は手強そうです。

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2008年04月22日

●梅田望夫「ウェブ時代をゆく-いかに働き、いかに学ぶか」

 梅田望夫「ウェブ時代をゆく-いかに働き、いかに学ぶか」を読みました。「世界中の情報すべてを整理し尽くす」という壮大なビジョンを掲げるグーグルを核に、ゾクゾクするようなビジョンを示した「ウェブ進化論」の続編ということで楽しみにしていた本です。

 オプティミズムを貫くわけ、前作とのつながりを説明して、いざ本編へ。前作で示した「学習の高速道路の先の大渋滞」のサバイバルとして「高く険しい道」と「けものみち」の二つの選択肢を示します。「好きを貫いて生涯を送ること」を人生の幸福と定義し、高速道路を疾走する若いネット・アスリートに贈る三つの言葉が素晴らしいです。「Only the Paranoid Survive. (病的なまでに心配性な人だけが生き残る)」、「Entrepreneurship (アントレプレナーシップ)」、「Vantage Point (見晴らしの良い場所)」。

 後半は、作者のこれまでを振り返りつつ生き方を探ります。「けものみち」を歩く処方箋としての「五百枚入る名刺ホルダー」を始め、かなりビジネス書方面へ舵を切ります。「正しいときに正しい場所にいる」は全くおっしゃるとおり。「好き」の強度を手がかりに生き方を開拓する「ロールモデル思考法」は梅田流サバイバル術の要。終盤は若い人へ贈る言葉を細やかに述べて完結です。

 前作のゾクゾクするような高揚感に比べると、本書はやや細切れな感じがあります。どうしてかと考えてみると、これからの時代を生きる処方箋を、過去の作者の行動に求めるところがズレの原因かと思います。その一方で、ないモノを語るのだから過去を参照しつつ話を組み立てるのは当然です。そうすると、本書は続編でなく、短編を集めた外伝と捉えるのが適当かと思います。
 もう一つ。本書を作者の成功体験を綴るビジネス書と捉えると、成功部分の煽りが弱い分中途半端に思えます。反対から考えると、中途半端でも論旨が完結するところが本書の特徴と思えてきます。型にはまったビジネス書でなく、今まさに生成せんとする事象を捉える徒手空拳の記。わずか240ページほどでこれだけ思索を喚起するところが、この本の最大の魅力です。

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2008年04月14日

●小山登美夫「現代アートビジネス」

 小山登美夫「現代アートビジネス」を読みました。著者は現代アートの有力ギャラリーのギャラリストであり、アートフェア等でも精力的に活動されている方です。去年オープンしたガラス張りのTKG Daikanyamaは、一般層にも積極的にアピールしようという姿勢と、うねるアクリル面の視覚的な面白さがバランス良く機能していて印象的です。売り文句は「奈良美智、村上隆を世に出した仕掛け人が語る、アートとお金の関係とは?」。アートイベントラッシュに沸いたこの時期に、タイミング良いなと購入しました。

 内容は、誤解されがちなアート業界の仕組みを、平明な構成、表現で語ってゆきます。去年のアートフェア東京のラウンジトークでは三潴さんが、森美術館のウェルカムパーティーでは南條さんが語っておられましたが、アートファン層拡大の好機という認識は共通のようです。小山版の特徴は、奈良、村上の2大キラーコンテンツを擁するところでしょう。以下、印象に残ったフレーズの抜粋です。

 第1章「誰も見たことのないものに価値を見出す ギャラリストの仕事」。著者の自己紹介とギャラリストの仕事について。ギャラリストは広義で画商に含まれるが、「展示空間=ギャラリーを持ち、みずから企画展示する点が、大きな違い」。
 第2章「村上さんと奈良さん アーティストはどこにいるの?」。アーティストはどのように育っていくかを、村上隆、奈良美智の軌跡を辿りつつ紹介。「奈良さんの絵はイラストとどう違うの?」「僕は描きたいものしか描かないよ」。「「これでもいいんだ!いいはずだ!オレたちの文化も捨てたもんじゃない」」。「自分にとってよい作品をつくることが大前提」。「自分の描きたいものや表現したい世界を、客観的に見ることが必要」。
 第3章「アートの価値はどう決まる 投資を考えている方へ」。アートとお金の話その1。「現代アートは産地直送、適正価格で売ってます」。「プライマリー・プライスとセカンダリー・プライス」。「世界基準でない、「アジア限定マーケット」」。「1980年代、アートバブル狂走曲」。
 第4章「マーケットを動かすのはコレクター アートを買ってみる」。アートとお金の話その2。「潜在的なマーケットを発掘するために」。「現代アートは団体戦で勝負をかける」。「日本アートフェア興亡記、NICAFの顛末」。「アートを楽しめる人がコレクター」。
 第5章「日本をアート大国へ アートビジネスの展望」。「例えば、アートバーゼルはスイス最王手の銀行UBSが、アートバーゼル・マイアミ・ビーチはゴールドマン・サックス社が、ロンドンのフリーズはドイツ銀行が、大スポンサーとしてフェアを支えています」。「日本の美術館に、奈良、村上がない理由」。

 ギャラリストって何する人?という疑問から、村上、奈良作品の価値、アーティストに必要な素養、現代アートとお金を巡る事情、世界のアート事情、そして日本の課題まで、とても良くまとまっています。森美術館「UBSアートコレクション展」の話とリンクしたり、去年の「アートフェアTOKYO」が現代アートのみでなかった訳等々、色々となるほど!と思いました。アートファンの方には興味深い一冊だと思います。

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2008年04月13日

●本田直之「レバレッジ・リーディング」

 本田直之「レバレッジ・リーディング」を読みました。副題は「100倍の利益を稼ぎ出すビジネス書「多読」のすすめ」。勝間和代さんの著書に名前が出ていたのと、書店に平積みだったので自ずと目に入り、購入しました。
 内容はタイトル通り、本によるインプットから、100倍の利益というアウトプットへと至る流れを、レバレッジ(梃子)をキーワードに解説します。「読書」は投資という視点から多読を薦め、本の探し方、読み方、フィードバックの仕方まで。このサイクルの繰り返しをレバレッジ(梃子)と呼ぶところが秀逸です。ビジネス書の単価を1,500円と設定し、その100倍(150,000円)の利益を得るという風呂敷の畳み方も上手。
 逆に、タイトルと「はじめに」でほぼ内容を語り尽くしているので、残りの160ページほどは、その補足説明と化しています。作者の述べる「八十対二十の法則」を地でいっていてなるほどと思いました。「そもそもレバレッジ・リーディングは読書ではありません。投資活動です。」とあり、再度なるほど。

 余談。本書と勝間和代「効率が10倍アップする 新・知的生産術」には、投資としての読書法が登場しますが、その手法は大きく共通し、ディテールが少し違います。前者は文庫本をページを折り、書き込みをし、要点はメモに書き起こして常時携帯せよと説きます。後者はパーッと読んで必要なときに引き出せれば良いと、速度最優先です。投資額も前書は年間100万円、後者は月10~15万円とボリュームアップ。両書の間には1年のタイムラグがあり、その間のグーグルの席捲、前書を踏まえつつ貪欲に吸収、カスタマイズしてゆく後者の学習意欲といったものが感じられました。

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2008年04月10日

●原田ゆふ子・黒田祐子「沖縄に住む」

 原田ゆふ子・黒田祐子「沖縄に住む 理想のセカンドライフの過ごし方」を読みました。沖縄に通い始めて早半年。そのわりに、沖縄に関する本を読んでないなと思ったときに目に入りました。
 内容は明快、簡潔。沖縄での生活に関する基礎知識、移住に関するイントロ、そして体験談。対象はシニア層ですが、沖縄生活入門書としてコンパクトにまとまっています。私自身が観光以上、居住未満な滞在状態なので、ミニ知識としてちょっと面白いです。

 沖縄最大の魅力は「暖かさ」。確かに。冬もランニングに励んで、ずいぶん健康になりました。
 沖縄の夏が、「暑いというより痛い」という記述はなるほど。その例証として「真夏でも、沖縄の最高気温は32~34度程度である」という数字は分かり易いです。そして「沖縄の日照時間は日本一少ない」というのも納得。本当に良く雨が降ります。
 沖縄の物価は、「モノによっては意外に高い」。その通り。食べ物も日用品も東京と同じ感じです。家賃も決して安くないです。島外への移動が基本的に飛行機なのが、かなりこたえます。

 後半は移住体験談です。思いの強さと行動力が大切。資金計画も大切。

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2008年04月08日

●島田裕巳「日本の10大新宗教」

 島田裕巳「日本の10大新宗教」を読みました。帯には「新宗教には、なぜ巨大なカネが集まるのか?」。寺院、神社の宝物は言うに及ばず、尾形光琳「紅白梅図屏風」を擁するMOA美術館、先日の運慶作仏像の落札など、美術と宗教は関係が深いです。その気になるところを剛速球で突く帯に惹かれて購入しました。
 内容は、著者がピックアップした10の新宗教について、その成り立ち、歴史、特徴について簡潔に述べてゆきます。一通り説明が終わって、それで。。。と思ったところで終わりです。帯に偽りあり。出版社の作戦がち。一人の視点で並列に述べていくところがウリといえばウリ。一つの章に、単一の宗教だけでなく、その本家筋、分家筋といった周辺も交えて述べていくところもウリといえばウリ。時系列を意識して、旧来からの布教方法を用いるところから、非日常性を意識しない現代的なところへと並べるところもウリといえばウリ。でも、帯のインパクトには敵わないです。
 気になったフレーズ。「芸術や自己表現の強調は、教団のイメージアップには大いに役立つが、信者を集める武器になるものではない。」なるほど。

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2008年04月07日

●上野千鶴子「おひとりさまの老後」

 上野千鶴子「おひとりさまの老後」読了。今年で40歳。人生のフレームワークを組む必要があるなあと思いつつ本屋を見ていたら、目に入った本。パラパラとめくって女性向けと気づいたものの、まあいっかと購入。
 「ひとりでおさみしいでしょう」といった他者の思い込みを大きなお世話と切り捨て、ようこそシングルライフへ!と勢い良く語りだします。最低限必要なのは「自分だけの住まい」という論点から建築へも話が膨らみ、建築家山本理顕さん設計の東雲の公団住宅も登場します。「女の持ち家率は高い」、「身を守るルールは自分で決める」とポンポン論が進みます。そして後半。人付き合い、お金の話とより身近な話題になり、介護の話を経て、死に方の話で終わり。ものすごくポジティブに、時に倣岸、時にシニカルに語り尽くすあっという間の260ページ。すごいエネルギー。
 「自分だけの住まい」を手に入れることと、老後の資金を蓄えることが、おひとりさまの必須項目。それにしても、どうして男の扱いがこんなにゾンザイなのだろう。。。

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2008年04月02日

●梅田望夫「ウェブ進化論」

 梅田望夫「ウェブ進化論-本当の大変化はこれから始まる」読了。時代の寵児グーグルを中心に、ウェブ社会の「次の10年の三大潮流」を分かり易く解説。「三大潮流」とは「インターネット」、「チープ革命」、「オープンソース」。よく耳にするけれども聞き流し気味な言葉をちょっと理解。

 ゾクゾクするのは、やはりグーグルの在り様。「世界の情報を整理し尽くす」という構想の下、インターネットの「あちら側」に情報発電所を構築、「こちら側」と全く異なるプラットフォームの下、チープ革命を推し進める。無料サービス「グーグルマップ」の登場は記憶に新しい。現代ではほぼ不可能と思われた「全体を俯瞰する視点」を、ものすごいスピードとテクノロジーで手に入れる。漫画のようだ。いや、現実がフィクションを追い越している。

 後半は、ウェブ社会と既存価値観の衝突、その課題点も浮かび上がらせた上で、作者の信じる進むべき方向性=「不特定多数無限大への信頼」へと進む。実際に生活の大変換につながるかは置いておいて、好奇心はものすごくそそられる。

 ブログも登場します。ツールの使い方として、バーチャル研究室は楽しげだ。

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2008年03月22日

●佐藤可士和の超整理術

 「佐藤可士和の超整理術」読了。表紙をめくると木地の大机の奥に小さく腰かける著者の写真。白い空間に黒い服。それが本書の内容を雄弁に物語る。本の装丁も著者。白い表紙に文字だけのタイトル。ストレートに本書の内容を示し、「超」をつけて特別に。気がつけば手にとってレジに持っていってしまった。

 内容は整理術=快適に生きるための方法論を、「状況把握」「視点導入」「課題設定」の三段階に分けて解説。実際の仕事を交えつつ話を進めていくのでとても分かりやすいです。ファーストリテイリングのCIの清新さに流石と唸りました。

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2008年03月21日

●勝間和代「効率が10倍アップする新・知的生産術」

 勝間和代「効率が10倍アップする新・知的生産術 -自分をグーグル化する方法-」読了。
 NIKE+iPODを導入することを決意。ランニングの習慣化と耳からのインプットの有効化の一石二鳥の効果をあげるぞ!

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2008年03月18日

●山田真哉「さおだけ屋はなぜつぶれないか?」

 山田真哉「さおだけ屋はなぜつぶれないか? 身近な疑問からはじめる会計学」を読みました。確定申告の季節、やさしい会計モノ、少し前のベストセラーの三点がポイント。

 さおだけ屋、フランス料理店等などの舞台設定が功を奏して、好奇心がスムーズに会計学へ向かいます。一章ワンセンテンスに絞り込まれた明快な論点のおかげで、あっという間に読了。確定申告の決算書を眺めて、数字のセンスを磨かないとなあと反省。要約すればA4用紙一枚におさまりそうな内容で、ちょっとためになる、前評判通りの内容でした。

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2008年03月17日

●海堂尊「チーム・バチスタの栄光」

 海堂尊「チーム・バチスタの栄光」を読みました。第4回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作、医師であり作家である多才な作者、映画化の勢い。相変わらずミーハーな選択です。

 青天の霹靂のごとく、栄光のバチスタ・チームに潜む謎の解明を命じられる昼行灯の主人公。前半は、その目を通して登場人物個々の輪郭を浮かび上がらせます。そして後半。もう一人の主人公が登場して、ものすごいスピードでその輪郭を突き崩し、天才外科医の秘密を明るみに出し、そして事件の核心へと突き進みます。主人公と一体になって、ジェットコースターに乗りながら解説を聞いているようなスピード感。続編への布石もしっかりとうって幕。

 印象に残るのは、精緻に練られたプロット。無駄を削ぎ落とした構成と、そこから生まれる情報の飢えと疾走感。その一方で登場人物の造形をきっちりこなすそつなさ。何より緊迫感ある手術シーンの描写。文句なく面白いです。続編も2編あるので、そのうち読んでみたいです。

 ついでに映画の予告編。緊迫感に満ちたシーンの数々が、平坦な台詞のやり取りとして並ぶ。活字のトリックであるミステリーと映像は別物に思えました。

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2008年03月04日

●五十嵐太郎「現代建築に関する16章 空間、時間そして世界」

 五十嵐太郎「現代建築に関する16章 空間、時間そして世界」を読みました。現代建築の研究者として広く活躍中の著者が、16のテーマに沿って現代建築を読み解きます。

 スーパーフラット、モビルスーツといった現代のキーワードを豊富に盛り込み、現代のスター建築家の作品を次々に登場させ、過去から現代へと連続した時系列の中で論が進みます。昔読んだ本が登場したと思ったら、その次に最新の建築が登場して、昔習った建築史が現代まで拡張するようです。ちょっと現代建築通になった気分。個人的には「第十五章」、「第十六章」が特に興味深かったです。

 「第十五章 メディア-雑誌、写真、模型」
 書物、雑誌、新聞の登場が建築デザインを広く伝播した。メディアが時間を加速させる。製版精度が荒い頃は建築ディテールも荒く、製版精度が上がると建築ディテールも繊細になった。メディアが建築に影響を与える。写真の登場が建築家による透視図に頼る必要をなくし、建築家と編集者の力関係を逆転させた。モダニズム建築の時代の建築雑誌は白黒写真がメイン。細かい装飾やディテールよりも、はっきりした、抽象的な構成を強調するようなデザインが白黒写真に合っていたはず。
 20世紀後半に入って視覚中心主義に対する批判。手触り、写真でない感覚への傾倒。プレイステーションなどのゲーム機でも、目と指から体そのものを動かすゲームの登場。CGから模型による差異の検討へ。

 「第十六章 透明性と映像-モニタとしての建築」
 リテラル-文字通りの透明性、フェノメナル-現象としての透明性。後者は古典主義建築にも遡って見出すことが出来る。近代になってガラスを使うようになって登場した透明性の概念が、過去の建築にも適用できる。現代は半透明性に焦点。
 映像への応用。リテラルな映像性、QFRONT等。ブレードランナーの世界の現実化。フェノメナルな映像性、銀座ルイ・ヴィトン等。ダン・グレアムのアート。
 谷口吉生の建築に多くみられる映像的な仕掛け。法隆寺宝物館の水盤。同じ概念が平等院鳳凰堂の池にも見出せる。過去に遡る映像性の概念。MoMAは映画のワンシーンのようにマンハッタンをフレーミング。とても映像的。

 メディア、透明性、映像性といった現代建築のキーワードを、とてもスムーズに建築史に織り込んでいて感心しました。マイベストブック、ジークフリート・ギーディオン「空間・時間・建築」に登場したリテラルな透明性が拡張されて映像性へと至りMoMAへと着地する構成は、イメージ的にもダイナミックで美しい。

 東京都庭園美術館で開催中の「建築の記憶-写真と建築の近現代-」展は、この視点を踏まえて観ると奥行きが俄然増しそうです。行くのが楽しみです。

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2008年02月21日

●茂木健一郎「脳を活かす勉強法」

 出張で増えた細切れ時間を使って、本を読むことにしました。その一冊目。
 茂木健一郎「脳を活かす勉強法」。購入の動機は「脳」。最先端の科学な匂いと、未知の領域のミステリー感、そしてベストセラーという煽り。

 「困った子」がトップへと昇り詰める筆者の体験談からスタート。その秘訣は「自分の脳をいかに喜ばせるか」。以降、一貫して「学習の快楽」をキーワードに話が進みます。他者を意識せず、ひたすら快楽を追及する清々しいまでの没入感。「タイムプレッシャー」、「瞬間集中法」ととてもタフな行動を、短いフレーズでテンポ良く解説して行きます。天才を「強化回路」が暴走した普通の人と述べるくだりは独特。ただし、暴走のきっかけがいつ来るかは誰にも分からない。単なる勉強法でなく、幅広く応用できる(気にさせる)ところが良いと思います。

 特に印象に残ったフレーズ。「1分、2分という時間でも集中してやる」。それはけっこう有効。「人とのかかわりの中で「知」ははぐくまれる」。ごもっとも。「脳のゴールデンタイムを積極的に活用する」。朝型になろう。

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2006年12月13日

●BRUTUS Casa 「いま、ミュージアムから目が離せない」

 BRUTUS Casa がミュージアム特集だったので購入しました。圧巻はダニエル・リベスキンド最新作、デンバー美術館増築棟の見開き写真。空を切り裂くように鋭角に伸びる切っ先、花のように爆発のように波打つ複数のボリューム。建築である前に、美術館である前に、その存在は圧倒的に美しい。論理ある透明性、軽さ、シンプルな建築がデザイントレンドの主流にある中で、この建物の存在感は突き抜けています。脱構築主義の流れに位置するアンビルトの建築家の実作が、こんなにも力強く美しいことも衝撃的。実際に観てみたいです。

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2006年09月22日

●とりぱん若冲風

 今週号のモーニングの表紙を見て、「おっ」と思いました。
 以前から若冲っぽいなと思っていた「とりぱん」が表紙を飾っているのですが、その絵柄が本当に若冲風です。
 別に絵柄が似ているとか、仏画を描くというわけでなく、庭先に設けたえさ台にやってくる鳥たちの観察記をありていに描く視線とか、連載が決まる前に仕事を辞めてしまう生き方とかが若冲っぽいと思っていたので、駄洒落を真面目にやられて面食らうという感じです。でもうれしいです。
 先日の山口晃の表紙絵といい、モーニング編集部はツボをくすぐるのが上手いです。内容は結構波があるけど。。。

 とりぱん1巻と記念撮影。本日2巻が発売だそうです。
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2006年08月11日

●時をかける少女 2006

 昨日はコンペ案を提出に新宿に出かけました。無事提出を済ませると、既に夕方。徹夜明けと暑さで仕事は切り上げて、「時をかける少女」を観ることにしました。評判は上々なのになぜか都内ではテアトル新宿でしか上映していない(8/10現在)不思議な映画です。ちなみに公開当初は2館上映していた千葉県内では現在0です。

 この映画は予告編も魅力的ですが、本編はさらにその上を行っています。目に沁みるような青空の下、直球だけで駆け抜けるあっという間の98分。調子に乗って馬鹿笑いし、お節介に東奔西走し、後悔の念に顔をくしゃくしゃにして泣きつつクライマックスへ。奥華子さんの透明感ある歌声が本当にぴったりで美しい。映画を観たという満足感でいっぱいになります。上映館が少ないことがなんとももったいない。

 アート好きな人には、宮島達男を思わせるデジタルカウンターや、劇中東博展覧会といったところも楽しいです。どういった場面かは観てのお楽しみ。

 久しぶりにサントラとパンフレットを買いました。
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2006年07月02日

●もやしもん

 「もやしもん」が面白いです。菌を見る力のある大学生の主人公が、強烈な個性を持つ教授や院生や学部生たちに囲まれて展開する某農大を舞台にしたキャンパス漫画です。が、本当の主役はかわいく擬人化?された菌たち。ピンポン玉のような菌たちが「かもすぞ」とワラワラと画面を漂う絵を本屋さんで見た人も多いのでは。

 副題は農大物語、英名は「Tales of Agriculture」。作者の石川雅之さんの緻密な話作りと細かく描き込まれた絵柄と相まって、何度も読み返してしまいます。コメディ調の展開を追ううちに、人間と菌の切っても切れない関係、切れないなら仲良く付き合おう、堪らなく美味しそうな日本酒というふうに興味が広がります。菌が跋扈する世界を描くことでこんなに面白い世界が開けることをイメージできた作者の構想力と、それを伝えようとする努力が凄いなあと思います。

 建築好きとしては、校舎を改装して発酵蔵を作るくだりが好きです。湿気への配慮からコンクリートと木の壁材としての適不適を盛り込んだり、密閉度の高い住宅の欠点に触れたり。巨大ステンレス流しに水勾配を付け忘れる部分は、さすがにそれはないだろうと思いましたが。せっかくの一枚モノのステンレス鏡面仕上を、わけあってスチールたわし磨き仕上に変更するエピソードは笑えます。

 もやしもんの欄外には、菌一つ一つのプロフィールが掲載されています。単体だと読み飛ばすだけですが、本編中の彼らの活躍?と合わせて読むと面白さが倍増します。モノの性質や仕組から話を組み立てることは、結果重視の今日では軽視されがちな部分ですが、切り方と見せ方でいくらでも上手く伝えられるという好例だと思います。農業が一区切りついたら、建築の世界も切ってもらいたいものです。

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2006年03月19日

●新訳 Zガンダム

 先日、「新訳 Zガンダム完結編」を観ました。ベースになっているTVシリーズが放送されたのは1985-86年。前作の映画版以来のガンダムファンなので、当時はワクワクしながらテレビを見ました。が、鬱屈したままの主人公と、今一つパッとしない赤い彗星。そして全編を流れる重苦しい雰囲気と悲劇的な結末に期待は満たされることなく終わり、その後見返すこともありませんでした。

 「劇場版 Zガンダム」が発表されたときに「健やかになった主人公」というフレーズがあって、とても興味を惹かれました。TVの再編集をなんでそんなに観たいと思うのか不思議でしたが、心にずっとひっかかっていたのでしょう。映画は、敵味方がめまぐるしく入れ替わり、会談をしてはモビルスーツに乗って戦闘を繰り返して話が進み、TVとは異なる結末で幕を閉じます。早回しのような構成はファン限定という気がしますが、想像以上に満足のいく内容で驚きました。「新訳」はきっちりと面白いです。新作映像の魅力もあるとはいえ、根底は富野監督の構成力なのでしょう。すごいものです。ガンダム人気の息の長さも。

 ラストシーンに挿入された台詞から、「逆襲のシャア」との間にまだ語られていないエピソードがあることが仄めかされます。「めぐりあい宇宙」に挿入された角付ヘルメットのシルエットと同じ手ですが、映画がヒットして新作が製作されることを期待してしまいます。

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2006年02月16日

●日本美術の歴史 (購入編)

 こちらのレビューを読んで、とても面白そうなので買ってきました。「日本美術の歴史」(辻惟雄著、東京大学出版会)。図版たっぷりの軽めの本と思っていたら、実際にはけっこう厚みのある通史本だったのでちょっと怯みました。こういうときに背中を押してくれるのが口コミの力ですね。現場通いのお供に少しづつ読みます。読了編は桜の散る頃の予定。

 レジに積んであったバーク・コレクション展の栞ももらってきました。あっという間に会期も後半。終了間際は混むので、そろそろ行きたいところです。
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