2005年06月08日
●まちのつくりかた 竣工
「まちのつくりかた」の五回目です(一回目、二回目、三回目、四回目)。
いよいよ建物の完成です。施工者の検査、設計者の検査、建築主の検査を経て、建物は建築主さんに引き渡されます。設計、監理は終わりですが、ここからがまちの始まりです。マスタープランで意図したとおりにまちは発展してゆくのか、建物はまちの一部としての役割を果たすのか、建物の居住性能は充分に発揮されるのか。実際に使われてゆく中で確認し、必要であれば手を入れていきます。長く親しまれる場所になって欲しいです。
下の写真は福島県営鳥見山団地(現在は東桜ヶ丘団地に改名)の竣工写真です。工事が二期に渡っていたので、二期工事監理の傍ら、四季折々の風景を見ることが出来ました。2001年6月から2002年3月にかけて撮りました。
南西側エントランスホール外観です。駅から歩いてきたときのランドマーク的な役割を意図しています。模型写真と見比べてみて下さい。
西側外観です。公園に面したサブエントランスな役割を意図しています。模型写真と見比べてみて下さい。
通り抜けの道です。横に長い計画なので、近隣のつながりを分断しないように、複数の通り抜けの道を計画しました。
エントランスホール内観です。夏涼しく、冬暖かい居心地の良い場所になりました。中央の人が、私が勤めていた事務所の所長の元倉さんです。カメラマンの方と私が撮影のために右往左往している傍らで、のんびりとスケッチしておられました。最近、「集まって住む」という絵本を出版されました。
2005年05月30日
●まちのつくりかた 現場監理
「まちのつくりかた」の四回目です(一回目、二回目、三回目)。
実施設計図書がまとまったら、施工者に見積りを依頼します。施工者ごとに得意分野があったり単価が異なったりするので、通常3社くらいに依頼して、比較検討を行います。必要であれば予算と内容との調整を行います。依頼先が決まったら工事着工です。ここから先は現場監理という作業になります。設計どおりに工事が進められているかをチェックし、想定外のことが起こった場合にどう対処するかを指示します。実際に作るのは施工者なのですが、監理がしっかりしていないと似て異なるものになることがよくあります。
下の写真は福島県営鳥見山団地(現在は東桜ヶ丘団地に改名)の現場監理の際に撮った写真です。工事が二期に渡っているので、2000年春から2002年春にかけて喜多方まで通いました。
この計画の最大の特徴は、建物の構造と内装を完全に分離していることです(スケルトン・インフィルといいます)。将来の改装が容易なので、建物を長期に渡って使用できます。写真は構造部のみの状態の居住ゾーンです。長く連続したトンネル状の空間を、ALC版で住戸単位に仕切っていきます。
居住ゾーンに隣接して設備ゾーンがあります。構造床面を低くすることで床下配管スペースを確保して、間取りの自由度を高めています。
住戸内装はプレハブ化して工場製作しています。現場にて建て込み中。
この年は久々の大雪に見舞われました。年明けの現場からの第一声は、「大雪のために地面が1mほど上がってしまい現在必死で雪かき中です」でした。
2005年05月27日
●まちのつくりかた 実施設計
「まちのつくりかた」の三回目です(一回目、二回目)。
基本設計の骨子が固まったら、その内容を基本設計図書にまとめた上で、実施設計へと進みます。ここ段階では、実際の建物をどう作るかという点を詳細に検討し、図面化します。また構造、設備、内外装材、金物等の指定もおこなって、施工者が見積りを作成するのに必要な資料を揃えます。ここから先は通常の建築設計とだいたい同じですが、時々マスタープランや基本設計図書に立ち返って、当初の位置付けや考え方に沿っているか確認します。
下の写真は福島県営鳥見山団地(現在は東桜ヶ丘団地に改名)の基本及び実施設計の際に作成したスタディモデルです。この計画では、私は基本設計から現場監理までを担当しています。写真の日付は1999年3月頃です。
基本設計段階でのスタディモデルの変遷です。東西に長い敷地なので南面採光を最大限確保するところから始めて、西側の公園側も活用したL型配置への移行、折れ曲り点を建物の顔としてのデザインの検討、西向き住戸へも南面採光を確保等。居住性能と周辺とのつながり方の観点から、様々な検討を行います。
実施設計段階でのスタディモデルです。南西角のエントランスホールが、駅から歩いてきたときのランドマーク的な役割を果たすので、その見え方、ボリューム、構造等を検討しています。
スタディモデルを西側から見たところ。公園に面した西側がサブエントランス的な役割を果たすので、階段、エントランスホール、シンボルツリー等で広場的な場所づくりを検討しています。
2005年05月03日
●まちのつくりかた 基本設計
「まちのつくりかた」の続きです。前回はこちら。
マスタープランが決まったら、それを踏まえつつ基本設計に移ります。マスタープランが骨格作りだとすれば、今回の作業はその肉付けです。建物だけでなく、建物で形成される外部空間=広場にも同じくらい注意を払って計画する必要があります。まちの内装を考えるわけです。
下の写真は倉敷市営中庄団地第二期の基本設計の際に作成したスタディモデルの変遷です。この段階では私ともう一人の担当者が提案を練り、アルバイトの人に模型を作ってもらっています。時期は2000年1月から3月頃です。
はじめは以前に作製したスタディモデルを使って検討しました。左上に見えるのは提案部分の差替パーツです。全体とのつながりを踏まえつつ、比較検討しながら進めていきます。
課題が絞れた段階で、模型をスケールアップしました。対象工区の実際の空間の検討に移ります。住棟を中層化して中庭を空中歩廊で囲むか、可能な限り低層化して直線的なオープンスペースを形成するか、検討が続きます。
塔状の建物を散在配置して空中歩廊でつなぐ案が採用となり、植栽も含めて計画しました。歩廊上にエレベーターと階段を設けることで、他の住棟の人とのコミュニケーションを誘発することを意図しています。
2005年04月28日
●まちのつくりかた マスタープラン
まちはどういったプロセスを経て作られるのでしょうか?設計の側面から見た「まちづくり」を紹介します。
ある程度規模の大きい計画になると、いきなり建物の設計に入るわけではありません。各自がバラバラに設計をしてしまうと、全体としての統一感や機能的なバランスを欠いたものになってしまうからです。そこで、どういったまちにしたいかというコンセプト、敷地全体に渡っての人・車・広場のネットワーク、建物のボリューム・配置・用途等のルールを先に決めます。これを「マスタープラン」といいます。大切なのは、まちがコンセプトに沿って発展していくようにコントロールすることです。細かすぎると建物を設計するさいの足枷になってしまいますし、大まかすぎると意図からかけはなれた建物が並んでしまいます。
下の写真は倉敷市営中庄団地のマスタープランを検討した際に、私が作成したスタディモデルの一つです。時期は1997年3月頃です。この計画は400戸を越える集合住宅の建て替えで、四工区に分かれています。各工区ごとに設計事務所が決まっており、マスタープランの検討も四事務所共同で行いました。私はそのうちの一事務所の担当者として参加しました。
模型全景です。左下が倉敷県営中庄団地(左から一期、二期、三期。既に完成済)、右上が検討対象である倉敷市営中庄団地です。県営側が、住棟を上手く使って連続的なオープンスペースを作っている様子が分かるでしょうか。両計画の間の空白は県営の四期用の敷地で、この段階では内容は未定でしたが、市営側までオープンスペースが伸びてくると想定していました。市営側の敷地を貫く緑の帯が、県営側に負けないオープンスペースを作ろうという意図の現れです。
対象地域は市営側だけなのでこんなに広範囲な模型は必要ないのですが、オープンスペースの連続性が大切なテーマだと思ったので、この範囲で作っています。写真中に頭を茶色に塗った円筒が見えますが、これは集会所です。工区間を「つなぐ」という意図があるので、工区の境界部に配置しています。各事務所がスタディを持ち寄り、それを叩き台にしてマスタープランの検討を進めました。