2018年08月15日
●読書メモ 「いちばんやさしい美術鑑賞」青い日記帳 筑摩書房
いつもお世話になっているアートブロガー「青い日記帳」のTakさんが執筆された『いちばんやさしい美術鑑賞 筑摩書房』(⇒筑摩書房特設ページ)が出版されました。
本の内容については、すでにいくつものブログで丁寧な紹介がされています。
〇青い日記帳
・『いちばんやさしい美術鑑賞』ってどんな本?!
〇今日の献立ev.
・全アートファン必見!『いちばんやさしい美術鑑賞』ってどんな本?(ついに来週発売!)
〇あいあむらいぶ
・ブログ「青い日記帳」Takさんにいろいろインタビューしてみた!~新書『いちばんやさしい美術鑑賞』出版によせて~(前編)
・ブログ「青い日記帳」Takさんにいろいろインタビューしてみた!~新書『いちばんやさしい美術鑑賞』出版によせて~(後編)
■本書の特徴
本書の特徴は、「素人による素人のための美術鑑賞入門」。
入門書というと、その分野の専門家が、読者の興味を惹きそうなトピックを並べ、分かり易くかみ砕いて (もしくは図示して) 執筆するスタイルが最近の流行。間口広く、読者層を開拓しようという意図があると思います。個人的には「日本美術の歴史 辻惟雄 東京大学出版会」、「日本建築集中講義 藤森照信×山口晃 淡交社」等が特に面白いと感じています。ちょっと工学面に寄ると、「今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい 地震と建物の本 斎藤大樹 日刊工業新聞社」等もこの流れかと思います。
他方、Takさんは美術を専攻 or 研究している方ではありません。美術が好きで、15年に渡りアート情報を発信し続けてきたアートブロガーです。その情報発信力を買われて、これまで様々なトークイベント・内覧会・美術本等の告知協力を行い、集客実績を上げてこられました。また、トークイベントの司会者等としても活躍されています。これらの活動が出版社の目に留まり、今回の執筆へつながったそうです。とても特殊ではありますが、「素人が書く入門書」です。
正直なところ、入門書自体は増えているのに、なんで更に一回り素人側に寄った入門書が必要なのかピンとこないところがあるのですが、「売れてます」。見方を変えると、人気ブログの出版化の波が、ついに美術本界隈にも到達したとも言えるのでしょうか。というわけで、読んでみました。
■読書メモ
構成は西洋美術 7章、日本美術 8章の全15章からなり、それぞれ時系列順にエピソードを並べて、美術史を緩やかに包括しています。
各エピソードの中心に据える美術作品は全て「国内で観られる作品」から選ばれており、各章題には「聞いたこともない画家の作品を鑑賞する時は」という風に、その章で取り上げる鑑賞ポイントを明示する等、読者への気配りが行き届いた造りになっています。
さらに、テキスト中に最近の流行言葉等を積極的に織り込み、読者をドンドン巻き込んでいく語り口には、これまでの blog で培った美術鑑賞ノウハウ、蘊蓄、体験談等が凝縮されています。
各章の内容は様々なバリエーションに富み、なるほどと感じる箇所がいくつもあります。「過去の作品」は一定の評価を踏まえた既研究の内容の蘊蓄(=展覧会や雑誌等で以前観た内容との重複)に拠りがちになる一方で、「現代美術」は今まさに価値を創造する過程の只中にあり、並走感に溢れています。個人的には、「第15章 同時代のアーティストを応援しよう」が特に面白かったです。
本書の位置づけは、「美術になんとなく敷居を感じる人たちの背中を少し押す本」だと思います。これまでの入門書ではカバーできなかった層に届く、リーチの長さがポイント。「好き」が高じて、「価値を創造」したことが何より素晴らしいと思います。本書は概論的な内容なので、今後さらに細分化した様々な展開が待っていることでしょう。
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