2018年04月30日
●聴講メモ:シンポジウム「今、日本の建築を考える」(前半)
森美術館で開催中の「建築の日本展」。その関連プログラム、シンポジウム「今、日本の建築を考える」の聴講メモです。開講10分前に会場到着、ほぼ満席。満席の旨、アナウンスあり。
■モデレーター:南條史生(森美術館館長)
森美術館では、3~4年に1回建築展を開催してきた。アーキラボ、ル・コルビュジェ、メタボリズム展。少し間が空いて本展。
日本の現代文化で一番勢いのある建築を通して、日本の文化のアイデンティティを見直す。
「建築で知られる日本」の意味を込めて、「建築の日本展」としている。
「日本の建築の含まれている遺伝子が、現代に受け継がれているのではないか」という仮定に基づく、ブロックバスター型の展覧会。
■講演:藤森照信(建築家、建築史家、東京大学名誉教授)
日本建築の流れ、影響をもたらしたものは分かり難い。ヨーロッパはルネサンス、バロック、モダニズムというふうに、時代と共に様式も変わるので分かりやすい。
縄文時代の竪穴式は、茅葺民家として、そのまま現代の伝統的建築につながる。
弥生時代の高床式から、平安時代に寝殿造が生まれ、さらに室町時代に書院造が生まれる。さらに安土桃山時代に茶室、江戸時代に数寄屋造が派生する。この流れはヨーロッパっぽい。
その一方で、高床式から、古墳時代に神社建築が派生する。また、飛鳥時代に渡来した寺院建築から、(教会の影響を受けて?)、安土桃山時代に城郭建築が派生する。神社と寺院はお互いに影響を及ぼし合い、現代の伝統的建築につながる。
用途別に様式が持続しており、どう伝統を引き継いできたかが分かり難い。
箱木千年家。庇がおでこに当たる。竪穴が持ち上がったもの。土壁はヨーロッパの民家と同じ。
芝棟。屋根の上に草花。雪国の日本海側にはない。防寒のために土を載せのが、上だけに残った。
縄文の影響を受けた建築家が白井晟一。
自作紹介。ラ コリーナ近江八幡。芝棟の屋根。モザイクタイルミュージアム。土壁に奥まった小さな入口。自分で言うのも何だけれども、明らかに縄文の影響が感じられる。
京都御所。高床式から寝殿造に。配置は南向きかつ横長、個として左右対称、全体として非対称。身舎(もや)を中心に、その外側に庇があり、さらに外側に軒がある。柱で囲われている部分が庇で、柱から外に張り出す部分が軒。間仕切りがなく、内部は必要の応じて几帳を立て区切り、内と外は蔀戸(しとみど)を下ろして仕切る。家の中でキャンプをしているような状態。蔀戸を全て上げると吹きさらし。天井を張ることで、内外の連続した開放的な空間に。
丹下健三は日本建築を本気で学んだ。大東亜コンペ案は伊勢神宮、日タイコンペ案はサンピエトロ。時代の流れを泳ぎながら学んだ。
清家清 斎藤助教授の家。天井を張ることで内外が連続する、寝殿造の伝統。
フランク・ロイド・ライト。シカゴ万博鳳凰殿を観て、部屋の中からそのまま外に出られる、日本建築の空間連続性、流動性を知る。
伊藤豊雄 仙台メディアテーク。水平層を昇っていくときに感じる、絶対的な水平感。
日本建築はなぜ軒をあんなに伸ばせるのか。桔木(はねぎ)を入れて、テコの原理で張り出している。日本建築で屋根が一番重要な表現。
書院造と非対称性。ヨーロッパは軸、中国は南北軸+南入り。寝殿造は南に庭を設け、人は東もしくは西から入る。建築は南北軸、人の動きは東西軸なので、全体配置においては非対称性を生じる。書院造における書院は、付書院、床の間、違棚で構成。
■講演:妹島和世(建築家、SANAA事務所代表取締役)
この展覧会は面白い。9つのテーマから自作を振り返ると。
PLATFORM Ⅱ。どうやって場所を組み立てるか。少しずつ場所と外がつながっていく。
直島フェリーターミナル。いかに大きな屋根を架けるか。
北方団地。縁側(庇)。
S House。軒のない庇。
金沢21世紀美術館。ギャラリー廻りをフワフワ歩く。どうしてもガラスはあるけれども、日比野克彦さんの明後日朝顔プロジェクト21開催時に中から見ると、まるでないみたいに見える。
スタッドシアター・アルメラ。コンペ案パースと洛中洛外図の相似性。全く意識していなかった。
トレド美術館ガラス館。ガラスの間仕切り。
梅林の住宅。立体的につながる。5人で住むので小さい部屋をたくさん作る。薄い壁で開口部がスクリーンのよう。
EPFLラーニングセンター。コンペ審査員から日本的とのコメント。
ルーブルランス。雁行配置。
屋根。PLATFORM Ⅰ、ⅡからGrace Farms。NISHINOYAMA HOUSEは10軒の集合。
荘銀タクト鶴岡ではスケールを落としていく。
ニューサウスウェールズミュージアムエクステンションとブダペスト・リゲット新国立美術館。展示室に屋根、公園から入っていく。
無意識に影響を受けているのかな。
■講演:原研哉(デザイナー)
House VISION 2013、2016世話人。
HOUSE VISION 2018 を今年9月に北京で開催。
■講演:斎藤精一(ライゾマティクス クリエイティブ&テクニカル・ディレクター)
建築に対して思っていること。
Power of Scale。人のスケール。人をセンターに置く、街の在り方、空間の在り方を忘れていないか。人が人のスケールを忘れすぎていないか。
東京理科大学工学部からコロンビア大学に進んで、911で落胆。次に誰が建てるか?終わってる。広告代理店に転職して、アーティスト活動を経て、ライゾマティクスを設立。
当時のコロンビア大学建築学部長バーナード・チュミのラ・ヴィレット公園、アーキグラム、スーパースタジオ、バックミンスター・フラー、ニール・ディナーリ等、思想的な建築、実作少ない、CGのが好き。911で辞めて、2006年からライゾマティクスでメディアアートから派生した表現・作品を制作。
2013年からライゾマティクスアーキテクチャー。建築思考は何にでも使える。理論的に構築して最終的に出口。
Not Architecture, But Architecture展。建築で学んだことをロジカルに展開。
今、建築を考える。建築の威厳、人を操作できるものを哲学を以って作る。神の視点を持つだけの責任感が自分にはない。
虎ノ門、渋谷等で大規模再開発の低層部ファサード等携わる機会が増える。
建築の在り方自体を忘れている人が多い。
建築を中心に、場所、文化、人、商業主義のバランスをとることが求められている?
行政・デベロッパー等は空からヘリに乗って開発パースを見ている。地上からのデザインは誰が見る?建築家・デザイナーは最後に決まる。ライゾマティクスアーキテクチャーが、建築家・デザイナーに最初から入ってもらう等の翻訳・通訳を行う。
建築だけでなく、車、ネットワーク、エネルギー等他産業と合わせて考える必要。
建築にIoTを取り入れられないか?
第3次(4次?)産業革命に建築は入っているか?
■感想
藤森さんは日本建築系統樹(A4×1)を配布して、日本建築進化の流れを概説。前半は去年読んだ「日本建築集中講義」と内容は同じなので分かりやすい。頭の柔らかい藤森史観を織り込んだ建築展覧会が開催されるとは嬉しいかぎり。ただ、「建築家」になると一気に語りが堅く感じられる。山口晃画伯のツッコミと挿絵のある本で読む方が親しみが湧く。後半は伝統建築と近代・現代建築家との比較を少し交えて終了。ご本人の作品も展示する羽目になるくだりが、ライブ感があって良かった。
妹島さんはとても手際よく、本展のポイントを絡めて自作を紹介。特に目新しい点はないけれども、本展を面白がっている感じが伝わってきて良かった。
原さんは「なぜデザイナーの方が建築展に?」という当方の疑問が先に立ってしまい、あまり話に入っていけなかった(なのでメモも全然とっていない)。
斎藤さんは「人の在り方」と「建築という思考方法」の二つの視点からの話。技術の最先端に立って活動してるいる人が、とてもオーソドックスな視点から話すことで、とても説得力があった。
藤森さん40分、妹島さん・原さん・斎藤さん各20分の計100分の講演は、あっという間に終了。4者4様でとても面白かったです。いつも思うけれども、森美術館の講演会は人選が上手い。
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