2017年12月10日
●読書メモ 「日本建築集中講義」藤森照信×山口晃 淡交社
近代建築史家かつ現代建築家と、現代日本画家の共著による、日本建築案内。高い専門知識+能力と、非常にユニークな視点が魅力。実見はほどほどに、スタスタと通り過ぎて、見学後に画伯が先生に感想を伺いつつスケッチにまとめる。このやり取りがとても面白い。
第一回 法隆寺。揺るぎない美しさと回廊効果。エンタシスの嘘。何度も観たけれども、なるほどと思うことしきり。
第二回 日吉大社。湿気の多さゆえ、安土桃山の美もしっとり。穴太の石組み。今度行ってみよう。
第三回 旧岩崎家住宅。ゼネコン・コンドル組もうかる。ニスは失敗。洋館は造形がうるさい。色々やりたかったコンドル先生。趣味のベランダ。九間の広間。以前に行ったときは「さすが三井財閥のお屋敷」と思うだけだったけれども、再訪してみたくなった。
第四回 投入堂。額みたいな岩、下から生えたような柱、ちょっと凹んで、軒がピュッとなる。平安の美。建物自体完全に木だか石だかわかんない。一度行かねば。
第五回 聴竹居。モダン建築に和風を取り込んだ最初の建築。だけど辟易。窓枠の面取り。立体幾何学の下地に、複雑かつ几帳面なミニマリズム。観たい。
第六回 待庵。400年もつバラック。戦場で「囲い」という茶室を造る伝統。開口部を閉めると空間が広がる。がんばって予約して、大山崎行かないと!
第七回 修学院離宮。平安王朝文化の復活、浄土式庭園。斜め対座軸の書院。なるほど。そうだ、修学院行こう。
第八回 旧閑谷学校。磨き上げ、漆を塗った「床」効果。土木的力強さの配置、丸まった塀。寝殿造平面の講堂。国籍不明の花頭窓の向こうに白い障子。そうだ、旧閑谷学校行こう。
第九回 箱木千年家。日本民家の原型、室町時代頃の建築。日本建築史は宗教建築と住宅建築の二本立て。民家=無意識の領域で造られた建築。竪穴式住居の習慣。低い軒、柱のない土壁。集めるのが大変だけど茅葺、茅しかなかったから。そういうもんだ。復元とは?民家が残ってるとは知りませんでした。行かねば。
第十回 角屋。仕上げと凝りように莫大な手間とお金。土壁に螺鈿!揚屋。青貝の間にてっぺんハジケた花頭窓。外観の町家造り、屋内の武家風造り、インテリアが全然関係ない。建築のインテリアの究極は布化する。書院造→数寄屋。ロマネスク→ゴシック→晩期ゴシック。装飾性を突き詰めると、薄く細く布化。華奢で繊細で、貴婦人のレースの下着。日本の料亭は角屋サバイバル。網代天井、仕切襖。究極の装飾、行かねば!
第十一回 松本城。関ケ原の合戦以前に造られた、実用に徹した城。5層6階建て。城は日本建築史に突然現れる。先駆けは安土城。構想の基は西欧の教会という説も。城が実用に供されることは極めて少ない。城攻めは兵糧攻めか水攻め。使うときは最期。大砲が発達して、出城は無用の長物に。近代都市は戦争の対象外に。それ以前の都市は、日本なら城下町、ヨーロッパなら城壁で守ろうとした。機会があれば観てみよう。
第十二回 三渓園。数寄屋の宝庫という点では「東の桂離宮」。数寄屋は外を眺めるための建物。庭とセット。臨春閣は王朝風数寄屋。聴秋閣は「書院のオモチャ」みたいな数寄屋化した書院。ちっちゃくてカワイイ。襖絵は全て精巧な複製。春に観たけれども、また観たくなる。お二人の名調子に、読んでる方まで楽しくなる。
補講 西本願寺。現存日本最古の能舞台、豪華さの美学二つの書院、薄くて軽い飛雲閣。日本建築のエッセンスが詰まった場所。寝殿造は屋内でキャンプ。書院造は住むために障子・襖をはめて、天井を張って、畳を敷く。さらに床の間 (床と付書院と違棚の三点セット)。その書院造がもっとも豪快に花開いたのが安土桃山時代。聚楽第でピークに達して、二条城や西本願寺につながる。白書院は照明が全て雪洞。その高さのおかけで、金箔が活きている。上から照らすと暗く沈むが、横から照らすと光が反射して金箔部分が明るくなって、絵にすぅーっと奥行きが出る。障壁画と建築が共存。柱とか長押とか建築の基本を明らかにしたうえで、邪魔しないように絶妙に描く。能舞台の奥の松の消えっぷり。聖なる性格を感じさせる曲がった欄干。10年前に縁あって観たけれでも、やはりまた観たい!
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