2015年02月28日
●2月の鑑賞記録
2/4
ハピプラアート「江戸コードを読み解いて、東京のツボを知る」
北斎、広重の浮世絵を題材に、当時と現代の地図をナビにして、まるで観てきたかのように浮世絵語り。驚くほど保存状態の良いボストン美術館スポルディングコレクションのデジタルデータの面目躍如。とても新鮮な、江戸-東京散歩。
2/8
熱海ツアーその1 「旧日向家熱海別邸地下室」と「水/ガラス」
熱海ツアーその2 MOA美術館
◎熱海ツアーその3 特別展「燕子花と紅白梅 光琳アート 光琳と現代美術」@MOA美術館
もともとはMOA美術館で開催中の「光琳アート」を観に行こうというところから始まって、せっかく行くならブルーノ・タウト設計の「旧日向家熱海別邸地下室」も観たい、さらに隣接する隈研吾設計の「水/ガラス(海峯楼)」も予約すれば観られるらしいと話が広がって、総勢12人の濃密な日帰り熱海ツアーと相成りました。熱海を満喫!
2/22
ヒカリ展@国立科学博物館
最終日滑り込み。けっこうな人の入り。
ヒカリは波だという話から、可視光は波長の長い赤から短い紫まであって、その両延長上に赤外線、紫外線。さらに電磁波、X線などなど様々な種類があるという導入はとても分かりやすい。
太陽フレアが地球に降り注ぐ様や、そこからオーロラが生まれるという話もビジュアルイメージ豊かで興味惹かれる。特に人工オーロラマシーンは美しかった。
「光る花」は、蛍光タンパク質を持つプランクトンと、移植先の切り刻んだ花葉を混ぜるプロセスが意外と原始的で興味深かった。
「光る繭」の、卵に鉄針で穴を開けて、光る素を注射するプロセスも同じ。
最後の光格子時計の展示で、「重力が時間を歪める」という話と実証実験はSFのようで壮大な話だった。
ただ、ビデオに頼りすぎなのと、JAXA関連展示が多すぎて、本展のテーマがボケてしまうのが玉に瑕。
2/24
◎青い日記帳×ワシントン・ナショナル・ギャラリー展ブロガー特別内覧会@三菱一号館美術館
珠玉の「小さなフランス絵画」と19世紀末の歴史的建築物を復元した「小さな美術館」が作り出す、心地良い鑑賞体験が何より素晴らしい。作品はどれも粒ぞろい。必見の展示。
2/28
「バンクス花譜集」展@Bunkamura ザ・ミュージアム
キャプテンクックの5年に及ぶ世界一周旅行と、それに同行したジョセフ・バンクスが収集・制作指揮をした豪華植物図譜の紹介。その刊行は、旅行後200年を経た1980年代にようやく実現。美麗な図版の裏に展開する、壮大な物語に、しばし大航海時代の世界観に浸る。
2015年02月24日
●青い日記帳×ワシントン・ナショナル・ギャラリー展ブロガー特別内覧会@三菱一号館美術館
三菱一号館美術館で開催中の「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展」。そのブロガー向けイベント青い日記帳×ワシントン・ナショナル・ギャラリー展ブロガー特別内覧会に参加しました。
注:展示室の画像は主催者の許可を得て撮影したものです。
□高橋明也館長挨拶
今度の4月で開館5周年。本展で17本目の展覧会。充実感があった。ヘビーな展覧会も十数本開催。続けるのは大変。
ワシントン・ナショナル・ギャラリー展は国際巡回展。日本では3回目の開催。巡回展は内容よりも開催することを優先されがちだけれども、本展は前々回、前回とは違う。
作品サイズが小さく、統一されている。そのサイズが本館の大きさとあっている。
印象派の特徴は親しみやすさ。今では当たり前だけれども、当時の絵画は権威、宗教のために描いていた。
□ギャラリーツアー
杉山菜穂子(本展担当学芸員)
モデレーター:Tak(「青い日記帳」主宰)
2章 友人とモデル
左 エドガー・ドガ「競馬」、右 エドゥアール・マネ「競馬のレース」。
ドガとマネの見比べ。競馬は当時の流行の最先端。ドガはノルマンディの競馬場。遠景の教会はルーアン大聖堂。レース前のパドックののんびりした人々。マネはロンシャンの競馬場。シカゴにある大作のバリエーション。現場で描いたわけではないが、レース中の砂埃、臨場感。パリの上流階級が着飾った社交場。
マネの絵は、実は図録の図版の方が大きい。土煙や着飾った貴婦人もくっきり。
右 ピエール=オーギュスト・ルノワール「花摘み」、左 「ブドウの収穫」。
右は、ルノワールが庭を気に入って買ったといわれている家。田舎っぽい、ワイルドな感じが気に入ったといわれている。同じ庭でも、右と左で随分と描き方が違う。細かい筆致で、ふるえる光の表現。女の子をナンパ中のような微笑ましい風景。
フィンセント・ヴァン・ゴッホ「オランダの花壇」。
振り返る、ゴッホ。パリに出る前の精神的に穏やかな時期。明るい穏やかな色遣い。いつも曇っているのがオランダらしい。
左 オディロン・ルドン「ブルターニュの村」、 右 「ブルターニュの海沿いの村」。
右へ移動。本展はモネ、ピサロ、シスレーの風景画で始まり、屋外で描く先駆けであるブータンの作品が8点並びます。それに続くのが、印象派第二世代ともいえるルドン、スーラ。ルドンは黒の版画と並行して美しい風景画を描いており、色数少なく、完成されています。スーラの絵はアメリカマーケット向けに装飾的な枠に変えられている。元々はシンプルな枠だったので、画家は絵にそぐわないこの枠を嫌っていた。粗目のドットが抽象画のよう。
右 ピエール=オーギュスト・ルノワール「猫を抱く女性」、中 「少女の頭部」、左 「アンリオ夫人」。
再び後ろを振り返って、ルノワールのきれいな女の子のコーナー。
本展のメインビジュアルでもある「猫を抱く女性」は画家お気に入りのモデル。服装によって印象が全然違う。猫の手のフワフワとした触感が感じられる。本展には動物コーナーがあり、マネの描いた犬(タマ)も出展されている。
「アンリオ夫人」。モデルは当時の人気女優。画家からモデルに贈られ、彼女の手元に最後まで残されていた。彼女を描いた絵が、クラークコレクション展にも出展されていた。背景表現が前出の風景画と比べて抽象的。画家がモネと交流していた時期に描かれた。
最後のナビ派の部屋「ボナールとヴュイヤール」がおススメ。
食べ物を集めた部屋もある。http://www.mizdesign.com/mt/mt.cgi#
本展は、所蔵元のワシントン・ナショナル・ギャラリーが改修の間に、世界巡回する展示の1つ。テキサス、日本、シアトル、ワシントンと巡回する。ギャラリーのスタッフが本館を下見して気に入ってくれた。
絵の小ささを意識して、キャプションも小さい。作品リストも小さくなるよう工夫。
日本展だけ特別に、コレクターに焦点をあてた作品解説を追加。
□特別鑑賞会
1時間ほどの自由鑑賞会へ。
ギャラリーツアーで2章を堪能しましたが、他の章も見所満載。
三菱一号館美術館のコレクション
オディロン・ルドン「グラン・ブーケ」。
3章と4章の間に、三菱一号館美術館の所蔵品(寄託品含む)の展示。先ほどの色数抑えた風景画とは対照的に、華やかな色彩の巨大な花束。暗闇に浮かぶ様が美しい。
4章 静物画
ポール・セザンヌ「牛乳入れと果物のある静物」。
個人的に一番印象に残ったのは、セザンヌの作品。額縁という窓を通して、絵の中に広がる世界に惹き込まれるような錯覚を感じました。小品でも物凄い吸引力。
5章 ボナールとヴュイヤール
右 ピエール・ボナール「庭のテーブルセット」、左 「画家の庭の階段」。
緑のスクリーン越しに陽光を感じつつ、木陰のテーブルセットが気持ちよさそう。
□感想
珠玉の印象派コレクション持つコレクターの邸宅にお邪魔しているような、作品と展示空間のスケール感が何より素晴らしいです。ただの白い箱ではない三菱一号館美術館だからこそできる、絵画との親密な距離感。どこを見ても見所ばかりの充実した作品ラインナップ。絵画を観る幸せにひたれるひと時でした。
2015年02月10日
●熱海ツアーその3 特別展「燕子花と紅白梅 光琳アート 光琳と現代美術」@MOA美術館
尾形光琳没後300年を記念して、「燕子花図屏風」と「紅白梅図屏風」が並び立つ!会期はそれぞれの所蔵元で、1か月づつ。メインテーマは同じですが、展示構成は全く異なります。1ヶ月なんてあっという間。会期最初の週末に、いざMOA美術館へ。
注:展示室の画像は主催者の許可を得て撮影したものです。
□光琳の名品
会場に入ると、「燕子花図屏風」と「紅白梅図屏風」が向かい合います。両作品が一堂に会するのは56年ぶりとのことで、まさに歴史的邂逅。
須田悦弘「梅」。「紅白梅図屏風」の足元に、絵からこぼれたように梅の花。実は現代アート作家、須田悦弘さんの木彫作品です。普通に見過ごしそうで油断できません。
□光琳100年忌
時代が100年下ります。酒井抱一が光琳100年忌に際して編纂した「光琳百図」所載の作品中心に構成。私淑でつながる琳派ならではの時系列。
□光琳200年忌
時代がさらに100年下ります。光琳200年忌は三越呉服店が中心となって開催。「光琳画聖二百年忌記念 光琳図録」に掲載された作品が並びます。時代を超えて愛され続ける尾形光琳と、その仕掛側の変化も興味深いです。
□光琳を現代に生かす
時代はさらに下って、近代へ。日本美術院を中心に、光琳芸術の影響がうかがわれる近代現代作家の絵画工芸を紹介。個人的には神坂雪花、福田平八郎の一角に釘付けです。
神坂雪花「杜若図屏風」。琳派の意匠を継承しつつ、装飾性を高める。
福田平八郎「花菖蒲」、「漣」。「燕子花」の面的構成を、斜め上方から捉える構図、波の煌きのみを描くフレーミング。大胆な取り組みと、画面から感じられる静けさに惹き込まれます。
□現代アート
そして300年忌は現代アートとの邂逅。日本美術を基盤に、世界的に活躍する現代アーティストの作品が並びます。時代を超えて、現代にもこれほどの影響を及ぼす光琳アートの凄さを再認識。
杉本博「月下紅白梅図」。本展のために撮り下ろしたプラチナ・パラディウム・プリント作品。階調表現豊かな手法だそうです。一目見て、画面から匂い立つような芳香が感じられる様は圧巻。白黒画面を月下に例える見立ても素晴らしい。
会田誠「美しい旗」、「群娘図'97」。離れて観たときの画面の美しさと、近づいて観たときの世俗性及び題材とのギャップ。その両面性が会田絵画の魅力。構図的な関連性は明白、風俗性はどうなんだ?と思いつつも、視覚的に楽しいので結果オーライという感じ。
「燕子花図屏風」と「紅白梅図屏風」。個別には何度も観、その度に思い描いた両雄並び立つ眺め。その夢が眼前に。感無量です。正直なところ、向かい合わせでなく横並べで観たいところですが、夢の続きは根津美術館へと持ち越します。会期は短いですが、必見の展示です。
2015年02月09日
●熱海ツアーその2 MOA美術館
12時前に熱海駅に戻って昼ごはん。と思ったものの、どこも人でいっぱい。観光地熱海をなめていました。一番回転の速そうなマクドナルドで手早くお昼を済ませて、タクシーで次の目的地「MOA美術館」へ。
エスカレーター:エントランスから美術館本館までは約60mの高低差があり、7基のエスカレーターを乗り継ぎます。エスカレーターの壁面や天井は照明が刻々と変化します。 工事に際しては、自然環境をそこなわないよう、山の斜面を上から掘り下げて通路を設置し、完成後、元通りの山に復元したそうです。設計施工は鹿島建設。(参照:ウィキペディア/MOA美術館)
一度切り開かれた山面もすっかり緑に覆われ、山中をくり抜いて作ったかのような斜行アプローチは、自然と人工との強烈な対比もあってとても印象的です。
本館:3階建てで、1・2階に計10室の展示室があり、他に能楽堂、「黄金の茶室」(復元)、レストランなどがあります。外壁はインド岩砂岩の割肌仕上げ。メインロビーは、1階、2階吹抜けの大展望室となっており、前面のガラスは幅32m、高さ8m。設計施工は竹中工務店。(参照:ウィキペディア/MOA美術館)
1982年の開館以来33年を経た外壁は今も美しく、素材の選択とメンテナンスの良さの賜物だと思います。
本日のメインイベント「光琳アート」展へ。MOA美術館の「紅白梅図屏風」と、根津美術館の「燕子花図屏風」。尾形光琳の2大国宝がここに出会う!そして光琳が後世に与えた影響をたどり、現代へと至ります。
「光琳屋敷」(復元):江戸時代、尾形光琳が自ら設計し、生活した晩年の京都における屋敷を史料に基づき復元したもの。復元設計早川正夫。(参照:ウィキペディア/MOA美術館)
展示を2順して満喫したのち、屋外を散策。当然、光琳屋敷へも足を延ばします。でも、外から土間をのぞく程度で、内部空間はあまり分かりません。せっかく再現してあるのにもったいない気もします。
閉館近づく16時半少し前。再び本館に戻って、2階のメインロビーからムーア広場越しに海を臨みます。天気も回復して青空が広がり、素晴らしい眺望!
タクシーで再び熱海駅に戻り、反省会の会場探し。駅周辺はまだ人出で賑わっているものの、少し離れた「囲炉裏茶屋」で無事席を確保。とある理由で金目鯛でお祝い。おめでとー!
19:41熱海発の東海道線に乗るべく駅方向に戻ると、お土産を買おうにも店はことごとく閉まり、あんなにいた人影もなし。温泉街の日曜の夜は早い。コンビニでおやつを買って、グリーン車で帰路。熱海を満喫した1日でした。
2015年02月08日
●熱海ツアーその1 「旧日向家熱海別邸地下室」と「水/ガラス」
□熱海へ行こう!
観梅には少し早い2月の第2日曜日に、熱海に出かけました。もともとはMOA美術館で開催中の「光琳アート」を観に行こうというところから始まって、せっかく行くならブルーノ・タウト設計の「旧日向家熱海別邸地下室」も観たい、さらに隣接する隈研吾設計の「水/ガラス(海峯楼)」も予約すれば観られるらしいと話が広がって、総勢12人の濃密な日帰り熱海ツアーと相成りました。下調べ、コース設定、見学予約、人数及び時間調整をして下さったKINさんに感謝。
□予習:ブルーノ・タウトと隈研吾
ブルーノ・タウト(1880-1938)はドイツ表現主義の建築家で、手がけた集合住宅はベルリンのモダニズム集合住宅群の一部として世界遺産に登録されています。1933年に来日し、3年半日本に滞在。桂離宮の美を著作を通じて世界に紹介したことで有名。「旧日向家熱海別邸地下室」は彼が日本滞在中に手掛けた2つの建築のうちの1つで、唯一の現存例。(下記参照のうえ要約:「ウィキペディア / ブルーノ・タウト」、「NPO法人日向家熱海別邸保存会 / 建築家・B.タウト」)
隈研吾(1954-)は自身のHPの「水/ガラス」のテキストにおいて、「この建築の隣地にはブルーノ・タウトが設計した「日向邸」 (1936年) がたっており、タウトはそこで〈建築とは形態ではなく自然との関係性である〉という日本建築の原理を実践しようとした。この建築はタウトへのオマージュでもある。」と述べています。(出典:「隈研吾建築都市設計事務所 / 水/ガラス」)
□旧日向家熱海別邸地下室
9時15分東京発の快速アクティーのグリーン車で熱海へ。11時熱海駅に集合して、小雨ぱらつく中、歩いて旧日向別邸へ。急坂を登り、海峯楼手前で左に折れて、急坂を降ったところに木造2階建ての上屋が見えます。こちらは東京国立博物館本館や、原邦造邸(現原美術館)の設計で有名な渡辺仁設計。11:30からのガイドツアーを予約してあるので、中に入ってツアー参加者が揃うのを待ちます。見学は完全予約制で、1回10人までとなっています。詳しくはこちら。
窓の外には庭園越しに、熱海の海の眺望が広がります。この庭園は実は屋上庭園で、その下に旧日向家熱海別邸地下室があります。
10分ほどDVDでの解説を聴講した後、いよいよ地下室へ。ボランティアの方が分かりやすくガイドして下さいます。階段を下りていくと、竹格子の向こうに空間が広がります。竹格子は建具枠に直接固定せず、棕櫚縄(に仕込んだ針金)でつなぎ合わせて、浮いてるような細工。少し左に折れて、緩やかにクオーター円弧を描くように社交室へ。手すりも竹細工で、庭園を回遊するよう。
社交室天井は、長手に2本の見切り材を通して天井面を3分割。室内には卓球台を置いたそうで、見切り材の位置は台の短辺幅と合わせてあるとか。天井両端面は天井中央面高さから少し下げかつ、桐材を斜めに組み合わせた平面パターンて変化をつけています。天井から吊るした竹に裸電球を吊り下げ、竹細工の紐で吊っているような照明造作も凝っています。ただし今は使っておらず、部屋中央に別の吊り照明が設置されています。右手壁面は桐の腰壁とレモンイエローの塗り壁。タウト設計の椅子の高さと腰壁の高さが合わせてあり、デザインの徹底性がうかがえます。床はナラ材(?)。
振り返るとアルコーブがあり、その壁面には竹を縦に並べた意匠。全く隙間なく並べる素晴らしい精度。天井板は一見長方形に見えるけれども、実は空間の奥行きを感じられるよう、台形型に一枚一枚加工。天井レベルも外壁に向かって下げてあるとのこと。
社交室の奥に洋間。大きな段状廊下で変化をつけた床レベル、赤く染めた絹布の壁面が、傷みが目立つとはいえ、今も美しい。段状床は3段目と5段目の踏面張り出しをなくして腰掛けやすいよう配慮、また1段目平面は緩やかな円弧を描いて壁面と取り合うことで社交室との角度ある接続を緩和。窓面は折れ戸。当時のままというガラスが美しい。残念ながら今はアルミサッシが嵌められ、折れ戸を開けると完全に自然と一体化するダイナミズムは失われていますが、保存の観点からやむなし。天井はクロス材が貼られ、1端部が剥がれて垂れているのが残念。オリジナルとは異なるとのこと。和室との間の建具は当初は楓の板張りだったけれども、今はクロス材が貼られています。
さらに奥には日本間。天井材が1000年の埋没材とのことで、そんな材料があるのかとビックリ。すみっこに小さな床の間があり、その柱材は両面柾目。しかもべんがら色の漆で着色。材の選択も贅沢な限り。建具は障子。建設時は障子と雨戸のみだったそうで、開け放てば海へ完全に開放できる構成。夏は涼しくて気持ちよかったかも。今はアルミサッシが嵌めてあります。
奥のベランダには木製ブラインドを内臓した建具があり、材の細さと保存状態の良さに驚嘆。洋間-和室間の欄間細工もそうですが、80年経っているとは思えない状態の良さ。造作には宮大工が携わったそうで、その高い技術のほどがうかがえます。
部分的にオリジナルと異なる部分、傷みの目立つ部分もありますが、全体的には保存状態は良好。庭園を歩くような階段周り、洋/和と変化する空間構成、内装及び建具等の凝った設えの数々等を実際に体験できることが何より素晴らしいです。
□水/ガラス
1時間ほどで見学ツアーを終えて、次は「水/ガラス」へ。もともとは企業のゲストハウスとして建設されましたが、今は高級旅館「海峯楼」とて運営されています。この建物の見どころはなんといっても3階のウォーターバルコニー。縁側に見立てた水の水盤と、深く出されたステンレス製の庇。その間に挿入されたガラスの円形空間が海へと迫り出します。手すり等視界を遮るものはなく、中と外が一体化しています。
その両側には洋室が配されており、現在はスウィートルームとして運営されています。プライバシーへの配慮から、ウォーターバルコニーに面した面は半透明フィルムで目隠しされています。当初はウォーターバルコニーを挟み込むように連続した空間を構成していたでしょうから、今とはまた印象が異なったと思われます。今回は右側の部屋「風科」を見学させていただきました。面積90m2、天井高さ7mの室内も広々としていますが、なんといっても水の縁側とステンレス製の庇越しに広がる熱海の眺望が素晴らしいです。
洗面、浴室と連続して露天ジャグジーが設けられており、水の縁側と同じレベルで眺望が楽しめるよう計画されています。
1995年の竣工時に建築雑誌で見て以来、どんな空間なのだろうと気になっていた実物を体験できて感激です。快く見学を許可下さった旅館スタッフの方々に感謝します。
実際の空間はちょっと落ち着かないというのが正直なところ。宿泊施設というよりもショールームに近い感じ。ゲストハウスとして運営された頃は、「ガラス張りのショールームで眺望を満喫し、1階の大広間で芸者さんを呼んで宴会」といった接待が夜な夜な繰り広げられたのでしょうか。用途を変えつつ現在も活用されていることに、単なる使い勝手等では測れない、建築としての魅力があると思います。
2015年02月04日
●ハピプラアート「江戸コードを読み解いて、東京のツボを知る」
ハピプラアートのトークイベント「江戸コートを読み解いて、東京のツボを知る」を聴きました。副題は「世界で2番目に有名な絵は北斎が描いた、横浜沖から望む富士!!」。
講師はNHKプロモーションプロデューサーの牧野健太郎氏。ボストン美術館の至宝「スポルディング・コレクション」のデジタルデータと、過去と現代を切り替えながら表示できるデジタルマップをスライド投影しつつ、機知に富んだ話術を駆使して、北斎、広重の描いた江戸を歩き回ります。
まずは北斎「神奈川沖波裏」。
次は広重の日本橋。スポルディングコレクションのかげにフランク・ロイド・ライトあり。
日本橋雪晴。季節は今の頃。神奈川沖浪裏でしがみついていた超高速船「お仕送り舟」が到着している。全ての物資が集まってくる日本橋。話が立体的にかみ合ってくる。
渋谷からずーっとひいて表参道へ?
手前の川が渋谷川。おー、何もない。
梅窓院-キラー通り-熊野神社ときて、勢揃坂、竜岩寺ときました。松を支える束、掃除する寺男。北斎芸コマ。
赤坂見附交番あたり。弁慶橋越しに赤プリが見えた。その手前に溜池。
虎ノ門、葵坂周りを金毘羅さんの縁日と絡めて何枚も紹介して、真打ち北斎登場。やはり一味違う。
ホイッスラーまでネタを振って、一気に浅草へ。左手に浅草寺、右手になんとか。間を歩く人の列。吉原の遊郭から見下ろす富士山。屏風の裏が見えているので、そのむこうには。。。マコトに芸の細かい。みごとな語りでした。