2015年02月08日

●熱海ツアーその1 「旧日向家熱海別邸地下室」と「水/ガラス」

□熱海へ行こう!
 観梅には少し早い2月の第2日曜日に、熱海に出かけました。もともとはMOA美術館で開催中の「光琳アート」を観に行こうというところから始まって、せっかく行くならブルーノ・タウト設計の「旧日向家熱海別邸地下室」も観たい、さらに隣接する隈研吾設計の「水/ガラス(海峯楼)」も予約すれば観られるらしいと話が広がって、総勢12人の濃密な日帰り熱海ツアーと相成りました。下調べ、コース設定、見学予約、人数及び時間調整をして下さったKINさんに感謝。

□予習:ブルーノ・タウトと隈研吾
 ブルーノ・タウト(1880-1938)はドイツ表現主義の建築家で、手がけた集合住宅はベルリンのモダニズム集合住宅群の一部として世界遺産に登録されています。1933年に来日し、3年半日本に滞在。桂離宮の美を著作を通じて世界に紹介したことで有名。「旧日向家熱海別邸地下室」は彼が日本滞在中に手掛けた2つの建築のうちの1つで、唯一の現存例。(下記参照のうえ要約:「ウィキペディア / ブルーノ・タウト」「NPO法人日向家熱海別邸保存会 / 建築家・B.タウト」)

 隈研吾(1954-)は自身のHPの「水/ガラス」のテキストにおいて、「この建築の隣地にはブルーノ・タウトが設計した「日向邸」 (1936年) がたっており、タウトはそこで〈建築とは形態ではなく自然との関係性である〉という日本建築の原理を実践しようとした。この建築はタウトへのオマージュでもある。」と述べています。(出典:「隈研吾建築都市設計事務所 / 水/ガラス」)

□旧日向家熱海別邸地下室
 9時15分東京発の快速アクティーのグリーン車で熱海へ。11時熱海駅に集合して、小雨ぱらつく中、歩いて旧日向別邸へ。急坂を登り、海峯楼手前で左に折れて、急坂を降ったところに木造2階建ての上屋が見えます。こちらは東京国立博物館本館や、原邦造邸(現原美術館)の設計で有名な渡辺仁設計。11:30からのガイドツアーを予約してあるので、中に入ってツアー参加者が揃うのを待ちます。見学は完全予約制で、1回10人までとなっています。詳しくはこちら
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 窓の外には庭園越しに、熱海の海の眺望が広がります。この庭園は実は屋上庭園で、その下に旧日向家熱海別邸地下室があります。
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 10分ほどDVDでの解説を聴講した後、いよいよ地下室へ。ボランティアの方が分かりやすくガイドして下さいます。階段を下りていくと、竹格子の向こうに空間が広がります。竹格子は建具枠に直接固定せず、棕櫚縄(に仕込んだ針金)でつなぎ合わせて、浮いてるような細工。少し左に折れて、緩やかにクオーター円弧を描くように社交室へ。手すりも竹細工で、庭園を回遊するよう。

 社交室天井は、長手に2本の見切り材を通して天井面を3分割。室内には卓球台を置いたそうで、見切り材の位置は台の短辺幅と合わせてあるとか。天井両端面は天井中央面高さから少し下げかつ、桐材を斜めに組み合わせた平面パターンて変化をつけています。天井から吊るした竹に裸電球を吊り下げ、竹細工の紐で吊っているような照明造作も凝っています。ただし今は使っておらず、部屋中央に別の吊り照明が設置されています。右手壁面は桐の腰壁とレモンイエローの塗り壁。タウト設計の椅子の高さと腰壁の高さが合わせてあり、デザインの徹底性がうかがえます。床はナラ材(?)。

 振り返るとアルコーブがあり、その壁面には竹を縦に並べた意匠。全く隙間なく並べる素晴らしい精度。天井板は一見長方形に見えるけれども、実は空間の奥行きを感じられるよう、台形型に一枚一枚加工。天井レベルも外壁に向かって下げてあるとのこと。

 社交室の奥に洋間。大きな段状廊下で変化をつけた床レベル、赤く染めた絹布の壁面が、傷みが目立つとはいえ、今も美しい。段状床は3段目と5段目の踏面張り出しをなくして腰掛けやすいよう配慮、また1段目平面は緩やかな円弧を描いて壁面と取り合うことで社交室との角度ある接続を緩和。窓面は折れ戸。当時のままというガラスが美しい。残念ながら今はアルミサッシが嵌められ、折れ戸を開けると完全に自然と一体化するダイナミズムは失われていますが、保存の観点からやむなし。天井はクロス材が貼られ、1端部が剥がれて垂れているのが残念。オリジナルとは異なるとのこと。和室との間の建具は当初は楓の板張りだったけれども、今はクロス材が貼られています。

 さらに奥には日本間。天井材が1000年の埋没材とのことで、そんな材料があるのかとビックリ。すみっこに小さな床の間があり、その柱材は両面柾目。しかもべんがら色の漆で着色。材の選択も贅沢な限り。建具は障子。建設時は障子と雨戸のみだったそうで、開け放てば海へ完全に開放できる構成。夏は涼しくて気持ちよかったかも。今はアルミサッシが嵌めてあります。

 奥のベランダには木製ブラインドを内臓した建具があり、材の細さと保存状態の良さに驚嘆。洋間-和室間の欄間細工もそうですが、80年経っているとは思えない状態の良さ。造作には宮大工が携わったそうで、その高い技術のほどがうかがえます。

 部分的にオリジナルと異なる部分、傷みの目立つ部分もありますが、全体的には保存状態は良好。庭園を歩くような階段周り、洋/和と変化する空間構成、内装及び建具等の凝った設えの数々等を実際に体験できることが何より素晴らしいです。

□水/ガラス
 1時間ほどで見学ツアーを終えて、次は「水/ガラス」へ。もともとは企業のゲストハウスとして建設されましたが、今は高級旅館「海峯楼」とて運営されています。この建物の見どころはなんといっても3階のウォーターバルコニー。縁側に見立てた水の水盤と、深く出されたステンレス製の庇。その間に挿入されたガラスの円形空間が海へと迫り出します。手すり等視界を遮るものはなく、中と外が一体化しています。
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 その両側には洋室が配されており、現在はスウィートルームとして運営されています。プライバシーへの配慮から、ウォーターバルコニーに面した面は半透明フィルムで目隠しされています。当初はウォーターバルコニーを挟み込むように連続した空間を構成していたでしょうから、今とはまた印象が異なったと思われます。今回は右側の部屋「風科」を見学させていただきました。面積90m2、天井高さ7mの室内も広々としていますが、なんといっても水の縁側とステンレス製の庇越しに広がる熱海の眺望が素晴らしいです。
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 洗面、浴室と連続して露天ジャグジーが設けられており、水の縁側と同じレベルで眺望が楽しめるよう計画されています。
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 1995年の竣工時に建築雑誌で見て以来、どんな空間なのだろうと気になっていた実物を体験できて感激です。快く見学を許可下さった旅館スタッフの方々に感謝します。

 実際の空間はちょっと落ち着かないというのが正直なところ。宿泊施設というよりもショールームに近い感じ。ゲストハウスとして運営された頃は、「ガラス張りのショールームで眺望を満喫し、1階の大広間で芸者さんを呼んで宴会」といった接待が夜な夜な繰り広げられたのでしょうか。用途を変えつつ現在も活用されていることに、単なる使い勝手等では測れない、建築としての魅力があると思います。

Posted by mizdesign at 2015年02月08日 23:34
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