2013年02月06日

●西沢立衛「近作について」@ブリヂストン美術館

 ブリジストン美術館で開催中の土曜講座「21世紀の美術館づくり」。その第1回目「近作について」西沢立衛氏(建築家)の聴講メモです。

 金沢21世紀美術館
 美術館の設計に際して、これという方針はない。どんなとこ?どんな人が使う?「環境」と「人」を考えて毎回設計している。共通点は「開かれた建築」、「街の経験につながるもの」。
 美術館と交流施設。現代美術と地元の伝統工芸を扱う。四方八方からアプローチ可能な立地のため、5ヶ所の玄関を設けたウラのない建物。
 コンペ時は別々に建てる要求だったが、一つの建物として提案した。
 円形平面の平屋建。1Fは公共空間、地階に収蔵庫等を納める。屋根のデコボコは、天井高さの違い。
 展示室を分散配置して、通り抜け通路を設ける。外周は無料ゾーン、内側は有料ゾーン。中の様子が外から見えることで、相互交流を深める。離すことで順序を作らない。動線が面的になり、自由に観られる。キュレーター側への提案でもある。平面が大きいので、奥に光庭。屋外展示室も兼ねる。展示室は壁+ガラス天井+トップライトのホワイトキューブ的な空間。
 交流館はガラスのレクチャーホール。美術館の活動を外に伝える。外壁ガラス面に図書館。振り返ると美術館が見える。朝顔プロジェクト等、外壁を利用したワークショップも行われた。

 サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2009(ロンドン)
 ハイドパークに夏の間設置されるパヴィリオン。設計条件は、展示終了後にコレクターに販売するので解体再建築可能なこと、集会場とカフェを設置すること。
 建築が既存樹木を避けてカーブしながら、公園に広がっていく。屋根だけ作る。立地条件に応じて屋根高さを変える。大通りに面したところは高く、一番低いところは60cm程度。雨樋がないので、雨が降ると滝を突き抜けて入る感じ。アルミを磨いた天井面に公園の緑が映り込む。天井を傾斜させて遠くの緑を映し込む。梁のない形状。屋根面も同じ仕上げで、大きな木々、空を映しだす。建築を建てることで、環境の良さを増幅する。

 十和田市現代美術館
 官庁建築に面した立地。歯抜け土地を市が購入してアート施設に。アートによる街再生プロジェクト。
 通りの一部としての美術館。一つの箱に一人のアーティスト。寸法も個別に決める。展示室から展示室へ移動する際に十和田の風景が見える。それぞれの展示室にチケットブース、図書室といった機能を持たせる。向きもバラバラ。屋外も展示空間として活用。街から見たときに境界を感じない空間を作る。天井高さの異なる箱の集合で、山のような外観。

 ニュー・ミュージアム・オブ・コンテンポラリー・アート(ニューヨーク)
 最先端の現代美術のようなものを展示する。元ホイットニー美術館のキュレーターがブロードウェイで建物を借りて運営していたが、自前の建物を持ちたいということでバワリー通りに美術館を建設。観光客が近づきにくい立地に美術館ができるということで話題に。作品かどうかわからないものがこれから計画されていく。
 積層型の高層建築。各階を平面的にずらすことで、中間階でもトップライトを設けられる。板金の店の多いエリアなので、板金を使って外壁を作る。分節することで、周囲にあったスケール感にする。1階を無料スペースに。倉庫みたいに仕上げない展示室。EVによる昇降だけでなく、可能な限り階段も計画。うるさい下層部でなく、静かな上層部に公共空間を設ける。

 豊島美術館
 瀬戸内海の他の島と異なり、水が豊かで緑が多い。始めに福武さんに「環境、建築、芸術、全てが一体となったものを作って欲しい。」と言われた。自分たちが常に考えていることでもある。
 水滴のような自由曲線で出来たワンルーム建築。地形に合わせて作れる。断面も曲線で求心性を持たせる。コンクリートシェル工法で三次曲面を実現。コンクリートを一体で打つ必要があるので、現場発生土を使ってマウンド状の型枠を作り、24時間かけてコンクリートを打った。
 作品と環境の一体化。チケットブースを出ると、海に向かって歩いていく。左手には棚田が広がり、森を抜けて建物にいたる。狭いエントランスを抜けると、内藤さんの展示:水が地面から湧き出て集まっていく様が広がる。水の集まる部分上部に大きく開いた開口部がある。建物は作品のために閉じ、外に開いている。

 軽井沢千住博美術館
 緑を感じる、壁のない美術館。敷地は4mの段差がある斜面。斜面をそのまま床とし、屋根は違うカーブで形成。天井高さも変化。時代ごとにまとめて展示。中庭を通って次の時代へ移動。作品を寛ぎながら感じられるよう、作品を囲うようにソファを配置。外には緑。

 スイス連邦工科大学ローザンヌ校ラーニングセンター
 キャンパスの公共空間(ラーニングセンター)。中心となる施設にしたい。コンペにて大きなワンルームかつジャンプした建築、シンプルな動線計画を提案。1-3階が連続的につながる。3階のカフェから海、キャンパスが見える。建物、環境が相互に影響する建築。

 コネチカット州の地域コミュニティー(現在進行中)
 みんなの場所。放棄された農園を買い取って使う。色々な高さ。礼拝堂、展示室、体育館。外にホッケー場など。人と動物のための建物。建築が全てでないものを作ろう。

 ルーヴル・ランス
 労働者住宅と炭鉱と関連施設が主な町。パリ中央集権改造の一環として計画?環境と巨大建築(4万m2)をどう作るか。分散して高低差にも変化をつける。収蔵庫等は地下に納めて、地上を全て人に開放する。
 ルーブル美術館からいわれたのは、「ルーブルの作品は紀元前4千年前から19世紀に渡っている。終わった歴史にしたくない。今につながっていくことを考えてくれ。」。細長く作って時間軸に沿って展示する。横軸に地域差。床は斜面。最後はガラスギャラリーで19世紀産業の遺産を見せる。常設は時間の流れ、企画はその一部をクローズアップして展示。壁はアルミにして作品を来館者を映す。歴史の時間の大きさを感じる。

 街の経験、環境的な広がりから違うものができてくる。

Posted by mizdesign at 2013年02月06日 23:57
トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.mizdesign.com/mt/mt-tb.cgi/985

コメント
コメントしてください




保存しますか?