2012年12月29日
●キーワード2012
今年のアート・建築・街関連を三つのキーワードで振り返ってみます。(2011、2010、2009、2008、2007、2006)
今年は先行き不透明感のある世相の中、「伸び代」を意識する機会の多い年でした。
『領域を拡張する』
先行き不透明感を打ち破るには、領域を拡張することが大切。
KATAGAMI Style-世界が恋した日本のデザイン@三菱一号館美術館
裏方である型紙が、まさかの主役の展覧会。実際に観ると、どれも魅力的で惹き付けられます。題材の発見と、魅力を引き出す見せ方のコラボレーション。
館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技@東京都現代美術館
滅び行く「特撮」を、後世に伝えんと企画された展覧会。「特撮」という技術を、アートの歴史の一ページへと拡張する。更に過去のイコンの陳列だけでなく、現在持てる全ての力を注いで新作を製作し、そのメイキングと合わせて展示するという超前向きな姿勢。鮮やかな領域の飛躍がとにかく素晴らしかったです。
おもしろびじゅつワンダーランド@サントリー美術館
来て、見て、感じて、驚いちゃって!夏休みの自由研究でやってきて、美術館ファンになる子供たち続出だったのではと思われる、真夏の玉手箱。
美術にぶるっ!@東京国立近代美術館 夜間特別観覧会
アートブロガーTakさんが中心となり、関係各位を巻き込み、アートをもっと多くの人に見てもらいたいと仕掛ける様々な企画は、受け手から仕掛け手への拡張。中でも本展は集客、内容共に素晴らしかったです。特に「第II部 実験場1950s」は衝撃的で、忘れられない展示になりました。
『好きを極める』
なんでこんなにスゴイのか!やっぱり「好き」だからでしょう。
Shuffle II@ART FAIR TOKYO 2012
縄文土器から古美術、現代作家まで。時空を越えた競演に強烈に惹き込まれました。
蕭白ショック!!曾我蕭白と京の画家たち@千葉市美術館
以前はイロモノと思っていた蕭白が、今やすっかり時代の顔。前期、後期ともに訪問。面白かったです。
田中一光とデザインの前後左右@21_21 DESIGN SIGHT
会場の特異な形態をものともせず、書斎、メインホール、側廊と見立てた空間構成がピタリと決まる。絵画・日常・芸能と幅広く活動したデザイナーの足跡を、平面、立体で辿る構成が秀逸。
須田悦弘展@千葉市美術館
超絶技巧かつユーモア溢れる木彫草花のインスタレーションが大人気の現代作家、須田悦弘さんの個展!初期作から最新作まで須田空間を満喫。さらに千葉市美の浮世絵コレクションを活かして、須田セレクション+空間構成による江戸絵画体験。そして鞘堂等を活用した、恒例の宝探し。おまけに図録デザインも漆黒ピカピカの須田さん仕様。講演会の質疑で、「作り続けることで変化したことは何か」という問いに対して、「上手くなった」とあっけらかんと答える須田さんのキャラクターが素敵。
会田誠展 天才でごめんなさい@森美術館
過去の代表作から始まり、多方面への広がりを経て、渾身の新作、そして18禁部屋まで。個展とは思えない過剰なまでの濃密さに圧倒されました。
篠山紀信展 写真力@東京オペラシティ アートギャラリー
奇跡的なシャッターチャンスの「一瞬」を集め、異様な磁力に満ちた場を作り出す。時間と空間を超えて超凝縮されたそのギュウギュウ感がスゴイ。
『環境を建築する』
今年は本州西端に40日間ほど仕事で出張し、その週末に建築を見て廻りました。新しい環境を作り出す、建築の可能性を満喫しました。
アクロス福岡
バブルの遺産のようだった竣工から17年。ステップガーデンの植栽が生い茂り、オフィスビルと緑の段丘が融合した「ラピュタ」を思わせる空間へと成長。丘の上から見下ろす、段丘の緑と公園の緑がつながり、その先に福岡天神の街が広がる眺めが素晴らしい。時間と共に成長する、建築の一つの夢を実現中。
風の丘葬祭場
光と影、素材と空間構成。「建築の詩学」を実体験。そしてその先に広がる公園。建築とランドスケープが融合した、新たな地平線を体験する至福のひととき。
奈義町現代美術館
津山駅からバスで行くこと40分ほど。小さな町の中心施設が集まる一角に建設された現代美術館+図書館。3人の美術作家による常設展示空間がそれぞれ特異な形状を持ち、ビジュアルインパクト絶大。実際に訪れてみると、図書館と一体化したプログラムということもあってか、日常の場として心地良い空間を形成しています。写真で見る印象を、良い意味で裏切られました。
イサムノグチ庭園美術館
彫刻家がてがけた、アトリエ、生活空間、ランドスケープ。古い蔵の中に鎮座するエナジーヴォイドの存在感。隣接する丘への傾斜、丘上からの眺望を彫刻庭園として取り込む空間構成。自然と彫刻と建築の境界が限りなく接する環境空間。
豊島美術館
開館以来絶賛のコメントばかりを耳にする、話題の美術館をようやく訪問。丘をぐるりと廻り、眺望を楽しみ、アートスペースへと至り、カフェへと抜ける回遊動線。ガランと広がるコンクリートシェルの空間で、フルフルと身を震わせながら動く水滴たち。時間の経つのを忘れる詩的空間体験。
2012年12月28日
●12月の鑑賞記録
12/2
維新の洋画家―川村清雄@江戸東京博物館
御庭番名門の家系に生まれ、幕末から明治初期を生きた油絵師の回顧展。「形見の直垂(虫干)」しか知らなかったけれども、徳川家を中心とした人物関係や、黒田派閥に居場所を追われる展開等、大河ドラマのようでした。
ブリヂストン美術館ナイト@ブリジストン美術館
東京都駅至近の名門美術館が、アートファンとの交流を深めるべく動き出した今年のトリを飾る企画。スライドによるブリジストン美術館黎明期の説明が良かった。ブリジストンvs三菱一号館学芸員対決等、企画意欲満々。詰め込みすぎで、内覧会は要らない気もしました。
12/8
巨匠たちの英国水彩画展@ Bunkamura ザ・ミュージアム
最終日前日、三重ほどの人垣。大気を感じさせる光の表現が印象的なターナーを始め、パステルのような表現等、多彩な題材と表現をサクサクと観ました。
リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝@国立新美術館
バロック・サロンの豪華空間にひたり、アメリングの赤ちゃんの寝顔に癒される。観た後の爽快感が気持ち良い展示でした。
12/9
◎『日本美術全集』発刊記念≪スペシャル対談≫「日本美術を体感する~若冲を中心に」
辻惟雄先生(MIHO MUSEUM館長・東京大学名誉教授)×山下裕二先生(明治学院大学教授)@丸ビルホール
「日本美術の歴史」発刊の際の辻惟雄先生×山下裕二先生の対談記録を後で読んで以来、是非ともライブで聞きたいと思っていたお二人の対談が遂に実現!本の売れないこの御時世に、全20巻の美術全集を刊行する版元の決断が素晴らしい。若冲が大フィーチャーされる江戸絵画の巻は、遂に奇想が天下を取った感あり。同時に、来年に愛知県美術館で大乗寺応挙襖絵完全再現展示の告知もあり、こちらも楽しみ。最終巻では会田誠、村上隆が大プッシュされ、現代美術作家が日本美術の歴史に連なっていることを示すという構想も期待大。三年半後の完結がとても楽しみ。
12/15
森と湖の国 フィンランド・デザイン展@サントリー美術館
日用品に宿る美を、時系列を縦軸に、美しいショーアップを横軸に構成された展示。建築家としても著名なアールト、息を呑むほど美しいシャンタレーリなどなど。日用品をオブジェ化したインスタレーションも美しい。
Gift in Bloom vol.4 展@銀座三越
荒木愛さんの展示を、作家さんに説明してもらいながら鑑賞。点描画タッチで生気ある果物画。白画面から削り出された、舞い散る蝉。御舟の炎舞を思わせる。そして、密度濃く構成された人物画。作家の過去作品から、来季への試行まで。飛躍を期待させる展示でした。
12/23
◎篠山紀信展 写真力@東京オペラシティ アートギャラリー
草間弥生と坂東玉三郎が並び立つ仁王門を潜り、It's a MAGIC! 軍団の右壁、それに負けない後藤久美子大増殖の左壁。凝縮された輝きの密度は、まさに SPECTACLE !。一瞬を平面に定着させる「写真」メディアの面目躍如!
メニーメニーミッフィープレミアム@池袋西武ギャラリー
明確なルールで構成されたミッフィーワールドは、ブルーナさんのプロフェッショナルワーク。更に、展示よりも圧倒的に滞在時間の長い物販。すごいパワー!