2012年08月22日

●青い日記帳×レーピン展『ブロガー・スペシャルナイト』

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 青い日記帳×レーピン展『ブロガー・スペシャルナイト』に参加しました。

 ※注:会場内の画像は主催者の許可を得て撮影したものです。

□座談会メモ
 山下裕二氏:美術史家(明治学院大学教授)
 籾山昌夫氏:レーピン研究家、美術史家(神奈川県立近代美術館 主任学芸員)
 ナビゲーター Tak氏:(「青い日記帳」主宰)

T:日本画の専門家がなぜロシア絵画の座談会に?
山:「忘れえぬロシア」展の女性像がたまらんかった。高ビーな視線にマゾッ気をくすぐられる。いくつかレーピンの作品もきてた。
 ザ・ミュージアムの一つ後の展覧会「白隠」展の企画をしているので、断れないと思った。

T:ロシア絵画の専門家は日本に何人くらい?
籾:十指に満たないくらい。ロシア絵画もカンディンスキー等は別にして、19世紀以前は国内に全然ない。レーピンは確実なのは横浜美術館に1点。あとは大倉男爵が所蔵していたとか、関西の企業が所蔵していたとか、画家辻永が所蔵していたらしいとか。
T:ずっとロシア絵画の研究を?
籾:卒論も修論もレーピン。
山:日本でのレーピン展は?
籾:1975or76年に月光荘画廊が日本橋三越で開催。30点ほど。1990年代に小樽でロシア美術館展。2007年に東京都美術館で「国立ロシア美術館展 ロシア絵画の神髄」。そのあと今回の展示。

籾:ロシアで一番ネームバリューのある画家。例えるなら大観、雪舟。

山:レーピンは1844年(天保15年)生まれの1930年(昭和5年)没。日本の画家で近い人というと富岡鉄斎(1837-1924)。高橋由一はだいぶ年上、河鍋暁斎はやや近い。横山大観はかなり年下。

山:同時代のトルストイ、ムソルグスキー等、文学、音楽は世界的に有名なのに、どうして美術のだけ知名度が低いのか?
籾:文学、音楽は複製できる。レーピンは上流階級に大もてだったため、作品が海外に出なかった。
山:写真による複製は?
籾:そこは少々複雑。米ソの対立が絡み、戦後のプロパガンダに利用されたこともある。
山:戦勝国の作った絵画の歴史にレーピンは埋没した面もある。

山:見れば分かるけれども、レーピンはめちゃくちゃ上手い。初めから上手いタイプ。現代だと山口晃は元々上手いタイプ。会田誠はそれほどでもない。近代だと鏑木清方はもともと上手い、上村松園は努力型。その一方で構成画には手間ひまかけてる。

 3氏による見所解説
 「皇女ソフィヤ」。おけるピョートル大帝への反乱、吊るされた処刑者、怒りの表情。
 「休息-妻ヴェーラ・レーピナの肖像」。奥さん若い。レーピンの弟と奥さんのお姉さんが結婚。腕に喪章を巻いているように見えることから、込められた意味があるかも。X線調査によると始めは目が開いていた。
 「思いがけなく」。思いがけず帰ってきた男。レーピン自身は図像解釈については語っていない。別バージョンには女性革命家が描かれているものもある。レーピンは皇帝も革命も描く。今回はモスクワのトレチャコフ美術館蔵品なので家族や庶民画が多いが、皇帝の街:サンクト・ペテルブルクには貴族・皇族の絵も多い。移動派美術展は皇帝も観るし、様々なテーマを許容することは皇帝の寛容さの宣伝にもなった。
 「作曲家モデスト・ムソルグスキーの肖像」。不遇の音楽家。支持者スターソフに捧げた「展覧会の絵」を聴きながら、展覧会で作曲者の絵を観るまたとない機会。

 好きな絵
山:「ピアニスト、ゾフィー・メンターの肖像」。高飛車目線。二の腕の厚塗り。「ワルワーラ・イスクル・フォン・ヒルデンバンド男爵夫人の肖像」。同じく高飛車。百済観音。「キャベツ」「自画像」。すごい薄塗り。キャンパスの目が見える。
T:「思いがけなく」
籾:「少女アダ」。白く残したハイライト。可愛い。「農家の中庭」。崩れたところから小鳥が飛び立っている。


□展覧会感想
 「高貴な白」と「落ち着いた赤」で構成された空間が、Bunkamura ザ・ミュージアムらしい優雅で美しい時間を作り出します。構成は以下の5章。

 1:美術アカデミーと「ヴォルガの船曳き」
 2:パリ留学:西欧絵画との出会い
 3:故郷チュグーエフとモスクワ
 4:「移動派」の旗手として:サンクト・ペテルブルク
 5:次世代の導き手として:美術アカデミーのレーピン

 見所はやはり「皇女ソフィヤ」「休息-妻ヴェーラ・レーピナの肖像」が相次いで登場する会場中盤でしょうか。その合間に挿入される小品、素描もどれもが超絶上手くて目を惹きます。その一方で、創作の背景となるロシアの文化、歴史については解説文を読んでもピンと来ないので、没入感は今一つ。優雅な空間を楽しみながら観るのが良いかと思いました。


□展覧会概要
 「国立トレチャコフ美術館所蔵 レーピン展」
会期:2012年8月4日(土)~10月8日(月・祝) 開催期間中無休
開館時間:10:00-19:00(入館は18:30まで)
毎週金・土曜日21:00まで(入館は20:30まで)
会場:Bunkamuraザ・ミュージアム(渋谷・東急本店横) 
http://www.bunkamura.co.jp/
主催:Bunkamura
後援:ロシア連邦外務省、ロシア連邦文化省、在日ロシア連邦大使館、ロシア連邦文化協力庁、ロシア文化フェスティバル組織委員会
協力:日本航空
企画協力:アートインプレッション

巡回先:
浜松市美術館 2012年10月16日(火)~12月24日(月・祝)
姫路市立美術館 2013年2月16日(土)~3月30日(土)
神奈川県立近代美術館 葉山 2013年4月6日(土)~5月26日(日)

Posted by mizdesign at 2012年08月22日 06:52
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