2012年07月31日
●7月の鑑賞記録
7/7
◎風の丘葬祭場
光と影、素材と空間構成。「建築の詩学」を実体験。そしてその先に広がる公園。建築とランドスケープが融合した、新たな地平線を体験する至福のひととき。
キャナルシティ博多
思った以上に盛況。ライブに、山笠に、賑わっていました。
ホテル イル・パラッツォ
ちょっと苦しい立地にそそり立つ、石と鉄の艶やかな壁面。結婚式場としての活用等、運営も苦戦気味に見えるけれども、有機的な物質感はさすが。
◎アクロス福岡
バブルの遺産のようだった竣工から17年。ステップガーデンの植栽が生い茂り、オフィスビルと緑の段丘が融合した「ラピュタ」を思わせる空間へと成長。丘の上から見下ろす、段丘の緑と公園の緑がつながり、その先に福岡天神の街が広がる眺めが素晴らしい。時間と共に成長する、建築の一つの夢を実現中。
ネクサスワールド 百道
ランドマーク的な立地のマイケル・グレイブス棟に空室が目立って少々寂しい。住宅地としては高級住宅地として落ち着いた感じ。
幽霊 妖怪画大全集@福岡市博物館
夏の夜はみんな博物館に集まって、家庭冷房費を節約しよう!というわけで、常設展は無料。なかなか上手い節電対策。でも、あきれるほど広い吹抜け空間の空調費を考えると微妙な気も。有名な「漢委奴國王」の金印の本物があったり、映像解説だったりで充実した常設展示。
幽霊展は季節に合わせた上手い企画だと思うけれども、展示そのものは数が多い割りに今一つ。
7/8
ネクサスワールド 香椎
テーマパークのよう。
レム棟・コールハース棟。スロープ、素材、ボリュームがカッコ良い。
スティーブン・ホール棟。建築言語としての階段の処理、水を張った中庭(見えないけど)。素敵。
アイランドシティ中央公園 体験学習施設ぐりんぐりん
自由局面のコンクリートシェル+屋上緑化で、内外がシームレスにつながる人工大地を創出。温室という機能や屋上歩廊といった付加要素が妨げとなって、せっかくのシームレス感はそれほど実感できず。
7/15
◎スターバックスコーヒー太宰府天満宮表参道店
スタバが撮影スポットと化していてビックリ。「織る」ような空間のテクスチャー感が素敵。
太宰府天満宮
学問の神様兼雷神様として今でも慕われる道真様の本拠。学問のお守りをいただきました。
美のワンダーランド 十五人の京絵師@九州国立博物館
盧雪の雀と仔犬に萌え萌え。
山口晃トークショー「応挙こぼれ話」
ついに画伯追っかけで九博上陸。
7/22
エヴァンゲリヲンと日本刀@備前長船刀剣博物館
日本刀の産地で見せる、エヴァと伝統工芸のコラボ。モノの仕上がりはさすが。写真撮影可な展示もファンに優しい。ただ、展示方法と照明でずいぶんと損をしている感じ。どこか良い箱に巡回して欲しい。
◎奈義町現代美術館
津山駅からバスで行くこと40分ほど。小さな町の中心施設が集まる一角に建設された現代美術館+図書館。3人の美術作家による常設展示空間がそれぞれ特異な形状を持ち、ビジュアルインパクト絶大。実際に訪れてみると、図書館と一体化したプログラムということもあってか、日常の場として心地良い空間を形成しています。写真で見る印象を、良い意味で裏切られました。
7/28
◎イサムノグチ庭園美術館
彫刻家がてがけた、アトリエ、生活空間、ランドスケープ。古い蔵の中に鎮座するエナジーヴォイドの存在感。隣接する丘への傾斜、丘上からの眺望を彫刻庭園として取り込む空間構成。自然と彫刻と建築の境界が限りなく接する環境空間。
丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
立体的に積み上げたアートの諸要素を自在に回遊する体験が、何度来ても楽しい。今回も時間切れで図書館部分が見られなかったのが残念。
7/29
掬月亭@栗林公園
消える雨戸が見たかったけれども、まだ雨戸が開いてなかった。
◎地中美術館
開館時刻に合わせて来たら、いきなり整理券配布で45分待ち。安藤建築のコンクリートの美しさ、マリアの神殿のような荘厳さ、タレルの奥行きの消失した空間体験。そして何より、柔らかな光に包まれたモネ作品の美しさ。空間が光の祝福に満ちているよう。
リーウーファン美術館
灼熱。。。
南寺
家プロジェクト、4年越しでようやくコンプリート。残るは銭湯。
2012年07月28日
●イサムノグチ庭園美術館
7月最後の週末。思いがけず連休になったので、かねてから行きたかったイサムノグチ庭園美術館へ出かけることを思い立ちました。本来はハガキによる予約が必要ですが、前日の15時以降にまだ空きがあれば電話による予約も可能です。
最寄駅のことでん八栗駅から徒歩20分。受付棟に到着します。ここで入館料を払い、ツアーの定刻まで待ちます。
定刻になると、徒歩数分のアトリエから見学開始。見学時間はアトリエとイサム家+彫刻庭園を30分ずつの、だいたい1時間程度です。
以下、鑑賞メモです。
□アトリエ
作業蔵
雨の日にここにこもって研磨作業を行うこともあったらしい。
内部にはグラインダー、サンダー、板ガラスが点在する。
滑り台の模型も置かれている。
石壁サークル内屋外展示
庵治石を積み上げた石壁サークル「まる」に包まれた創作展示空間。
個々人それぞれに感じ取ってもらえるよう、説明書きは一切ない。
いつ先生が戻って来ても、すぐに創作活動を再開できるよう配置。
完成品も未完製品も並列して配置。サインの有無で判別。
未加工の部分、石を割った面ままの面、円滑に円筒状に刳り貫かれた面など、様々な状態が混在します。
展示蔵
大きく開いた開口部が生み出す、光と影のコントラストと奥行き。
加工面と素のままの肌合いと加工された滑面とのコントラスト。
内部は2/3ほど2階(天井裏?)あり。
磨き上げられた作品と土壁、木柱の対比。
巨大なエナジーヴォイドの存在感。
石と建築と光と風が一体になった世界。
□イサム家
玄関及び格子窓から覗いて見学。
丸亀の豪商の家を移築。
畳の高さを下げてベンチ状に使う。その下に床暖房。
土間及び居間中央に置かれた黒テーブルの存在感が美しい。
と同時に、高さ的に実用面では?マークが浮かぶ。
居間越しに見える竹林が美しい。
居心地良さそう。
□彫刻庭園
階段を登って右手に石舞台。
山すそを渦巻くように白砂利が敷かれ、導かれて山を廻る。
山の上に卵形の石。イサムノグチがたいそう気に入っていた。
屋島と海の眺めが素晴らしい。
水の流れを表現した石組み。始めは細かく、次第に荒々しくなり、最後は荒々しい大石。
自然と彫刻と建築が一体化した、環境空間というべき世界を作り出しています。
とても記憶に残る体験でした。
イサムノグチといえば、谷口建築。というわけで、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館へと足を延ばします。
立体的に積み上げたアート関連の諸機能を回遊する楽しさが素晴らしい。
カスケードプラザに設置されたイサムノグチ作の彫刻。
2012年07月22日
●ヱヴァンゲリヲンと日本刀展@備前長船刀剣博物館
備前長船刀剣博物館で開催中の特別展「ヱヴァンゲリヲンと日本刀展」を観ました。
JR長船駅からタクシーで4km。本展の大きなビジュアルが目に入ります。
博物館エントランス横には、レイ、アスカ、マリのイラストが勢揃い。撮影スポットと化しています。
1階展示室を入ると、左手前角にエヴァの大きな立像がお出迎え。振り返ると、TVシリーズ企画書のカラーコピーが壁面に貼ってあります。左手壁面には、複製原画と完成画が並列に並びます。そして奥の壁面から、本展の展示開始です。本展に出展される刀剣類は撮影可能(フラッシュは禁止)なのが嬉しいです。
ロンギヌスの槍。本展のメインビジュアル。さすがの存在感。
近づいて観ると、金属の「地肌」模様が鮮やかに浮かび上がります。その禍々しい雰囲気は、劇中で妖しげな存在感を放つ「槍」のイメージにピッタリと重なります。刀剣博物館の面目躍如!
2階展示室はレイとアスカの等身大立像が出迎えます。そして劇中に登場するキャラクター、メカに因んだ刀剣が並びます。
零号機仕様 脇差 龍と槍。カラーリングからキャラクターとの関連が明快な、バランスの良い造形。刀身にはロンギヌスの槍に絡みつく龍。
弐号機仕様 短刀 式波・プラグスーツエントリー。刀身にアスカの透かし彫りという凝った造形。鞘の角ばった造形もカッコイイ(写ってませんが)。作り手の情熱が感じられます。
真希波マリ プラグスーツ仕様 短刀。イラストと比べると思ったより小振りな造形。プラスチック的な質感の鞘がちょっと大きすぎ。
カウンターソード。本展はエヴァンゲリオンのスピンオフ企画「エヴァンゲリオン ANIMA」に登場する武器をモチーフにした刀剣が多数展示されています。(むしろこちらが本編)。個人的に一番カッコイイと感じたのがこの「カウンターソード」です。刀を構える初号機が凛々しい。劇中の、ちゃんと動くかハラハラする初号機とは完全に別物。
塗見本。展示は本物の刀剣関連の品々も多数並列展示されています。中でも目を引いたのがこの塗見本です。細やかな文様の数々が美しい。
隣接する研修館では、エヴァグッズを販売中。オリジナルグッズとしては、図録、ポストカード、トートバッグ、ネームプレート等を販売していました。
刀剣の里で催される「エヴァと刀剣のコラボレーション」はさすがの質感です。その展ではとても満足。他方、展示方法には「もう一工夫あればさらに良くなるのでは?」と思える部分がいくつかありました。できれば展示設備の充実した箱で再見したいです。
2012年07月15日
●「美のワンダーランド 十五人の京絵師」関連イベント 山口晃トークショー「応挙こぼれ話」
九州国立博物館で開催中の「美のワンダーランド 十五人の京絵師」関連イベント山口晃トークショー「応挙こぼれ話」の聴講メモです。
演壇右手にホワイトボードを配したお馴染みのレイアウト。
まず、ハードルを下げるために一言。
応挙について何か新しい話をするわけではありません。
自分は華丸・大吉氏の前座。何でも良いからちょっと来て話せと。
「応挙」についてインターネットで検索して見つけたテキストが、実は来週講演される佐々木丞平氏(京都国立博物館館長)の論文でした。なので一週先に同じ文章を読むことになるかも。怖い人だったらどうしよう。
ただ読むだけでなく、チャチャを入れて話そうと。
(ホワイトボードに向けて黒ペンを振るとインクが点々と付く。)
意図しない線が良いですね。芦雪のよう。もっとも応挙はこういった線を嫌ったようですが。オブラートに包んで言うと、嫌な弟子だったでしょうね。
論文の題材である「萬誌」という見聞録には、応挙について175項目記されています。その内容は画論から画材まで幅広い。ですが論文では画材については省略されていて残念。
「人を描くときは猿のように描くのではなく、犬のように描きなさい。」
「鹿は馬のよう描くのではなく、羊を真似すべし。」
ジッと観察するのに向いているのでしょう。
論文に書いてないことを。
形(素形)を持ちなさいと言わんとしているのでは。
(素刑と書き間違えて)
刑といえば、猫刑にあってみたい。肉球がフニャッフニャッして悶え死ぬことでしょう。
(ホワイトボードに人の横顔の輪郭、猿の横顔の輪郭を描いて)
人は庇から上に前頭葉があるので膨らみ、猿はスパッと横に切れる。
(会場からオオーッという声)
良い反応ですね。
人間を元にすると、理知的な猿になる。
耳の位置が人と猿では違う。首のつながり方も違う。
漫画家の川崎のぼるは「馬が描ければ動物が描ける。」といったそうですが、鶏は?
まず基準を押さえて、それからバリエーションを覚える。
応挙=リアリズムというイメージがあるけれども、「実物を見ないで本見て描くと良いよ」といったりもする。「らしさ」に対する興味>真。
一筋縄ではいかないところがある。
同感できることも多い。例えば「人物はまず骨法から。」
これが全然できていないのが蕭白。肩の骨はどこにあるの?
形ができて、その上に意を盛り込む。
蕭白は反対に、意ばかり。
「画を望まば我に乞うべし、絵図を求めんとならば円山主水(応挙)よかるべし」
鼻につく上手さといえば、芦雪、栖鳳。西洋ではリューベンス。あんなに上手いのに、誰も立ち止まらない。
フェルメールは遠近法をどこか間違える。いや、光の表現が独特。形に沿わず、光に浮かび上がる。
(話を芦雪に戻して)近くで見ると墨、離れて見ると岩だったり猿の毛だったり。そういったイリュージョンが応挙は好きではない。「遠見の絵、近見の絵」と分ける。
職人仕事的で仕上げすぎ。
絶妙の間と語りで場内を沸かせる、あっという間の一時間でした。