2011年05月16日
●写楽@東京国立博物館平成館
上野の東京国立博物館平成館で開催中の特別展「写楽」を観ました。
□写楽以前の役者絵
写楽の描く浮世絵の題材は歌舞伎。そのルーツとなる出雲の阿国から、役者絵の誕生、そして写楽へ。師宣、北斎、清長、歌麿。オールスター出演で、その歴史を50年単位でダイジェスト紹介。
菱川師宣「歌舞伎図屏風」。浮世絵展と銘打ちながら、屏風をドドーンと並べて、視覚的にも意表をつく。風俗図屏風が好きなので、これだけでも楽しめる。
□写楽を生み出した蔦屋重三郎
写楽を生み出したのはプロデューサー。去年のサントリー美術館での展示も記憶に新しい、仕掛人「蔦重」にスポットライトを当てる。プロデューサー戦略がクローズアップされる、現代に合わせた構成。
「吉原細見 寛政6年版」。蔦重の始まり、吉原ガイドブック。その袖に忍ばせるのに程よいサイズが、吉原巡りを楽しんだであろう当時を思わせてリアル。
喜多川歌麿「当時全盛美人揃 越前屋内唐土 あやの をりの。細見で見た名前が、歌麿の浮世絵で登場!「これが評判の美人かい!一枚おくれ。」と、飛ぶように売れたことだろう。
喜多川歌麿「歌撰恋之部 物思恋」「歌撰恋之部 深く忍恋」。フランスギメ美術館が誇る、紫、ピンクが鮮明に残る歌麿浮世絵の名品。往時の画面の美しさに溜め息。
□写楽とライバルたち
出版界不況の中、自信の大首絵を携えて颯爽と登場する写楽。同時期に活躍した他の浮世絵師、歌川豊国、勝川春英等の作品と並べて展示することで、その特徴を浮き彫りにする。歌舞伎演目ごとに整理して並べてあるので、そのストーリーを踏まえて各絵師の描写を見比べられるのがとても親切。
前半の主役は写楽。役者自身の特徴を捉え、見得きりポーズもキッチリ決めた大胆な大首絵はとても目立つ。
東州斎写楽「三代目大谷鬼次の江戸兵衛」「初代市川男女蔵の奴一平」。「恋女房染分手綱」で対決する二人を、二枚組構図で表現。ロビーで上映されている再現映像も分かりやすくて、理解が深まる。凄い迫力。人気のほどが想像できる。
後半になると写楽は姿を消して、歌川豊国が躍進する。長寿命=絵師の実力とすると、時代を背負ったのは豊国。そこに閃光の如く登場して、数枚の名作を以って歴史に名を残し、あっという間に舞台から消えたのが写楽。
「あっ、これは活きが良い」「これは女形なのにオッサンすぎてひどい」「豊国もなかなか似てるねえ」。往時の賑わいに紛れ込んで絵を見比べ、お気に入りを探す。作品をズラリと揃える本展ならではの贅沢なひと時。
□写楽の全貌
そして本編。時系列順に4期に分けて、写楽作品の全貌を示す。さらに歌舞伎演目ごとに細分化し、演目内の人物関係を1分にまとめた映像で紹介。人物相関が分かると、絵を観る視点がグググッとミーハー方向に深まる。もう気分は話題の歌舞伎演目の開幕を待ちきれずに、役者ブロマイドを眺めながらあれやこれやと想像をめぐらす町人の気分。同時に、あっという間に魅力を失う画風に、急速に興味を失う。
□写楽の残影
他絵師の浮世絵に描き込まれた写楽画、取り込まれた見得きりポーズを並べて、写楽の影響がうかがえる浮世絵を紹介。でも、一番の残影は、現代でもこうして繰り返し開かれる大回顧展だなあと思う。一瞬が永遠になる「写楽」という現象。
写楽展といえば、1995年に東武美術館で開催された「大写楽展」が記憶に残っています。バブル残滓の残る時期の開館記念展ということで、ずいぶんと力の入った展示でした。主催は今回と同じくNHK、NHKプロモーション。今回が前回と比べてとても優れているのは、丁寧な解説と見せる工夫だと思います。写楽登場の前史を、題材、生産システムの2面から解き明かし、さらにライバルたちの作品と並列展示することで時代の空気を再現。その上で作品相互の関係を簡潔に解説しつつ「写楽」を紹介。当時の雰囲気にタイムスリップしながら浮世絵に夢中になるひとときは、数多くの優品を揃えた本展だけが成し得る体験でしょう。まさに「役者は揃った」。2005年の「北斎展」と並ぶ空前絶後の展覧会だと思います。
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