2011年01月01日

●江~姫たちの戦国~@江戸東京博物館

 江戸東京博物館で明日から開催される特別展「江~姫たちの戦国~」の内覧会を観ました。今年のNHK大河ドラマの主人公「江」の時代背景と人物関係を丁寧に解き明かしていきます。音声ガイドの語りは、ドラマで江の母・お市の方を演じる鈴木保奈美さん。愛娘を愛しむようにしっとりと語られますが、女性には敬称付、男性は敬称略な語りに、本作の視点を感じます。

 【I 江の父母と叔父】
 江は元亀4年(1573)に、50年にわたって北近江を統治した戦国大名浅井長政と、織田信長の妹・市の間に生まれた三人姉妹の末っ子。叔父である信長の手によって浅井氏は滅亡。その信長も本能寺の変で討死。さらに柴田勝家の元に再嫁した母・市は秀吉に攻められて夫とともに自害します。

 まずは序章。「姉川合戦図屏風」「屏風賤ヶ岳合戦図屏風」「安土城伝米倉跡出土金箔鯱瓦」。戦国時代に名高い二つの合戦と安土城遺構の周りを、主要人物肖像画と文書で固めます。実物で観る教科書。

 注:会場内の写真は内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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 【II 江の姉・茶々が嫁いだ豊臣家】
 三人娘の長女は、かの有名な秀吉の側室、淀殿。
 「聚楽第行幸図屏風」「醍醐花見短冊」。豪華絢爛桃山文化の華といえば、この2点。信長、家康が大名の出なのに対して、秀吉は足軽の出。その負い目がバネになったのだろうか。下克上の王者が造らせた超バブル文化。その絶頂から滅亡までを、豊臣家縁の人物を紹介しながら辿ります。跡継ぎの誕生を機に、一族を根絶やしにされた「豊臣秀次・一族像」が強烈。

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 【III 江の姉・初と京極家】
 三人娘の次女・初の嫁ぎ先は北近江の名門、京極家当主・高次。本能寺の変で明智方について失脚したり、関が原の合戦で落城寸前まで追い込まれたりするも、最後は若狭国小浜八万五千石の城主となる。その影には秀吉の側室となった高次の姉(妹?)・松の丸と、茶々の妹・初の働きかけがあったらしい。「京極高次像」の丸い顔立ちに、時代の読みがちょっと弱い良家の坊ちゃんというイメージが膨らみました。


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 【IV 江が嫁いだ徳川家】
 そして江。二度の結婚の後、徳川家康の三男、秀忠に嫁ぎます。家康の手によって戦国時代に終止符が打たれ、徳川時代へ。長男家光は三代将軍となり、五女和子は後水尾天皇の中宮となって明正天皇を生みます。ドドーンと鎮座する「江戸図屏風」に、時代の勝者の貫禄が漂います。そんな江ですが、遺品が非常に少なく、展覧会冒頭に登場する二点(時期をずらして展示するので、観られるのは一点づつ)の書状しか残っていないそうです。

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 最後に登場するのが、本展の最大の見所、「崇源院宮殿(くうでん)」。真っ黒なブースに神々しく浮かび上がります。崇源院は江の死後、江に送られた諡号。宮殿(くうでん)とは、厨子の一種で、建物の屋根に類した構造を持つ形式や技法を以って制作されたモノを称するそうです。

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 複雑に入り組んだ人物相関展に相応しく、本作の由来もかなり複雑。将軍の後継ぎ争いに敗れた次男忠長が駿府に建立した崇源院霊廟内に安置され、享保年間以降に祐天寺に移されたモノ。さらに長い間徳川家康の宮殿と考えられていたのが、最近の修復に伴い崇源院の宮殿であることが確認されたそうです。加えて忠長は、本件が元で自害に追いやられます。
 全面に施された装飾は保存状態も良好で見応えがあります。

 三人姉妹ごとに章を割り振り、空白の江像を浮かび上がらせる見事な構成と、宮殿のビジュアル・インパクト。負ければ終わりの男のドラマの裏側で、政略結婚の駒として扱われながらも生き抜き、血を残す女のドラマ。とても良く出来た、歴史絵巻のテキストです。

Posted by mizdesign at 2011年01月01日 22:00
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