2010年05月31日
●5月の鑑賞記録
5/3
◎国宝燕子花図屏風@根津美術館
金地に草花のコンポジション、垣根を使った構成の切替、呉服屋内観。それらが燕子花図でピタリと像を結ぶ。さらに大胆な構図を他2点で補強。仁清の立体絵画美が彩りを添える。明快で圧倒的な美の洪水に身を任せる至福のひととき。
◎ルーシー・リー展@国立新美術館
愛らしいピンク、深淵な青、透明感溢れる緑。口元を引き締める濃茶に、天に昇るスパイラル文。円熟期の華麗な世界に向けて収束するエンターテイメント。研究ノート、BBCインタビューのチャーミングな笑顔が華を添える。観客はみんな彼女のファンになるに違いない。
アーティスト・ファイル 2010@国立新美術館
O JUNさんの壁一面の原色系?ペイントの迫力と、斎藤ちさとさんの泡写真を覗き込む体験が印象的。全体としてはとても希薄に思える。
六本木クロッシング 2010@森美術館
宇治野宗輝の自動演奏マシーンが楽しい。加藤翼の共同作業の熱気が熱い。青山悟の暗闇に浮かぶメタリック刺繍が美しい。音声ガイドから流れるメッセージ性をとても強調する解説に違和感を覚えた。
5/4
○細川家の至宝@東京国立博物館平成館
前半は細川家列伝。幽斎、忠興といった本筋、ヒロインガラシャ婦人、武人武蔵と幅広い。文武が交差する古今伝授が最高潮。後半は永青文庫名品展。春草の黒き猫に和む。テーマが拡散気味でちょっと散漫。中世から現代まで続く名家のお宝展として、思いのほか楽しめた。
市井の山居/細川護熙展@メゾンエルメス8階フォーラム
ガラスの水流、苔むす露地、杉板の茶室。見立てによる空間構成と各所に配された茶器、絵画。どことなく漂う脱力感。とにかく細川家当主はめちゃくちゃ楽しそうだ。
5/5
○建築はどこにあるの?@東京国立近代美術館
中村竜治さんの、構造材を極細化して現れる霧のような存在感がすごい。中山大介さんの草原の中のピクニックイメージも素敵。インテリア的に思えるのは、パワーから繊細さへと、時代がシフトしてるのだろうか。
○マネとモダン・パリ@三菱一号館美術館
館長の愛するモネと、近代パリ大改造のダブルテーマを込めた、華々しい開館展。モリゾの黒、ブラン氏の青、ともに以前上野で観たときと全然違う。靴音が響き渡るフローリングがたまにきず。
5/9
等伯の足跡探訪、現代との接点、現代版利休inへうげものを含む現代アート@アートフェア京都。そして等伯展@京博へ。
大徳寺 真珠庵、玉林院、高桐院
飛躍の舞台かつ利休との接点、大徳寺三門。学習の足跡、曾我蛇足襖絵@真珠庵。内部と庭園が連続する空間体験@玉林院、高桐院。
きょう・せい 第2期@京都市立芸術大学ギャラリーKCUA
岡田真希人さんのインスタレーションがパワフルで綺麗だった。芳木真理絵さんのプリント積層作品はオープンスタジオのときの強烈な存在感を感じず。展示場所を選ぶタイプ?
トラフ展「inside out / outside in」@radlab.
新進気鋭建築家ユニットが、建築的手法でもって、アート、プロダクト領域を横断する。空気の器は切り込みを入れた円環紙を引っ張ることで造形する即興的な手法と、色彩が相まった美しさ。建どこ展に通じる軽やかさを感じる。
○アートフェア京都@ホテルモントレ京都4階客室
展示方法で児玉画廊、展示内容で小山登美夫ギャラリーが充実。帝塚山ギャラリーの住吉さんは一家に一台欲しい、ギャラリーMOMOの村田さんは新機軸、不忍画廊の山田さんのカエルはあまり光らなかった。でも10月の個展は楽しみ。そんなわけでとても楽しかった。
◎没後400年 特別展覧会 長谷川等伯@京都国立博物館
春信期を前段、狩野派との抗争と桃山絵画の精華を中段、水墨画から松林図を後段にすえた等伯一代記。400年前の遺構を題材に現代の価値観を反映、再構築した物語。かくして等伯は現代によみがえった。
5/16
◎伊藤若冲 アナザーワールド@静岡県立美術館
若冲絵画を水墨画と色彩画の融合と捉え、水墨画を中心に構成する展示。同時代の画家や未完成の表現を織り交ぜながら、融合到達点として仙人掌群鶏図を見せる展開がカッコイイ。細密美麗彩色画から始まった現代若冲再生物語は、象と鯨図屏風発見という大イベントを挟み、アナザーサイドを経て大団円を迎えた。
◎又兵衛絵巻と北斎・広重風景版画の名作@MOA美術館
浄瑠璃物語絵巻全12巻、一斉公開!息を呑むほどに華麗かつ緻密に描き込まれた邸内の様子、衣装、調度品。物語に沿って絵巻の中を旅する体験。過剰かつ圧倒的な美を満喫。
5/29
◎オルセー美術館展2010 [ポスト印象派]@国立新美術館
前半はエメラルドグリーンとスカイブルーの背景に浮かぶ、モネの光の渦、セザンヌのタッチ、ゴーギャンの色彩構成。後半は赤茶色の背景に溶け込む、ドニのミューズたち、モローのオルフェウスの凄絶な美しさ。娯楽型展示として断トツの内容と空間構成を堪能。
○奈良美智展 セラミック・ワークス@小山登美夫ギャラリー
White Riotの遠目に可愛く、近づくほどに牙剥き出しの狂気が漲る様に釘付け。森子やおたふくの下膨れた圧倒的な量感はパタリロのようだ。奈良さんの頭の中を覗き込むような幻想感と、イメージを具現化する手腕に惚れ惚れ。カワイイは凶器。
戸谷成雄 ミニマルバロックVI@シュウゴアーツ
チェンソーで刻まれた荒々しい造形と、板の形を残す輪郭。それらが整然と並び、静的かつ動的な独特の空間と化していた。
○アニッシュ・カプーア展@SCAI THE BATHHOUSE
一瞬で視覚を分解し、聴覚を狂わすステンレスミラーが一番。石と漆の質感の対比が美しいオブジェが二番。多彩な幻惑体験が楽しい。ロンドンのタワーが楽しみ。
阪本トクロウ展 まなざし@ギャラリー桜の木銀座
雲の上に広がる青空、木々のシルエット越しに霞む遠景、道路の夜景。画面に漂う空気感が好きな作家さん。今回は開放的と閉鎖的の二極に分かれた感じ。
2010年05月16日
●伊藤若冲 アナザーワールド@静岡県立美術館
静岡県立美術館で本日まで開催された「伊藤若冲 アナザーワールド」。初日に行くつもりが桜の誘惑に負け、二度目の予定は思わぬ急用に延期を余儀なくされ、三度目の正直で最終日に滑り込みました。
第一章 若冲前史
同時代の画家たちの作品から、若冲に似た表現をピックアップ。若冲絵画を異端児としてでなく、時代の流れの中から生まれたと位置づけます。
大岡春卜「墨花争奇」。濃墨、薄墨、ぼかしから細密まで多彩な表現が目をひく。巻頭を飾る鳳凰も印象深い。若冲の元ネタの一つだろう。
第二章 初期作品
若冲になる前の若冲絵画。その変遷を辿れるところが本展の魅力。
「花卉双鶏図」、「雪梅雄鶏図」、「隠元豆・玉蜀黍図」。平面を立体的に見せる薄墨表現、美しい彩色、細密表現は完成されているが、大胆なポーズとりやデフォルメがまだない彩色画。
「花鳥蔬菜図押絵貼屏風」。濃墨による力強い表現、薄墨による筋目書きといった実験が詰まった屏風。
第三章 着色画と水墨画
水墨画で培った表現を彩色画に取り入れ、その融合を以って若冲絵画の特徴となす。
「仙人掌群鶏図」。両者の融合到達点として登場!金地に躍動する鶏たちのかっこよさにしびれる。
「樹下鳥獣図屏風」、「果蔬涅槃図」。この二点を観るためにここまで来た!前者は痛みが目立つ。「白象群獸図」が若冲筆で、こちらは若冲監修かなあ。後者は仏教徒と八百屋という若冲の両面がユーモアタップリに描かれていて楽しい。
第四章 晩年-多様なる展開
「石峰図」。府中市美術館で心地よいサプライズを演出した、京博の隠し玉。久々に再会。ユーモアかつ大胆な筆捌きが冴える!
動植物綵絵に代表される美麗彩色画をメインストリーム、水墨画をアナザーワールドと位置付ける構成は明快、展示数も豊富。現代における若冲再生物語は、美麗細密彩色画から始まり、象鯨図屏風発見という大イベントを挟み、アナザーワールドを経て大団円を迎えた。
若冲関連エントリー:
皇室の名宝-日本美の華- 1期 (前編)@東京国立博物館平成館
若冲ワンダーランド(第1期)@MIHO MUSEUM
「山水に遊ぶ-江戸絵画の風景250年」(前期)@府中市美術館
特別展「対決 ―巨匠たちの日本美術」記念講演会 美と個性の対決
東京アートツアー 東博
四国の旅 その5 「金刀比羅宮 書院の美」
市民美術講座2007「伊藤若冲 -若冲とその時代-」@千葉市美術館
若冲とその時代@千葉市美術館
金刀比羅宮 書院の美@東京藝術大学大学美術館
若冲展 釈迦三尊像と動植綵絵120年ぶりの再会 その2
若冲展 釈迦三尊像と動植綵絵120年ぶりの再会 その1
動物絵画の100年@府中市美術館
花鳥-愛でる心、彩る技 <若冲を中心に> 第5期@三の丸尚蔵館
花鳥-愛でる心、彩る技 <若冲を中心に> 第4期@三の丸尚蔵館
花鳥-愛でる心、彩る技 <若冲を中心に> 第3期@三の丸尚蔵館
花鳥-愛でる心、彩る技 <若冲を中心に> 第2期@三の丸尚蔵館
花鳥-愛でる心、彩る技 <若冲を中心に> 第1期最終日@三の丸尚蔵館
花鳥-愛でる心、彩る技 <若冲を中心に> 第1期@三の丸尚蔵館
若冲と江戸絵画展 その2@東京国立博物館平成館
若冲と江戸絵画展 その1@東京国立博物館平成館
ニューヨーク・バーク・コレクション展
2010年05月09日
●没後400年 特別展覧会 長谷川等伯@京都国立博物館
京都国立博物館で開催された「没後400年 特別展覧会 長谷川等伯」を観ました。あの「特別展覧会 狩野永徳」から3年、待ちに待った桃山文化の祭典!展示自体は照明環境に優れた東京国立博物館平成館で鑑賞済み。今回は等伯の足跡と展示を重ねることで、立体的に楽しむ趣向です。
まずは等伯飛躍の舞台かつ利休との接点である、大徳寺三門へ。ここにあの天井画が!でも非公開かつ案内もありません。
特別公開中の真珠庵、玉林院。さらに新緑が目に沁みる高桐院へ。等伯が学んだ曾我蛇足をはじめとする襖絵を鑑賞、内部と庭園が連続する空間構成を体験しました。
さらに現代との接点として、現代版利休が登場する「へうげもの」@アートフェア京都を観て、京博へ。
第1章 能登の絵仏師・長谷川信春
等伯前史。細密な技巧と、敬虔な祈りの仏画。
第2章 転機のとき-上洛、等伯の誕生-
「三玄院襖絵 山水図」。相手の留守に上がりこんで描いたという荒っぽいエピソードと、見事な筆捌き。雌伏のときを経て、等伯デビュー。
第3章 等伯をめぐる人々-肖像画-
大徳寺三門天井絵再現展示。松林に囲まれた赤い金毛閣。その中に広がる仏画ワールド。観たい!体験したい!
「千利休像」。黒装束に身を包み、どっしりと構える眼差しが怖い。東博で観たときと凄みが全然違う。
第4章 桃山謳歌-金碧画-
「楓図壁貼付」。細かに書き込まれた草花が、永徳との争いの炎であり、製作に注ぎ込まれる膨大なエネルギーの放散に見える。智積院で観たときより遥かに精気が漲っている。
「弁慶昌俊相騎馬絵馬」。京都限定、等伯晩年の大作。衰えぬ意欲と技巧。
本来なら本展のクライマックスとなる章ですが、残念ながら点数が少ないです。焼けてしまったのか、もともと数が少ないのか。
第5章 信仰のあかし-本法寺と等伯-
「仏涅槃図」。大作。天井高が足りないのは東博と同じですが、下部を緩めに傾斜をつけることでかなり自然に見えます。そのスケール感から、後継者久蔵を失った悲しみと、仏への敬謙な祈りの深さが感じられる。
第6章 墨の魔術師-水墨画への傾倒-
真珠庵、高桐院をはじめ、大徳寺塔頭の襖絵が登場。実際の空間と襖絵を頭の中で合成すると、臨場感倍増。
第7章 松林図の世界
「松林図屏風」。真っ直ぐ伸ばしての展示が新鮮。障壁画(の下絵)として製作されたと予測する解説文に説得力あり。やっぱり下絵だよなあ。とすると喪失感溢れるとする見立ては、伝説化の産物か?はたまた本絵は存在するのだろうか?真相を霧の中に、終幕。
400年前の絵画と遺構を題材に、現代の価値観を反映、再構築した等伯一代記。かくして等伯は現代によみがえった!
2010年05月06日
●建築はどこにあるの?@東京国立近代美術館
東京国立近代美術館で開催中の「建築はどこにあるの? 7つのインスタレーション」を観ました。
中村竜二「とうもろこし畑」。構造体を極細化+集積することで生まれる、霧のような存在感。まだ観ぬ「可能性としての建築」はここにあると思った。
中山英之「草原の大きな扉」。大きく開いた扉が、建物の中と外を反転する。草原でのピクニックイメージが気持ち良い。
内藤廣「赤縞」。内装工事で活躍するレーザー水平器を活用。レーザーで規定された空間を、人が動くことで柔らかく造形する。建築というより、トロンの世界に迷い込んだ気分。
菊池宏「ある部屋の一日」。模型の周りをライトが周回し、その光の変化を原寸模型の壁面に映しだす。その移ろいはBGMと相まって詩的で美しい。
伊東豊雄「うちのうちのうち」。実現もしくは実現に向けて進行中のプロジェクトから、そのエッセンスを発展させた形で再構成。現実に軸足を置きながら、詩的な空間を現出させる力量はさすが。
見せ方の達人たちが様々な手法でもって、建築はどこにあるの?と問いかける。視覚ゲームとして面白い。その一方で、建築家がアートワークを作成する意義って何だろう?という疑問を感じました。
2010年05月03日
●国宝燕子花図屏風@根津美術館
初夏の風が気持ち良いGWの中日、根津美術館で開催中の「国宝燕子花図屏風」を観ました。新・根津美術館開館から半年、満を持しての開催です。10分弱の待ち時間を経て入館、まずは庭園へ。水面に映りこむ新緑と青空、それをローアングルで捉える視点設定。都市の超一等地で観る絶景は、夢幻の如し。
弘仁亭の燕子花は満開。季節に祝福されるように館内へと戻ります。
第一展示室
冒頭は宗達工房が2双。華やかに「燕子花」以前の草花図屏風を解説します。
「四季草花図屏風」「伊年」印。金地に細密な草花描写、下地が透けるような着色。
「夏秋草図屏風」「伊年」印。流れるような草花のコンポジションが登場。
「色絵山寺図茶壺」野々村仁清。華麗なる立体絵画の美が、平面美の洪水に彩を添えます。
「桜下蹴鞠図屏風」。公家たちが優雅に蹴鞠を興じる右隻、主を待つ従者たちを活き活きと描写する左隻。斜めに垣根を挿入する場面転換、両手を突き上げるポーズ、大胆な画面構成。
「誰が袖図屏風」。様々な色彩、柄が並ぶ、呉服屋内観。その様はデザインの宝庫のよう。
そして真打ち登場!
「燕子花図屏風」尾形光琳。大胆に省略された金地に緑と青、LED照明に浮かび上がる花びらの書き分け。燕子花の咲く季節、金地に草花のコンポジション、大胆かつリズミカルな画面構成、そのセンスを育んだ生活環境。それら断片がピタリと像を結ぶ構成は圧巻。
その横に光琳屏風が2双。
「夏草図屏風」尾形光琳。リズミカルな配置が「燕子花図屏風」から連続する。描写は細密へと変奏する。
「白楽天図屏風」尾形光琳。大きく反る船形が、大胆さを旨とする光琳らしい。
第二展示室
光琳の周辺と継承者たち。
「夏秋渓流図屏風」鈴木其一。極端な単純化と細密描写の混交、金線で縁取られた波、スケール感の混乱。それらが生み出す独特の魅力に満ちた世界。それは同時に、近代デザインへの橋渡し。
圧倒的な美の洪水に浸る至福のひととき!かくして根津美術館が名実ともに新生しました。建築、庭園、作品が一体となった、素晴らしい再生劇でした。
参考:以前に本ブログに掲載したエントリー
「燕子花図と藤花図」2006/05/08。閉館前最後の展覧会の様子です。
「新・根津美術館」2009/10/07。根津美術館、新創開館の様子です。