2010年03月28日
●マイ・フェイバリット--とある美術の検索目録/所蔵品から@京都国立近代美術館
藤田美術館を後にして、京阪特急で京橋から祇園四条へ移動。白川沿いに散策しながら京都国立近代美術館を目指しました。
満開の枝垂桜の下、陽光煌く水辺にアオサギが佇む。
柳の新緑が爽やかな川辺を遡行。
疎水の桜が咲き始めた京都国立近代美術館に到着。「マイ・フェイバリット--とある美術の検索目録/所蔵作品から」を観ました。
やなぎみわ「案内嬢の部屋1F」を横手に観ながら大階段を登って3Fへ。記念すべき種別【その他】第一号、マルセル・デュシャンから展示が始まります。
高嶺格「Baby Insa-dong」。連作写真とテキストが一体となってストライプ状に壁面を周回する。その展示方法と物語性に惹き付けられてじっくりと観た。
野島康三「仏手柑」。森村泰昌「フィンガー・シュトロン(ノジマ)」。版画のような質感の写真に写る、手のような蜜柑。そこから始まり、手そのものへと変容してゆく写真。その力押しの説得力に惹かれる。
クシシュトフ・ヴォディチコ「ニューヨークのポリスカー 1-5」。三段変形で歩行、走行、休息をこなす装甲車プロジェクト。コンセプト+原寸モックアップによる実現感満点のプレゼンに惹き込まれる。
クシシュトフ・ヴォディチコ「もし不審なものを見かけたら…」。ブース壁面に仕掛けられた映像と音声が生み出す雑多な臨場感が妙にリアル。冷静さに潜む不安、困惑、混乱が伝わってくるよう。
やなぎみわ「次の階を探してI」。大きなボールト天井の明暗、マネキンのように佇むエレベーターガールたち。生物が作り物に見えるヴィジュアル構想力がすごい。
4階はウィリアム・ケントリッジの映像から。
赤瀬川源平、森村泰昌といった手強い系作家の偽札展示の横に、あるがせいじ「無題」が並んでいてホッとする。技巧に酔える分、気が楽。
都築響一「着倒れ方丈記」。写真集「TOKYO STYLE」のファンなので、嬉しいサプライズ。でもいつの間にアートワークになったんだ?相変わらずの強烈なライフスタイルの主張と、濃密な写真の組み合わせをじっくりと観た。
最後に建築家デザインによるティーセット。マイヤーやロッシは「らしさ」がしっかりと表現されていて流石な出来。本業では巨匠でもアウェイでは【その他】なところにちょっと和む。ロバート・ヴェンチューリ「シェラトン」は「装飾された小屋」を見事に体現している。これも種別【その他】。なんか分類の余白を観るようで面白い。
この展示はカタログ序文を読み込むことから始まります。美術作品が「閉じたテキスト」であるのか「書き込み可能な開かれたテキスト」なのかを問いかけ、辞書及び人気ノベルとの相関性を「発見」した上で副題「Index」に辿り着きます。それらのお膳立てを踏まえて、鑑賞者は自分で解釈を組み立て、マイ・フェイバリットを探し出す。読み込みに少々手間がかかりますが、「観る」ことが「知的操作」のようで好奇心をかきたてられます。
●歴史を彩る 教科書に載る名品@藤田美術館
藤田美術館で開催中の「歴史を彩る 教科書に載る名品」を観ました。春秋の特別展のみを開催、展示室は蔵の中という異色の展示形態ながら、所蔵品は名品揃いの藤田美術館、初訪問。
展示は2階から。飛鳥から室町時代の名品を中心に並びます。
「法隆寺金堂天蓋付属飛天像」。間近で観られるのが嬉しい。「法隆寺金堂展」を思い出しながらじっくりと観た。
「柴門新月図」。室町時代の作とは思えない瑞々しい墨の描写に目が留まる。風になびく竹林は広重の庄野を思わせる。静かな画面に動きが感じられる。
「平家琵琶 銘 千寿」。演者が背負って諸国を廻ったという、少し小柄な琵琶。とはいえけっこう重そう。これをかき鳴らしながら、「諸行無常の響きあり」と語る様が目に浮かぶ。
「桜狩蒔絵硯箱」尾形光琳作。和歌と風景が一体化した画面構成はグラフィックデザインのよう。七色に輝く螺鈿の花が美しい。光悦の写し。
「曜変天目茶碗」。思ったよりもかなり小振り。その内側に、写真で何度も観た青と黒の宇宙が広がる。誰もいない島型展示ケースで独り占め鑑賞する至福のひととき。
1階は江戸時代の名品を中心に。
「色絵輪宝羯磨文香炉」野々村仁清。「銹絵絵替角皿(鶴・梅)」尾形乾山(尾形光琳 画)。当然のように並ぶ、仁清と乾山。光琳のゆるい筆遣いも冴えてます。
「蔦鴨図」円山応挙。波濤の上で姿勢転換する鴨の躍動感。写生の応挙の面目躍如!
「幽霊・髑髏仔犬・白蔵寸三幅対」長澤芦雪。応挙を写す幽霊、仔犬と髑髏が並ぶ不気味な右幅。画中に枠を描き込むだまし絵的な構成。技と型破りな芦雪らしさが楽しい。
「織耕図屏風 右隻」英一蝶。一際目を惹く大判屏風は英一蝶。稲作風景の細やかな描写。板橋美術館の英一蝶展に行けなかったのが悔やまれる。
「紫式部日記絵詞」。藤原道長ってどんな容姿だったのだろう。そのイメージの一端を担うのが、この絵詞中の描写とのこと。歴史を形作るパーツとしての美術品。何場面も展示されているので、絵巻としての美しさと物語性を堪能。
国宝、重文がズラリ並ぶ展示は濃密で、見応えタップリ。名品をじっくりと観る、至福のひとときです。
2010年03月08日
●修二会おたいまつ@東大寺二月堂
修二会@東大寺二月堂。
おたいまつ1時間前。すでに境内は身動きできないほどの人出。
19時消灯。しばらくして左手登り廊をおたいまつが登ってゆくのが見える。どよめく境内。
ドーン、ドーンという足音の後に、おたいまつが廊下を疾走!木造のお堂が燃えないかと心配するほどの大火力!大歓声!
降り注ぐ火の粉に、一年の無病息災を祈る。
欄干に据えたおたいまつが爆ぜる!充満する煙の匂い。大迫力の炎のイベントに大満足。終了時に拍手で沸いた。
2010年03月05日
●あいちアートの森 豊田プロジェクト 知覚の扉II@豊田市美術館
「あいちアートの森 豊田プロジェクト 知覚の扉II」の続きです。(前編はこちら。)
後半は現代建築の精華「豊田市美術館」。
展示室1。中原浩大《ビリジアン・アダプター+コウダイノモルフォII》。柔らかな光の満ちる空間に、赤と濃緑の有機的なインスタレーションが映えます。
展示室2。オラファー・エリアソン《グリーンランド・ランプ》。多面体ケースを通して全方位に照射される光が白壁に映りこんで、室全体を幻想的な空間に変えます。さすがと唸る美しさ。
展示室3から4へ至る通路には、和田みつひとのピンクのインスタレーションが彩りを添えます。「喜楽亭」の黄色のインスタレーションと対を成すことで、二つの会場の連続性を感じます。
展示室4。小谷元彦《9th Room》。鏡面6面体の箱の中で展開される、驚きの映像+空間体験。上を見上げれば果てしなく、下を見下ろししても果てしない。今回最大のインパクト!
展示室5。安田靫彦《梅花定窯瓶》。常設展も充実、春の訪れを感じます。
展覧会の後はレストラン「七州」。中庭に設置されたダニエル・ビュレン《色の浮遊-3つの破裂した小屋》の断片化された景色を眺めながら食べるランチは至福のひととき。
大正和風建築と、端正な現代建築。異なる時間軸に立ちながら、空間を規定するグリッドや周辺環境を取り込んだ空間構成に共通点が感じられます。アートを通して空間構造が浮かび上がる、興味深い展示だと思います。
2010年03月02日
●あいちアートの森 豊田プロジェクト 知覚の扉II@喜楽亭
あいちアートの森 豊田プロジェクト 知覚の扉IIを観ました。会場は「喜楽亭」と「豊田市美術館」の2カ所です。(後編はこちら)。
前半は大正和風建築「喜楽亭」。
中西信洋《Layer Drawing - 16x16》。玄関入って左手障子越しに、畳の間にズラリとアクリル箱が並ぶ様が覗きます。ホノ暗い空間と、アクリル箱を照らす光の組み合わせが美しい。
和田みつひと《仕切り、囲まれ、見つめられる》。廊下の先に広がる、黄色い光に満たされた回廊状の縁側。時間軸がボケたような幻想を覚えます。
小島久弥《1/120》。2階に上がった奥まった座敷に、シャッターで自動調光される自然光と、床の間に置かれた水を張った石庭。シャッターのジーッという機械音と、石庭水面の繊細な変化の対比が印象的です。
名知聡子《依存症》。三間続き間の真ん中。床の間から垂れ下がるように覗く女性の頭部と手、違い棚に置かれた小さな仏具。壁を画面に見立てる演出が、空間に奥行を与えます。
荒神明香《室内灯内室》。その左手の間。部屋と廊下を照明器具内に再現。入れ子空間に迷いこむような錯覚を覚えます。
山極満博《ちいさな展示室》。白梅と椿の咲く庭園に、さりげなく配されたアートワーク。宝探しのようで楽しいです。
畳、床板、塗り壁、柱梁といった時間の堆積を感じさせる空間と、軽やかでひねりのある現代アートの共演。光の演出を通してお互いの魅力を引き出しあう構成がとても魅力的です。