2009年07月27日

●7月の鑑賞記録

 7月の鑑賞記録です。
 7/3
SEVEN@西村画廊
 会場を闊歩する、三沢さんの犬猫に惚れ惚れ

内海聖史個展「色彩のこと」@スパイラルガーデン
 大作「色彩の下」が円形吹抜けに映える!

奇想の王国 だまし絵展@Bunkamura ザ・ミュージアム
 楽しさダントツの好企画

 7/4
写楽 幻の肉筆画@江戸東京博物館
 キャッチーなタイトルと、充実した内容

 7/5
岸田劉生展(後期)@損保ジャパン東郷青児美術館
 似顔絵だけで構成した展覧会

 万華鏡の世界展@森美術館
 会期最終日に行ったのは失敗だった

 7/18
 ゴーギャン展@東京国立近代美術館
 時に暴力的な、色彩の構成美

 所蔵作品展「近代日本の美術」(前期)@東京国立近代美術館
 4階がおすすめ!

日本の美・発見II やまと絵の譜(後期)@出光美術館
 江戸から始める構成が、親しみやすくて上手い

内海聖史展-千手-@GALERIE ANDO
 天井近くに浮かぶ、色彩の輪

鴻池朋子展 インタートラベラー 神話と遊ぶ人@東京オペラシティーアートギャラリー
 フィクション世界を往還する能力が、白い空間に炸裂する

 響きあう庭 東京オペラシティアートギャラリー収蔵品展@東京オペラシティーアートギャラリー
 伊庭さんの、クローズアップ構図の絵にはりついた

 7/19
建築家坂倉準三展 モダニズムを生きる 人間、都市、空間@神奈川県立近代美術館 鎌倉館
 存続の岐路に立つ建物で、モダニズムを問う

 美術館はぼくらの宝箱@神奈川県立美術館 鎌倉別館
 岸田劉生を訪ねて別館まで。松本俊介もたくさん

 美術の中の動物たち(前期)@鎌倉国宝館
 北斎の鷲に誘われて行ったら、後期だった

 建築家坂倉準三展 モダニズムを住む 住宅、家具、デザイン@パナソニック電工 汐留ミュージアム
 2部構成で、建築家の足跡を立体的に見せる

 ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破(二回目)
 マリは次作で巨大化して、ウルトラマンに変身するんじゃないかと思った

 7/25
 ル・コルビュジェと国立西洋美術館@国立西洋美術館
 世界文化遺産登録目指して、アピール中!

 常設展「中世末期から20世紀初頭にかけての西洋絵画とフランス近代彫刻」@国立西洋美術館
 嬉しい、無料鑑賞日だった!クールベがマイベスト!

 かたちは、うつる-国立西洋美術館所蔵版画展@国立西洋美術館
 テーマ別に並べることで、版画の魅力を深める

 池田光弘-漂う濃度-@シュウゴアーツ
 阪本トクロウ展@キドプレス
 佐伯洋江展@タカ・イシイギャラリー
 井上有一展@小山登美夫ギャラリー
 怒涛の清澄白河、現代アートめぐり

 7/26
コレクションの誕生、成長、変容―藝大美術館所蔵品選―@東京藝術大学美術館
 名作がズラリと並ぶ冒頭は夢見心地!

美しきアジアの玉手箱 シアトル美術館所蔵 日本・東洋美術名品展@サントリー美術館
 鹿下絵和歌絵巻は必見!

アイ・ウェイ・ウェイ展 何に因って?@森美術館
 強固なコンセプトと、職人技の造形。写真撮影可もうれしい

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2009年07月26日

●コレクションの誕生、成長、変容―藝大美術館所蔵品選―@東京藝術大学美術館

 東京藝術大学美術館で開催中の「コレクションの誕生、成長、変容―藝大美術館所蔵品選―」を観ました。こちらこちらで絶賛エントリーを読んで、楽しみにしていた展示です。

 「岩石」狩野芳崖。技の極みを追求するような岩と木のみの描写。右隣に並ぶ「悲母観音」の作り込まれた画面との対比で、異質感が映えます。掴みはバッチリ。

 「白雲紅樹」橋本雅邦。奥深い岩山に流れる水、紅樹、青樹の彩り。左隣の絶作「悲母観音」の仕上を託された雅邦の大作。この並び方が上手い。

 「伊香保の沼」松岡永丘。沼に足を浸し髪を振り乱して、悲しみの表情を浮かべる女性。情感豊かな描写に引き込まれる。

 「序の舞」上村松園。揺るぎない線描と、扇をくるりと返した刹那の美。帯の色彩も素晴らしい。松園の美学と、瞬間の緊張感が両立する名作。

 「一葉」鏑木清方。精緻に描きこまれた、淡く美しい画面。

 冒頭からここまで、名作が一気呵成に並ぶ様は圧巻。何度も往復しました。そして振り返ると。。。

 「群仙図屏風」曾我蕭白。妖しく微笑む西王母、怪鳥と化した鳳凰。背景の梅(?)といい、あきれるほど上手い。

 名作群と蕭白の間に「絵因果経」(国宝!)、「繍仏裂」を挟む展示は、至福の空間。時が経つのを忘れます。

 「百鬼夜行絵巻」。ユーモア溢れるタッチで描かれる、怪物たちの宴。

 「華炎」津田政廣。蓮の花に頭を寄せる天女。その形と赤い色彩が炎のようで見蕩れる。

 「金錯狩猟文銅筒」。細かな金細工が照明に浮かび上がる。古典と近代のコラボレーションにメロメロ。

 会場を移して西洋画コレクション。
 「靴屋の親爺」原田直次郎。先日見た「騎龍観音」が記憶に新しい画家の留学時代の作品。確かな画力と、背景にある試行の時代を思う。

 「黄泉比良坂」青木繁。頭を抱えて逃げるイザナギと、地の底へひきずりこまんと手を伸ばすイザナギ。緑のパステル地に塗り込められた女性群像が、神秘と怪奇の世界に誘う。

 「ティヴォリ、ヴィラ・デステの池」藤島武二。この絵も見覚えあり。近美で観たのか?両館コレクションが呼応するようで面白い。

 素晴らしい密度と美しさに圧倒されました。冒頭の展示は必見です!

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2009年07月24日

●建築家坂倉準三展 モダニズムを住む 住宅、家具、デザイン@パナソニック電工 汐留ミュージアム

 パナソニック電工 汐留ミュージアムで開催中の「建築家坂倉準三展 モダニズムを住む 住宅、家具、デザイン」を観ました。鎌倉展が大規模建築と都市に焦点を当てていたのに対して、こちらは住宅、家具が中心です。

 Section1 東京とパリ、伝統とモダンの間で
 Ta邸。正方形間取り+中庭というプランに、大屋根を乗せる。進取のデザインと、風土・伝統との折り合い。
 lh邸。外と中を一体化する、大扉の原寸模型が目を惹く。コルビュジェの下で学んだ軸吊り扉の応用。扉が歪まないように丸鋼で引っ張っていたり、押縁断面をハの字に加工したりといった工夫が良く分かる。
 Um邸画室。上村松園の画室とあって、興味をひく。しかし廊下と茶室の写真のみ。
 三保建築工芸。坂倉が起こした家具製作会社。領域横断的な活動から、生活全般をデザインするという気概が感じられる。

 Section3 個人住宅の多様な展開
 Ni邸。有名な「正面のない家」シリーズ。「見せる」外観を廃して、内外空間の連続で全体を構成する。1/20スケールの模型があって分かり易い。

 Section4 文化をつくる建築家の仕事
 シャルロット・ペリアンとの協働、ル・コルビュジェの展覧会。デザインという言葉の定着に向けての活動。

 2部構成を通して浮かび上がるのは、建築に対する真摯な姿勢。「社会」をデザインせんとする、活動領域の広さ。課題に対して現実的な解答を模索するスタンス。それらのアウトプットとしてのデザイン。そして、建築家の死後も生き続ける「建築」。とても良く出来た2部構成の展示です。

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2009年07月22日

●建築家坂倉準三展 モダニズムを生きる 人間、都市、空間@神奈川県立近代美術館

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 神奈川県立近代美術館 鎌倉館で開催中の「建築家坂倉準三展 モダニズムを生きる 人間、都市、空間」を観ました。

 モダニズムの巨匠「ル・コルビュジェ」の下で学んだ日本人の一人であり、日本の近代建築及びデザインの発展に大きく寄与した建築家「坂倉準三」の回顧展です。彼の代表作である「神奈川県立近代美術館 鎌倉館」と、住空間をテーマにした展示を意欲的に開催する「パナソニック電工 汐留ミュージアム」での2部構成の展示です。

 展示はコルビュジェのアトリエでの修行時代から始まります。当時携わったプロジェクトの図面、スケッチを通して、彼が学んだ素材、技法、考え方を紹介します。後の神奈川近美につながる、鉄骨造にセメント版を貼るアイデア。社会の要請に対する建築的回答としての、工業化住宅の在り方。

 華々しいデビューを飾る、1937年のパリ万博日本館。ゆったりとしたスロープで連結される敷地と建物、傾斜のある敷地を活かした配置計画。1/50模型と原寸木製ルーバーによる、臨場感ある空間の再現。

 帰国後の、物資の乏しい時代の工夫を凝らした設計活動。現実と向かいつつも、モダニズム空間の豊かさを獲得しようとする真摯な姿勢に感銘を受けます。そして日仏会館の設計を皮切りに、塩野義、東レといった企業との信頼関係を築いて次々と関連建築を手がける時代へ。さらに時代の上り調子を背景に役所、美術館、学校などを次々と手がけるようになります。

 もう一つ印象的なことは、出光の給油所に一つ一つ異なったデザインを考えるといった小さな建物にも情熱を注ぐ姿勢や、渋谷駅等の駅前再開発を交通動線を踏まえて検討するといった領域横断的な活動です。展示のクライマックスが新宿駅西口の再開発なことが象徴的です。

 会場から感じられるのは、終生変わらぬコルビュジェへの尊敬の念と、建築に留まらずプロダクトから都市計画まで、時代の要請に真摯に向き合う姿勢。その誠実さゆえに、造形面ではそれほど突出したモノを感じません。建物群の更新期を迎えるに当たり、坂倉建築もまた姿を消すのか、手を入れながら存続するのか。デザインの価値を問われる時代に入ります。

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  代表作である建物を体験しながら観る回顧展は非常に説得力があります。

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2009年07月20日

●鴻池朋子展 インタートラベラー 神話と遊ぶ人@東京オペラシティーアートギャラリー

 東京オペラシティーアートギャラリーで開催中の「鴻池朋子展 インタートラベラー 神話と遊ぶ人」を観ました。内面世界を旅して現世へと帰還し、その様を卓越した描写力と造形力と演出力で見せる、とてもパワフルなアーティストの最新展示。今回はなんと建築展で有名な「東京オペラシティーアートギャラリー」での開催とのことで、あの空間をどうやって満たすのか、期待満々で出かけました。

 物語世界への導入は「インタートラベラー」。下半身のみの像がロビースペースに腰をかけ、記念撮影OKと呼び込みます。隣に腰掛けた瞬間が、旅の始まり。

 「隠れマウンテンロッジ」で登場した襖絵が開かれて、地底へGO!かつての主役も、今回は導入役。「ネオテニー展」でのガラスオオカミといい、過去の作品を違った見せ方で使うのが上手い。作品=キャラクターへの愛着が感じられます。

 絵本「みみお」原画。渦巻きのように並ぶ原画を辿って、ぐるぐる。空には「バージニア-束縛と解放の飛行」が飛びます。

 暗幕で区切った別室へ。百合の花を生けた空間の四面に四枚の大作。花は時間とともに朽ちて、腐臭を放つ。。。美しさと不気味さに満ちた世界へと向かう休憩室。

 「シラ-谷の者 野の者」。襖に展開される物語。金粉をふんだんに使った、華やかで禍々しい画面。

 「ミミオ-オデッセイ」。通路の曲がり角に開かれた大きな本。そこに投影される、ミミオの旅。本当にその旅を目撃しているかのような臨場感があって良かった。

 そして旅の焦点「赤ん坊」に辿り着きます。その巨大さ、鏡の表皮に乱反射する光、作り込まれた舞台は圧巻。新しい物語の誕生か、終末か。その瞬間に立ち会う興奮に、時間が経つのを忘れます。

 ものすごい存在感で迫るフィクション!視覚は言うに及ばず、触覚、嗅覚までも喚起する展示は圧倒的です。

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2009年07月19日

●「日本の美・発見II やまと絵の譜」@出光美術館

 出光美術館で開催中の「日本の美II やまと絵の譜」を観ました。「やまと絵」の厳密な定義にこだわるのではなく、そのときそのときに「やまと絵」として楽しんできた作品を見ていって、今に繋がるイメージを探そうよという企画です。

 第一章 「うつつ」をうつす-「やまと絵」と浮世絵
 「野々宮図」岩佐又兵衛。胸を反らせたポーズが江戸離れしていてステキ。
 「在原業平図」岩佐又兵衛。いつも座して描かれる業平を、あえて立たせる着眼点。常に新しいところを目指す、売れっ子絵師が眼に浮かびます。
 「四季日待図巻」英一蝶。夜を徹して日の出を待つドンチャン騒ぎの様子。浮世の楽しみを描いてこそ「やまと絵」。流刑の際に描いたという解説を読んでしんみり。
 「凧揚げ図」英一蝶。細く絞った画面が生み出す上昇感と、たわんだ糸が生み出す余力。豊かな発想力が楽しい。
 「江戸名所図屏風」筆者不詳。町の賑わいが仔細に描かれていて、観て楽しい。庶民が圧倒的に主役なところが、さすが江戸。

 第二章 「物語」をうつす-「やまと絵」絵巻の諸相
 時代を巻き戻して、素朴な描写から美しい彩色画面まで、絵巻がズラズラ。絵巻の体裁上場面替えが多く、一部しか見られないのが残念。

 第三章 「自然」をうつす-「やまと絵」屏風とその展開
 「日月四季花鳥図屏風」筆者不詳。花鳥画でありながら、原始の世界に迷い込んだような力強さ。本展の顔に相応しい。

 「うつつ」、「物語」、「自然」。明快なテーマ設定と、出光が誇る名品の数々に囲まれる至福のひと時。絵にうつるモノが自然ならば内海さん、物語ならば鴻池さんといった方々の絵も「やまと絵」と呼ぶだろうか?最後に今に生きる自分へ問いかけて終わり。素敵な展示をありがとうございました。

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●所蔵作品展「近代日本の美術」@東京国立近代美術館

 東京国立近代美術館で開催中の所蔵名品展「近代日本の美術」を観ました。前期(6/13-8/9)と後期(8/11-9/23)で大幅に日本画を入れ替えるそうです。

 個人的にツボだったのは4階。
 原田直次郎「騎龍観音」。つぶらな瞳の龍に乗った白衣観音。日本に洋画手法を馴染ませる試みとして生まれた、空想画のような仏画(?)が魅力的。
 小林古径「加賀鳶」。炎上する江戸市街と、火消しに向かう加賀鳶たち。渦を巻く炎、線描の美しい建物、シルエットで捉えた人物群像。若き日の古径らしい精緻な描写。
 川合玉堂「小松内府図」。古径に続いて、玉堂の精緻な歴史画。主人公である平重盛の紺の上衣とその下に透けるオレンジ色び描写。鎧武者たちの細密な鎧描写。素晴らしい臨場感。
 菱田春草「四季山水」。長い巻物を全巻開いて見せているところが嬉しい。

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●ゴーギャン展@東京国立近代美術館

 7月に入ったと思っていたら、あっという間に三連休入り。どこへ行っても親子連れで混んでそうな雰囲気の中、東京国立近代美術館で開催中の「ゴーギャン展」へ出かけました。

 入口前に行列用の白テントを張り、東京駅への無料シャトルバスを運行し、金土は20:00までの夜間開館を実施。これから伸びるであろう人出に対して、万全の備え。プロモーションにも力を入れていて、「この夏一番の話題展」の自覚十分。幸い入場待ちの行列はなく、スムーズに入館。

 第1章 野性の開放
 「馬の頭部のある静物」。ブリヂストン美術館のお馴染みの名画。(当時から見た)過去と現在が併置される画面。
 「アルルカンの並木路、アルル」。損保ジャパン東郷青児美術館のお馴染みの名画。流れる滝のような落ち葉が印象的。
 「洗濯する女たち、アルル」。斜め構図に面的な色彩。
 「海辺に立つブルターニュの少女たち」。早くも登場するタヒチ風な顔立ちと足のボリューム。
 「二人のブルターニュ女のいる風景」。色に還元される背景、のたうつ異形の樹。野性的なファンタジー。
 「純潔の喪失」。横たわる少女と意味ありげによりそう狐。背景のピンク色が生肉のようでグロテスク。とても後味の悪いクライマックス。

 第2章 タヒチへ
 「タヒチの風景」。面的な色彩に空が加わって、動きを感じさせる画面。
 「小屋の前の犬、タヒチ」。強烈な存在感のあるオレンジ色の屋根。
 「パレットを持つ自画像」。画面を通して伝わる、強烈な自意識。
 「エ・ハレ・オエ・イ・ヒア(どこへ行くの?)」。豊穣な身体と色彩、不自然な角度に曲がる腕と犬。画面と張り付くように放散される、強烈な自意識。

 第3章 漂白のさだめ
 「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」。液晶モニター二台で見所解説をした上で、最大の話題作の登場。さらに本作から派生する作品と晩年の作品。

 作品数は絵画29点+版画24点。「我々は・・・」を最大の焦点とする、ゴーギャンの絵の変遷を辿る企画展です。「我々は・・・」に没入できるかどうかで、展覧会の印象は大きく異なります。

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2009年07月18日

●内海聖史展-千手-@GALERIE ANDO

 GALERIE ANDOで開催中の「内海聖史展-千手-」を観ました。

 本展の特徴は、小さな変形平面のギャラリースペースを踏まえて、天井近くに作品を並べていること。視点と作品との間に適度な距離が生まれ、色彩にぐるりと囲まれる感じが気持ち良いです。青、緑、黄、ピンク、赤、紫と変化する色彩の並べ方は、時間軸よりもグランデーションを優先した順番のように思えます。そして色彩の「輪」としての連続性を生み出します。

 スパイラルがパブリックスペースでの作品の在り方ならば、こちらはプライベートスペースでの作品の在り方を提示するようで興味深いです。シンプルで奥行のある画面を追いかけて、首を少し上に向けてグルグル回っていると、この絵と空間の親和性の良さを感じます。色彩の美しさと、心地良い想像の余白が共存する時間。絵に物語性を生み出す手法は色々あるものだと感心しきりです。

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2009年07月05日

●辻惟雄「岩佐又兵衛 浮世絵を作った男の謎」

 辻惟雄「岩佐又兵衛 浮世絵を作った男の謎」を読みました。「奇想の系譜」を読んで以来待ち望んだ、「岩佐又兵衛」総決算本です。

 又兵衛が複雑なのは、勝以として落款を残した画家「岩佐又兵衛」と、浮世絵の創始者として数多くの絵巻群を残した「浮世又兵衛」とのダブルイメージの重なりと混乱。両者の乖離が大きくなるほどに現実味を失い、特定人物を意味しない「又兵衛風」という言葉だけが広がってゆきます。

 その伝説の中から事実を引き出し、「岩佐又兵衛」という個人に話を集約していくところが本書の真骨頂です。その「豊頬長頤(ほうきょうちょうい)」な顔つき、絢爛豪華な又兵衛風絵巻物。本書では、彼の放浪の人生、死後の伝説の誕生、近代の又兵衛論争、絵巻物作者についての最新の見解が語られます。学生時代から彼を研究対象とし、50年近くも又兵衛絵画を見続けてきた辻氏の眼を通して語られる又兵衛像はとても説得力があります。時系列上のものさしを得たことで、彼の作品を観る楽しみが俄然増しました。

 本書のラストには、「デロリ」ということばとともに岸田劉生の名が登場します。絵巻物群作者について一応の決着をつけたところで、さらなるテーマを提示して本書は終わります。又兵衛を巡る物語は続きます。

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2009年07月04日

●写楽 幻の肉筆画@江戸東京博物館

 江戸東京博物館で開催中の「日本・ギリシャ修好110周年記念特別展 写楽 幻の肉筆画 ギリシャに眠る日本美術~マノスコレクションより」を観ました。去年話題になった「写楽の肉筆画、ギリシャで発見!」の報で脚光を浴びた「マノスコレクション」が早くも日本登場です。

 第一章 日本絵画
 狩野山楽「牧馬図屏風」。牧に放たれ、駆ける馬、跳ねる馬、水を飲む馬。その数、およそ80頭。山楽基準作である奉納絵馬との比較から作者が特定されたそうで、馬の姿が本当に良く似てます。過去の例を写しながら画面を構成するという描き方が実感できます。

 狩野克信・興信「狩野探幽筆 野馬図屏風模本」。画面の端に江戸城本丸御殿に飾られた屏風を写したとメモ書きがある点がポイント。また、写すことで過去の事例を学んだ例でもあります。狩を奨励した江戸幕府の好みが現れている?

 周幽斎夏龍「見立て琴高仙人図」。水墨画の鯉に乗る、美しい彩色を施した着物を着た美人。その描画法のコントラスト、鯉に乗るという非現実的な行為が目を惹きます。

 第二章 初期版画
 鳥居清忠「初代市川門之助」。手に持つ笠と着物の裾にまぶされた黄銅粉がキラキラと輝いて綺麗。保存状態良好。

 第三章 中期版画
 鈴木春信「唐子と布袋」。あの立派なお腹の布袋様が、浴槽に身をかがめて、唐子に水をかけてもらう。両足に挟まれたお腹の肉、耳をふさぐ仕草がユニーク。

 鈴木春重(司馬江漢)「碁」。極端な遠近法で描かれた建物、盤の角に座して向かい合う二人。意欲的な奥行描写が江漢らしい。角柱だけで2階を支える描写は、建物が空を飛ぶよう。

 喜多川歌麿「歌撰恋之部 深く忍恋」。紫の色彩も鮮やかに、大首絵の傑作が登場!大首絵の始祖、歌麿の面目躍如!

 喜多川歌麿「風流六玉川」。大首絵を禁じられ、模索を繰り返す晩年の大作。6枚続きの大画面が色鮮やかに蘇る。

 東洲斎写楽「四代目松本幸四郎の加古川本蔵と松本米三郎の小浪」。絶頂期の歌麿のお株を奪うように登場した東洲斎写楽。その「幻の肉筆画」。あの迫力ある役者大首絵と対照的な細い輪郭線は、わずか10ヶ月で忽然と姿を消したミステリーの後日談のよう。

 第四章 摺物・版画
 葛飾北斎「四姓ノ内 源 小烏丸の一腰」。画面中央に大きく烏、脚にしっかりと太刀を掴む。趣向を凝らした摺物の中でも一際目を引く、大胆でカッコイイ構図。さすが北斎!

 歌川国芳「汐干五番内 其三、四、五」。襟元や着物の描線に銀を載せ、キラキラ輝く様がゴージャスで美しい。

 第五章 後期版画
 歌川豊国「両国花火之図 三まへつゝき」。花火を観ようと橋に押し寄せる人々を、緻密にギッシリと描く。空に咲く火の花の描き方も斬新。喧騒が伝わってきそう。

 歌川豊国「新吉原桜之景色 五枚つゞき」。大門内の桜並木と、その周りを行き交う人々の華やかな景色。歌麿没後5、6年。吉原は相変わらずの大賑わい。

 葛飾北斎「百物語 五枚揃」。図柄が有名な百物語の五枚揃い。「さらやしき」や「お岩さん」は良く見るけれども、五枚揃いで見ることは多分初めて。今見ても面白いと思う意匠ながら、百物語と銘打ちながらわずか五作で打ち切り。商売の道は厳しい。。。

 江戸絵画を幅広く揃える内容は見応え十分です。その一方で、看板の写楽は今一つ。ここ数年、超絶に保存状態の良い浮世絵コレクションの公開が相次いだこともあり、新鮮味を出す大変さを感じます。

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●奇想の王国 だまし絵展@Bunkamura ザ・ミュージアム

 Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「奇想の王国 だまし絵展」を観ました。初日から凄い人出との報に二の足を踏んでいましたが、覚悟を決めて訪問。

 トロンプルイユの伝統
 ヤーコプ・マーレル「花瓶の花」。精緻な静物画を覗き込むと、花瓶に映り込む景色。さらに男性の顔が見えてくる。んー、これは画家本人なのか?まんまとだまされた。
 アドリアーン・ファン・オスターデ「水彩画の上に置かれた透明な紙」。3枚重ねた紙の描写は絶品。台紙の形状が特異な点にだまされる。描画技術としてはマイベスト。
 ヨハン・ゲオルク・ヒンツ「珍品奇物の棚」。「だまし絵」というのは技法であり、「目的=コンセプト」とは言えないのではとひっかかっていました。この絵を見て、コンセプトの一つは「お宝自慢」とピンと来る。ひょっとして、「だまし絵展」というタイトル自体にだまされた?タマネギの皮を剥くように、何層にも奥がある構成にひきこまれます。
 コルネリス・ノルベルトゥス・ヘイスブレヒツ「食器棚」。ギッシリと情報を詰め込んだ、偽りの扉。タイトルにだまされる。
 サミュエル・ファン・ホーフストラーテン「トロンプルイユ-静物(状差し)」。べっこうの櫛が美しい。

 アメリカン・トロンプルイユ
 ジョン・ハバリー「石盤-覚え書き」。画中に枠を描き込む手法は、本物の額縁と二重になってしまって自ずとネタバレでは?という私的な疑問に答える一品。石版を嵌めた枠まで描いて、枠なしで展示。

 イメージ詐術(トリック)の古典
 ジュゼッペ・アルチンボルド「ウェルトゥムヌス(ルドルフ2世)」。赤いホッペの王様。じっと見ていると気持ち悪くなる。

 日本のだまし絵
 河鍋暁斎「閻魔と地獄太夫図」。達者な筆裁き。「だます」というより「見立て」の面白さ。
 浮世絵は面白いけれども、既観のモノばかりで驚きはなかった。

 20世紀の巨匠たち -マグリット・ダリ・エッシャー-
 ルネ・マグリット「白紙委任状」。図と地の関係で二つの世界が重なる空間だまし絵。重なっていても交わらない、ねじれた世界。
 ルネ・マグリット「望遠鏡」。開かれた空に貼り付けた青空。窓の向こうに広がるのは闇。偽りの爽快感が何とも印象に残ります。
 ピエール・ロワ「田舎の一日」。箱庭の中の田園風景と邸宅。巨大なワイングラスとアスパラ(?)。タイトルと視覚イメージがなんとなく一致して何でだろうと印象に残った。

 多様なイリュージョン -現代美術におけるイメージの策謀-
 アニッシュ・カプーア「虚空 No.3」。名古屋市美で見たので、再会。目の前にあるのに見通すことが出来ない漆黒の奥行。カプーアの黒はやはり面白い。
 杉本博司「ウィリアム・シェイクスピア」。蝋人形に命を吹き込む杉本マジック!
 パトリック・ヒューズ「水の都」。こちらの動きに追従して絵が動く!?本当にビックリした。横から見ると種が分かるけれども、絵の前に立つとまただまされる。虚実の境をさまよって面白い。

 「だまし絵」をキーワードに古今東西の作品を集めた、バラエティ豊かな展覧会です。観れば観るほど面白くなり、その深さは底なし沼のようです。観る楽しみを満喫しました。ありがとう、Bunkamura!おめでとう、20周年!

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2009年07月03日

●内海聖史個展「色彩のこと」@スパイラルガーデン

 スパイラルガーデンで開催中の内海聖史個展「色彩のこと」を観ました。こちらで知り、とても楽しみにしていた展示です。

 スパイラルの1Fは、賑やかなショップ、沈殿床形式のカフェ、吹抜空間の3層構成。それは「街」の延長として構成された建築空間の一つの究極形です。今回の個展はカフェ横のギャラリーから始まり、吹抜空間に円弧状に建てた屏風でクライマックスを迎えます。

 始まりは、紫陽花を思わせる紫。グレー、ピンク、青、緑、赤と変化する色彩は、四季の移ろい。巨大な屏風は、夏の日の木陰。屏風に沿って歩くと、背にカフェの喧騒を感じつつ画面の静溢感が入り混じる複層的な体験が味わえます。静かな画廊や美術館とは違った、街中の賑わいの中で色彩の力強さに触れられることが本展の魅力。カフェでおしゃべりしながら眺めるのも楽しそう。

 受付の方にお聞きしたところ、本展は旧作の再構成とのこと。ギャラリー部分の展示は「十方視野」で見覚えのある作品が並びます。水平に並べることで時間軸を感じさせる構成が素敵。屏風は現美の「屋上庭園」に出ていた作品とのこと。意味不明な構成だった屋上庭園よりも、今回の明確な見せ方の方が好きです。先日の「三千世界」もそうですが、構成次第で見え方がぜんぜん違ってくるところに、内海色彩の魅力を感じます。マイ・スーパーフェイバリット・ウォール。

 唯一残念だったのは、スパイラル最大の特徴である螺旋状スロープの劇的な歩行体験と連動してなかったこと。スロープは屏風裏面のベニヤ板を眺めながら歩くので、楽しくない。裏手にも小品を並べて、歩行体験を彩って欲しかったなあ。と思うくらいに魅力的な展示でした。

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●SEVEN@西村画廊

 「西村画廊35周年記念展 SEVEN」を観ました。老舗「西村画廊」の開廊35周年を記念して、縁のアーティスト7名(+α)による展覧会です。こちらのレビューを読んで、行こうと思い立ちました。

 個人的には「TWO」。入口入って右手に小林孝亘さんの3作と、三沢厚彦さんの猫が並ぶ一角がダントツに好きです。その対角に三沢さんの犬がいて、こちらを観る視線にキュンときます。そちらから見返すと、小林さんの作品が明るく光を発するように見えてビックリ。

 お二人に共通するのは、「作品内に凝縮された明確な世界観と空間に溶け込む浸透性の良さ」。小林さんの作品に描かれた光は、本当に光を発するようですごい存在感。三沢さんの動物たちは生気に溢れ、勝手気ままに画廊内を歩き回るよう。アートの力って凄いと思いました。

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2009年07月01日

●近藤史人「歌麿 抵抗の美人画」

 近藤史人「歌麿 抵抗の美人画」を読みました。絶対非公開の名宝「スポルディング・コレクション」の調査を通して浮かび上がる歌麿画の変遷を縦糸に、当時の時代背景を横糸にして紡ぎだされる、謎多き絵師の像。筆者はTV局のディレクターだそうで、その手腕を活かした「見せる」素材の集め方と料理の仕方はさすが。

 プロデュース力に長けた版元、蔦屋重三郎。狂歌サロンの中核、太田南畝。サロンに出入りする酒井抱一を初めとする錚々たるメンバー。絵から文へと流れる時代の体現者、曲亭馬琴と十返舎一九。時代背景としての「賄賂政治」田沼意次と「寛政の改革」松平定信。これらの世界の中を、歌麿が颯爽と登場し、稀代の人気者に上り詰め、消えてゆく様を、視覚に訴えるドキュメンタリータッチで描きます。脇役にフランク・ロイド・ライトらを配して、間口の広さは万全。スタイリッシュに造形された歌麿像と美麗な挿絵群とのコラボレーションは、トレンドドラマを観るようです。

 考証部分は専門家の先生方に丸投げして、美味しいところだけを俎板にのせる手法はズルイ気もします。また、改革を期に転身する南畝をさりげなく取り上げて、対比的に歌麿の一途さを浮かび上がらせる手法もあざとい。そんなところも含めて、今風な浮世絵参考図書です。

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