2009年05月08日
●大和し美し@千葉市美術館
展示は8階から。冒頭は川端康成の人生を紹介します。
三字「要忍耐」川端万邦(祖父・三八郎)。若くして天涯孤独の身となる康成の行く末を暗示するかのような書。
「するめ」とあだ名された容貌を、土門拳の写真が如実に伝える。
ノーベル文学賞賞状・箱。「日本を世界に発信する」という活動が認められた栄光の証。千羽鶴舞う箱が美しい。
屏風「秋の野に」(表)川端康成・書、(裏)東山魁夷・画。受賞の心境を表す書と、黄金のススキが風になびく絵。作家と画家の交流の証。
書「美しい日本」川端康成・書。記念講演「美しい日本の私 その序説」で切々と語られる日本の美。全文をじっくりと読んだ。「心の根本が違う」と結ぶところに、強い自負と覚悟を感じる。
「火炎木」ジェムマニック。「キャナル・グランデ ベニス」村上肥出夫。自裁直前に購入した絵画。栄光から突然の終幕。
コンパクトに凝縮された展示は濃密で劇的。
続いて書斎の再現。
「拭漆栃手箱」黒田辰秋。木目が美しい箱。箱である以前に塊に見える。
「耀貝螺鈿茶器」黒田辰秋。ガラスケース奥の飾り棚中央に飾られていて、遠目にしか観られないのが恨めしい。群を抜く輝き。
「赤漆六稜棗」黒田辰秋。ガラスケース一番奥。もっとよく観たい。
「赤楽茶碗」黒田辰秋。上品な赤味の楽茶碗。本当に手広い。ガラスケース手前に置いてあって観やすい。
「志野茶碗」加藤唐九郎。楽茶碗に並んで志野。豪華。
お気に入りの品々で埋め尽くした空間は、ヨダレが出るほど気持ち良さそう。凄すぎてグウの音も出ません。出来れば、書斎を覆うガラスケースはなしが良かった。
続いて画家との交流。
「不知火」草間弥生。今も精力的に活動されている草間さんの初期作品。川端康成の先見の明、草間さんの息の長さ。
「マリアの壁 エッツ・オーストリア」東山魁夷。大胆にトリミングされた白い壁面。窓が並び、画面右中にマリアの壁画。わざと焦点をずらした画面構成が好き。
「紅彩」牧進。椿で埋まる水面。息苦しいほどの赤と、その下の深い紺。
「女の手」オーギュスト・ロダン。画商から借りてきて、一日中あちらこちらから眺めていたそうな。変態性が良く伝わるエピソード。
そしてもう一人の主役、安田靫彦登場。
画壇の大御所として君臨する姿と、病弱でほとんど旅行をしなかったという解説にギャップがあって、長生きは最大の才能だと思う。
「遣唐使」。16歳の作品。上手い!
「唐傭」。出土品から想を膨らませるお得意の手法。モデルになった傭も並んでいるので、安田ワールドの跳躍に思いを巡らせると楽しい。
「飛鳥の春の額田王」。お団子二つの髪型に、赤地に金刺繍紋の衣装。「茜指す・・・」の歌とはちょっとイメージが違う?
7階に下りて、安田靫彦が「発見」した良寛の世界へ。子供たちと一緒に手毬で遊ぶ良寛和尚のイメージが、安田フィルターを通して拡張される。
「自画像」良寛。行灯の元で書を読む好々爺。あごの尖った三角形の顔型が特徴的。
「良寛乾漆像」。平櫛田中が参考に借りていったというエピソードに興味津々。
「手毬」伝良寛。トレードマークの手毬。状態が良好すぎて良寛作ではなかろうと思いつつも、可愛らしい柄が子供と良く遊んだというイメージにピッタリ。
そして、川端、安田コレクションの対峙。
「川端康成と安田靫彦 大磯の安田邸にて1950年6月22日」撮影/林忠彦。二人の交流を写したこの写真が本展の要。そして右手に川端、左手に安田コレクションが並ぶ。
「聖徳太子立像」。病床の川端康成の元に画商が持ってきたという像。一緒に帰って、以降毎日眺めたそうな。幼子の出で立ちと、自信たっぷりな顔立ちのギャップは、確かに御利益ありそう。
コレクションを通して、二人の交流が伝わってくる。
最後に「大和し美し」と題して、安田作品を並べて〆。
「木花之佐久夜毘売」。霊峰富士を背に腰掛ける、オニギリ顔の女性。農耕神らしいふくよかな感じ。
川端康成の世界を掘り下げていき、その交流からもう一人の主役を導入。さらにそのコレクションから「良寛」を通して精神性を見せつつ、二人のコレクションが対峙する本題へと繋げる。そして最後は主題をリフレイン。単に名品を並べるのではなく、それを通して二人の巨匠の交流を生気溢れて伝える。練りこまれた構成が、本展最大の見所でしょう。
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こんばんは。
>練りこまれた構成が、本展最大の見所
その通り!と言いたくなって、
>変態性が良く伝わる
の箇所で笑いました。
川端康成って変態性なんですか?
そう言えば、遊行七恵さんのブログで川端の愛人に
全部の歯を抜かせたって書いてありました。
本当なら怖すぎるし、言われて抜く方も抜く方かと。
こんばんは~
先週の千葉オフ。ありがとうございました。
ディープでしたね・・・
さてさて、私は牧進の「紅彩」にやられました。
安田の額田大王は見に行けませんでしたが、
木花之佐久夜毘売は素敵でした。
meme様>
こんにちは。
構成は本当に素晴らしかったと思います。
>変態性
一つ一つのエピソードを読んでいると、そんな気がしました。付き合う人は大変だったろうな。
一村雨様>
こんにちは。
先日はありがとうございました。
紅彩を康成に、鯉を奥様に贈ったというのは、なんとも意味深に思えました。