2009年01月19日
●珠玉のヨーロッパ油彩絵画展@静岡アートギャラリー
青春18切符で行く冬の名古屋・京都の旅 その9。
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帰路、静岡アートギャラリーで開催中の「珠玉のヨーロッパ油彩画展―バロック美術から十九世紀へ― 」を観ました。バロックから19世紀までのヨーロッパ絵画をカバーする個人コレクション「長坂コレクション」の巡回展です。
本展の特徴は大きく分けて二つ。一つ目は「伝統的な絵画手法によって描かれた正統派のヨーロッパ絵画」を、宗教画、世俗画、肖像画、風景画、風俗画に分けて紹介するところ。二つ目はルーベンスなどの巨匠周辺や美術アカデミーで技法を学び、それぞれの国の伝統を継承した画家たちの手による作品を集めているところ。その上で「今日のようにいつでも名画を鑑賞できる美術館や展覧会がなかった時代にあって、一般の人々が身近なところで楽しみ、生きる楽しみや喜びを感じたのは、時代を代表する巨匠たちの作品よりむしろその周辺で活動した作家たちの作品でした」と解説文は結びます。当時の売れ線作品を集めることで、当時の人々の視線、価値観が浮かび上がる展示は、なかなか見せます。章分けも明快で分かり易いです。A3用紙二つ折り、全8ページに及ぶ解説シートも親切。ただ照明が悪く、絵に光の反射や影が落ちるのはマイナス。
1 宗教画
ヘンドリック・ヴァン・バレン「紅海をわたるモーセ」。金の亡者を大きく、モーセを背景に描く。さらに奥に死せるエジプト軍。
ペーテル・ヴァン・リント「サロメ」。凄絶なシーン。
ダニエル・ザイター「キリストと姦婦」。キリストの赤い服に青いマント、女の黄色の衣装。
3 肖像画
ジョルジュ・ルフェーヴル「青いストッキングをはいた女流詩人」。黒を背景に横たわる、鮮烈なピンクのドレスと青いストッキングの女性。強い自己アピール。「ブルー・ストッキング」は18世紀半ばのロンドンの文学好きの社交婦人の間で流行し、そこから教養ある文学好きな女性を指す言葉となったそうです。平塚雷鳥を中心に結社された「青鞜社」はこれに由来。
ピョートル・クリロフ「赤い椅子に座る女性の肖像」。赤いソファに腰掛けた黒いドレスの女性。とても知的。
ルイ・ビルー「裸婦」。見られることを意識したポーズと赤いシーツ。
4 風景画
ロベルト・ナドラー「ヴェネツィア」。ピンクに染まる夕暮れ、ゴンドラの並ぶ運河。観光地の絵葉書。
アルフレッド・ゴトショー「ラ・ロシェルの港」。海から港を望む構図。青空、小船が動きを感じさせる。
ルートヴィヒ・ムンテ「収穫」。暗い右手前から明るい左奥への視線の誘導。空は反対に明から暗に変化してバランスをとる。
5 風俗画
ラインハルト・セバスチャン・ツィンマーマン「画廊のルートヴィヒ2世」。窓から射す光、図面をチェックする愛好家。
フィリップ・リンド「窓辺の子供達」。お澄ましした記念写真。富裕層の生活の楽しみを描く、受け入れられやすい画題。
ヴィルヘルム・アンベルク「教会のグレートヒェン」。オルガンに聴き入る女性。白無垢のコスプレが効果を高める。
エドウィン・トマス・ロバーツ「街頭の子供たち」。光に対する影。「ミュージカルの一場面を見るよう」と解説にあり。大衆受けを意識した視点。
ニコライ・アンドレヴィッチ・コシェーレフ「脱穀場の子供たち」。藁の山の前で、ポストカードのようにポーズをとる子供たち。「農民画」という商品。
フランチェスコ・パオロ・ディオダーティ「カプリ島の小さな中庭」。強い日差しと白壁、生活感。エキゾチックな絵。
時代を開く巨匠の作品と平行して、確かに息づく庶民の楽しみとしての絵画。その画題の変遷を辿りつつ、当時を俯瞰する視線。構成と解説が充実していて、思った以上に見応えがありました。
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