2008年12月31日

●キーワード 2008

 今年のアート・街関連を三つのキーワードで振り返ってみます。(2007年2006年)
 今年は大型展に恵まれ、豊作な年でした。その分、評価軸は細分化され、「自分にとってアートとは何か」を問うことになります。


 『だって好きなんだもん』
 想像を超える「何か」に接したときの、好奇心を刺激される感覚が何より好きです。

「近代日本画の巨匠 速水御舟-新たなる魅力」@平塚市美術館
 「琳派から日本画へ」@山種美術館
 速水御舟の、現実を作り変えるような超絶技巧に激ラブ。

「ヴィルヘルム・ハンマースホイ -静かなる詩情-」@国立西洋美術館
 ハンマースホイの完成された描画と飽くことなき探求心。

「KAZARI 日本美の情熱」@サントリー美術館
 「日本美術の歴史」愛読者には、たまらない企画展示。

「国宝 法隆寺金堂展」@奈良国立博物館
 学生の頃から興味のあった法隆寺金堂内陣をようやく観ることが出来た。

「塩田千春 精神の呼吸」@国立国際美術館
 赤いレーザービーム!

「三沢厚彦 アニマルズ'08 in YOKOHAMA」@横浜そごう美術館
 アニマルズ可愛い。ライオンとは言わないが、ヤモリに家を守ってもらいたい。

「鴻池朋子 私の作品は他者のもの」@高橋コレクション白金
 リビングに狼が居る家って良いよねー。

「井上雄彦 最後のマンガ展」@上野の森美術館
 美術館で体験するマンガ。あっ、美術展じゃない!


 『空間とアートの素敵な関係』
 体験として提示してこそアート&アーキテクチャー!いつも胸に抱いていたい言葉。

「CHANEL MOBILE ART in TOKYO」
 現代アート専用の仮設パビリオンを準備して、文字通り世界中を飛び回る。その構想力、実現力、実体験。その終焉も含めて時代を体現し、歴史に名を刻んだ。

「金刀比羅宮 書院の美」@金刀比羅宮
 庭園の池と一体化した円山応挙「瀑布図」が観られて満足。まさか四国まで展覧会を見に行く日が来るとは思いませんでした。

「Blooming:ブラジル-日本 きみのいるところ」@豊田市美術館
 異文化とグローバリズムに焦点を当てる企画の中で、出色の出来。建築との流れるようなコラボレーションは絶品。

「觀海庵」落成記念コレクション展-まなざしはときをこえて」@ハラミュージアムアーク
 古今アートの流麗なダンス、その器としての真っ黒な箱。やはり建築は黒子でちょうど良いのでは?

「風景ルルル」@静岡県立美術館
 キュレーションの視点設定と、内海さんの空間センス。


 『サヨナラ物量大作戦』
 長く続いた好景気の恩恵を受けて物量大作戦に恵まれた今年。奈落へと落ちるかのような速度で進む景気悪化の中、幕を開ける来年。頭を切り替えて頑張りましょう!

特別展「対決-巨匠たちの日本美術」@東京国立博物館
 特別展「対決-巨匠たちの日本美術」記念座談会
 特別展「対決-巨匠たちの日本美術」記念講演会 美と個性の対決
 美術ファン垂涎、日本美術の至宝大集合。この物量大作戦に敵うものなし。

「大琳派展 -継承と変奏-」@東京国立博物館
 「大琳派展(後期)」@東京国立博物館
 琳派の名品大集合。対決展と時期が連続したのはもったいないの一言。

「室町将軍家の至宝を探る」@徳川美術館
 東山御物、初遭遇。室町時代の遺物ってこんなにあったんだ。

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●狩野派と近世絵画(前期)@承天閣美術館

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 秋の愛知-京都行きの記録その3。名古屋で一泊した後、京都へ。イノダコーヒー本店で朝食を食べたかったので、朝早く名古屋を発って三条を目指す。徳川美術館以降、かなり変な人。本店前にはすでにモーニングの行列が出来ているのを見てビックリ。幸いテラス席ならすぐ案内できるとのことで、それほど待たずに入店。ボリュームあるモーニングと「アラビアの真珠」で和むー。

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 樂美術館で「長谷川等伯・雲谷等益 山水花鳥図襖&樂美術館 吉左衞門セレクション」を観ました。初代から15代までの名碗が並ぶ。初代長次郎、田中宗慶の椀に惹かれる。2階には光悦の茶碗が2点。「黒樂茶碗 銘 村雲」、「飴樂茶碗 銘 立峯」。村雲のザックリとした切り口、ザラザラとした質感は大琳派展で観た雨雲を思い出させる。対決展の光悦vs長次郎も良かったですが、今回は落ち着いて観られて良かった。

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 1年半ぶりの再訪、相国寺承天閣美術館。思えばあの若沖展が、展示を追いかけて東奔西走する日々の幕開けでした。
 「狩野派と近世絵画(前期)」を観ました。「-併催-名碗三十撰」。第一展示室に登場する国宝「玳玻盞散花文天目茶碗」に目が釘付け。台座の螺鈿細工と合わせて本当に食い入るように観ました。微細モザイク紋様とでもいうか、黄金に輝くような錯覚を覚えるインパクトは絶大。長谷川等伯筆「竹林猿猴図屏風」。狩野派といいながら等伯もカバーするところが懐が広い。
 第二展示室。伊藤若冲「鹿苑寺大書院障壁画」。一年半ぶりの御対面。狩野探幽「探幽縮図」。探幽の名画スケッチ集。見ていて楽しい。狩野探幽「花鳥図座屏」。絵を催促されるくだりが人間味あって面白い。

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 俵屋吉富烏丸店隣の京菓子資料館で一服。

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 最後に京都国立博物館まで足を伸ばして常設展を観ました。「宝誌和尚立像」。顔面が真っ二つに割れて十一面観音が顔を覗かせる驚きの像。「阿弥陀二十五菩薩来迎図」。雲に乗って金色の阿弥陀様ご一行が行者のもとに来迎する。ビジュアル的にもとても魅力的な構図、色彩。小特集「あなたの知らない水墨画」。新発見を中心に、研究者でも知らないような作品を公開とのこと。元信印「四季花鳥図屏風」、光信筆「山水禽獣図屏風」等。野州の旧家から発見されたとのことですが、改まったお披露目は建替後になるのだろうか。長沢芦雪「茄子図」、「月下桜図」、「岩上猿図」。芦雪もバンバン出ます。「舞妓図屏風」。人物を大きく描く六曲一双の風俗画屏風。こんなのあったんだ。応挙「唐子遊図襖」と芦雪「白梅図」を並べて「クラッシックの応挙とロックの芦雪」という解説が楽しい。閉館間近で担当学芸員の口調も滑らかだったんだろうか。

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●室町将軍家の至宝を探る@徳川美術館

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 秋の愛知-京都行きの記録その2。東京国立博物館東洋館で「特集陳列 中国書画精華」を観て中国絵画への興味が膨らんだ頃、徳川美術館で東山御物が公開されることを知りました。30年ぶりの御物公開とのことで、夜行バスを使って名古屋まで足を伸ばしました。素人に価値が分かるはずもありませんが、眼に叩き込んでおこうという魂胆。

 「秋季特別展 室町将軍家の至宝を探る」。
 I 室町殿の宝物と「東山御物」。伝銭選「宮女図」。一見男性にも見える、男装の女性の絵。足利義教の邸宅に飾られたという、歴史の中から抜け出してきたような存在。伝夏珪筆「山水図」。嬉しいことに畠山記念館蔵。いつの日か再会できるかも。伝牧谿筆「洞庭秋月図」。牧谿筆「柳燕図」。作品リストにチェックを入れたのは、いずれも牧谿筆。「青磁輪花茶碗 銘 馬蝗絆」。東博の名品。逸話と共に印象に残る。
 III 能阿弥・芸阿弥・相阿弥と室町水墨画。相阿弥「瀟湘八景図」。
 IV 「君台観左右帳記」の世界。灰被天目 銘虹。美しいグランデーション。陳容筆「龍図」。伝牧谿「虎図」。迫力ある龍、猫じゃない虎。解説によると、当時流行した絵の写しだろうとのことで、決して傑作という扱いではないのですが、この絵が当時の日本に来ていたとすれば、その影響は大きいと思える画。
 本展出品作の所蔵元として徳川美術館の名が多数上がり、室町将軍家の名宝を徳川家が継承したことが実感できる展示でした。武家政治の継承者なので当然かもしれませんが、花の御所という華やかなイメージのある室町幕府と、江戸という未開の地に居城を築いた徳川幕府とでは文化面で隔たりを感じていました。ザクザクと並ぶ名宝に、あるところにはあるものだと圧倒されました。

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 徳川美術館で力尽きて、あとはひたすら食べました。シェ・シバタ名古屋店で遅い休憩。お寺の参道に面した、ちょっと意外な立地。中高層ビルが並ぶ大通りからちょっと入っただけで、いきなり縁日が立つ昔ながらの空間になってビックリ。美味しさは文句なし、お客の誘導に手間取るのが玉にきず。

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 1時間も経たずに、今度は的矢かき。生牡蠣、牡蠣フライ両方食べて満足。

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●石山寺の美@岡崎市美術博物館

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 秋の愛知-京都行きの記録その1。岡崎市美術博物館を訪れたのは11月初旬。建物本体を地下に埋めて、アクセス部分だけを地上に露出させる手法は大山崎山荘美術館新館MIHO MUSEUMと同じ。前者は展示室よりも遥かに大きな通路のアンバランスさに驚き、後者は桃源郷を顕在化させる財力に驚嘆。そして今回は巨大なガラス箱が実質ガランドウなことにビックリ。周辺の自然に対峙する人工の箱としての存在感を確保するためのボリューム、圧迫感を消去するためのガラスの箱という感じ。
 「石山寺の美-観音・紫式部・源氏物語」を観ました。「大日如来坐像 快慶作」。怖い目つき、対決展での快慶とは全然異なる印象。「維摩居士坐像」。髭、首、胴体、見事な造形。「仏涅槃図」。表情豊かな人物、動物。勝川春章筆「見立紫式部図」。透ける着物、ほんのりピンク。土佐光起筆「紫式部図」、土佐光吉筆「源氏物語図色紙」、住吉如慶「源氏物語画帖」も良かった。

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 地下からレストラン「セレーノ」へと通じる階段。白大理石の階段と壁面、スリガラスのトップライトから柔らかい自然光が注ぐ。茶色がかった部分は、大雨のさいに土砂が流入したのだろうか。

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 小高い丘の上の立地なので、眺望は抜群に良いです。見回せば、秋の彩り。
 市立の建物とは思えない意欲的な作り。アクセスがもう少し良ければ、市外からの来客も増えるだろう。

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●福原信三、路草写真展@資生堂アートハウス

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 谷口建築巡礼の記録。資生堂アートハウス。高宮眞介さんとの共同設計で、美術館建築としてはこれが処女作だそうです。建物よりも植栽を施した屋根面が印象に残ります。

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 内部で大きくS字を描くプランは双端が異なり、片方は四角、片方は円。エントランスを入ると小さな円弧状の階段があり、幾何学形態にプランを落とし込むような印象。広大な芝生の中に点在する立地ならではの構成。

 「福原信三、路草写真展」を観ました。資生堂初代社長とその弟が日本の風景写真界に残した足跡を辿る。チラシ表紙の「新年の海」を始め、ゆったりとした時間が流れるような画面が美しい。絵作りが舞台的で、絵画と写真の境界のような感じ。路草は作品自体が少ないが、二人の兄弟、さらに資生堂の底に流れる美意識が感じられる展示にはーっと溜め息がでた。

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 掛川から足を伸ばして、静岡県立美術館初訪問。「国宝 鑑真和上」展を観ました。「鑑真和上坐像」。鼻筋の通った高貴で柔和な表情、がっしりとした体躯、強靭な意志を感じさせる名作。「舎利容器 金亀舎利塔」。緻密な細工、透かし彫りの中の容器、金色の亀。「四天王立像 広目天」。睨み眼、裾を結んでバーン!とした存在感。「四天王立像 多聞天」。小錦!ドーン!とした存在感。「東征伝絵巻」。鮮明で大きい、波乱の旅絵巻物語。「如来形立像」。失うことで引き立つ美しさ。

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 ミュージーアム・レストラン「エスタ」も初訪問。昼下がりでも意外と人が多い。特別展だけでなく、美術館自体が「人の集まる場所」として機能していて良かった。

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●北斎@佐川美術館

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 MIHO MUSEUMに行く途中、佐川美術館に立ち寄りました。水盤をはさんで二棟の巨大なムクリ屋根を載せた展示室棟が立ち、両者をガラス通路で結んで回遊経路を構成します。さらにその先に、新築された樂吉左衛門館が地下通路で繋がります。それぞれの館を、平山郁夫、佐藤忠良、樂吉左衛門の3氏の常設展示に割り当て、佐藤館の一角を特別展スペースとして活用しています。
 他でちょっと見ない巨大なボリューム、杉板型枠を用いたPC版をきれいに割り付けた外観、量塊が水と屹立する構成は簡潔で存在感があります。

 特別展は「冨嶽三十六景と富嶽百景 北斎 富士を描く」。北斎展が始まって入場者が増えたとチケットブースで聞き、さすが北斎と感心。三十六景よりも百景の方が新鮮で面白かったです。

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 コーヒーショップSAMで休憩。パリパリした生地とたっぷりのフルーツが美味しかった。水盤を眺めるロケーションも自然光たっぷりで気持ち良いです。

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 樂吉左衛門館へ降りてゆく階段。重量感あるRC壁を欠き込んで間接照明を仕込む、劇的なつくり。

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 水面越しに光が降る壁面。チラチラと光が変化する様が美しい。左手に展示室。十五代目樂吉左衛門自ら手がけたという空間は、少々演出過多で疲れた。美しいシーンはシーン、鑑賞体験は体験で分離している気がする。予約制の茶室が満員で見られなかったのが残念。

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 消火栓も点検扉もRCの質感で統一した内部空間。枠をなくして線を消し、面へと還元する。機能と意匠の折り合い。

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2008年12月30日

●聖なる酒器 リュトン@MIHO MUSEUM

 若冲の屏風発見の報に湧く年末。(詳しくは「弐代目・青い日記帳」さんのこちらの記事をどうぞ)。公開は来年の秋以降とのことですが、気になるのはどこで公開されるのか。鑑定したのが「MIHO MUSEUM」とのことで、まずはここからになるのでしょう。関東圏への巡回もあるのでしょうが、若冲ファンとしては少しでも早く観たいものです。そのMIHO MUSEUMの訪問メモです。

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 MIHO MUSEUMへ出かけたのは、夏の盛り。車の対面通行も困難なほどの細い道を経て山奥へと分け入り、広大な駐車場へと至ります。少し歩いてレセプション棟に到着し、レストラン「ピーチバレイ」で腹ごしらえ。自然の堆肥のみで栽培された食材を用いたオニギリや野菜は驚くほど美味しいです。レセプション棟からは電気バスで七色に輝くトンネルを抜けて美術館棟へ。写真はトンネルを抜けて、来た道を振り返ったところ。

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 正面にはミュージアムへの入口。建物の80%以上を地中に埋める計画なため、地上からその全貌をうかがうことはできません。

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 玄関ドアを潜って、ミュージアムへ。その先にはハイテクな作りと中国的な意匠が組み合わされ、自然光が降り注ぐ大空間が出現します。山奥にその姿を隠しつつ大きく広がる空間は、コンセプトである「桃源郷」を見事に実現しています。

 2008年夏季特別展「聖なる酒器 リュトン」展を観ました。リュトンとは儀式などで液体を地や他の器に注ぐためのものだそうです。貯蔵や飲用といった用途でなく、注ぐという動作に基づく名前なのが浮世離れしていてロマンをかきたてます。展示は紀元前何千年から何百年という時代のリュトンの名品がズラリと並びます。展示点数は70点ほどですが、非常に状態の良いものばかりなので物凄い見応え。さらに展示背景、照明、解説等も細やかに配慮されており、全点の図版を載せた作品リスト、カラー図版をバンバン載せたPR誌等を含めて鑑賞者への配慮は完璧。陰影深いカラー写真を大胆に使ったポスター等のビジュアル面もカッコイイ。特別展に合わせた「日本における酒器」展、4大文明の名品を揃える常設展と廻り、その充実したコレクションに眩暈がしました。

 屏風公開時にどういったイベントを仕掛けてくれるのか、今から楽しみです。

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2008年12月28日

●豊田市美術館 その2

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 豊田市美術館を再訪したのは盛夏の頃。雨が降ったり晴れたりと目まぐるしく天候が変化する慌しい日でした。雨が上がって、濡れた床面に空が映り込む。

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 レストラン横の屋外鏡面インスタレーションに映る景色も、片や雲、片や青空。床面も半鏡面状態。不思議度が増します。

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 水盤に映る空。建築空間そのものがアートワークと思える切れの良さ。

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 「レストラン七州」でお昼。眺望、味、価格のバランスにおいて、ミュージーアム・レストランNo.1ではないでしょうか。

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 今回は茶室も訪問しました。お菓子と抹茶をいただきながら一服。

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 茶室より屋外を望む。足元を眺める伏目な美学

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 獅子おどしと水鉢。美術品や自然と一体化する空間は、一つの究極を観る思いです。

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2008年12月26日

●Blooming:ブラジル-日本 きみのいるところ@豊田市美術館

 ブラジルつながりで、遅ればせながら今夏に豊田市美術館で開催された「Blooming:ブラジル-日本 きみのいるところ」の鑑賞メモです。企画展なのに撮影可という大判振舞いでした。東京偏重なメディアに対抗して、立地の不利をカバーする計らいなのでしょうか。

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 1Fエントランスから右に折れて、展示室8へ。入った壁面にパウロ・クリマシャウスカ「フォレスト-オール 豊田市美術館」。水没した豊田市美術館に絡みつく大樹。白壁に描かれたシンプルで大胆なドローイングに見えますが。。。

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 実は延々と続く引き算で描かれています。数式は絵からさらに伸びて、白壁横のガラス面に至ります。その端部は∞(この写真は壁面裏側から撮っているので、数字が逆になっています)。人工と自然、その実体は数式の帯。非常に知的でダイナミックな仕掛け。

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 サンドラ・シント「私が燈せるすべての灯り」。小栗沙弥子と百合草尚子との共同制作。コの字型に囲われたブースを、縦ストライプ状に分割しながら描く、星、木、雪の結晶。クッションに寝転がって見上げると、星空のよう。縦に分割しながら様々なイメージを重層描写する手法は非常に和的に感じられます。

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 キアラ・バンフィ「入ってきた風」。縦長な板を並べ、面を黒や金(に見える)色彩で大胆に分割する手法は琳派屏風のよう。

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 金や黒の細やかな線が、画面から飛び出して壁面へと流れ出ていきます。そのイメージの奔流は、風に吹かれる水流の如し。素材はチープなカラーテープなのですが、それがこんなに美しい作品を作り出すとは驚きです。

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 トニーコ・レモス・アウアッド「反映した考古学」(奥壁)、「サイレント・シンギング」(手前床)。宝くじなどで使われるシルバーインクで隠蔽された壁画を、10円玉で削りながら発掘する作品。手前のキラキラ輝く砂浜を迂回していくことで、宝探しの雰囲気が盛り上がります。手が届く範囲は発掘しつくされていましたが、手を動かし発見するアートは新鮮でした。

 マリア・ネポムセノ「日曜日」、「息切れ」。リオのカーニバル、海水浴客で賑わう浜辺に突如巨大風船が投げ込まれる映像作品。好奇心満々で追いかけ、蹴り回し、抱きつく人たち、その一方で無関心な人たちも。やがて風船の空気が漏れてエンド。風船には大きく「アモール(愛)」と書いてあり、その意味するところを考えさせられます。

 反対側の展示室7。島袋道浩「ヘペンチスタのペネイラ・エ・ソンニャドールにタコの作品のリミックスをお願いした」。ヘペンチスタ(朗誦者)の二人組(ペネイラ・エ・ソンニャドール)に、明石のタコを東京見物に連れて行くロードムービーを見せて、歌ってもらう映像作品。言葉が分からないから結構適当に節をつけるわけですが、元の映像の面白さがラテンのリズムで増幅されて抱腹絶倒の面白さへと化けます。ひたすら蛸壺を引き上げ、遂にタコを捕らえるシーンでは、訳の分からない高揚感に満たされます。そもそも築地の市場を観光して明石へ帰っていくタコって何よ?シマブク作品の魅力は世界共通。

 展示室6。マレッペ「サント・アントニオの甘い空」。現美でも登場したマレッペの映像作品。青空に浮かぶ雲に綿菓子を紛れ込ませ、あたかも空を食べるかのように綿菓子を食べます。ユーモア溢れる映像と、植民地時代の労働と結びつく砂糖という題材。

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 2F展示室1に移動して、エルンスト・ネト「ぼくらの霧は神話の中へ」。骸骨を思わせるユニークな形状、薄い膜の中はターメリック(ウコン)とクローブの香り。ホワイトキューブの吹抜けにネト作品が映えます。

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 内部から上を見上げる。膜越しに透ける外部、内部にホンノリ漂う香り。「ネトはこの作品を考案する際、岡倉天心の「茶の本」を読んでいた」と解説にあり、このスケール感、外との繋がりはなるほど茶室のようだと思った。

 展示室2。リヴァーニ・ノイエンシュヴァンダー「ラブ・レタリング」。現美でも展示されていた、金魚の尻尾に単語を結んだ映像作品。「灰の水曜日/エピローグ」。カーニバル後の紙ふぶきをせっせと片付ける蟻の様子を捉えます。ミクロな視点と、人間社会の縮図を思わせる構成。

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 外へ出て、水盤にはハスの葉が浮かびます。ん?なんかえらく大きいし、キラキラ光ってる。実はアナ・マリア・タヴァレス「ヴィクトリア・ヘジア ナイアのために」という作品。

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 近寄ってみると、タイルが敷き詰めてあり、角度によって色味が微細に変化していることが分かります。アマゾンを象徴するオオオニバス(ヴィクトリア・ヘジア)を現代テクノロジーで擬態化し、豊田の池に浮かべる。皮肉とユーモアと美しさを備えた作品。現美の映像作品も冴えていましたが、こちらも目の付け所が鋭いです。

 とにかく面白い作品が目白押しで、異様に密度の高い展示でした。食事も含めて、4時間近く観ていたと思います。

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2008年12月25日

●ネオ・トロピカリア@東京都現代美術館

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 東京都現代美術館で開催中の「ネオトロピカリア:ブラジルの創造力」を観ました。ロビーガラス面に大きく描かれたベアトリス・ミリャーゼスの明るく力強い色彩パターンが期待を高めます。

 展示は3Fから始まります。リジア・パペ「Tteia1,C」。闇に浮かぶ金糸のワイヤーフレームは、歩くほどにその姿を変容させて見飽きません。触れると切れそうな繊細さが、こんなに近いのに触れられない距離感を作り出しています。

 2Fに降りてイザベラ・カペト「ルチャ・ブレア」。大きな布の全面を覆い尽くす装飾パターンの濃密な世界。曼荼羅みたい。左右に置かれた同作家による観覧車やメリーゴーランドの模型とのギャップもすごい。

 1Fに降りてアナ・マリア・タヴァレス「通風孔(ピラネージに)」。幻想建築版画家に捧げる、現代建築ボキャブラリーで構成された映像作品。グレーチング踏板の螺旋階段を中心にガラス、水面等が展開する映像は、水平と垂直の二面映写で有無を言わせずその世界に引き込みます。ルイ・オオタケ「進行中」。サンパウロ最大のスラム街「エリオポリス」で展開される、住居外観をカラフルに塗り替えていくプロジェクト。住民の意見を聞き、彼らの意欲を引き出して進行していくプロセスが素晴らしい。色彩を生きる活力に変えていく、実効力のあるアート。そして現在も進行中。オスジェメオスのペインティング作品。ポップな色彩と影のある人物。2つの異なるイメージが重なる。アシェーム・ヴィヴィッド・アストロ・フォーカスによるミックスメディア作品。クッションに身を沈め、ヘッドフォンから音楽を聞きながら壁面ドローイングを眺める。ちょっと指向性が強すぎる(低い位置で前を向かないと聞こえない)気がするけれども、ワイアレスな自由さが楽しい。

 B2Fに降りて、エルンスト・ネトのインスタレーション。金沢や豊田で体験した作品に比べると、膜に包まれる柔らかな感じが弱め。

 見応えある展示でしたが、どうも空間との相性が悪いと感じました。

 レストラン・MOTで腹ごしらえ。デザート4点盛り+コーヒーで1,000円ちょっと。とても美味しかったです。
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2008年12月24日

●雪舟と水墨画@千葉市美術館

 千葉市美術館で開催中の「岡山県立美術館所蔵 雪舟と水墨画」展を観ました。2年前の浦上玉堂展の共同開催をきっかけに交流を深め、お互いのコレクションの粋を貸し出しあうことで実現した展示だそうです。

 第一章 中国絵画-憧憬の中国-。伝馬遠「高士探梅図」。細かな描線、見事な枝ぶりの梅。海に月が浮かぶ。伝馬遠「採芝図」。枝から垂れ下がる房の描写。伝月壺「白衣観音図」。左上に天女、右下に龍、その周りに漫画チックな波の描画。愛嬌のある観音様のお顔立ち。こういった絵を後世の絵師たちは参考にしたのだろう。

 第二章 日本の水墨画家たち-雪舟から武蔵まで-。「渡島天神図」。梅の枝、腰の袋の色彩が鮮やか。雪舟等楊「山水図(倣玉澗)」。水をたっぷりと含ませた淡い描画。ガタガタした独特の山水画の一方で、こういった画もあるのかと見入る。玉澗の元絵も見てみたい。雪舟等楊「渡島天神図」。梅に腰掛ける天神様。斜めを向く構図が前出作と差別化?承虎「山水図」。黒い枠線が漫画的。如水宗淵「山水図」。上に迫り出す岩山が緊張感をもたらす。楊月「蜆子和尚」。筆遣いの巧みな描画。「山水図(天澤座元送別詩画軸)」。左手前に巨木、右奥に松林の対比。雪村周継「瀟湘八景図屏風」。丸い山の描写が雲頭皴っぽい?普通に上手い。対決展の雪村「呂洞賓図」のゾクゾクするような興奮を思い出します。相手は雪舟「慧可断臂図」でした。やはりすごい展示だったと今更ながら思います。
 時代はぐっと下がって江戸時代へ。雲谷等益「楼閣山水図屏風」。荒々しい岩山と建物の対比。宮本武蔵「布袋竹雀枯木翡翠図」。三幅対の空間を大胆に余白を取りながら構成。

 第三章 岡山出身の四条派画家-柴田義董と岡本豊彦-。柴田義董「西園雅集図」。四条派得意の写実的で色彩豊かな世界と、手に手に筆を持つ人物たちが織り成すメルヘンな世界。岡本豊彦「林和靖図」。空間の捉え方が立体的。岡本豊彦「松鶴波濤図屏風」。西洋絵画のよう。

 第四章 江戸時代の唐絵と富岡鉄斎-中国愛好の系譜-。浦上玉堂「琴写澗泉図」。モコモコ隆起する岩山、木々。浦上玉堂「山澗読易図」。竜巻のように巻き上がる山、木。浦上春琴「僊山清暁図」。玉堂絵を穏やかにして彩色したような画風。浦上春琴「名華鳥蟲図」。鮮やかな花鳥画+虫。水墨画からは外れますが美しい。

 岡山ゆかりの画家たちを時代順に辿る展示は、思った以上に見応えがありました。

 同時開催は「カラーズ・色彩のよろこび」。企画展に因んだテーマで所蔵品で展示する、千葉市美の得意技。
 第2部「色いろいろ~近世・近代の版画より」。「-摺物の色」のコーナーに渓斎英泉の色紙判摺物が4点並びます。非売品ならではの贅を尽くした細やかさと美麗さは一見の価値あり。「-藍摺という発想」でも渓斎英泉「鯉滝登り裲襠の花魁」の着物の背を登る鯉の迫力が素晴らしい。
 第3部「特別な色-たとえば赤」。横尾芳月「阿蘭陀土産」。大掛かりな舞台セットのような作り込んだ構図。
 第4部「幕末明治の極彩色」。豊原国周「五代目尾上菊五郎の小間物屋才次郎」。大蛇を切り裂き、血塗れで立つ人物。その返り血の量がすごい。

 11階講堂向かいのレストラン「かぼちゃわいん」でお昼。前菜、スープ、メインディッシュ、シャーベット、ドリンクで2,100円也。千葉市市街が一望できるロケーションです。
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●浮世絵の中の源氏絵@太田記念美術館

 太田記念美術館で開催された「浮世絵の中の源氏絵」展を観ました。横浜美術館で開催された特別展「源氏物語の1000年」で浮世絵に描かれた見立て源氏絵は観たのでパスしようかと思っていたのですが、「抱一がある、又兵衛もある」という殺し文句を聞いて、急遽向かいました。横浜も、又兵衛の絵が一週間だけ出展されると聞いて急遽行ったのでした。

 閉館30分前に滑り込んで、ぐるっと一巡。観る作品を「古典文学の世界を描いた肉筆画」と「浮世絵師たちが描く王朝世界」に絞ることにしました。まずは畳に上がって葛飾北斎「源氏物語図」。浮世絵でなく古典文学の世界をそのまま描く直球肉筆画。欄間に描かれた水辺に千鳥舞う細やかさ、美しく繊細な衣の紋、板戸の木目表現、襖の草花、外には松と桜。ホントになんでも描ける北斎の腕に惚れ惚れ。岩佐又兵衛「伊勢物語」。写実的な描写、夜明け前に女のもとから逃げ出す男。源氏物語ですらないのに違和感なく並ぶのは、モテ男という共通点があるからか。月岡芳年「月百姿 石山月」。斜め後方から紫式部の横顔を捉える構図の冴え。小林清親「古代模様 紫式部」。横長画面に広がる紫式部の卵型横顔と扇子。大胆でコミカルな画面。酒井抱一「源氏物語図」。水の青、空の金、野の緑を基調とし、松に桜に白い花が彩る彩色美の世界。扇の上広がりの紙面に合わせた斜め上から俯瞰する構図もピッタリ決まってます。建物奥には雪に鴛の襖、螺鈿細工の違い棚。細やかな描写と、のぞき見構図でない品の良さにウットリ。扇の形のままでの展示も、使う人の優雅さが偲ばれて素敵。

 美術館を後にすると、すぐに表参道。ビルが壁面ごと光っていて、なかなかのインパクト。
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2008年12月23日

●菌類のふしぎ@国立科学博物館

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 上野の国立科学博物館で開催中の特別展 「菌類のふしぎ-きのことカビと仲間たち」を観ました。

 展示は「原核生物と真核静物」から始まり、全20章に渡ります。菌類の分類、位置づけといった解説に続いて、様々な標本が並びます。その一方で、菌類が大活躍する漫画「もやしもん」のキャラクターグッズが会場内に大量に設置されていて水先案内役を果たす、非常にユニークな作りです。場内は若い女性やカップル、親子連れで大賑わいの縁日状態。こんなに賑わう化学系展示は見たことがありません。

 混雑のせいで標本は見難いのですが、キャラのおかげでけっこう楽しく回れます。途中にある「もやしもん劇場」では、住宅内部の再現パネルに大量の菌類マスコットが貼り付けてあり、どこにでも菌類がいることが良く分かります。作者の石川さんが会場のあちこちに落書きをされていて、それらを宝探しのように携帯デジカメに収めて回る方も多いです(場内は一部を除いて撮影OKです)。子供たちは記念撮影コーナーで大喜び。アイデアが上手く機能している展示でした。

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2008年12月22日

●日本大学カザルスホール@御茶ノ水

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 御茶ノ水にある日本大学カザルスホールで「アーレントオルガン ランチタイムコンサート」を聴きました。カザルスホールは1987年に竣工した、クラシック音楽専用のシューボックスタイプといわれるホールです。設計は磯崎新アトリエ。 所有会社の運営難で継続が危ぶまれる時期もありましたが、新たな所有者及び協賛企業の支援を得て今日に至ります。さすがは文教地区です。

 学生時代に音響重視型ホールの手本例として習ったものの、実際の音響を聴くのは今回が初めて。非常に巨大で装飾性も高いパイプオルガンからどのような音響が響くのか、興味津々。オルガン奏者とその助手(?)の方が右手のブリッジから登場、パイプの裏手から回って鍵盤の前へ。助手の方が鍵盤両脇の音栓を調節して、譜面台に楽譜を置いて演奏開始。時に鍵盤上の扉を開き、時に足で演奏し、その一つ一つがダイナミックでロボットアニメの操作シーンを観ているようです。
 演奏が4曲目にさしかかり、バッハが流れる頃にはすっかり音響に包み込まれ、夢見心地に。ホールを見渡しても、目を閉じて聴き入っている方も多いです。7曲目は大小パイプオルガンとチェンバロによる合奏。1時間ほどの演奏を堪能しました。

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2008年12月17日

●所蔵琳派展@MOA美術館

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 MOA美術館で開催中の「所蔵琳派展 -装飾美の世界-」を観ました。先日の東博「大琳派展」不出展の大物、尾形光琳「紅白梅図屏風」は残念ながら今回も不出展。それでも琳派イヤーの掉尾を飾る展示として見逃せません。館内に作品リストが準備されていないので、事前にWEBページの作品リストをプリントアウトすることをお勧めします。

 入ってすぐに伝本阿弥光悦「樵夫蒔絵硯箱」。オニギリ山のような見事な盛り上がりと、黒漆と金蒔絵の大胆な面構成、そして大きく描かれた樵夫。尾形光琳「佐野渡図」。着物の細やかな金模様が美しい。俵屋宗達「龍虎図」。つぶらな瞳の虎は、「朝鮮王朝の絵画と日本」で観た許士寅「虎図」との共通点が感じられます。同展で観た宗達「犬図」と李厳「花下遊狗図」の関連性といい、宗達は朝鮮絵画を研究したのでは?と気になります。尾形光琳「虎図屏風」。ドラえもんのような虎が可愛い。酒井抱一「雪月花図」。松に積もった雪がサラーッと流れ落ちる描写が秀逸。真ん中の月だけを描く構図も大胆。その隣に「藤蓮楓図」。縦長画面を活かした藤の蔓、長い幹に紅葉が美しい。抱一の掛軸三幅揃が二点並ぶここが、マイベスト。

 大琳派展に比べると小粒ながら、琳派の名品をこれだけ揃えるところは流石。

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2008年12月16日

●風景ルルル@静岡県立美術館

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 静岡県立美術館で開催中の「風景ルルル」展を観ました。副題は「~わたしのソトガワとのかかわり方~」。普遍的で明快なテーマ設定の下、8者8様の現代風景が並びます。

 高木紗恵子。木々の描画に、線と絵具の塊が重なる。複層レイヤーを投影する感覚。「ワイルドライフ/ブルズアイ」には木に混ざって鹿が登場。
 照屋勇賢。紙袋の作品は、3年前の横浜トリエンナーレで観たのと同系統。「Dessert Project」。ガラス冷蔵ケースに安置されたゼリー、スポンジ・ケーキ、ガム、砂糖で出来た巨大なデザート。その原色系カラフルさと人工的な無機感とヒンヤリ冷気が混ざり合ったグロテスクな美しさが目を惹く。なぜかとても現代的と思う。お菓子の中の都市は芸が細かい。
 柳澤顕。液晶スクリーンを思わせる四角と、ダイナミックな流線の組み合わせが印象的。
 鈴木理策。光と影、流れ移ろう水流。異なる要素を絞込み、一つの画面に定着させる美しさ。
 内海聖史。色彩豊かな点描が、大小変幻自在に画面を埋める。青は空、緑は木々、赤と橙は花と果実。大きく残した余白は背景に溶け込んで、全体で大きな世界を構成する。厚いカンバスがボンヤリとした影を落として、個と全体の関係を仄めかす。とても豊穣で、とても美しい世界。
 ブライアン・アルフレッド。「Reactors」。原子炉の大きな排気口から立ち上るピンク色の煙。現実を楽観的に捉えるペーパーコラージュ群。
 佐々木加奈子。作者が風景の一部として登場する写真群。ビデオインスタレーションが奇妙でじっと見てしまう。走る電車の最後尾に陣取って、モノをどんどん拾っていく(フィルムの逆回しでそう見える)映像。
 小西真奈。絵葉書のような構図の風景と人。情報量を削ぐことで、ありふれていそうで、その実どこでもない世界になっている。「浄土2」。岩にふもとの水辺に佇む女性。そこは浄土。

 同時開催の「Resonance(リゾナンス)-共振する感覚」。「風景ルルル」展に出展している現代アーティストの作品と、静岡県美が所蔵する作品を並べて展示します。
 共振というよりも、単品になったときの現代の脆弱さが浮き彫りになるような気がしました。

 エントランスホールの片隅で、草間弥生「水上の蛍」が展示中です。水を満たした鏡の世界に無限増殖する、細やかな光の明滅と揺らぎ。とても美しい。

 個人的には、内海さんの作品と、草間さんの作品が抜群に良かったです。現代アートの展覧会として、とても充実しています。巡回展でないことが、なんとももったいないです。

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2008年12月12日

●巨匠ピカソ 魂のポートレート/愛と創造の軌跡@六本木

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 六本木で開催中の二つのピカソ展を観ました。パリの国立ピカソ美術館改装によって実現した鳴り物入りの回顧展も、あっという間に会期終了目前。二回目の訪問はオーディオガイドを借りて、ピカソの絵の変遷を辿ることにひたすら集中。

 サントリー美術館巨匠ピカソ 魂のポートレート」。
 青の時代の精緻で凍りつくような「自画像」から始まり、古典の原始的な力強さに満ちた普遍的な「自画像」、さらにオリガとの出会いの頃の自信に満ちた線描の「自画像」。そして彼をめぐる女性との愛憎の渦の中をモンスターのように歩む「ヴェールをかざす娘に対して、洞窟の前のミノタウロスと死んだ牝馬」。狂おしいほどの愛情を芸術に昇華する「接吻」。最後は「若い画家」できれいにまとめて終了。貪欲な創作欲とそれを昇華する才能。奔放な愛情と強靭な身体。

 国立新美術館愛と創造の軌跡」。「ラ・セレスティーナ」。こちらも凍てつく青の時代から始まる。「二人の兄弟」。温かみの射す薔薇の時代へ。「肘掛け椅子にすわるオルガの肖像」。華やかな社交界へと進出してゆく時代に相応しい気品と美しさ。「画家とモデル」。そして愛憎の渦を歩むモンスターの登場。「女の頭部」。キュビスムの分析的手法を立体化したような造形は驚き。「ドラ・マールの肖像」。隣の愛らしいマリー・テレーズと対照的な知的な美しさ。二人が争う様すら芸術に昇華する意欲と才能は凄絶。「泣く女」。その才女が涙にくれる絵をはさんでゲルニカの時代。「雌ヤギ」。愛する女性の遍歴を重ねる中で得た、安らぎを感じさせる童心に満ちた造形。会場は女性が多く、とても熱心に魅入っているのが印象的。

 ピカソの作品が発する、ものすごいパワーと才気に圧倒されました。

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2008年12月06日

●さよならハンマースホイ展@上野

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 上野の国立西洋美術館で開催された「ヴィルヘルム・ハンマースホイ展」も今日が最終日。先日、見納めに夜間鑑賞に行ってきました。

 クライマックスの「誰もいない室内」がとても印象に残っていたのですが、改めて観ると人物画も魅力的です。雪のクレスチャンスボー宮殿も良い。観ていくにつれて、次第に彼の世界に引き込まれていくところが本展の良いところだと思います。鳴り物入りの展示が乱立する中で地味さを心配する向きもあったと思いますが、人もけっこう入っていました。西洋美術のファンが増えたのではないでしょうか。

 内覧会の際の感想はこちら

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2008年12月03日

●琳派から日本画へ@山種美術館

 山種美術館で開催中の「琳派から日本画へ」を観ました。

 会場に入って左手に福田平八郎「彩秋」。金属のような色味の葉、白地にグレーの穂の対比。同じく「筍」。黒い筍に緑の芽、線描の笹の葉を敷き詰めた地面。対象を絞り込み、写実的かつグラフィカルに仕上げるセンスは其一を思わせます。右に折れて前田青邨「大物浦」。紙を折り、絵具を染み込ませたような波と、それに翻弄される船と人物。大迫力。さらに右に折れて酒井抱一「月梅」。ほんのりとした緑青のような緑が作品に品を添えます。

 次室に進んで、東山魁夷「満ち来る潮」。エメラルドグリーンの海、銀の波飛沫、岩の先端には金色がのる。波音が聞こえそうな荒々しくも美しい海。速水御舟「白芙蓉」。白い花弁に紫のおしべ(?)、モノトーンの茎と葉が妖しい美しさを放つ。荒木十畝「四季花鳥図」。美しい色彩で派手派手。

 さらに奥の展示室へ。速水御舟「名樹散椿」。鮮明な金地に単純化された緑の丘とうねる幹。そして緻密に描かれた葉と花が、異様な密度で重なり合い美麗な全体を構成する。その左手に伝俵屋宗達「槙楓図」。くすんだ金地にうねる幹、重なり合う槙と楓。新旧のコントラスト、継承を思わせる相似性は、両者を並べた時点で勝負あったと思わせる素晴らしさ。ベンチに腰掛けて眺めていると、感動で涙が出た。御舟の脳裏に焼きついたであろう、記憶の中の名樹。その一瞬を画面に定着させたような画は、技巧を超えた祈りのようなものを感じさせます。来年の「速水御舟展」が楽しみです。

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2008年12月01日

●セザンヌ主義@横浜美術館

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 横浜美術館で開催中の「セザンヌ主義 父と呼ばれる画家への礼賛」を観ました。

 「プロローグ」。エミール・ベルナール「セザンヌ礼賛」。ラ・トゥール「聖トマス」?と思わず呟いてしまうほどに似ている。大きなおでこ、伏した構図、長髭。ひょっとしてベルナールは「聖トマス」を知っていて、セザンヌへの敬意をこの名作に重ねて描いたのかと思いました。モーリス・ドニ「セザンヌ訪問」。セザンヌの言葉を世に伝えたドニが描いたセザンヌ訪問記念画。二人にとってセザンヌは、新しい絵画を指し示す神の如き存在だったことがヒシヒシと伝わってきます。

 「I 人物画」。「青い衣装のセザンヌ婦人」、「帽子をかぶった自画像」等、セザンヌの名作も並びますが、展示の焦点は後生の画家達に与えた影響。セザンヌが描いた上半身肖像画と、後生の画家たちが描いた肖像画を並べて、その影響を浮かび上がらせます。なるほどと思うものもあれば、?なモノもあり、玉石混交な気もします。章後半は裸婦と水浴画。セザンヌの水浴画の大作が出展されず、説得力を欠いたのが残念。

 「II 風景画」。「ガルダンヌ」。セザンヌ絵画からキュビスムの分析的手法への橋渡しを予感させる幾何学的な構成。「ガルダンヌの村」。前作と同じ風景を別アングル、別アプローチで描き、セザンヌの試行錯誤が伺えます。「ガルダンヌからサント=ヴィクトワール山」。セザンヌ独特の分割と黄色を多用する色彩。ブリジストンの名作が頭に思い浮かびます。小野竹喬「郷土風景」。セザンヌの影響が日本画にまで。当時の最先端だったのでしょう。

 「III 静物画」。「りんごとナプキン」、「ラム酒の瓶のある静物」と、美術の教科書でお馴染みの画が並びます。対象を色彩のボリュームで捉える独特のタッチ!岸田劉生「静物」。ガラス瓶の透明感、茶碗の艶。居並ぶ後継作の中でも抜きん出た存在感。
 
 本展は「実物で辿る、セザンヌを中心とした、セザンヌ以降の美術史」としてとても成功していると思います。物量大作戦が幅を効かす今期にあって、構成力で見せます。この構成で観ると、人物、風景、静物の全てにおいて、セザンヌが源流と思えてきます。その一方で、セザンヌからフォービズムへの飛躍は、やはりマティスたちの才能に負うところが大きいと思うので、持ち上げすぎと思える部分もありますが。

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 美術館に隣接した住宅展示場で開催された「横浜アート&ホーム コレクション展」。17軒のモデルハウスのそれぞれで、ギャラリーが美術品を展示販売します。わずか二日間の展示に手の込んだホームページを準備した意欲的な企画。チケットは引換時間を1日に3回設定した(ただし引換以降の滞在時間は制限なし)多人数の来客にも安心のシステム。しかも入場料は1,000円ですが、セザンヌ展の入場者はなんと無料の大盤振る舞い!

 だったらしい。そんな案内どこにも出てなかったし、誰も教えてくれなかったし、知るわけないやん。17回靴を脱いでは履き、2時間かけて観て回りました。

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