2008年12月26日

●Blooming:ブラジル-日本 きみのいるところ@豊田市美術館

 ブラジルつながりで、遅ればせながら今夏に豊田市美術館で開催された「Blooming:ブラジル-日本 きみのいるところ」の鑑賞メモです。企画展なのに撮影可という大判振舞いでした。東京偏重なメディアに対抗して、立地の不利をカバーする計らいなのでしょうか。

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 1Fエントランスから右に折れて、展示室8へ。入った壁面にパウロ・クリマシャウスカ「フォレスト-オール 豊田市美術館」。水没した豊田市美術館に絡みつく大樹。白壁に描かれたシンプルで大胆なドローイングに見えますが。。。

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 実は延々と続く引き算で描かれています。数式は絵からさらに伸びて、白壁横のガラス面に至ります。その端部は∞(この写真は壁面裏側から撮っているので、数字が逆になっています)。人工と自然、その実体は数式の帯。非常に知的でダイナミックな仕掛け。

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 サンドラ・シント「私が燈せるすべての灯り」。小栗沙弥子と百合草尚子との共同制作。コの字型に囲われたブースを、縦ストライプ状に分割しながら描く、星、木、雪の結晶。クッションに寝転がって見上げると、星空のよう。縦に分割しながら様々なイメージを重層描写する手法は非常に和的に感じられます。

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 キアラ・バンフィ「入ってきた風」。縦長な板を並べ、面を黒や金(に見える)色彩で大胆に分割する手法は琳派屏風のよう。

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 金や黒の細やかな線が、画面から飛び出して壁面へと流れ出ていきます。そのイメージの奔流は、風に吹かれる水流の如し。素材はチープなカラーテープなのですが、それがこんなに美しい作品を作り出すとは驚きです。

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 トニーコ・レモス・アウアッド「反映した考古学」(奥壁)、「サイレント・シンギング」(手前床)。宝くじなどで使われるシルバーインクで隠蔽された壁画を、10円玉で削りながら発掘する作品。手前のキラキラ輝く砂浜を迂回していくことで、宝探しの雰囲気が盛り上がります。手が届く範囲は発掘しつくされていましたが、手を動かし発見するアートは新鮮でした。

 マリア・ネポムセノ「日曜日」、「息切れ」。リオのカーニバル、海水浴客で賑わう浜辺に突如巨大風船が投げ込まれる映像作品。好奇心満々で追いかけ、蹴り回し、抱きつく人たち、その一方で無関心な人たちも。やがて風船の空気が漏れてエンド。風船には大きく「アモール(愛)」と書いてあり、その意味するところを考えさせられます。

 反対側の展示室7。島袋道浩「ヘペンチスタのペネイラ・エ・ソンニャドールにタコの作品のリミックスをお願いした」。ヘペンチスタ(朗誦者)の二人組(ペネイラ・エ・ソンニャドール)に、明石のタコを東京見物に連れて行くロードムービーを見せて、歌ってもらう映像作品。言葉が分からないから結構適当に節をつけるわけですが、元の映像の面白さがラテンのリズムで増幅されて抱腹絶倒の面白さへと化けます。ひたすら蛸壺を引き上げ、遂にタコを捕らえるシーンでは、訳の分からない高揚感に満たされます。そもそも築地の市場を観光して明石へ帰っていくタコって何よ?シマブク作品の魅力は世界共通。

 展示室6。マレッペ「サント・アントニオの甘い空」。現美でも登場したマレッペの映像作品。青空に浮かぶ雲に綿菓子を紛れ込ませ、あたかも空を食べるかのように綿菓子を食べます。ユーモア溢れる映像と、植民地時代の労働と結びつく砂糖という題材。

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 2F展示室1に移動して、エルンスト・ネト「ぼくらの霧は神話の中へ」。骸骨を思わせるユニークな形状、薄い膜の中はターメリック(ウコン)とクローブの香り。ホワイトキューブの吹抜けにネト作品が映えます。

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 内部から上を見上げる。膜越しに透ける外部、内部にホンノリ漂う香り。「ネトはこの作品を考案する際、岡倉天心の「茶の本」を読んでいた」と解説にあり、このスケール感、外との繋がりはなるほど茶室のようだと思った。

 展示室2。リヴァーニ・ノイエンシュヴァンダー「ラブ・レタリング」。現美でも展示されていた、金魚の尻尾に単語を結んだ映像作品。「灰の水曜日/エピローグ」。カーニバル後の紙ふぶきをせっせと片付ける蟻の様子を捉えます。ミクロな視点と、人間社会の縮図を思わせる構成。

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 外へ出て、水盤にはハスの葉が浮かびます。ん?なんかえらく大きいし、キラキラ光ってる。実はアナ・マリア・タヴァレス「ヴィクトリア・ヘジア ナイアのために」という作品。

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 近寄ってみると、タイルが敷き詰めてあり、角度によって色味が微細に変化していることが分かります。アマゾンを象徴するオオオニバス(ヴィクトリア・ヘジア)を現代テクノロジーで擬態化し、豊田の池に浮かべる。皮肉とユーモアと美しさを備えた作品。現美の映像作品も冴えていましたが、こちらも目の付け所が鋭いです。

 とにかく面白い作品が目白押しで、異様に密度の高い展示でした。食事も含めて、4時間近く観ていたと思います。

Posted by mizdesign at 2008年12月26日 06:31
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コメント

こちらにも失礼します。撮影可の現代アート展とは珍しいですね。ブラジルつながりとはMOTと連動した部分もあったのでしょうか。はじめはてっきり巡回展かと思ってしまいました。

蓮の作品も美しいですね。向こうに広がる木立からして、MOTでは逆立ちしても追いつかないロケーションだなと感心します。是非一度行ってみたいです。

Posted by はろるど at 2008年12月26日 21:23

はろるど様>
こんばんは。
アーティストは何組か重なっていました。作品は「ラブ・レタリング」のみだと思います。

建物単体のレベルはどちらも高いのですが、アートとの連動となると圧倒的に豊田>現美だと感じます。

Posted by mizdesign at 2008年12月27日 00:46
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