2008年11月23日
●朝鮮王朝の絵画と日本@栃木県立美術館
栃木県立美術館で開催中の「朝鮮王朝の絵画と日本」を観ました。副題は「宗達、大雅、若沖も学んだ隣国の美」。今年は江戸絵画のルーツを辿ることがブームなのか、「特集陳列 中国書画精華」@東京国立博物館東洋館」、「室町将軍家の至宝を探る」@徳川美術館と立て続けに中国絵画の名品を見る機会がありました。今回はそのおとなりの朝鮮絵画です。無料の音声ガイドを聞きながら観ました。
第1部「朝鮮絵画の精華」。第1章「朝鮮絵画の流れ:山水画を中心に」。「雪景山水図」のモコモコと山を描く描法(蟹爪樹という技法らしい)が印象的。崔名龍「山水図」。傍らに狩野探幽「和漢古画帖」が置かれており、本図の縮図が載っている。小さくって見やすい。ずっと後の章で展示されている李厳「花下遊狗図」の犬たちは、その愛らしさと江戸絵画への色濃い影響で、本展の顔。「紅梅図」の勢いある梅の描写もちょっと異質で印象的。李継祜「葡萄図」。墨で描かれた葡萄の葉と実が円弧を描くように配されていてとても美しい。「蘭図」。鉢と葉を大きく描く異色作。鄭散「冠岳夕嵐図」。保存状態良好の青い空。朝日かと思った。田琦「梅花草屋図」。素朴な表現によるホノボノ感。
第2章「仏画の美 高麗から朝鮮王朝へ」。「大方広仏華厳経巻第三十九」。背景で花が踊る、独特のセンス。
第3章「絵画と工芸、越境する花鳥の美」。伝呂紀「花鳥図」。中国絵画の影響を思わせる構図、図柄。伝呂紀の同名別作品は余白のない画面にスケールオーバーな鳥や虫が詰め込まれているので、手本を写したのだろう。「華角貼人物図箱」。華角貼とは、牛の角を火で炙って薄く伸ばして木箱に貼る技法だそうです。鮮やかな赤地に描かれた人物画像はとても鮮烈。
第4章「「民画」の誕生」。「虎図」。チラシにも載っている眼がグルグル回ってる虎。見たことのない捉え方。許士寅「虎図」。こちらは奈良美智を思わせるつぶらな瞳。「虎図屏風」。表情豊かなものぐさ虎が並ぶ。「九雲夢図」。ちびまるこちゃん顔の人物、平面的な描写。「紙織魁星点斗図」。点描を思わせる紙織図の中でも異彩を放つ、龍の頭を踏みつけながら北斗七星を描く鬼の図。
第2部「日本人のまなざし」。第5章「交流の形-朝鮮通信使の果たした役割」。李聖麟「仕女図」。近代日本画的な面持ちの美女。
第6章「日本画家のまなざし-日本絵画に与えた影響」。啓孫「虎渓三笑・山水図」。三人の仙人が笑いあう図。この題を聞くと、曽我蕭白「虎渓三笑図」の人を食った構図が思い浮かぶ。雪村周継「瀟湘八景図屏風」。うねり波打つ山。対決展でも異彩を放った雪村の中では穏やかな方?俵屋宗達「犬図」。本展のサブテーマ「犬」の継承として、李厳「花下遊狗図」と並べて展示。ちょっと奇をてらい気味で、可愛いというより不気味。
伊藤若冲「白象群獣図」。三つの枡目描の一つ、ようやく対面。思っていたよりも大きい。パオーンと振り上げた白象の鼻が煙のようでもあり、その背後にわさわさと湧き出る龍に栗鼠に黒豹に謎の丸い生命体。この題材、構図、技法でまとめられるところが、さすが若冲。奇想の根底に敬虔な仏教徒としての祈りがあってこそ。
本展の特徴は全326点に及ぶ展示作を通して、普段あまり目に触れる機会のない朝鮮絵画を通観し、日本に及ぼした影響を探るというものです。名品、異色作、そして最後の江戸絵画と見逃せない展示作が随所に登場します。その一方でヘタウマ系?と思う作品も多く含まれており、密度的には今一つ。
さらに、今回見られたのは150点ちょっと、リスト作の半分ほどです。栃木県立美術館だけで6回の展示替えがあり、さらに4会場を巡回する間にも入替があります。作品リストを確認して、目当ての作品と展示会場を絞り込むことをお薦めします。例えばリストに6作品(伝を含めれば8作品)登場する雪村は、今回は1作品しか展示されていません。
会場は栃木、静岡、仙台、岡山。まだ見ぬ「樹下鳥獣図屏風」を求めて、今度は静岡に行くことになりそうです。会期中いつ展示されるのか、またMOA美術館の「紅白梅図屏風」がいつ展示されるのかも気になるところです。