2008年09月23日
●狩野芳崖 悲母観音への軌跡@東京藝術大学美術館
上野の東京藝術大学美術館で開催中の「狩野芳崖 悲母観音への軌跡」を観ました。行こうと思いつつ気がつけば最終日。ギリギリ滑り込みました。「近代日本画の祖」と称される画家の代表作を芯に据えての回顧展。辻惟雄著「日本美術の歴史」で知って以来、観たいと思っていた「悲母観音」、「仁王捉鬼図」とようやく御対面です、
展示は回顧展らしく、若き日の作品から始まります。「山水図」における雪舟に学んだ自然描画を踏まえつつ螺旋の塔のように描く空間性、「八臂弁才天図」における雲や雷で空間ニッチを作り出す構成力。後の代表作へと続く萌芽が見られます。でも全体的にはけっこう地味な感じです。上手いけれども突出する感じはありません。
それがフェロノサとの出会いを機に一気に花開きます。「仁王捉鬼図」のコミカルな表情と躍動感あるポーズ、豊かな色彩は現代的なセンスに満ちています。特に掴まれてジタバタする子鬼が可愛い。「大鷲」の意表をつく巨大さは北斎を髣髴させます。
そして室を変えて、「悲母観音」へ。その前身となる「観音」の構想が、実はフェロノサと出会う前という意外な指摘。孫の誕生が影響を及ぼしているという指摘。下絵段階では羽を持った天女の構想もあったという事実。サイドストーリーが積み重なって、絵の奥行きが形成されて行きます。そして厨子状の囲いの中に「悲母観音」。手に持つ水瓶から流れ出る水が赤子を包む水球へと流れ込む独特の構図、観音の優しげな表情、彼らを包み込む雲。その優しく儚い美しさは、芸大初代教授に任命されながらその誕生を待たずに亡くなった画家の薄倖の人生が重なるようです。最後に非母観音の影響が伺える絵画の数々を紹介して終了です。
個人的に「当たり外れが大きい美術館」の企画展の中で、上位にランクインする内容でした。
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