2008年09月30日
●ヴィルヘルム・ハンマースホイ -静かなる詩情-@国立西洋美術館
上野の国立西洋美術館で「ヴィルヘルム・ハンマースホイ -静かなる詩情-」展が始まりました。ハンマースホイといえば、去年の「オルセー展」に出品された「室内、ストランゲーゼ30番地」。絵に漲る静謐なる詩情は、強く心に残っています。そのハンマースホイの回顧展が、日本でまさかの開催です。嬉しいことこの上ありません。いつも御世話になっているこちらさまのおかげで、今回は内覧会に参加させていただきました。どうもありがとうございます。
(以下の画像は主催者の許可を得て使用しています。)
「若い女性の肖像、画家の妹アナ・ハンマースホイ」
1885年 ヒアシュプロング美術館
Photo © The Hirschsprung Collection, Copenhagen / DOWIC Fotografi
「第I章 ある芸術家の誕生」。ハンマースホイ21歳、実質デビュー作。当初からモノトーンの抑えた色彩と、輪郭が曖昧で背景に溶け込むような描法が登場することに驚かされます。アカデミー展に応募するも落選、しかしその評価を巡って論争が起こったそうです。
「クレスチャンスボー宮殿、晩秋」
1890-92年 コペンハーゲン国立美術館
Photo © SMK Foto, Copenhagen
「第II章 建築と風景」。ハンマースホイはロンドン、パリ、ローマを訪問する機会に恵まれます。しかし、パリでは景色を全く描かず、ローマでは建物内観を一枚のみ。ロンドンの住宅街は何枚も描いています。霧に煙る景色が、画家の創作意欲を刺激したのでしょうか。クレスチャンスボー宮殿もその往来の人影は全く描かれず、建物を霧に塗り込める如く平坦に描くことで静謐感溢れる世界を創出しています。この絵の左側にある雪景色は額縁まで白くしてあり、静溢感が極まっています。
「休息」
1905年 オルセー美術館
Photo © RMN / Michèle Bellot / distributed by DNPAC
「第III章 肖像」。ハンマースホイの絵に度々登場する「女性のうなじ」。その美しさに何度も見惚れます。「休息」といいつつも不自然に背を反らせた本図も、「いかにうなじを美しく見せるか」という彼の探究心の表れと捉えると合点がいきます。そんな彼につきあってモデルを務めた奥様あってのハンマースホイ作品ともいえそうです。
「室内、ストランゲーゼ30番地」
1901年 ハノーファー、ニーダーザクセン州博物館
Photo © Ursula Bohnhorst
「第IV章 人のいる室内」。ピアノの足、奥の女性の足。ハンマースホイは構図を優先して不要なものを消してゆきます。そして残るのは、窓から射し、床・壁・天井を反射しつつ空間に満ちる光。その痕跡が家具の足から複数方向へと伸びる影に現れます。
「陽光習作」
1906年 デーヴィズ・コレクション B312
Photo © Pernille Klemp
「第VI章 誰もいない室内」。そして人もいなくなり、ドアノブも丁番もなく、光だけが残る。静かに移ろいゆく、その一瞬を切り取ろうとする眼と腕が辿り着いた終着点?
デビューから絶筆まで、ハンマースホイの絵から受ける印象はほぼ一貫しています。生涯を通じて「何か」を描こうと探求を続ける姿は求道者のようです。彼の人となりを示す資料が少ないこともその印象を強めているのかもしれません。
絵を大きく描いてトリミングしてゆく技法、人や家具を構図の要素と捉える視線、立体を平面的に描こうとする志向等、写真的なアプローチを多用している(むしろ理想の写真を撮るために描いている?)点も非常に興味深いです。
少し肌寒い秋に、思索に耽りながら観るのにピッタリの展示です。