2008年08月05日
●特別展「対決 ―巨匠たちの日本美術」記念講演会 美と個性の対決
特別展「対決 -巨匠たちの日本美術」記念講演会 美と個性の対決を聞きました。「奇想」ブームの仕掛人、辻惟雄先生登場!
内容が決まっていなかったので、曖昧なタイトルにした。12組24人分話すと一人3分ほどになってしまうので、1組に絞って話すことに。取り上げるのは伊藤若冲と曽我蕭白。
伊藤若冲。光琳が亡くなった年に生まれる。新興商人階級。京都錦小路の青物問屋枡源の跡取り。新しい層にも芸術を楽しむ人が出てきた。23歳で家業を継ぎ、40歳で隠居。女性が苦手か、生涯独身。相国寺大典禅師によると、売られるスズメが可哀想と全羽買って庭に放す。芸者遊びをしない。ただ、絵が好きだった。人間嫌いか、人物画は上手くない。花鳥画に絞る。中国では写生が流行っていると聞き、庭に鶏を放って写生。40で家督を譲ってデビュー。
「虎図」。正伝寺の伝毛益筆虎図を模写。見事にデザイン化していて、元絵よりも良い。
「旭日鳳凰図」。尾羽のハート。
「動植綵絵」。去年公開したこともあって、借りられず。「梅花小禽図」。若冲独特の淡いイメージ。「南天雄鶏図」。火の粉が背中から落ちてくる怖いイメージ。「棕櫚雄鶏図」。画面左上に穴が開いている。向こうからこちらを見ている気になる。「群鶏図」。山下清。「老松鸚鵡図」。ドラッグ?サイケデリック。
以降、「野菜涅槃図」、「仙人掌群鶏図襖」、「菜蟲図巻」、「石灯籠図屏風」を経て、「石峰寺本堂天井花卉図」へ。現在は信行寺蔵。非公開だが、複製を作って公開するという話もある。水仙のダンス。
曽我蕭白。蝦蟇仙人に見られる、水木しげるのようなユーモア。二人が並ぶと、残念ながら蕭白の筆に若冲が押される。蕭白は下品で字も下手。こういう人が登場できる時代になった。
30歳の作「久米仙人図屏風」。蕭白の作品は、ボストン美術館が大量に購入した。日本での知名度の低さの一因かも。
「寒山拾得図屏風」。エキセントリック。「寒山拾得図双幅」。妖怪仕立て。「達磨図」。白隠の影響?村上隆「目を見開けど実景は見えず。ただ、己、心、凝視するばかり也」は本作の現代的再生と思える。なかなかの迫力。「雲龍図」。クローズアップによる怪獣出現に似た迫力。
「群仙図屏風」。これは面白い。怪作。まともな神経で描いたとは思えない、ギリギリのところで成立する面白さ。「唐獅子図」。壁から剥がした際に墨が薄くなったのが残念。筆使いの荒々しさは残っている。酒の力を借りた滅茶苦茶な絵。堂々とした構成力。「商山四皓図屏風」。何年かして、大ボストン展で来ると思う。期待して下さい。「月夜山水図屏風」。気味が悪い。「石橋図」。谷に落ちる犬、崖を登る犬の群れ。無数の犬。上手く描けている。
蕭白の絵は偽物が多い。人気があった証拠。若冲「朱衣達磨図」は蕭白の絵を若冲がからかって描いた絵か?両者の交友を示すかも。
質疑。「蕭白は鬼才だと思いますが、後世に与える影響といったことを考えると巨匠といえるのでしょうか?」
蕭白、そして若冲もどちらかというとインディペンデント。巨匠というのは言葉のあやの部分もある。はじめは「巨匠名匠 対決展」としようと思ったが、「巨匠」だけにした。どうしたらお客さんがたくさん来てくれるかを考えて、対決形式にした。蕭白の場合、「成り上がってきた大物」といった方が正しいかも。ごちそう山盛りの展示になった。
上記は私の質問です。前回の講演会で気になったことを、そのままお聞きしました。辻先生の蕭白好きがヒシヒシと伝わって来ました。