2008年07月31日

●特別展「対決-巨匠たちの日本美術」記念座談会

 「対決展」を俄然面白くするイベントの一つ、「記念座談会」を聴きました。第一部「巨匠対決のみどころ」、第二部「放談 巨匠対決」の二部構成ですが、目当ては当然二部。

第2部 「放談 巨匠対決」
司会:松原茂(東京国立博物館上席研究員)
パネリスト:河野元昭(『國華』主幹)、水尾比呂志(『國華』名誉顧問)、小林忠(『國華』編集委員)

 対決というタイトルについて
河野:明治20年の創刊以来2008年で119年、数えで120年。学術雑誌として研究の蓄積を活かした展覧会であるべきという一方で、日本美術への関心の高まりを踏まえて、観て楽しい展覧会であるべきと考えた。その結果、「対決」に決まった。

 対決の選択について
水尾:(せっかくの機会なので)無名の大家を作ったらどうかと思った。しかしそこまで対象を広げるのは不可能なので、巨匠、名匠に限った。

 実現しなかった対決
小林:北斎vs広重。日本美術を振り返るには、浮世絵から二つは差し出がましい。空海vs最澄。展示が平安時代まで遡れて好都合。だが二人を巨匠と呼ぶのは差し出がましいと思った。

 注目の対決 (各先生が担当された対決)
水尾:永徳vs等伯。永徳の細かい描写の代表作、洛中洛外図屏風。信長から上杉へ渡った作品。祇園祭の山鉾巡行も登場。等伯の楓図。以前はお堂に飾られていたが、今は収蔵庫に納められている。ともに残念ながら借りられず。長次郎vs光悦。名椀を一堂に見られる機会。長次郎「黒楽茶碗 銘あやめ」、光悦「白楽茶碗 銘不二山」があれば完璧。残念ながら借りられず。長次郎は侘び茶の精神の体現、光悦の造形能力。

河野:宗達vs光琳。風神雷神図屏風は最後の一週間のみ登場。是非もう一度来て下さい。宗達は町絵師。レディーメイドの絵を売っていた。扇屋だったという説もある。その才能が認められて、法橋まで上り詰めた。水尾先生の名作「扇面構図論」。ユーモアの宗達vsシニカルな光琳の美の対決。光琳は風神雷神図の表面に法橋光琳と書いた。新しい時代が来ていることを体現している。
 若冲vs蕭白。辻惟雄「奇想の系譜」、昭和43年著、出版は45年。新しい時代への欲望が開いた時期に書いた。蕭白は縄文、若冲は弥生。寒山は火焔土器、石灯籠は弥生。

小林:國華の前の主幹は辻先生。最近、河野先生と歩くのが恥ずかしいといっておられる。辻先生の紹介で東博にいたとき、群仙図屏風を買う機会があった。上司の「あんな下品なもの」という一言で、一瞬にして逃した。大雅vs蕪村。それほど親しくなかった。ある収集家(?)の企画で十便帖十宜帖が実現した。全部を展示できないので毎週入替。歌麿vs写楽。ポッピンを吹く娘。

 最後に一言
河野:応挙vs芦雪。師弟対決。写生vs個性。虎対決。ずっと出ているので、今日観れば充分?でも、また来て下さい。
水尾:対決が蔓延しすぎ。対決は河野先生の発想。対決をもっと広い意味(弟子、全く知らない同士等)で捉えて欲しい。
河野:チラシを見て下さい。対決が一目で分かるよう名前を並べました。相撲の星取表を付ける感覚で見て欲しい。
小林:鉄斎vs大観。雲中の富士に祝福されて会場を出て欲しい。組み合わせを変えて見ても面白い。

 始終ニコニコと活発に発言される河野先生、重みのある雰囲気で國華の威厳を体現する水尾先生、丁寧な言葉遣いで良識を司る小林先生。三者三様の明確なキャラ立てで、とても楽しい座談会でした。惜しむらくは二部構成としたことで時間がとても限られたこと。でもライブ感覚で面白かったです。

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●東京アートツアー 乃木坂

 東京アートツアー二日目のラスト。日本の夏に浸った後は、西洋絵画。国立新美術館で開催中の「ウィーン美術史美術館蔵 静物画の秘宝展」を観ました。日本絵画は空間に溶け込み、西洋絵画はとても大切な装飾の要素という気がします。

 西洋絵画を見る際に気になるのが、依頼主の存在と絵のモチーフ。王侯貴族から裕福な商人、そして庶民へと依頼主層が変化してゆくにつれて絵のモチーフも変化してゆきます。そして約束事で縛られていた画面が解放されてゆきます。絵の知識がないので、そこをパラメーターにして観るのが最近のパターン。もちろん専門知識はないので、今回は展示ホームページ上の解説「静物画の秘密を読み解く」で軽く予習をしました。今回はコレクターの方と一緒に観たので、その視点も興味深かったです。

 「第1章 市場・台所・虚栄の静物」。どうして解体された牛といった画題を選んだのだろう?という疑問に、台所に飾るからでは?といわれ、ちょっと目からウロコ。家中に絵を飾るとすると、色々な題材の絵が必要になるわけですね。アントニオ・デ・ペレダ・イ・サルガド「静物:虚栄」。細やかにリアルに描き込まれた華やかな装飾品と死の暗示対比。天使の羽も美しい。描き手の技量によってこうも絵が変わるものかと驚く。
 「第2章 狩猟・果実・豪華な品々・花の静物」。コルネーリス・デ・フェーム「朝食図」。とても瑞々しい果物の描写。オイスターのリアルさもすごい。やはりダイニングに飾ったのだろうなあとその情景を思い浮かべる。ヤン・ブリューゲル「青い花瓶の花束」。細密、バランス、鮮やかさ。花卉図の定番。彼とその前に並ぶアンブロシウス・ボスハールト「花束」が花卉図を完成させた二大画家と聞いてフムフムと見入ってみた。
 「第3章 宗教・季節・自然と静物」。ヤン・ブリューゲル、ヘンドリク・ファン・バーレン「大地女神ケレスと四大元素」。女神を囲んで四大元素を描いた本作、でも一つ欠けている。解説とは少し違う解釈の謎解きに、しばし迷い込む。
 「第4章 風俗・肖像と静物」。ペーテル・パウル・ルーベンス「チモーネとエフィジェニア」。豊穣で美しい色彩に漂う怠惰な情感。やっぱりリビングに飾ったんだろうなあ。大胆だこと。ヤン・スーテン「農民の婚礼(欺かれた花婿)」、ヘーラルト・ダウ「医師」。ともに上手い!
 最後に満を持して、ディエゴ・ロドリゲス・シルバ・イ・ベラスケス「薔薇色の衣装のマルガリータ王女」。細密画を観てきた後だけに、意外と粗い筆遣いにちょっと戸惑う。定期報告用に描かれた肖像画という解説を読んでビックリ。どうにも入り込めず。

 見応えのある絵が何枚かあって、「絵を観た」という心地よい満足感に浸りました。WEB上での丁寧な解説や、ミッドタウンでの割引サービスと、イベントとしてのバランスが良いです。

Posted by mizdesign at 20:10 | Comments [0] | Trackbacks [0]