2008年07月28日

●東京アートツアー 東博

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 先々週末は一日、東京国立博物館三昧でした。
 待ちに待った特別展「対決-巨匠たちの日本美術」展初鑑賞。

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 12組の対決という掴み易いキャッチコピーに合わせて展開される、豪華絢爛日本美術通観展。キャラ的にはやはり永徳vs等伯がいちばんしっくり来ます。

 運慶vs快慶。出品作の都合で地蔵菩薩対決。このジャンルに絞れば、赤く唇さし、薄手の着衣を纏い、波型台座に乗る快慶仏に軍配を上げます。質実剛健な鎌倉彫刻の覇者、運慶の造形ももっと観たかったですが、そちらは大日如来でどうぞという趣向。運慶像も展示中。
 雪舟vs雪村。ともにこれが室町?という驚きに満ちた絵画。雪舟「梅花寿老図」で梅の冠を抱くような構成、濃い老人の顔立ちで軽くジャブ。雪舟「慧可断臂図」の濃厚でリアルな表情、赤く塗った唇。慧可の胡麻塩頭も撫でてみたくなる出来。風景画に通じる洞窟の描画と、達磨の輪郭を薄墨でなぞる描法。今観ても古さを全く感じさせない不思議な絵。雪村「呂洞賓図」。大きく腕を開き、全身で龍と向かい会う仙人。頭からは龍が立ち上る。見得きりポーズがピシッと決まる。カッコイイ。こちらもとても現代的。これで山水図があれば完璧と思ったら、後期に出展とのこと。雪舟あっての雪村という理由で、雪舟に軍配。
 永徳vs等伯。あっという間に安土桃山時代。永徳「松に叭叭鳥・柳に白鷺図屏風」。新発見!若き天才の筆裁きの見事さ。永徳「花鳥図襖」軽やかにリズミカルに咲く梅の見事さ。「洛外名所遊楽図屏風」。緻密に書き込まれた細部からは、絵画大好き青年永徳の面影が伺えます。一気に下って最晩期「檜図屏風」。ねじくれのたうつ幹と枝。相変わらずの迫力と狂気。この絵を持って新しい時代の幕開けという音声解説はどうかと思った。等伯「松林図屏風」。巨匠同士の文字通りの対決。ともに悲しみを秘めた大作なところが、少々寂しくもあり。今回は永徳に軍配。2年後(?)に京博で開催される「等伯展」に期待を持ち越し。
 長次郎vs光悦。利休の目指す茶道のために実直に製作する長次郎と、才気の閃きのままに釉薬を操る光悦。光悦「黒楽茶碗 銘時雨」の内側だけ施された釉薬の艶かしさ。光悦「赤楽茶碗 銘加賀光悦」の刷毛目遣いによる掠れ、微細なひび割れ。光悦「舟橋蒔絵硯箱」の大きく盛り上がった形態に海苔巻きのように太い帯。光悦筆宗達下絵「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」の流れるような絵と書のコラボレーション。光悦の才気にメロメロ。
 宗達vs光琳。宗達「松図襖」。新しいモードを作り出す明確な意思。宗達「蔦の細道図屏風」。噂の名画と遂に対面。大胆な画面構成と色彩、どこから道でどこからが蔦かと迷う不思議な構成。光琳「白楽天図屏風」の緑の山うねうねな構図と三角形の波。光琳「菊図屏風」の胡粉テンコ盛りの表現。常に新しい技法に取り組む貪欲な姿勢は互角、天賦の才は(今回の展示に関しては)圧倒的に宗達。
 応挙vs芦雪。芦雪「虎図襖」。どう見ても猫なのに、目が離せない虎。その大きすぎる前足、つぶらな瞳。応挙「保津川図屏風」。白糸の滝が美しい絶筆に、一年を置かずに再会。写生に重きを置き、真摯な姿勢で絵画に取り組む姿勢は応挙。写生だけでは踏み込めない領域に踏み込む勢いでは芦雪。キャラ愛好の現代を反映して、わずかに芦雪。
 若冲vs蕭白。今をときめく奇想対決。若冲「仙人掌群鶏図襖」。一年に一度しか公開されない襖をありがたく鑑賞。異形のサボテン、お得意の群鶏。これだけでも観る価値あり。蕭白「群仙図屏風」。辻ワールドの代名詞、遂に登場。コッテリかつ色鮮やかな画面。美醜の境界が揺らぐ、俗っぽく濃密な仙人たち。その異形の世界を描き切る技巧と執念はすごい。蕭白「唐獅子図」。墨の描画も巧み。そのしかめっ面は脳裏に焼き付く。今回の展示作だと、その濃厚なインパクトで蕭白。でも蕭白は一代限りの鬼才に思えるので、後世への影響も含めて評価されるべき「巨匠」という位置付けは疑問。時代と共に移ろう「美の評価軸」が、キャラモノに振れた証と捉えるべき?
 「「国宝展」に比肩する展示」との評判に違わぬ内容に満足です。

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 東洋館前のオープンカフェで一息入れて、記念座談会「放談 巨匠対決」を聞く。キャンセル待ちの列が出来る盛況に、日本美術ファンの層を感じる。内容については別エントリーにまとめます。ちなみに8/2の記念講演会「美と個性の対決」は落選。残念無念。
 「レストラン ラコール」で一休み。お昼も東博、おやつも東博。

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 表慶館「特別展 フランスが夢見た日本―陶器に写した北斎、広重」。絵付テーブルウェアと、その元絵の浮世絵等との並列展示で観るジャポニスムの影響。丸皿に広重の浮世絵を上手く取り込んだ作品が良かった。暁斎の作品を元にしたものが多数あったのが印象的。
 本館「特集陳列 六波羅蜜寺の仏像」。冒頭の「僧形坐像(伝平清盛)」の写実的な表現に目を奪われる。これが清盛か。手に持つのは厳島の奉納した写経だろうか。「地蔵菩薩立像」の前垂れの細やかな細工、彩色、優美な造形。さすがにお美しい。「薬師如来坐像」のちょっとお顔の大きめなプロポーション、部分的に残る金色の彩色も、高貴でありながら親しみが湧きます。「伝運慶坐像」は、勇壮な造形とはちょっとイメージが違った。息子の「伝湛慶坐像」の方が良い男。どちらもパワフルそう。「閻魔王坐像」の首が胴に埋まったボリュームのとり方が迫力あり。
 おとなりの部屋で、話題の大日如来像の横に鎮座する「十二神将立像 巳神」。柔和な仏様と対照的に、恐ろしい表情。特に目が怖い。最後に観たこともあって、本日のイチオシ。

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 帰り道。不忍池の弁天堂参堂に夜店が並ぶ。日本の夏!

Posted by mizdesign at 21:04 | Comments [4] | Trackbacks [0]