2008年06月16日
●愛知アートツアー (豊田編その2)
豊田市美術館で開催中の「綯交 フジイフランソワ、一体こやつのアートはいかに。」展を観ました。今回の豊田行きを決定付けた展示ですが、実は特別常設展。企画展ではありません。
この展示の特徴は「とらやき」に集約されています。どらやきの姿に、表皮は蘆雪や応挙を髣髴させる虎皮パターン。内側は白毛がフサフサと。それが、何もおかしいところはありませんと澄まして置いてあります。ここでクスリと笑った方は、この展示にはまります。画材がお茶と聞いてさらにズブズブ。若冲タッチの鶏頭が生える草を見せられては、もう行くしかない。過去10年から最新作まで、底なし沼の綯い交ぜワールドへようこそ!そんな感じの展示です。
近作「にわにわにわにわとり」の大胆な若冲鶏のクローズアップと切り取り方、「やなぎにかえる」の飛びつく蛙と風になびく柳のしなやかさを結びつける視点は、綯い交ぜワールドがさらに発展してゆく様を予想させてくれます。
図録表紙は黒地にピンクの綴じ代が覗くオシャレなつくり。構成にも装丁にも異様に力が入っています。常設展のはずなのに、飛ぶような売れ行き。上野の会田さんと山口さんの二人展を思い出しました。上野に対抗意識を燃やした名古屋(豊田?)が総力を挙げて作り出した、壮大な洒落に思えました。
●愛知アートツアー (豊田編その1)
名古屋の次は豊田。絶対行きたい(というかとっとと行け)美術館ベストスリーの一つ、豊田市美術館。ようやく訪問。設計は谷口建築設計研究所。
水盤を前に、薄く細く長いフレームでリズムをとり、乳白ガラスの行灯を背後に控える構成は、雑誌で何度も見たとおり。端正なことこの上ない、ミスター・パーフェクトの面目躍如。香川県立東山魁夷せとうち美術館でも使用されていた緑色の米国産スレートが壁も床も多用されていて、相当なお気に入り素材らしい。
エントランスを振り返ると、外の景色を水平に切り取る横長の開口。
大階段を上って、光の行灯の中へ。柔らかに満ちる光、壁面にリズミカルに展開するアートワーク、天井から吊られた細い棒状のアートワーク。建築とアートが融合する理想郷のような空間。
そして展示室。上部を切り取り、壁と天井を分離する構成、ガラスで光の面と化す天井。浮遊感に満ちた白い空間。「せとうち」はこの空間をスケールダウンして、細い柱を隅部に建てた構成に思える。
谷口建築に必須の、美味しいレストラン。外の景色を取り込む店内には、なぜかカーペンターズが流れる。ランチメニューはパンにドリンクにデザートまでついて950円と驚きの安さ。豊田市が財政補助しているのかと思ってしまった。
外構はピーター・ウォーカー。大池をはさんで、建物の反対側にあるストライプ状の田んぼ(?)。
茶室へ足を伸ばせど、ちょうど閉館。外側をぐるりと回って、美術館側へ折り返した眺め。歴史を踏まえた石垣、大池、フレーム、ガラス張りのあずまやのようなインスタレーション、そして行灯。どこから見ても絵になる隙のない構成。
この施設は意外と多様な用途を持っていて、細いフレームは、ともすれば雑然となりそうなそれらの集合体としての性格を視覚的な造形として表していると感じました。この点が、他の谷口作品とは少し異なった性格を帯びる一因だと思います。
●愛知アートツアー (名古屋編)
10年ぶりに名古屋へでかけました。新幹線から見るモード学園ビルもインパクトありましたが、今回の目的地は愛知県美術館です。
目的地のお向かいにあるオアシス21でしばし足が止まる。ギラギラの階段腰壁、水を張った水盤の屋根。ぶっとい骨組。はっでー!
水盤の屋根面にはエレベーターでアクセス。水面には入れませんが、触れます。子供たちが楽しげに遊んでいます。でも夏は暑くて人っ子一人いなさそう。。。
水盤の向こうに、空へと伸びるテレビ塔。名古屋の顔?
通路を通って、愛知芸術文化センターへ。ここは地下の吹抜け。天井面は蛍光灯で光っています。この建物の上層部が愛知県美術館です。
本日より公開の「誌上のユートピア」展を観ました。
副題は「近代日本の絵画と美術雑誌 1889-1915」。雑誌の表紙を飾った絵画と、その画家の絵画を合わせて並べるという、構成に一工夫ある展示。
近代日本の16年間がメインなのですが、冒頭のヨーロッパの美術雑誌に眼を奪われました。『ユーゲント』の多様な表紙絵の数々に、歴史的な表紙絵の変遷という時間軸(例えば技術の発展に沿って色味が豊かになる、描画が細かくなるといった)が消失してしまった。はじめからゴールを見た気分。
全体構成がボケてしまったので、視覚的に楽しい作品を見て回る。橋口五葉の一連の装丁は、手触り感を想像させてとても美しい。杉浦非水の三越の広告シリーズもバリエーション豊かで見ていて楽しい。三越は度々登場していたので、当時のメディアを意欲的に取り入れている様が想像できた。神坂雪佳の「百々世草」シリーズもまとまって登場。凶悪に可愛い「狗児」を初めて観ました。お馴染みの「金魚玉図」も登場。グラフィックアートとの相性の良い雪佳の作品は観て楽しいですが、本展との結びつきは今ひとつ弱かった気もします。黒田清輝が随所に登場して、当時の彼の影響力の大きさを感じました。誌上に展開される「ユートピア」の読み込みをサボってしまいましたが、それでも圧倒的な物量と視覚的な美しさに満ちた構成で十二分に楽しめました。
続いて常設展。現代アート多数。デヴィッド・シャピロの細かいパターンの組み合わせで構成された作品が眼を惹きました。自画像を集めたコーナーも多彩で興味深い。野田哲也「日記1987年5月30日柏市亀甲台2-12-4」は思いっきりうちの近所でビックリ。