2008年06月05日
●羽生善治「決断力」
羽生善治「決断力」を読みました。現代最強棋士のお一人、梅田さんの本に登場する「高速道路」論、コンピューターを駆使した分析を行なう柔軟な姿勢。というわけで購入。
KISSアプローチ。"Keep it simple, stupid."。ごちゃごちゃ考えない。
早い段階で定跡や前例から離れて、相手も自分もまったくわからない世界で、自分の頭で考えて決断してゆく局面にしたい思いがある。
「仕事にゆき詰まったときは整理整頓」。
直感の七割は正しい。
リスクの大きさはその価値を表しているのだと思えば、それだけやりがいが大きい。
これまで、誰もが怖くて「できなかった」分野で画期的な何かが起こる可能性がある。
自分の形に逃げない。
「道」や「芸」の世界に走ると言い逃れができる。だが、それは甘えだ。
コンピューターの強さはどういうものか。おそらく人間の強さとは異質なものだろう。
さほどシャープに感じられないが同じスタンスで将棋に取り組んでいる確実にステップを上げていく若い人のほうが、結果として上に来ている印象がある。
自分の将棋が目の前の一勝を追う将棋になってしまう。今はいいが、将来を考えると「良くないな」と気づいた。
印象に残るフレーズをメモすると上記な感じ。謙虚に他人の声に耳を傾け、己に厳しく勝負に向かい合い、リスクを恐れず新しいことに取り組んでゆく。切れ味鋭い刀のごとき内容。
だけれども、書物としては物足りない。ビジネス書を意識したのか、各章ごとにビジネスにも通じる一言で締めるのがいかにも蛇足。高い山の頂からわざわざ降りてきて、いっしょに見上げて一言述べる感じ。編集の人が欲張って焦点を絞り込めなかったのだろうか。「高速道路」だけを繰り返し述べる梅田さんは、そこがしっかりしているなと思いました。
●東京アートツアー_0531 (六本木編)
代々木、乃木坂、そして六本木へ。
サントリー美術館「KAZARI 日本美の情熱」。監修は辻惟雄さん。「日本美術の歴史」に綴られた史観とサントリー美術館のコレクションのコラボレーション。
「第一章 かざるDNA」。縄文土器から始まる「かざり」の遺伝子。教科書で見た国宝火焔土器は始祖に相応しい。舎利容器の細微に渡る作りこみは見応えたっぷり。そして何より伝岩佐又兵衛筆「浄瑠璃物語絵巻」。荘厳華麗なる描画に密度。そしてあの「血染め」の又兵衛。辻節全開のハイテンション展示。さらに「春日龍珠箱」の手乗りならぬ頭乗り竜の凶悪な可愛さで駄目押し。
「第二章 場をかざる」。座敷飾りの教科書と実物再現展示を並べる懇切丁寧な構成。よくこれだけ集めたものだ。ポスターになっている「色絵葡萄鳥文瓢形酒注」も確かに良いが、もっと良いものがズラリ。メインビジュアルはサントリー美術館の所蔵品という制約があったのだろうと勝手に邪推。
「第三章 身をかざる」。色物兜の大行進。中でも「黒漆塗執金剛杵形兜」は、一瞬何か分かりませんでした。「蝶形兜」のミ○キーマウスのようなシルエットも可愛い。
階が変わって着物が登場。着物は苦手なのですが、「舞踊図」で絵画の中の着物への興味を喚起して、実際の着物へと視野を広げる展示のおかげでスムーズに入っていけました。ずっとハイテンションだった展示が落ち着いてほっと一息。
「第四章 動きをかざる」。祇園祭の山鉾の「かざり」まで並んでおなか一杯です。
幕間(?)の平田一式飾の陶器による造形も楽しい。レゴブロックの陶器版。
辻美術史のキーワード「かざり」が全編を覆い尽くす、夢の企画展。これほどの展示がさりげなく始まってしまうあたり、東京の脅威のスピードを実感しました。
お腹が減ったので一休み。お店の方が「いかにでも取り分けいたしましょう」とか、「このチキンはとても美味しいよ」と親指立てたりでちょっと気障。ちょっと気取った夜景とあわせて、ミッドタウンな感じ。
最後は森美術館に滑り込みました。
「英国美術の歴史:ターナー賞の歩み展」。濃密な日本美を堪能した後だったので、少々食い合わせが悪かったです。デミアン・ハースト《母と子、分断されて》。その分断された間を歩いてみた。ゾクゾクと悪寒が走った。
「サスキア・オルドウォーバース」は1本のみ鑑賞。ドンドン変化する画面が飽きさせない。出直します。
そして「TOKYO CITY VIEW」。夜景は24:00まで鑑賞可。
代々木、乃木坂、六本木。バラエティ豊かで充実したプログラム群、夜間開館、夜景。東京ってすごいなと思った一日でした。個人的番付は「モバイルアート」、「KAZARI」が双璧、次いで「エミリー・ウングワレー」。