2008年04月14日
●小山登美夫「現代アートビジネス」
小山登美夫「現代アートビジネス」を読みました。著者は現代アートの有力ギャラリーのギャラリストであり、アートフェア等でも精力的に活動されている方です。去年オープンしたガラス張りのTKG Daikanyamaは、一般層にも積極的にアピールしようという姿勢と、うねるアクリル面の視覚的な面白さがバランス良く機能していて印象的です。売り文句は「奈良美智、村上隆を世に出した仕掛け人が語る、アートとお金の関係とは?」。アートイベントラッシュに沸いたこの時期に、タイミング良いなと購入しました。
内容は、誤解されがちなアート業界の仕組みを、平明な構成、表現で語ってゆきます。去年のアートフェア東京のラウンジトークでは三潴さんが、森美術館のウェルカムパーティーでは南條さんが語っておられましたが、アートファン層拡大の好機という認識は共通のようです。小山版の特徴は、奈良、村上の2大キラーコンテンツを擁するところでしょう。以下、印象に残ったフレーズの抜粋です。
第1章「誰も見たことのないものに価値を見出す ギャラリストの仕事」。著者の自己紹介とギャラリストの仕事について。ギャラリストは広義で画商に含まれるが、「展示空間=ギャラリーを持ち、みずから企画展示する点が、大きな違い」。
第2章「村上さんと奈良さん アーティストはどこにいるの?」。アーティストはどのように育っていくかを、村上隆、奈良美智の軌跡を辿りつつ紹介。「奈良さんの絵はイラストとどう違うの?」「僕は描きたいものしか描かないよ」。「「これでもいいんだ!いいはずだ!オレたちの文化も捨てたもんじゃない」」。「自分にとってよい作品をつくることが大前提」。「自分の描きたいものや表現したい世界を、客観的に見ることが必要」。
第3章「アートの価値はどう決まる 投資を考えている方へ」。アートとお金の話その1。「現代アートは産地直送、適正価格で売ってます」。「プライマリー・プライスとセカンダリー・プライス」。「世界基準でない、「アジア限定マーケット」」。「1980年代、アートバブル狂走曲」。
第4章「マーケットを動かすのはコレクター アートを買ってみる」。アートとお金の話その2。「潜在的なマーケットを発掘するために」。「現代アートは団体戦で勝負をかける」。「日本アートフェア興亡記、NICAFの顛末」。「アートを楽しめる人がコレクター」。
第5章「日本をアート大国へ アートビジネスの展望」。「例えば、アートバーゼルはスイス最王手の銀行UBSが、アートバーゼル・マイアミ・ビーチはゴールドマン・サックス社が、ロンドンのフリーズはドイツ銀行が、大スポンサーとしてフェアを支えています」。「日本の美術館に、奈良、村上がない理由」。
ギャラリストって何する人?という疑問から、村上、奈良作品の価値、アーティストに必要な素養、現代アートとお金を巡る事情、世界のアート事情、そして日本の課題まで、とても良くまとまっています。森美術館「UBSアートコレクション展」の話とリンクしたり、去年の「アートフェアTOKYO」が現代アートのみでなかった訳等々、色々となるほど!と思いました。アートファンの方には興味深い一冊だと思います。
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こんにちわ。
このエントリーを見て、本屋に買いにいきました。
で昨日、読了。
すごく読みやすくて内容も小山さんだからこそ書けるもので面白かったです。
日本の税制はほんと、なんとかしてもらいたいなと思いました。
おあひー様>
こんにちは。
現代アートを巡る色々な事柄を、魅力的な切り口で、コンパクトかつバランス良くまとめていて良かったです。
奈良さん、村上さんを絡めて語れるのは小山さんだけですね。
こんばんは。
>「アートフェアTOKYO」が現代アートのみでなかった訳
はじめは現代アートだけでは「集まらない」ということで、他のジャンルを合わせた企画になったとありましたが、そんな状況をポジティブに捉えておられる小山さんの姿勢がまた面白いなと思います。それに海外とのフェアとの比較も興味深かったですね。金額ベースだけで見る天と地の差があるのかもしれませんが…。(単に富裕層の厚みの問題なのか、現代アートに対する企業の姿勢の違いなのか…。税制の違いにもヒントがありそうですね。)
はろるど様>
こんばんは。
海外のアートフェアと日本の現状との比較は、三潴さんの話にも出てきました。
土壌の違いを認識することと、その上で現状を変えていくべきというメッセージですね。
南條さんの話は「違い」を明確化するのでなく、海外の紹介に重きを置いていました。ここらへん、少しスタンスの違いが出ますね。