2008年03月04日
●五十嵐太郎「現代建築に関する16章 空間、時間そして世界」
五十嵐太郎「現代建築に関する16章 空間、時間そして世界」を読みました。現代建築の研究者として広く活躍中の著者が、16のテーマに沿って現代建築を読み解きます。
スーパーフラット、モビルスーツといった現代のキーワードを豊富に盛り込み、現代のスター建築家の作品を次々に登場させ、過去から現代へと連続した時系列の中で論が進みます。昔読んだ本が登場したと思ったら、その次に最新の建築が登場して、昔習った建築史が現代まで拡張するようです。ちょっと現代建築通になった気分。個人的には「第十五章」、「第十六章」が特に興味深かったです。
「第十五章 メディア-雑誌、写真、模型」
書物、雑誌、新聞の登場が建築デザインを広く伝播した。メディアが時間を加速させる。製版精度が荒い頃は建築ディテールも荒く、製版精度が上がると建築ディテールも繊細になった。メディアが建築に影響を与える。写真の登場が建築家による透視図に頼る必要をなくし、建築家と編集者の力関係を逆転させた。モダニズム建築の時代の建築雑誌は白黒写真がメイン。細かい装飾やディテールよりも、はっきりした、抽象的な構成を強調するようなデザインが白黒写真に合っていたはず。
20世紀後半に入って視覚中心主義に対する批判。手触り、写真でない感覚への傾倒。プレイステーションなどのゲーム機でも、目と指から体そのものを動かすゲームの登場。CGから模型による差異の検討へ。
「第十六章 透明性と映像-モニタとしての建築」
リテラル-文字通りの透明性、フェノメナル-現象としての透明性。後者は古典主義建築にも遡って見出すことが出来る。近代になってガラスを使うようになって登場した透明性の概念が、過去の建築にも適用できる。現代は半透明性に焦点。
映像への応用。リテラルな映像性、QFRONT等。ブレードランナーの世界の現実化。フェノメナルな映像性、銀座ルイ・ヴィトン等。ダン・グレアムのアート。
谷口吉生の建築に多くみられる映像的な仕掛け。法隆寺宝物館の水盤。同じ概念が平等院鳳凰堂の池にも見出せる。過去に遡る映像性の概念。MoMAは映画のワンシーンのようにマンハッタンをフレーミング。とても映像的。
メディア、透明性、映像性といった現代建築のキーワードを、とてもスムーズに建築史に織り込んでいて感心しました。マイベストブック、ジークフリート・ギーディオン「空間・時間・建築」に登場したリテラルな透明性が拡張されて映像性へと至りMoMAへと着地する構成は、イメージ的にもダイナミックで美しい。
東京都庭園美術館で開催中の「建築の記憶-写真と建築の近現代-」展は、この視点を踏まえて観ると奥行きが俄然増しそうです。行くのが楽しみです。
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