2008年01月30日

●四国の旅 その3 香川県立東山魁夷せとうち美術館

 次の目的地は「香川県立東山魁夷せとうち美術館」。設計は谷口建築研究所。フェリーが接岸するやいなや、高架歩廊を渡ってJR高松駅へ。最寄の坂出駅まで移動した後、タクシーでGO。バス、乗合タクシーもあるものの、時間が全く合いませんでした。入館料300円(スタンプラリーの割引で240円)、タクシー代2,140円也。

 美術館へと伸びる「道」。それを受け止める自然石貼りの壁、RC箱、控えめに挿入されるガラスの箱。あえて背後の瀬戸内海を見せない配置。
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 展示室を一周して、ラウンジ「なぎさ」から望む瀬戸内海。「白い道」からRC箱の第一展示室「魁夷-四季変化」、自然石貼り壁の第二展示室「森のささやき/白馬幻想」、デジタル展示室を経て、ラウンジへ。東山魁夷の作品を鑑賞しつつ瀬戸内海の大パノラマへと導く動線、演出は完璧。第一展示室の細いRC柱も、浮遊感が感じられてとても美しいです。「建築化された散歩道」の一つの究極に思えます。安藤さんの「建築化されたランドスケープ」と合わせて観ると、建築の可能性の両極が体験できます。
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 ロビー内観。ガラスの箱の中に、木地の衝立。内外の天井高を揃えて一体化。純化された構成。その反面、後付のポスター掛けスペースが浮いて見えます。箱が小さすぎる?
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 木地の衝立の裏側。ミュージアムショップ、ロッカー、傘立等をまとめて配置。案内板も一体化した方がスッキリする気がしますが、そのために純粋な形態を崩すのももったいない。
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 自然石を内部にも連続させて内外を一体化。通路開口は石の割付とぴったりと一致。ガラリ、扉も開口一杯まで立上げて、余計な線を消去。
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 瀬戸内海の「借景」と「線の消去」。そして流麗で繊細な構成。小さいながらも谷口美学が堪能できて満足です。さらに雄大な自然に力負けしない壁としての在り様が見られて、とても良かったです。アクセスが悪いながらも人はけっこう入っていて、東山魁夷と谷口建築の人気の高さを感じました。
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2008年01月29日

●四国の旅 その2 ベネッセアートサイト直島

 直島と言えば「ベネッセアートサイト直島」。あいにく地中美術館が展示替え休館中だったので、今回は偵察のつもりで軽く廻りました。

 フェリーから望む直島。中央の建物が「ベネッセハウス ミュージアム」。重工業が衰退した禿山を、建築とアートの力で世界有数の観光地に飛躍させた立役者。島をぐるりと回って宮浦港へ。
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 フェリーターミナル「海の駅なおしま」。設計がSANAAということでとても有名。薄い屋根と細い柱、ずらしながら挿入されるガラスの箱。船と車とバスの結節点というとてもアクティブなエリアにあって、その存在感は希薄。消したというよりも単に印象に残らない。船のハッチがそのまま桟橋になるダイナミックなギミックの方が面白かったです。前の写真にチラリと写っている緑とオレンジの板がパタンと倒れて橋になっています。
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 「家プロジェクト」を間にはさんで、「ベネッセハウス ミュージアム」へ。設計は安藤忠雄建築研究所。長く伸びたアプローチに沿って海へ向かい、折り返して振り返ると入口が登場します。安藤さんらしい、軸線を大切にした構成。中へ入ると、弧を描く動線が上へ下へと伸びていて迷路のよう。至るところにアートワークがあるものの、建物の印象が強すぎて、さながら安藤建築鑑賞ツアー。「21_21 DESIGN SIGHT」も同じ印象を受けますが、美術館というよりも建築化されたランドスケープに近いと思います。建築としてはとても大味。円形吹抜けにある階段は、トップライトメンテナンス用なのか?この建物の真価は、泊まってみないと分からない。
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 草間彌生「南瓜」。数多く設置された屋外作品の中でも、抜群の存在感を放ちます。本当にすごい存在感。これはきっと、草間さんの分身なのでしょう。フェリーターミナルにある赤南瓜が修復中で観られなかったのが残念。
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 14:20離島。サヨナラ直島、次回は泊まりで来よう。

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2008年01月28日

●四国の旅 その1 家プロジェクト

 「金刀比羅宮 書院の美」の終わりが近い。飛行機のマイルがたまった。そうだ、香川へ行こう!というわけで、1泊2日で香川を旅しました。

 まずは直島「家プロジェクト」へ。朝一番の飛行機で高松空港まで飛んで、タクシーで高松港へ。フェリーで直島に上陸して、町営バスで最寄駅の農協前へ。11:14着。乗換時間数分、驚くほど接続が良いです。

 「本村ラウンジ&アーカイブ」。設計は西沢立衛さん。「TKG Daikanyama」の内装、「Space for your future」の出展と、大活躍な方です。スーパーマーケットを改装した本計画も、剥き出しの構造体にほっそりとした階段を加え、明るく射す光と植物で柔らかな空間を構成しています。こちらでチケットの購入と、「きんざ」の予約確認をして散策へ。
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 須田悦弘「碁会所」。室内に散らばる木製の椿、そして見返す庭。名前から「人が集まる場所」を想像していたら、人の居場所は縁側だけで長居するにはちょっとつらい。アートに家を追い出されるような妙な感覚。
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 宮島達男「角屋」。暗闇の中、水面に揺らめく発光ダイオード。その幻想的な眺めに、扉を開けた瞬間「おおっ」と声が出ました。水戸芸術館の宮島達夫展は絶対行こう。
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 内藤礼「きんざ」。スルスルと潜り戸を引いて中へ。下部の光スリット、存在感のある土壁。静かに充満する音と、次第に浮かび上がる装置。予約制なので、完全に1対1で作品と向かい合う15分。空間とアートが一体化した、もの凄く濃密な時間。時間の断片を引き出す装置に思えました。
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 杉本博司「護王神社」。地中へと続くガラスの階段。案内スタッフの方の解説に拠ると、昔は古墳があった(今もある?)という地の記憶を踏まえた地上(神社)と地下(古墳)をつなぐ作品らしい。アートが神の居場所に侵入して良いのか、引っかかります。石舞台古墳も石室を観光地化している訳だし、既に抜け殻の場合は可?引っかかりも含めて作品?美はそれらを凌駕する?
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 大竹伸朗「はいしゃ」。トタン波板、錆、ガラス、多数のサインやオブジェで内外を覆い尽くした塊。スマートな作りの作品群の中で、そのペラペラで乱雑(に見える)作り、その中に感じるエネルギーは異彩を放つ。古く懐かしい現代アートという感じ。矛盾してますが。
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 個々の作品も魅力的ですが、普通に町を歩いていてアートに出会う(というか、地図がないと家並みに埋没して見逃しそうになる)感覚が「家プロジェクト」の素晴らしさだと思います。さらに、その魅力に触れるには、実際に行くしかないことも大切。シーズンオフにもかかわらず、何組もの方たちが地図片手に歩き回っていました。

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2008年01月22日

●千葉オフ

 一昨晩は、美術鑑賞が好きな人たちが集まっての飲み会。
千葉在住の5人+遠来からのお客様をお迎えしての「千葉オフ」。
話題は金刀比羅から私的ベスト美術館まで、美術四方山話。
これが妙に楽しい。心からリラックスしたひと時でした。

 テーブルの上には漁師寿司。割った竹筒にネギトロが詰まってます。
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2008年01月05日

●Space for your future@東京都現代美術館

 東京都現代美術館で開催中の「Space for your future -アートとデザインの遺伝子を組み替える」を観ました。非常に大胆に、そして明快にアートと建築の関係を提起する長谷川祐子さんがキュレーションされる展示ということで注目しておりました。

 展示で抜きん出て印象に残るのが、石上純也「四角いふうせん」。4層の吹抜け空間に銀色の四角い物体がふわふわと漂います。その圧倒的なボリュームと非常に軽やかな動き、そして硬質な美術館空間との対比がピシッと決まっています。もうちょっと動くと良いのにと思いながら見ていたら、急にフワリフワリと動き始めました。何事!?と見下ろしたら、風船の最底部を男の人(ご本人?)が引っ張って動かしていました。大胆な構想と緻密な段取り、そして細やかなサービス精神が、「あなたのための未来の空間」をひしひしと期待させてくれます。
 エルンスト・ネト「フィトヒューマノイド」。着るソファ(のようなソフトスカルプチャー)。蛙の着ぐるみのようなユーモラスな外観、意外と着心地(座り心地、寝心地)の良い出来栄え。広いリビングがあれば、幾つか置いておきたい一品。
 マイケル・リン「無題」。正面に彩色された花模様の絵を置き、そこから増殖するように鉛筆書きで絵柄を広げ部屋中を覆っています。絵画から空間へ。非常に繊細な壁紙。
 SANNA「フラワーハウス」。中と外の空間を限りなく一体化する、曲面のガラス壁、内外に点在する植栽。先日「TKG Daikanyama」で体験しましたが、視線は通すが行動は規制するウネウネ透明壁は空間としても面白い(こちらのアクリル壁は、SANNA西沢立衛さんの設計)。今回の1/2模型は実際の体験まではトレースできませんが、コンパクトな分、全景を見渡す楽しさがあります。でも普通に建築模型に思えて、アートワークとしてはハテナ。
 フセイン・チャラヤン「レーザードレス」。ドレスからレーザー光線が四方八方に伸びるド派手な装置。これを着てパーティーに出れば、主役は間違いなし。光線が眩しすぎて、迷惑客として摘み出される可能性もあり。
 タナカノリユキ「100 ERIKAS」。沢尻エリカ100変化。モデルも楽しそう。中央にあるたくさんの首輪を嵌めた写真が、個人的にはベスト。
 蜷川実花「my room」。金魚で覆い尽くされた部屋。色彩豊かで楽しいけれども、耐えられるのは10分。

 個々に観ると楽しげな展示が並んでいますが、全体の印象は意外と空疎。何でだろうと考えてみると、「空間」の意味するところが変わりつつあるのかなと思いました。

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2008年01月03日

●博物館に初もうで@東京国立博物館

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 新年最初に訪れるのは、東京国立博物館博物館に初もうで」。行くのは3年連続、新年2日目に行くのは2年連続。すっかり新年の風物詩です。

 まずは平成館で開催中の陽明文庫創立70周年記念特別展「宮廷のみやび―近衞家1000年の名宝」から。中臣鎌足を祖とする名家藤原氏の主要流派の一つ近衛家の名宝展。雅という言葉が良く似合います。

 展示は全部で6章からなりますが、全てを観ると力尽きてしまうので、書は流し見程度にして、絵画、工芸を主に観ます。平成館の展示はコッテリ重量級なので、興味に応じてカスタマイズします。
 第1章「宮廷貴族の生活」。去年京都国立博物館藤原道長展」で観た「御堂関白記」、「金銅経筒」等と再会。「この世をば我が世とぞ」な道長が、吉野の山奥まで納経に出かけていった様を克明に伝える資料群。来世まで経を伝えんと作られた金銅の器は、現代にその信心深さを伝えます。それにしても驚くほどの保存状態の良さ。
 「源氏物語54帖」。鎌倉時代の写本ですが、非常にコンパクト。これを袖の内に入れて持ち歩き、「あの話の続きは読みましたか?」と会話を交わす場面が思い浮かびます。持ち主に頼んで借り受け、書の達者な者に書き写させたのでしょうから、写本を持つこと自体が相当なステイタスだったのでしょう。
 第5章「伝世の品 I」。御所人形のクリクリした目が可愛い。「銀細工雛道具」の精巧な作りも良いです。精巧なミニチュア、そして華やかな雰囲気。この章が一番好きです。
 「近衛家熙遺愛茶杓箪笥」。「へうげもの」古田織部を含め31本の茶杓とそれを納める箪笥。さすが近衛家きっての才人、コレクションもすごいです。
 酒井抱一「四季花鳥図屏風」。金地に活けられた花、舞う鳥、水平に流れる水流。金地が背景になり近景になって平面的で華やかな画面を作っています。
 第6章-1「伝世の品 II-1」。伝空海「益田池碑銘断簡」。書は分からなくとも空海筆と聞くと観ずには居られぬミーハーな私です。
 館内には書道の手本(?)を手に熱心に展示を観ている方が何人もおられました。書に興味のある方に垂涎の展示なのでしょう。個人的には、雅な生活の様子を再現するような展示方法を導入してもらえるとなお良かったと思いました。

 本館に戻って常設展。「暮らしの調度 ―安土桃山・江戸」。「初音蒔絵源氏箪笥」。こちらは江戸時代の源氏物語写本とそれを納める箪笥。器は中身を表し、そして華やか。暮らしの中に美が溶け込む、そのバランスが好きです。
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 「源氏絵彩色貝桶」。貝殻に描いた絵合わせと、その入れ物。これも毎回観るお気に入りです。
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 新春特別展示「子年に長寿を祝う」。その解説を読んで、ネズミをスターに仕立てたディズニーは凄いなと変なところで感心しました。
 「百鳥図」。若冲の「旭日鳳凰図」の元ネタ、意外なところで再会です。確かにめでたい図です。個人蔵なことに今回気づきました。
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 「十二神将立像 子神」。今回一番のお気に入りです。頭にネズミを乗せる武神。悪鬼をギョロリと睨みつけているのでしょうが、とてもコミカルに見えます。
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 最後に特5展示室で開催中の「仏像の道-インドから日本へ」。冒頭のガンダーラ仏の非常に写実的な表現に「あれっ!?」。後で飛鳥仏で御馴染みのアーモンド形の瞳を持ちアルカイックスマイルを浮かべる仏様(北魏)も登場するのですが、そうすると稚拙な表現=アルカイックスマイルではないということに今頃気づきました。写実的過ぎてもありがたみがないので、理想の姿を求めて時代時代の仏様が造形されたということでしょうか。最後は薬師寺聖観音菩薩立像(模造)。そのお腹から臀部にかけてのラインは非常に女性的。この時代は女性的な癒しが求められたのでしょうか。

 館内はかなりの人の入りで、普段は閑散としている常設展も活気がありました。このあと飲み会へ。新しい一年の始まりに相応しいひと時でした。

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