2007年09月24日
●ヴェネツィア絵画のきらめき@Bunkamura
Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「ヴェネツィア絵画のきらめき」を観ました。三度訪れた「パルマ展」の興奮も冷めやらぬうちに、再びイタリアの都市を主題にした展示。ペルジーノ、パルミジャニーノ、そして本展に登場するヴェロネーゼと、都市名をニックネームに持つ画家達の存在。都市ごとに特色ある文化を形成するという点に興味が湧きます。
入口を入ると、ジュゼッペ・ペルナルディーノ・ビゾン「パラッツォ・デゥカーレに入るフランス大使ジェルジ伯、1726年11月4日」が出迎えてくれます。水辺と「内部化された外部」を併せ持つヴェネツィアの顔「サンマルコ広場」を舞台に、大使一行のカラフルな行列が行進し、観客の中にはカーニバルのマスクを付けた人たちも見られます。ヴェネツィア絵画華やかなりし時代のヴェデゥータ(風景画)を意識したであろう大作は、これから始まる過去への旅の絶好の導入になっています。
そして本展の華、ティツィアーノ・ヴェチェリオ「洗礼者聖ヨハネの首を持つサロメ」。白い肌にほんのり赤みさす美しい顔立ち、赤と青の衣装のコントラスト、その手には生首。スゴイ美人だけれども、何を考えているのか分からない冷酷さを湛えているところが怖い。ヨハネは画家の自画像という説があるそうですが、そうするとサロメに微笑みかける左側の人物は依頼主なのでしょうか。
さらにパオロ・ヴェロネーゼ「キリストと刑吏たち」。宗教画でありながら、その精緻な描画ゆえに非常に人間らしくも見えるキリスト。
ここでジャンバッティスタ・ディェポロ登場。少々グロテスクな描写の「カプチン修道士の死」に始まり、光に揺らぐ肌が産毛に見える「ゴリアテの首をもつダヴィデ」。特色ある描き方を色々と試す異色な画家なのかと思っていると、続々と作品が並びます。三人の統領絵の一翼を担い、最後には自らの肖像画が登場します。その自信溢れる表情からは、彼が時代の寵児だったことが伺えます。実に6点+肖像画が登場して、本展の隠れ主役といえそうです。
ヨーゼフ・ハインツ「アイソンを若返らせるメディア」はメカっぽい描画があったりして非常に異質の作品。錬金術と関係があるのでしょうか。文化の交流地ヴェネツィアのごった煮的土壌が生んだ怪作?
最後はヴェドゥータ(風景画)。カナレット「サン・ジョルジョ・マッジョーレ島と税関」は水都ヴェネツィアへの旅情かきたてる清々しさに満ちています。ガブリエラ・ベッラ「サンタ・マリア・デラ・サルーテ聖堂での婚礼」、「サン・ピエトロ・ディ・カステッロでの水上パレード」は水辺と都市空間を上手く活用した行事の様子を描いていて興味深いです。特に後者は、浮世絵の両国橋の風景を思い起こさせます。
サロメのはっとするような美しさは飛びぬけていますが、全体を通すと華やかさやきらめきといった印象は弱いです。その点は違和感が残りました。
それにしても、展示壁の色がピンクなのは何故なのでしょうか。ヴェネツィアのシンボルカラー?華やかな色彩を意識した演出?壁の色としては微妙。
午前中に行ったので、まだ人影のない中庭。ちょっと狭いですが、効果的な空間。
2007年09月21日
●「山口晃展 今度は武者絵だ!」最終日
今週の月曜日は、練馬区立美術館で開催された「山口晃展 今度は武者絵だ!」の最終日でした。不思議な魅力に魅せられて、三度足を運びました。アーティストトーク時の異常な人出は納まったものの、それでもけっこうな人の入り。皆様熱心に観入っていて、山口さんの人気っぷりに再度ビックリ。個人的には、「続・無残之介」の絵物語的な面白さと、「トップランナー」の放送、そして「続・無残之介」の絵コンテ(?)を追加したりといった細かな気遣いが生んだ、楽しい時間を共有しているという感覚が心地良かったです。
三度足を運んだ本展も見納め。最終日の閉館後、外から見返す「赤口」。「サイズ:可変」と描いてあって笑ってしまいました。どういう意味!?
ゼンマイ仕掛けの決戦兵器(変形前の山車)の大きさはこれくらい?当日の昼間、谷中で元銭湯の煙突を見上げながら。こんなのが水を割ってせり上がってきたらものすごい迫力だろうな。ついでにトランスフォーマーもビックリの変形!
本当は展示を観に行ったのですが、あいにく休み。
会場の最寄駅は「中村橋」、三度飲んだ駅前の飲み屋は「仲々」。写真右上テレビの横の焼酎は「なかむら」。その横には(写ってませんが)焼酎「中々」。昨晩飲んだ店にて。「数年」さんが椅子から立ち上がる、山口さんの駄洒落テイストを思い出してクスリ。この店も安くて美味しかったです。
2007年09月19日
●朝倉彫塑館@谷中
谷中にある朝倉彫塑館は、彫刻家朝倉文夫(1883-1964)のアトリエ兼自邸であると同時に、恐らく現存する日本最古の屋上庭園があります。竣工は1935年。実に築70年を超えます。その現状を観たくて、初秋の晴天の下、出かけました。
RC造3階建てのアトリエ棟の屋上にある庭園。左手のオリーブの木は戦後すぐに植えられたそうで、見事な枝振り。舗装タイルの上に、コンクリート化粧ブロックを置いただけに見える庭園の状態は極めて良好。濃密な緑の空間で満たされた空間は、これで持っちゃうの!?という驚きと、建築は長く生きてこそ良さが引き立つという思いとが入り混じるワンダーランド。素晴らしい!
屋上から見下ろす、住居棟の中庭。夏を彩る百日紅の花もそろそろ終わり。住居棟は現在立入禁止ながら、その中庭の眺めは素晴らしいです。アトリエからの眺めも絶景。
庭園の下には、朝陽の間と名付けられた応接用の和室があります。神代杉の天井板、瑪瑙を砕いて塗りこめた壁、松の一枚板の床板。悦を尽くした空間は、蕩けるほどに魅力的。更に降りると、蘭の間。かつては東洋蘭の温室として使われたそうですが、今は朝倉が愛した猫の像で埋め尽くされています。個人的にイチオシの「吊るされた猫」は、宮城県美術館に貸し出し中でした。更に降りると、3層吹抜けのアトリエ。大きな窓から木漏れ日の射す空間は、とても居心地が良いです。そこからの中庭の眺めも素晴らしい。
作家自らが25年かけて練り上げた空間は、作為が磨きこまれて無為へと突き抜けたような感動を覚えます。一般に広く公開している台東区にも感謝。
2007年09月04日
●山口晃展 アーティストトーク@練馬美術館
練馬区立美術館で開催中の「山口晃展 今度は武者絵だ!」のアーティストトークを聴きました。こちらでお知らせのあった、「続・無残ノ介」完成版を観るのも楽しみ。
1時間前に美術館へ行ったところ、既に館内は人人人で大賑わい。山口さん人気+トップランナーの驚異の合わせ技にビックリ。整理券等はなく、時間になったらお集まり下さいとの案内だったので、場所取りは諦めて展示室へ。
「続・無残ノ介」完成版。超遠距離射撃の達人の弾を、刀の峰で受け止め、流し、「奮!」と投げ返す無残之介!射撃をしつつ間合いを詰め、斬り込む銃剣術の達人のアクション!そしてお堀の水面が割れて登場する血戦兵器。山車で登場して、変形シーンを盛り込む念の入り様で、トップランナーにも映っていた「ゼンマイ仕掛けの巨大兵器と向かい合う無残之介」の大コマへ。その横に並ぶ「抜刀!」のシーンもカッコイイ。更に続く、吹っ飛ばされて細々なパーツにバラける一瞬の描画も、勢いと細かさが両立しています。最後もしっかりとオチて見事完結なり。
大人は流麗な描画に見惚れ、仕込まれたコネタにクスリと微笑み、子供は見栄きりポーズにカッコイイと歓声を上げます。オールラウンダーな人気を集める山口さんの面目躍如。
アーティストトーク。吹抜けホールの床、階段、上階廊下を埋め尽くす人人人の中、登場した山口さんは開口一番「根性!」。身動きも出来ない状態ながら、笑ってしまいました。本展のワークショップで、「パワプロやってたかった」と天の岩戸の如く心を閉ざす兄弟と潜水艦ゲームに興じた(そしてあっという間に負けた)エピソード等を交えつつ、館の端々のお客さんに声をかけ、中座されるお客さんに名残を惜しみます。
武者絵。古くは猿飛佐助、鞍馬天狗、宮本武蔵の二刀流。江戸の美意識が良い。主役は美しい男に違いない。と、ここで窓の外を行くカップルを見つつ「幸せって何でしょうね」。「字を分解すると土と金。つまり土地と金!」。プーメランをスパッと受けられないとオチをつけたと思ったら、なにやら丸を描き出す。子供から「アンパンマン!」と声がかかると嬉しそう。未完成の続・無残之介を見たお客さんに「黒紙は心象を表すのですか?」と聞かれて「そうです!」と答えたエピソードを披露して、「勘違いを上手な嘘で覆い隠して楽しんでもらえれば」。
男の人は刀好き。古武術の動き等、知識が増えるとリアリティの場所が動く。西暦と元号。積み重なった時としての認識がない。限りなく昨日と近い今が来る。時間に関する考え方が違う。昔の人の考え方が知りたいと、システムの中に身を置く。5分、10分遅れても気にならない。
遠近感のない絵を描こうと、浮世絵の重なりを研究。西洋のタブローとは違う役割。3次元を2次元につなぐ役割。進化しちゃいけない、対応。進化すると変わってしまう。昔の人の心持ちに近づく。リアリティを突き詰めるとギスギスしてしまう。嘘は嘘と形式化して描く。指で挟む白刃取りは、超高速で掴みを繰り返すアンチ・ブレーキングの応用(?)。細かいところを気にすると痩せてしまう。大きく作って、削り込むのが合っている。
「上手な嘘」は応挙、メカと魑魅魍魎の混在する独特で緻密な描画は若冲、水を割って登場するシークエンスは光子力研究所、ゼンマイ式血戦兵器はガンダム、マスクと内部メカは攻殻機動隊、等々。山口さんの作品を観ていると、様々なモチーフが思い浮かびます。それは、同じ時代を生きて、異なるメディアに同時発生的に現れた現象を目撃しているのか?山口さんの術中にドップリとはまってます。
2007年09月01日
●狩野永徳展 両面チラシ登場
京都国立博物館で今秋開催される空前絶後の「特別展覧会 狩野永徳展」。その両面刷りのチラシがいよいよ登場しました。初夏の京博で片面チラシを見かけて以来、これほど待ち望んだチラシも珍しいです。その表面を飾るのは、出るかどうかと気を持たせていた「唐獅子図屏風」。巡回なしの30日限定、しかも会期は10/16-11/18と秋の観光シーズンど真ん中。
豪華絢爛な桃山文化の覇者として名を轟かせる一方で、現存する作品数は非常に少ないスーパースターの代表作をズラリと並べる世紀のイベント。永徳を観たくば、京都に行くしかない!