2007年08月31日

●ART PICNIC Vol.13「ル・コルビュジェ展」@森美術館

 「アートをもっと身近に楽しもう」をテーマに、森美術館J-WAVE BOOM TOWN がコラボレーションしているイベント「ART PICNIC Vol.13~Le Corbusier」に行きました。

 参加者は20名ちょっと。ナビゲーターのクリス智子さんと森美術館館長の南條史生さんの案内で、展示を観て回ります。貸切状態の美術館の中を、マイクやカメラ等の機器を抱えたスタッフの方たちが付かず離れず帯同していて、ちょっと変わった大人の遠足です。
 冒頭で「暖炉」、「ロンシャンの模型」、「絵画のような彫刻」の三つを紹介して、「建築家コルビュジェとアートの関係をクローズアップする」本展の趣旨を説明してスタート。コルビュジェのアトリエの再現模型へと進むと、コルビュジェさんが登場!ちょっと一言多いキャラクターも上手く演じていて面白い。
 ユニテ・ダビタシオンの再現模型の前では、南條さんがコルビュジェの理想の身体=モデュロールの身長1,829mmとわずか1mm違いの1,830mmという驚きの事実が!実際に原寸モデュロールの前で手を掲げたポーズをとられると、そのピッタリっぷりに驚きました。中に入ると蝶ネクタイに着替えたコルビュジェさんが!リビングテーブルに三人が座って解説をひとしきり。システムキッチンの発明、子供用シャワー室、オムツ替え台、階段の子供用手摺の工夫等々。リビングの可動照明をキッチン側に動かしてみたりと、普段は触れない部分を実演してもらえたのも良かったです。「マンションの見学に来たよう」というクリスさんの言葉に対して、「コルビュジェはライフスタイルをデザインした」という南條さんの返事は特に良かった。
 シャンディガールの展示では、絵画と建築のモチーフの共通性を語って、再度本展の趣旨をアピール。最後にカップマルタンの小屋でコルビュジェさん(今回はかなりラフな格好!)と記念撮影。実は森美術館の広報の方が扮しておられたと種明かしをして終了。あっという間の2時間弱でした。満足満足。
 
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2007年08月26日

●市民美術講座2007「伊藤若冲 -若冲とその時代-」@千葉市美術館

 千葉市美術館で開催された「コレクション理解のための市民美術講座「伊藤若冲 -若冲とその時代-」」を聴きました。講師は現在開催中の展覧会「若冲とその時代」の担当学芸員、伊藤紫織さん。時間ピッタリに行ったら、定員150名が満席とのことでビックリ。立ち見ということで入れていただき、後で椅子を追加していただきました。まさか満席とは。。。恐るべし若冲人気と、千葉市美術館の集客力。
 話は概ね展覧会に沿った内容でした。近年人気を集める伊藤若冲が、突然現れたのではなく、南蘋派等の影響があり、蕭白、芦雪といった同時代の画家たちもそれぞれ腕を競っている中で登場したという視点が特徴です。
 当時も人気を博した若冲ですが、昭和43年(1968)辻惟雄著「奇想の系譜」、昭和46年(1971)東京国立博物館「特別展観 若冲」(担当小林忠)で再発見され、平成12年(2000)京都国立博物館「特別展覧会 没後200年 若冲」でブームが始まり現在に至ります。辻さんは前館長、小林さんは現館長なので、千葉市美術館としても縁のある画家ということになります。

 1.若冲の魅力。展覧会出品作を中心に、若冲の魅力を解説してゆきます。作品にまつわるサイドエピソードが講演会の楽しみ。「鸚鵡図」には千葉市美術館、ボストン美術館、草堂寺の他に個人蔵のものがあること。展覧会タイトルのハートマークは、動植綵絵「老松白鳳図」の尾羽からとったのと、2000年の若冲展でタイトルにエクスクラメーションマーク(!)がついていたので、それにのっかってchu=kiss=ハートマークをつけた。「鳥獣花木図」の作者に関して、美術の専門外の友人が若冲追悼の絵として別の人が描いたのでは?といっていたが、晩年のモチーフまで取り込んだ構成から見ても一理あると思う。「寿老人・孔雀・菊図」は菊に「菊花流水図」、孔雀に「老松白鳳図」との共通性が見られる。三幅並べると、孔雀の視線の先に菊がくる?「乗興舟」は複数あるが版ごとに少しずつ違い、黒地の墨を書き足したかも。「若冲画帖」は工芸図案としての需要も伺える。等々。

 2.若冲は一日にしてならず。若冲と同時代の江戸絵画を紹介。
 2-①若冲の時代 みやこの画家たち。展覧会の第1章の解説。円山応挙「鉄拐蝦蟇仙人図」。まだ応挙を名乗る前の作品、狩野派っぽい。口元に小さな分身まで描かれている。円山応挙「群鳥・別離・鯉図」。滝の塗り残しで鯉を表す手法、「青楓瀑布図」にも見られる滝の描画。出来は今一つ。長澤芦雪・曽道怡「花鳥蟲獣図巻」。芦雪は応挙を真似ているが、仔犬の後ろ姿を一筆描きする等独自性もある。文は皆川淇園。本展は淇園にも注目。松村景文「秋草四十雀図」。茎が折れそうなほど大きく描かれた雀は、応挙の教えと異なる。その一方で「鮎図」の鮎は応挙の絶筆にも登場するモチーフ。応挙の流れの中にいる。曽我蕭白「虎渓三笑図」「山水図(林和靖図)」。故事を知っていればいっそう楽しめる。
 2-②ニューウェーブ 南蘋派大流行。2-③異国趣味・博物学・版の時代。時間がなくなって、ダイジェストに。南蘋派の画家をクローズアップした後で、博物図譜、南蘋画、浮世絵の入り混じる当時の美術界を浮かび上がらせた上で、その中を生きた若冲に話を戻して幕。
 少々話題を広げすぎて、やや散漫な内容でした。裏を返せば、それだけ広範な内容を扱いつつコンパクトにまとまっている本展はなかなかの力作ということ?

 講演会が終わるとシャッターが上がり、11階からの眺望が広がりました。城が見えるところが千葉市らしい。ついでに天守閣の存在が微妙なところも。。。
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 講演会の後、再度展示を観て回りました。個人的には本展のベストは「花鳥蟲獣図巻」だと思います。絵の密度、墨の竹と活き活きとした花鳥のコラボ、仔犬の愛らしさ、4-50回も酒を飲みつつ描いたというエピソード。若冲や師応挙にも全くひけをとらない見事な力量。何かきっかけがあれば、芦雪ブームが始まっても全然不思議ではありません。

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2007年08月22日

●若冲とその時代@千葉市美術館

 千葉県立美術館の次は千葉市美術館で「若冲とその時代」を観ました。モノレールで3駅と、意外と移動はスムーズ。

 所蔵品展の扱いなので、観覧料は200円(企画展とセットだと800円)という驚きの安さ。展示は南蘋派が京画壇に及ぼした影響を辿ることで、独自性を出しています。イントロダクションに伊藤若冲「鸚鵡図」を置いて本展へ。
 第1部 若冲の時代 みやこの画家たち応挙・芦雪・景文・蕭白。応挙、芦雪をはじめビッグネームが並びますが、南蘋派からの影響に焦点を当てているので、模写的な側面が強め。いわゆる彼ららしい作風に比べると地味めに思えます。でも長澤芦雪・曽道怡「花鳥蟲獣図巻」は見応えあります。曽道怡の描く竹の掠れ具合と、芦雪が描く愛らしい花鳥たちの競演は絶品。芦雪が道怡の元に何度も通い、酒を飲みつつ書き上げたというエピソードも豪胆な芦雪らしい。曾我蕭白「虎渓三笑図」も主役の三人を小さく描いて、風景の輪郭をサインペンのような描線で描くところが面白い。マンガみたい。
 第2部 若冲の時代のハイカラ趣味 南蘋派の画家たち。若冲に多大な影響を与えた南蘋派ですが、こんなに揃ってみるのは初めてです。摘水軒記念文化振興財団所蔵の絵画をこんなに揃って観るのも初めて。本拠の寺島文化会館は9月で閉館、その後はどうなるんでしょう?
 第3部 そして若冲 色に酔い墨に浸る。素晴らしく状態の良い「乗興舟」が見どころ。白と黒の反転と、船で川を下る様を巻物で再現する構成が上手い。そこに漂うノンビリとした風情も好きです。それと「雷神図」。人をくった構図はいかにも若冲らしい。
 会場内のソファにはピンクのファイルが置いてありますが、これは図録代わりの解説文集です。展示を観てからこれを読むと、理解が深まります。特にカラーチラシの文章が良いです。本展の意義、位置付けを述べた上で、そうはいっても詰まるところ、若冲が好きで企画したと結んで清々しい。章題のハートマークも、鳳凰の尾羽に舞う様が思い出されて若冲好きをアピールしています。
 すっかり千葉市美術館のリピーターになりましたが、所蔵品展でこれだけ魅せるのは流石だと思います。

 暑い一日の終わりは、中央公園でカキ氷。
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2007年08月21日

●ユトリロ展-モンマルトルの詩情-@千葉県立美術館

 お盆休み二日目は千葉市へ。千葉県に住みながら、千葉市に行くのは講習会と千葉市美術館くらい。今回は千葉県民なこちらこちらのオススメで、千葉県立美術館の「ユトリロ展-モンマルトルの詩情-」へ出かけました。

 炎天の下、大屋根が横たわる千葉県立美術館と、その向こうにポートタワー。煉瓦とガラス、水平と垂直、70年代と80年代の対比。美術館の設計は大高建築設計事務所、竣工は1974年。煉瓦積みの耐久性に優れた外壁、コンクリートの荒々しい質感を引き出した内壁、勾配屋根の架構が劇的なホール等、なかなかの仕上り。風車状に広がる展示スペースと、45度軸をずらして緑地へと延びる休憩スペースを組み合わせたプランもなかなか。複数の県美術団体の展覧会が開かれていて、県民ギャラリーとしては盛況。ただ、県立美術館としては少々寂しい。
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 「ユトリロ展」は、彼の有名な「白の時代」から始まります。彼の絵と並べて元絵となった絵葉書や当該地の写真を展示し、その背景を解説パネルで的確に述べてゆく構成は、淡々としていて見やすいです。母を慕いつつも満たされることのない境遇、飲酒と幽閉。その複雑な環境と、絵葉書と、天賦の才が産み出す「漆喰の白」。書き割りのように見える彼の絵の秘密が明かされていきます。
 彼の絵が売れると分かり、次々と登場する近縁のマネージャー。お酒のために絵を描き続けるユトリロ。絵は初期に及ばずとも、画家としての評価は高まり、パリ名誉市民賞も受賞して、70年を超える生涯を閉じます。
 絵は「ムーランの大聖堂」でピークに思えて、それ以降のものに魅力を感じませんでしたが、ユトリロの生涯をパネルと絵画で辿るツアーとしてはとても良く出来ていました。絵を観に行ったつもりだったので、ちょっと複雑な気分。

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2007年08月18日

●山口晃展 今度は武者絵だ!@練馬区立美術館

 練馬区立美術館で開催中の「山口晃展 今度は武者絵だ!」を観ました。モーニングの表紙以来のミーハーなファンですが、とても楽しみにしていました。
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 展示は3階の企画展示室2から始まります。展示のメインは新作「続・無残ノ介」。ストーリー仕立てのマンガのコマ割りのように、壁面にキャンパスが並びます。恐るべき力を秘めた三振りの刀。その切味は、自重で鞘を割り、床を斬って落ちるほど。その刀の回収に赴いた達人がその妖気に囚われ、二代目無残ノ介が誕生します。その報を聞いた政府が差し向ける達人を、斬って斬って斬りまくる山口流大活劇!いや、連続絵。
 強敵を撃破しつつ中央に向けて進撃する怪物は、ゴジラからマジンガーZ、エヴァンゲリオンまで続く日本活劇の伝統モチーフ。刀を基本にしつつ超ロングライフルから巨大カラクリ兵器までなんでもありな敵役のラインナップは、伊賀の影丸からファイブスター物語まで続くVSモノのお約束。大コマで登場する敵役、随所で絶叫するおっさん、アッサリと流す結末。おそらく山口さんの趣味爆発であろう絵柄のオンパレードと、流麗なタッチで描き出す描写力、それをシレッと「アートです」といっちゃう感性は素敵。
 構想が広がりすぎたのか未完の箇所も多々ありますが、ほとんどは決着シーンなので「激闘の末、無残ノ介が勝った」とナレーションを足せば話は追えます。そして物語は冒頭の伏線を回収して、完結します。本土決戦と最後のエピソードのつながりが唐突なのは、最低限のセーフティーとして結末部分を予め描いたためか?どんどん小さくなるコマ割りは、鳥山明が多用した、ページが足りなくなって小さくなるコマ割りへのオマージュ。だと良いなあ。

 休憩ロビーを通って反対側の企画展示室1へ。上野の「アートで候」展でも観た「当世おばか合戦」が再度登場します。その絵ののびやかに見えること!上野では会田さんに喰われてたんだなあと勝手に納得しました。これに加えて、展示室右手にある自画像と、左手にあるバイク馬の掛軸がこの部屋の個人的ベスト3。

 準備室の展示を観てから、2階に下りて常設展示室へ。ここで武者絵以外の展示がズラズラと並んで、男の子の世界がガラガラと崩れてガッカリ。日本橋三越を筆頭に、女性にモテモテな部分をなくして山口ワールドは成り立たず、か。でも「斗米庵双六」の原画が観られたので、良し。山口さんと若冲の親和性は抜群に良いと思います。山口さんの絵の中でダントツに好きな絵です。双六ですが。。。

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2007年08月15日

●日本美術院研究所跡@五浦海岸

 明治39年(1906)、岡倉天心は日本美術院を五浦に移し、彼と共に4人の画家(横山大観、菱田春草、下村観山、木村武村)が移住します。そこで修行僧のような出で立ちで制作に励む4人を写した有名な写真がありますが、何かの展覧会でそれを見てとても興味を持ちました。東京で活躍していた俊英が、何ゆえ断崖に張り付くような場所に移り住み、制作に励むに至ったのか?

 五浦海岸の南から二つ目の浦「中磯」付近にある日本美術院研究所跡。翌年(1907)創設された文展で、天心、大観、観山は審査委員として参加。春草、武村はそれぞれ二等賞、三等賞に輝きます。文字通り崖っぷちからの返り咲き。
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 4つ目の浦「大五浦」と5つ目の浦「小五浦」の間にある天心旧邸を核にした茨城大学五浦美術文化研究所
 古い料亭の古材を再利用したという旧邸は、外観は手が入っていますが内部は概ね旧状を保っているそうです。ただし立入禁止なので外から眺めるのみ。
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 天心設計による六角堂と、そこから眺める太平洋。夏の晴れた日の景勝美は素晴らしいです。その一方で、曇天時の灰色の空が広がればそうとう鬱々とした雰囲気になりそう。別荘には良いが、住むにはちょっと厳しそう。当時の彼らの決意がこの地を選ばせたのか。。。
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2007年08月14日

●千總コレクション「京の優雅~小袖と屏風」@五浦美術館

 お盆休み一日目は、茨城県天心記念五浦美術館で開催中の千總コレクション「京の優雅~小袖と屏風」を観ました。こちらで円山応挙の絶筆「保津川図屏風」が展示中と知り、「夏だ、清涼だ、海だ!」というわけで出かけることに。保津川といえば鮎、ちょうど昨日京都綾部の天然鮎(残念ながら保津川産ではありません)をいただいたばかりで、タイミングは二重にバッチリ。

 最寄駅は、柏と同じ常磐線沿線の大津港。さらにタクシーで10分ほど行くと、夏の青空!潮騒の音!
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 その先には太平洋!ここからは見えませんが、右手に地名にもなっている五つの浦が続きます。
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 そして展示へ。展示は京友禅の老舗「千總」が収集した小袖や友禅染の見本裂、下絵等着物関係と、屏風の二本立てです。着物関係は、本来着るものという意識が先立つことと、タイトルが長い(解説を読まないとその意味が分からない)こととで、アートとして観ることが苦手です。色彩や図柄、織りの特徴等を流し気味に観て、終盤の絵画部門へ。
 まず「江戸風俗図屏風」で当時の様子を追体験し、長澤芦雪「花鳥図屏風」の墨絵のような木の枝と、しっかりと描かれた鳥、動物のコントラストに芦雪らしさを感じつつ江戸絵画の世界へ。その横には応挙の眼鏡絵、振り返ると左手に応挙の写生図巻(乙巻)。彼の修行時代の仕事、優れた写生力を如実に示します。そして展示室一杯に広がる「保津川図屏風」。彼の死の1月前に描かれたとされる絶筆。描き込みは少々荒い気もしますが、少し離れて観ると清流の流れる音が聞こえてきそうな描写力は迫力満点。波頭は小さく、白糸を張り巡らせるように清流を捉える手法は、北斎の超高速シャッターで波頭が砕ける一瞬をダイナミックに切り取る手法と好対照。左双には川を上る鮎も描かれていて、密かに満足度アップ。
 森祖仙をはさんで岸派へ。岸竹堂「大津唐崎図屏風」の左双の唐崎の松は、広重の「近江八景 唐崎夜雨」を思い起こさせます。リアルな分、その枝ぶりの見事さが引き立ちます。さらに神坂雪佳「元禄舞図屏風」。楽しげに舞い踊る人々の列が弧を描いて画面右へとはみ出し、ついには上部へとフェードアウトしてゆきます。先日大和文華館で観た「輪舞図屏風」と「松浦屏風」を組み合わせたような面白さ。そして最後は再び岸竹堂「猛虎図屏風」。毛皮でなく実物の取材に基づく虎は、猫でも犬でもなく見事に虎。
 会場がもう少し便利なところであればとも思いますが、おかげで落ち着いて観ることが出来ました。

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2007年08月13日

●インカ・マヤ・アステカ展@国立科学博物館

 上野の国立科学博物館で開催中の「インカ・マヤ・アステカ展」を観ました。NHKとのタイアップも入った展示はエンターテイメント性高めで、日本初公開の遺物がゴロゴロと並んで好奇心を刺激します。その反面、文明の繁栄と滅亡の背景を掘り下げるのは浅め。金曜日の夜間開館に行ったので、気分は「夏の夜の探検隊」。
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 まずはマヤ文明。ポスターにも載っている「ヒスイ製仮面」が目を惹きます。ヒスイの切片を立体的にピッタリと組み合わせて面を構成する高度な技術と、トロンとした目元と作り込みの細かい口元の対比等に観入ってしまいます。「JOJOの奇妙な冒険」に登場した石仮面の元ネタかもと思うと興味倍増。石碑に彫られた、宇宙服にしか見えない人物像もミステリアス。「ククルカンのピラミッド」の春分と秋分に登場するククルカン(羽毛のある蛇)の映像を見ていると、空から宇宙人がやってきて、原住民に知識を授けたのではと思えてきます。
 続いてアステカ文明。こちらは「ワシの戦士」が目を惹きます。更に「ジャガーの戦士」。その実物大(?)な大きさとマンガチックなディテールを見ていると、「ワンピース」のアラバスター編に登場した二人の戦士の元ネタか、更にずっとさかのぼって「バビル二世」のロプロスとロデムかと変な方向に想像が働きます。しかし実際には、生贄を求めて戦争し、流血が日常の世界。森の中の都市といい、想像していくと、今とは全く異なる考え方、秩序で世界ができている様が思い浮かびます。
 そしてインカ文明。人が死んでも風化し難く、放っておくとミイラ化する気候。生と死が対立せず、共存する死生観は驚きです。空中都市マチュピチュといい、謎に満ちた文明です。そもそも、森の中に人口数万人の都市は成立するのか?それは都市と呼べるのか?

 疑問を抱えつつも、「第二会場にお急ぎ下さい」のアナウンスに促されて2階へ。ところがそこは、グッズが山積みの土産物売場。すごい大仕掛けの大物産展にあっけにとられました。さすが現代の企画展、商魂たくましい!

 東京文化会館の夜景を眺めながら飲み会へ。ランダムに吊られた照明が星空のように光って外部に漏れ出すエントランスホール。モダンと現代のコントラストが綺麗。
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2007年08月11日

●線の迷宮II@目黒区美術館

 目黒区美術館で開催中の「線の迷宮II -鉛筆と黒鉛の旋律」を観ました。こちらで絶賛されているのを見かけて、チェックしていました。

 展示は1階と2階に分かれていますが、まずは1階の篠田教夫の描き出す深遠な世界に惹き込まれます。漆黒に塗りつぶされたカンバスに削りだされる、視力の限界に挑むような精緻な描画と無限段階に思えるトーンの重なり。極微に宿るハイパーリアリズムは、まさに迷宮。鉛筆という素材と手法の認識が一変しました。解説に登場する、「海辺の断崖」のモチーフになっている"或る物"とは、変幻自在の波なのか、波頭に浮かぶゴミなのか。ちょっと分かりませんでした。
 2階に上がると、階段をはさんで左に4ブース、右に4ブース。左手奥の黒いブースに展開する小川百合の階段の数々は、そのシンプルな構図と丹念に黒鉛を塗り込めて浮かび上がる光が作り出す奥行きに魅せられます。解説にある「時が積もるイギリスの図書館」という言葉もロマンティック。この緻密さは実物を観ることでしか感じられないと思うので、本展に感謝することしきり。建築好きな人は、はまるのではないでしょうか。
 右手を更に右に折れた小川信治のブースは、本展随一の仕掛けモノ。perfect world とwithout you の2つのシリーズが並びますが、とりわけ興味深かったのは、後者の三枚の最後の晩餐。絵の中心人物を消去した上で、その世界を完成させるところが要ですが、キリスト、弟子、ユダを順に消去してゆきます。キリストの消失は、「この中に裏切り者がいる」という衝撃的な言葉と等価に置き換えられているようで、(絵の主旨を知っていれば)あまり変化なし。弟子の消失は、物語性すらも消失するようで、弟子(民衆の象徴?)なくして物語もなしと思えます。ユダの消失は、対象(裏切者、パンに手を触れる者)が消失することで、一番しまりのない構図に見えます。
 全部で9人の作家の作品が並びますが、共通の素材、手法を用いつつもバリエーション広く展開されています。暑い夏の太陽の下、空調の効いた館内で迷宮に迷い込む体験はなかなか爽快です。

 目黒区美術館は、目黒区の文化施設が集積する目黒区民センターの一角にあります。向かいにはプール。プールで遊んで、図書館で本を借りて、美術館で涼む。暮らしやすそうー。
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 中目黒から目黒川沿いに歩いてみました。決してキレイでも親水空間が充実しているわけでもありませんが、炎天下の山手通りを歩くよりはずっと良いです。
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2007年08月09日

●「ル・コルビュジェと私」 第4回 「ル・コルビュジェの精神と近代」

 森美術館で開催中のレクチャーシリーズ「ル・コルビュジェと私」の第4回「ル・コルビュジェの精神と近代」の聴講メモです。出演は黒川紀章さん。(第1回第2回第3回)
 京都大学を卒業、中央と距離があって良かったが、もっと矛盾の孕んだ活気のあるところへ行きたいと希望。一番尊敬できるところに行こうと考え、丹下健三のいる東京大学へ。丹下研究室に入ると仕事の手伝いで忙しいので、ゼミのみ参加。自分の製図板は研究室でなく廊下にあった。
 世界で大きな変化。バウハウス、グロピウス、ミース等、モダニズムへの道を拓くリーダー達が活躍する時代。研究室で一番汚れた(繰り返し読まれた)本がコルビュジェの作品集。丹下さんのバイブルだった。
 1958年、CIAM (近代建築国際会議)の第10回会議のゲストとして丹下健三とルイス・カーンが招待された後、CIAMが解散。その会議を準備したメンバーがチームX(テン)を結成。第一回目がフランスのロヨモン修道院で開催される。実作はなくとも面白そうなモノを作りそうな面子が招待される。ジェームズ・スターリング、クリストファー・アレキサンダー等と共に参加。近代建築が終わって、何かが始まるらしい。ル・コルビュジェ、インターナショナルスタイルを批判するところから建築家としての活動が始まる。
 ロンシャンは建築ではない。あえていうならバナナか?インターナショナルスタイルが上手くいかないところから逃げ込み、失敗したまま死んだ。哲学を考えたのに、建築が資本家の手に落ちるとアーティストに帰った。ラ・トゥーレットはなんとか建築。丹下先生も死ぬかと思ったら、代々木競技場で生き延びた。本人は最後まで言わなかったが、伝統的な日本の屋根の影響がある。
 丹下の下にきたコルビュジェからの手紙のコピー。大人が子供を肩の上に立たせているスケッチと「次の世代へ」というメッセージ。丹下を通して、コルビュジェの苦難の道を知る。
 独立当初は仕事を頼みに来る人がいなかったから本を書いた。現在143冊。今の人は作品集は作るが本は書かない。1世紀に2人いれば良くて、その1人が自分。日本語の100冊目が「都市革命」。「競争原理=もうかる」だけではダメ。経済と文化の共生が大切。建築の話は今回が最後。衆議院議員になる。
 1960年から時代が変わる。建築のモダニズムが終わって、今起こっているのは新しいモダニズム。新しい言葉を作れない場合にポスト(後)をつけるが、中身がない。1958年に「機械から生命へ」を書いた。今ではあらゆる学問が「生命」を掲げる。二元論で解明してきた世界から複雑系の化学へ。「中間領域論」。化学と芸術、二元論を超える共生の思想。1960年代に「共生」の言葉を作った。
 グローバリズムはスタイル。上手い手だが、本当の新しい時代を生きていない。自作のクアラルンプール新国際空港のHPシェルはローカリズムを表現する。過去を参照していない。人間と自然が共生する上で問題が出てくる。都市はコンパクトに、森を残す。
 マリリン・モンローは嫌い。グレタ・ガルボが好き。人間は肉体だけでなく、心(哲学)も持てる。浮世絵でいえば、鈴木晴信が好きで歌麿が嫌い。グレタ・ガルボのような建築を作りたい。コルビュジェの時代の哲学はヒューマニズム、人間中心。レヴィ・ストロースの構造主義は、未開からフランスを見据えることで、世界を相対化した。森と共生しないといけない。建築は、哲学、数学、量子力学、文化人類学といった学問と手を携えて乗り越えていく。コルビュジェを再評価しながら、その時代と何が違うか考えて行きましょう。

 黒川さんの講演を聞くのは今回が初めて。大遅刻で始まり、コルビュジェを絡めつつ批判と哲学を武器にご自分のサクセスストーリーへとつなげ、政治の話へ脱線。誇張の効いたジョークを交えて会場の笑いをとる話術も含めて、巨匠らしい講演でした。ただ、ル・コルビュジェ展の講演会としては微妙。

 これで全4回のレクチャーシリーズは終了です。ル・コルビュジェをキーワードにして、現代建築の巨匠4人の話を聴けるのはとてもありがたかったです。4人の話を通して、「現代」をフラットに眺められるところが最大の魅力。
 学生の頃に抱いたイメージ、コルビュジェの建物を見て回った時に抱いたイメージ、そして今回の展示と講演。その中で変わらない部分があり、変わる部分もあります。特に今回は、建築設計の実務に携わる中での変化なので、思うところ多々。建築に対する意欲が底上げされました。


 講演会は週末の昼下り。「ラテンアメリカン・ガーデン」開催中。
 でもプレゼン直前だったので、立ち寄る間もなく代官山のプロジェクト室にUターンでした。
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2007年08月03日

●東京ミッドタウン

 三井不動産主体の大規模再開発プロジェクト「東京ミッドタウン」。その規模もさることながら、ストリートファニチャや表層のデザインに力が入っています。手間を惜しまず、大きな差別化。

 地下街に架かる大きなガラス屋根の上には水が流れ、その傍らには流れるような形状のベンチ。その隣に竹。にわか雨に濡れたタイルと木の表情が良く似合います。
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 半透明なワイヤー伝いに水が滴る水盤、和紙を貼ったような質感で光る手摺壁。ちょっとしつこいくらいに「和」のテイスト。水の音が良いアクセントになっています。
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 半透明ガラススクリーンが並ぶ吹抜け。その下の白い穴あきブロックの質感が、品があって好きです。
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2007年08月01日

●21_21 DESIGN SIGHT@東京ミッドタウン

 東京ミッドタウンの緑地に建つ半地下のデザイン施設「21_21 DESIGN SIGHT」。企画構想は北山創造研究所、設計は安藤忠雄建築研究所+日建設計、施工は竹中工務店+大成建設。2007年2月竣工。安藤さんのコンセプトと、最高水準の設計、施工体制のコラボ。

 大きな鉄板屋根を地面に向けて折り曲げることで、周辺の緑に溶け込むような建物の在り方。水のせせらぎ。思い思いに時間を過ごす人々。全てが人工でありながら、「自然」を感じさせる景色。「人の集まる場」を作るという、明快で力強い意思を感じます。
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 「自然」と対峙する力強さを体現する打放しコンクリート。内部はほぼコンクリート一色。印象もコンクリートのガランドウの箱。環境装置として非常に優れていて、機能を持つ建物としては今一つ。10年くらい経ってから再訪してみたいです。
 ギャラリーでは第1回企画展「Chocolate」が開催中でした。マイク・エーブルソン+清水友里(POSTALCO)「カカオ・トラベル」のコンクリートの壁とパイプの対比、岩井俊雄「モルフォチョコ」の種明しをされても観入ってしまう変幻自在の不思議さに釘付け。釘型チョコの、パウダーをまぶしたチョコと錆釘の質感がそっくりなのも面白かった。ただ、全体的にはかなり希薄な印象。「デザインのためのリサーチセンター」という位置付けも今一つピンときません。
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 端部は結構尖っています。その鋭利さは、「世の中そんなに甘くない」というメッセージにも思えます。
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Posted by mizdesign at 01:52 | Comments [0] | Trackbacks [0]