2007年08月11日
●線の迷宮II@目黒区美術館
目黒区美術館で開催中の「線の迷宮II -鉛筆と黒鉛の旋律」を観ました。こちらで絶賛されているのを見かけて、チェックしていました。
展示は1階と2階に分かれていますが、まずは1階の篠田教夫の描き出す深遠な世界に惹き込まれます。漆黒に塗りつぶされたカンバスに削りだされる、視力の限界に挑むような精緻な描画と無限段階に思えるトーンの重なり。極微に宿るハイパーリアリズムは、まさに迷宮。鉛筆という素材と手法の認識が一変しました。解説に登場する、「海辺の断崖」のモチーフになっている"或る物"とは、変幻自在の波なのか、波頭に浮かぶゴミなのか。ちょっと分かりませんでした。
2階に上がると、階段をはさんで左に4ブース、右に4ブース。左手奥の黒いブースに展開する小川百合の階段の数々は、そのシンプルな構図と丹念に黒鉛を塗り込めて浮かび上がる光が作り出す奥行きに魅せられます。解説にある「時が積もるイギリスの図書館」という言葉もロマンティック。この緻密さは実物を観ることでしか感じられないと思うので、本展に感謝することしきり。建築好きな人は、はまるのではないでしょうか。
右手を更に右に折れた小川信治のブースは、本展随一の仕掛けモノ。perfect world とwithout you の2つのシリーズが並びますが、とりわけ興味深かったのは、後者の三枚の最後の晩餐。絵の中心人物を消去した上で、その世界を完成させるところが要ですが、キリスト、弟子、ユダを順に消去してゆきます。キリストの消失は、「この中に裏切り者がいる」という衝撃的な言葉と等価に置き換えられているようで、(絵の主旨を知っていれば)あまり変化なし。弟子の消失は、物語性すらも消失するようで、弟子(民衆の象徴?)なくして物語もなしと思えます。ユダの消失は、対象(裏切者、パンに手を触れる者)が消失することで、一番しまりのない構図に見えます。
全部で9人の作家の作品が並びますが、共通の素材、手法を用いつつもバリエーション広く展開されています。暑い夏の太陽の下、空調の効いた館内で迷宮に迷い込む体験はなかなか爽快です。
目黒区美術館は、目黒区の文化施設が集積する目黒区民センターの一角にあります。向かいにはプール。プールで遊んで、図書館で本を借りて、美術館で涼む。暮らしやすそうー。
中目黒から目黒川沿いに歩いてみました。決してキレイでも親水空間が充実しているわけでもありませんが、炎天下の山手通りを歩くよりはずっと良いです。
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こんにちは。
行かれましたね。
7月中に行こうと思っていながら
未だ足を運べていません。。。
小川さんの作品に遭いに今月中には。
しかし消すことによって
見えてくるものもあるのですね。
Tak様>
こんにちは。
鉛筆ってすごいですね。
書くというよりも、微粒子で「世界を作る」に近い気がします。
見やすく、見応えある好企画でした。
こんばんは。拙ブログへのリンク恐縮です。どうもありがとうございます。
それにしても仰る通り、鉛筆画への認識を改めさせられるような内容でしたね。ここまで描けるのかという驚きはもちろん、変幻自在な質感の面白さにも魅了されました。
小川百合は展示方法もハマっていたと思います。
お金をかけずとも、見せる力のある展示はあるものですね。
>プールで遊んで、図書館で本を借りて、美術館で涼む。
同感です。きっと今はプールが大変な混雑でしょう。泳いでも暑いくらいですが…。
ペンシル・アート、初めてでしたが、とてもエンジョイできました。気の遠くなるような仕事をしているアーチストがいるのですね。
この美術展、チラシが何だかブキミで、
いまいち心が動かされなかったのです。
でも、面白そうだから行ってみようかな。値段も安いし。
まだ、此処に美術館ができる前。
私は区民センタープールで泳いで、
アイスクリーム食べて、図書館で涼んで、本を借りて、
そのあと権之助坂をえっちらおっちら昇って、電車に乗って帰宅する、
という小学生の夏休み生活を送っていました。
はろるど様>
こんにちは。
目黒区美術館へ行くのは10年ぶりくらいですが、今回は大当たりでした。
シンプルな技法と、驚くほど多彩な表現のギャップにビックリです。
とら様>
こんにちは。
この展示は、「気の遠くなるような」の一言に尽きますね。
小川百合さんの使い古した鉛筆の展示(?)は、そこまで使い込むのかと驚きました。
菊花様>
はじめまして。
コメントありがとうございます。
チラシはちょっと不気味ですね。
夏ですし、現代アートによるお化け屋敷というニュアンスもちょっとあるかも。。。
目黒区の区民センターはまとまりが良いですね。駅から少し離れた立地もほど良い感じ。都会なんだけど、地に足がついた感じが好きです。
こんばんは。
私は長い間この辺りに住んでいたので、区立図書館や区民プールは生活の一部でした。
いいところですよー(目黒川はちょっと匂いますが)。
目黒区美術館は村田朋泰さんの個展がきっかけとなって時々行くようになったのですが、なかなか良い企画をされると思います。
ogawama様>
こんにちは。
コメントありがとうございます。
目黒区美術館は「手塚治虫展」以来なので、10年ぶりくらいだと思いますが、立地と箱と中身のバランスが良い所だと思います。
柏も箱はけっこうあるので、中身が伴うと随分変わると思うのですが、それが一番難しい。。。
Tak様>
こんばんは。
面白い展示でしたね。
Takさんの紹介があって、はろるどさんの激賞があって行った展示なので、こちらこそありがとうございました。
炎暑の良い思い出になりました。