2007年08月09日
●「ル・コルビュジェと私」 第4回 「ル・コルビュジェの精神と近代」
森美術館で開催中のレクチャーシリーズ「ル・コルビュジェと私」の第4回「ル・コルビュジェの精神と近代」の聴講メモです。出演は黒川紀章さん。(第1回、第2回、第3回)
京都大学を卒業、中央と距離があって良かったが、もっと矛盾の孕んだ活気のあるところへ行きたいと希望。一番尊敬できるところに行こうと考え、丹下健三のいる東京大学へ。丹下研究室に入ると仕事の手伝いで忙しいので、ゼミのみ参加。自分の製図板は研究室でなく廊下にあった。
世界で大きな変化。バウハウス、グロピウス、ミース等、モダニズムへの道を拓くリーダー達が活躍する時代。研究室で一番汚れた(繰り返し読まれた)本がコルビュジェの作品集。丹下さんのバイブルだった。
1958年、CIAM (近代建築国際会議)の第10回会議のゲストとして丹下健三とルイス・カーンが招待された後、CIAMが解散。その会議を準備したメンバーがチームX(テン)を結成。第一回目がフランスのロヨモン修道院で開催される。実作はなくとも面白そうなモノを作りそうな面子が招待される。ジェームズ・スターリング、クリストファー・アレキサンダー等と共に参加。近代建築が終わって、何かが始まるらしい。ル・コルビュジェ、インターナショナルスタイルを批判するところから建築家としての活動が始まる。
ロンシャンは建築ではない。あえていうならバナナか?インターナショナルスタイルが上手くいかないところから逃げ込み、失敗したまま死んだ。哲学を考えたのに、建築が資本家の手に落ちるとアーティストに帰った。ラ・トゥーレットはなんとか建築。丹下先生も死ぬかと思ったら、代々木競技場で生き延びた。本人は最後まで言わなかったが、伝統的な日本の屋根の影響がある。
丹下の下にきたコルビュジェからの手紙のコピー。大人が子供を肩の上に立たせているスケッチと「次の世代へ」というメッセージ。丹下を通して、コルビュジェの苦難の道を知る。
独立当初は仕事を頼みに来る人がいなかったから本を書いた。現在143冊。今の人は作品集は作るが本は書かない。1世紀に2人いれば良くて、その1人が自分。日本語の100冊目が「都市革命」。「競争原理=もうかる」だけではダメ。経済と文化の共生が大切。建築の話は今回が最後。衆議院議員になる。
1960年から時代が変わる。建築のモダニズムが終わって、今起こっているのは新しいモダニズム。新しい言葉を作れない場合にポスト(後)をつけるが、中身がない。1958年に「機械から生命へ」を書いた。今ではあらゆる学問が「生命」を掲げる。二元論で解明してきた世界から複雑系の化学へ。「中間領域論」。化学と芸術、二元論を超える共生の思想。1960年代に「共生」の言葉を作った。
グローバリズムはスタイル。上手い手だが、本当の新しい時代を生きていない。自作のクアラルンプール新国際空港のHPシェルはローカリズムを表現する。過去を参照していない。人間と自然が共生する上で問題が出てくる。都市はコンパクトに、森を残す。
マリリン・モンローは嫌い。グレタ・ガルボが好き。人間は肉体だけでなく、心(哲学)も持てる。浮世絵でいえば、鈴木晴信が好きで歌麿が嫌い。グレタ・ガルボのような建築を作りたい。コルビュジェの時代の哲学はヒューマニズム、人間中心。レヴィ・ストロースの構造主義は、未開からフランスを見据えることで、世界を相対化した。森と共生しないといけない。建築は、哲学、数学、量子力学、文化人類学といった学問と手を携えて乗り越えていく。コルビュジェを再評価しながら、その時代と何が違うか考えて行きましょう。
黒川さんの講演を聞くのは今回が初めて。大遅刻で始まり、コルビュジェを絡めつつ批判と哲学を武器にご自分のサクセスストーリーへとつなげ、政治の話へ脱線。誇張の効いたジョークを交えて会場の笑いをとる話術も含めて、巨匠らしい講演でした。ただ、ル・コルビュジェ展の講演会としては微妙。
これで全4回のレクチャーシリーズは終了です。ル・コルビュジェをキーワードにして、現代建築の巨匠4人の話を聴けるのはとてもありがたかったです。4人の話を通して、「現代」をフラットに眺められるところが最大の魅力。
学生の頃に抱いたイメージ、コルビュジェの建物を見て回った時に抱いたイメージ、そして今回の展示と講演。その中で変わらない部分があり、変わる部分もあります。特に今回は、建築設計の実務に携わる中での変化なので、思うところ多々。建築に対する意欲が底上げされました。
講演会は週末の昼下り。「ラテンアメリカン・ガーデン」開催中。
でもプレゼン直前だったので、立ち寄る間もなく代官山のプロジェクト室にUターンでした。
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