2007年07月08日

●金刀比羅宮 書院の美

 東京藝術大学大学美術館で開催中の「金刀比羅宮 書院の美」を観ました。詣でる地である金刀比羅宮から、海を越え、山を越え、はるばる上野の山に顔見世にやってくる障壁画の数々。江戸絵画ブームに沸く今この時期に、若冲、応挙の二枚看板を擁する時宜の良さ。建具で空間を規定する日本建築と画の親密な関係。興味津々です。

 3階展示室を使った、書院の再現展示が本展の要。展示室手前に表書院、奥に奥書院を配置しています。
 表玄関(を表す衝立)を通ると、昔も今も絶大な人気を誇る円山応挙の間が三つ続きます。まず鶴の間(使者の間)。襖を閉じれば、水辺に佇み空を舞い大地に立つ鶴の景色が開きます。腰を降ろしたつもりで視点を下げると、画の迫力がグッと増します。隣の間に続く4枚の襖は、左に水辺に佇む姿、右に空から舞い降りる姿を描き、迎える金刀比羅側と、やって来る使者とを対比するかのようです。
 続いて虎の間。毛皮でしか知らなかったであろう虎が、水を飲んだり、睨んだり、眠ったりと広間いっぱいに並びます。猫をベースにしつつ犬も加味し、可愛すぎず、ときに迫力もある虎の姿を見事に描いています。岩を用いて直交する面を繋げる描画も上手。
 そして七賢の間。竹林の七賢人の向こうには、山水の間の瀑布古松図が覗き、空間奥右上から注ぐ水の流れが空間を満たし、全ての間を一つにします。高い写実性と柔らかな描線、計算し尽くされた構図は、可動建具で空間を自由に連結分離する日本建築の特徴を生かしきっています。後世の修理補筆された部分があってなおこの迫力、往時の空間は如何ほどかと思わずにはいられません。

 廊下を抜けて奥書院へ。伊藤若冲によって描かれた四つの間のうち三つは既に失われ、そのテーマを踏襲した岸岱の障壁画が並びます。閉じた間の中に縦横無尽に世界を広げる描画は、円山派の重鎮としての力量を示します。
 そして伊藤若冲の上段の間へ。切花が壁面を埋め尽くす構図と、細密な描画。空間の広がりに留意したこれまでの流れが一気に反転する濃密な空間は圧巻。製作順では最古になるので、応挙も岸岱もこの作品を意識して、敢えて反対のアプローチをとったのかと思うほどの迫力。三つの間が失われたことが残念でなりません。それにしても若い頃に若冲に絵を習ったという当時の別当さんも相当な変わり者だったのか、名刹の敬虔な仏教徒という側面に惹かれたのか。よくこの前衛的(に見えたであろう)な画を受け入れたものです。いや、現代でも魅力的なのだから、見る目があったということなのでしょう。金刀比羅宮で実際の空間を見たくてたまりません。

 空間の再現性という点では、襖を持ち上げた展示(立ったまま見ても座ったときの視点が得られるよう?)方法やそれを支持する鉄骨材とアルミフレーム等違和感を感じる部分もあります。その一方で、Canonが協力したというインクジェット出力の壁装飾画の良好な再現性等、限られた会場、予算の中で、とても効果的な内容に仕上がっています。秋からは本家で4ヶ月(間に1カ月閉鎖?)に及ぶ全面公開が待っていることを考えれば、顔見世興行として完璧。
ueno_20070706-2.jpg

Posted by mizdesign at 2007年07月08日 09:17
トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.mizdesign.com/mt/mt-tb.cgi/469

トラックバック

? 金刀比羅宮 書院の美 @東京芸術大学大学美術館 from Art & Bell by Tora
 金刀比羅宮の書院の襖絵を鑑賞する機会が訪れた。外すことのできない障壁画は高精度のデジタル写真で複製され、一応書院の雰囲気が出るようになっている。もちろん急ご... [続きを読む]

Tracked on 2007年07月08日 18:29

? 金刀比羅宮 書院の美(東京藝術大学大学美術館) from 徒然と(美術と本と映画好き...)
こんぴらさんが上野にやってきた...というわけで『金刀比羅宮 書 院の美』、日曜日の夕方に行ってきました。 会場は2フロア、三階の展示室が書院の再現になってい... [続きを読む]

Tracked on 2007年07月08日 23:11

? 「金刀比羅宮 書院の美展」 from 弐代目・青い日記帳 
東京藝術大学大学美術館で開催中の 「金刀比羅宮 書院の美−応挙・若冲・岸岱−」展に行って来ました。 金刀比羅宮表・裏書院に描かれた「障壁画」を丸... [続きを読む]

Tracked on 2007年07月10日 21:59

? 金刀比羅宮 書院の美 ・芸大美術館 from あべまつ行脚
地元の子ども会のお祭りの準備に駆り出され、バタバタと日々が過ぎて、 夏休みに入る前に、気になる美術館をどのくらい回れるだろうかと不安がよぎっていた。そんな中、... [続きを読む]

Tracked on 2007年07月11日 22:49

? 金刀比羅宮 書院の美― 応挙・若冲・岸岱 ― from はなことば
♪こんぴらふねふね、シュラシュシュシュ♪ ということで、行ってきました! 東京藝術大学美術館で開催中の「金刀比羅宮 書院の美― 応挙・若冲・岸岱 ―」! 私... [続きを読む]

Tracked on 2007年07月13日 21:17

? 金刀比羅宮 書院の美― 応挙・若冲・岸岱 ―(東京藝大美術館) from あお!ひー
金刀比羅宮 書院の美― 応挙・若冲・岸岱 ―を見てきました。 やはり画面が大きいので障壁画は見てて楽しいですね。 しかも、これだけ一度にたくさん展示するのは... [続きを読む]

Tracked on 2007年07月16日 00:08

? 「金刀比羅宮 書院の美」 from ・*・ etoile ・*・
'07.07.14 「金刀比羅宮 書院の美」@東京藝術大学大学美術館 「こんぴらさん」こと香川県の金刀比羅宮の表書院、奥書院の襖絵約130点を展示。円山応... [続きを読む]

Tracked on 2007年07月23日 00:12

? 365 金比羅宮 書院の美 from たまゆらデザイン日記
金比羅宮 書院の美 応挙・若冲・岸岱 東京藝術大学美術館 待ち焦がれていた展覧会に行ってきました。 (1週間経ってしましましたが) 実際の書院を... [続きを読む]

Tracked on 2007年07月30日 20:04

? 「金刀比羅宮 書院の美」 東京藝術大学大学美術館 from はろるど・わーど
東京藝術大学大学美術館(台東区上野公園12-8) 「金刀比羅宮 書院の美」 7/7-9/9 「こんぴらさん」こと香川・金刀比羅宮の書院襖絵が、そのままそっ... [続きを読む]

Tracked on 2007年08月03日 22:54
コメント

先日はありがとうございました。
期待を裏切らない素晴らしい展覧会でした。
良い展覧会の後は盛り上がりますね。
四国へも行ってみたくなっています。

Posted by とら at 2007年07月08日 18:28

mizさん
こんばんは

あの三階の書院の展示は良かったですね。
若冲展の鹿苑寺の襖絵も印象に残っているのですが、
今回の広々とした空間はよく作ったなぁ...と思いました。

Posted by lysander at 2007年07月08日 23:18

こんばんは。

なるほど顔見世でしたか。
こんぴらまでおいでと。
うどんが急に食べたくなってきました。
気のせいかな~

Posted by Tak at 2007年07月10日 22:00

とら様>
こんばんは。
先日は長丁場お疲れ様でした。
ちょっと六本木に浮気していましたが、上野が俄然面白くなってきました。

lysander様>
こんばんは。
若冲展は中に入れない展示でしたが、こちらは体験型なのが嬉しいところですね。
会場構成は苦労の跡がうかがえますが、上手くまとめてました。

Tak様>
こんばんは。
鮭のお礼に虎がやってきたと思ったら、金刀比羅詣の人々をごっそりと連れて帰ったとさ。
うーん、行きたい(笑)。

Posted by mizdesign at 2007年07月10日 23:32

こんばんわ。
やはり、障壁画はいいですね。
あの大きさのがでーんと目の前にある様はたまりませんね〜。

Posted by あおひー at 2007年07月16日 00:09

あおひー様>
こんにちは。
今回のポイントは書院空間を再現しつつ絵を見せるところにあると思うのですが、なかなか頑張ってますね。
実際の空間が見たくてたまりません。

Posted by mizdesign at 2007年07月17日 10:25

こんばんは。
先週の日曜日に出かけましたが、ちょうどお昼時だったせいか、まずまずといったところ。
午後になってどんどん人が入りこんできました。
やっぱり、こんぴらさんに行きたいですね。やっぱり実物は違うだろうな・・・と(無理とわかっていながら毎度・・・^^)。

Posted by tsukinoha at 2007年07月30日 20:03

tsukinoha様>
こんばんは。
こんぴらさん行きたいですね!
ほんとに。
やっぱりあの場所でしか感じられない体験があるのでしょうね。

若冲巡りのトリに、機会に恵まれますよう、金刀比羅様にも祈ってみます(笑)。

Posted by mizdesign at 2007年07月31日 03:06

こんばんは。七賢図より瀑布を望むのは壮観でしたね。
あの感触は今回の展示でないと絶対に味わえません。(ただし瀑布はやはり本物が見たい!ということで金比羅へ行きたくなる仕掛けにハマっています。)

広重の展示も見事でした。金刀比羅宮展とセットで見るには勿体ないくらい充実しています。
それにgoogleマップを使った「名所百景マップ」も楽しめました。自宅のPCで気軽に操作出来るのも嬉しいですよね。
http://www.geidai.ac.jp/museum/exhibit/2007/collection200707/googlemaps/

Posted by はろるど at 2007年08月03日 22:53

はろるど様>
こんばんは。
「名所百景マップ」面白いですね。
常磐線を辿って綾瀬まで行ったり、今日歩いた辺りをたどって往時を偲んだり。
金刀比羅さんの上野巡業もそうですが、接点の作り方で色々と新しい世界が開けるものですね。

Posted by mizdesign at 2007年08月11日 03:14
コメントしてください




保存しますか?