2007年07月31日
●「ル・コルビュジェと私」 第3回 「ル・コルビュジェとは誰か」
森美術館で開催中のレクチャーシリーズ「ル・コルビュジェと私」の第3回「ル・コルビュジェとは誰か」の聴講メモです。出演は磯崎新さん。
コルビュジェはなぜ絵を描くのか?コルビュジェはいつもスケッチブックを持ち歩いていた。スケッチブックから絵画、建築、実生活への影響を追っていくことで、コルビュジェ研究の欠けた部分を語ることを試みる。
□Journey to the East
イスタンブールでスレイマン期のモスクを観て、ギリシャへ。海からアトス山を眺めるスケッチ。僧院のスケッチ。アテネへ。船の上から眺めるアクロポリスの丘。夕陽のアクロポリスを待ち、そして丘を登る。スケッチブックの記述「alone it is a sovereign cube facing the sea」。アクロポリスを見て、cubeと捉える。最初の建築体験、啓示。
□Album of La Roche
パリに出る。ピカソがキュビズムを発表した後の時代、ポスト・キュビズムに何をしたら良いか?オザンファンとポスト・キュビズムのマニフェスト、ピュリズムを発表。「暖炉」(白い立方体)を描く。静物画のモチーフとしてガラス器を多用。
スケッチブック「Album of La Roche」を辿る。延々と絵の下絵、そして絵。透明ガラス器の重なりの表現を探し(スケッチ)、まとめとして絵を描く。空間の重層性の表現、コーリン・ロウの述べるところのambiguity(両義性)。ドミノシステムのスケッチ、重なりあいの表現、レマン湖の景色(「母の家」の土地を探しに行ったときのスケッチ)。重なりあい、ラ・ロッシュ邸の初期スケッチと内観パース。空間の取り出し方、重層させていく過程を建築に置き換えていく。理論、絵画、建築の一貫した仕事。最後に300万人都市のスケッチとマニフェスト。そしてヌードデッサンの模写。原型があって模写、自分のスタイルを作っていった。
□黒い影
白の時代(1925-35)に3-4のコンペに当選後外される、落選を繰り返す。国連連盟本部、モスクワのセントソロユース、ソビエト・パレス。建築家として一度挫折。1929年、南米旅行へ。南米のスケッチブック。リオの岩山と民家。ヴァナキュラーな物への関心。岩山に長大なピロティのスケッチ、高速道路+建物の構想の始まり。後のアルジェ計画に集約。女性の裸を多く描く、エスニックへの興味。帰りの船でジョセフィン・ベーカーとの出会い。1930年代の変化、「黒い影」。マッシブで透明感のない、肉の塊として対象を捉える。建築でも存在感のある素材を使う。何故?
(時代を戻して)パリに出た頃の娼館を描いたスケッチは、ピカソの「アビニョンの娘たち」と同じ主題。ドラクロアのアルジェ、モロッコ。ロダンのヌードデッサンの模写。常に「二人の女性」の主題。「黒い影」を持った立体においても相変わらず「二人の女性」の主題。
□アイリーン・グレイとカップマルタン
アイリーン・グレイの登場。漆工芸家から始まり、先端的なモダンデザインを手がける美女。1929年にカップマルタンの住宅「E. 1027」を完成。コルビュジェよりも出来の良い(?)白い箱。この住宅の背後に、コルビュジェ設計のカップマルタンの小屋と宿泊施設が建つ。コルビュジェはこの住宅に、彼女に無断で壁画を描き、激怒させた。
なぜ白い壁を汚そうとしたのか?白の時代の自分を汚した?なぜ二人の女のモチーフ?アイリーン・グレイはレズビアン。エスニックな肉体を描きながら、自分自身の中にある透明性、キューブを統括して支配しようとした?男性から見て女性は他者、自分でコントロールできない他者の存在を感じる。建築との関わりを考えるという状態に追い込まれた?この頃に、コントロールの効かない破壊された都市に到達。
□ラ・トゥーレット修道院
元々はスイスのプロテスタント社会で育った。なぜラ・トゥーレットを設計する?最初期のスケッチはスロープ案。神父よりル・トロネ教会を見るよう勧められる。コルビュジェのノート「10%しか光がない。全部石だけ」。非常に的確な指摘。写真、模型では分からない。体で感知しないと分からないことがある。1963年に訪れた。まだドミニコ会が実際に生活しており、女性は入れなかった。最初の透明から、「E. 1027」の悩みを経て、真っ暗闇に行き着く。
磯崎さんの講演を聞くのは、第3世代美術館の全盛期以来、14年ぶりくらい。その平明に見えて難解(に感じられる)な論理で、聴く者を惹き込む語り口は健在。今回も繰り返し「なぜか」と明確に問いを発し、それに答えつつ気がつけばコッテリとした深みへと誘います。話を建築に帰結させながら、心に残るのはどんよりとした闇。なんとも言葉にし難い領域へと斬り込む手腕が印象に残りました。
アカデミーヒルズを出ると、YAYOI KUSAMA presents 「宇宙の中の水玉カフェ」が開催中。「いつも何かが起こっている」イベント性の仕掛けはさすが。
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