2007年07月01日
●「ル・コルビュジェと私」 第1回 「ル・コルビュジェについて語る」
森美術館で開催中の「ル・コルビュジェ展」。そのパブリックプログラムの一環であるレクチャーシリーズ、「ル・コルビュジェと私」の第1回「ル・コルビュジェについて語る」の聴講メモです。出演は槇文彦さんと富永譲さん。
槇さん:インドに旅行した際にアーメダバードを訪れた。ホテルの窓から、水牛が昼寝している向こうにコンクリートのブリーズソレイユが見えた。シャンディガールのアトリエで、コルビュジェと会う機会を得た。当時設計中だった豊田講堂の設計図を持ち歩いていたので見てもらった。柱をつなげているのが気に食わない様子だったが、彼もスイス学生会館ではつなげている。
コルビュジェにまつわる伝説は多いが、素朴な人という印象。その一方で「人生は残酷」という言葉も残している。
コルビュジェは1920-30年代に英雄になり、世界大戦期は不遇の時期を過ごすが、ロンシャンで再び英雄になった。人生で2度英雄になることは凄いことだが、常に満たされないところがあり、それをエンジョイしているように思える。
富永さん:独立して仕事がなかった時期に、コルビュジェの作品集を読んだ。毎日見ていても飽きない。編集が上手い。汲み尽くせない魅力を感じ、彼の作品の模型を作った。結局12個作った。
白の時代の住宅はピュアに見えるが、グロピウスとは根本的に何がが違う。
リチャード・マイヤーらFive Architects は、コルビュジェの白の時代のボキャブラリーを用いて、ゲーム感覚でデザインした。
ロンシャンの教会の創作過程を、スケッチを順番を並べて推理した。抽象的でユニバーサルではない。風景の音響学、大地の空間にどう働きかけるか。1950年のスケッチに見られる広い空間の捉え方は、1911年のパルテノン神殿のスケッチの頃に戻っているのでは。ラ・トゥーレット修道院は大地に突き刺さる感じ。
槇さん:日本人は「自然」、ヨーロッパ人は「大地」という言葉を使う。ある荒々しい何かに、手を加えて作っている。シャンディガールの建築は、土地をくりぬいて作る感覚。人間と対峙する。ラ・トゥーレットは極限の個人の生活の場。コミューンの理想形?
サン・ピエール教会のそそり立つ祭壇は感動的。壁に穿たれた開口のアイデアは後付けかもしれないが、とても良い。
白の時代の住宅の展開と三つの教会は、コルビュジェを良く表している。前者は金持ちの住宅。フランス人は仕事を頼まず、依頼主はアメリカ人とスイス人。後者はドミニコ派の前衛的な司教の依頼。パトロンは大切。教会の三部作は、不定形、直角、垂直がそれぞれのテーマ。
対談:カップマルタンの小屋。今回の展示の原寸模型は凄く良く出来ている。奥さんへの誕生日プレゼント。内装はベニヤの丸太小屋。白の時代の水平窓と対比的。世界が自分の中に入ってくる。
母の家。ラ・ロッシュ邸と同時期(1923年頃)。長手11m、奥行4m。ベッドルームの裏手にトイレ、キッチン、ユーティリティがあり、生活しやすい。親に対する愛情が感じられる。設計図を持って、場所を探して作った。70m2ながら広々としており、風景が飛び込んでくる感じがする。ミースの空間に近い。建具に朝陽の通る丸孔を開けたりして、白の時代の住宅とは違った意識で作られている。30年後(ロンシャンの教会を手がけている頃)にこの家が如何に大切かを綴った「小さな家」を出版。
ラ・ロッシュ=ジャンヌレ邸。白の時代の出世作。ナポリの街区スケッチを思い起こさせる曲面の壁。思ったより広がりがなく、ギュッと締めてまた広げる感じ。建築的プロムナード。
エスプリ・ヌーボー誌。オザンファンと共同ではじめるも、徐々に排除。コルビュジェの作品ばかりに。
ポンペイのスケッチ。古いモノと合体して、新しいモノが生まれてくる。
窓。前期は主体が外を見る。後期は主体に浸透してくる。外を取り込んでいる。
コルビュジェとミース。コルビュジェはビスタの展開、身体性。ミースは絶対的な空間、ある意味バロックに通じる。
ロンシャンの教会。中にいる主体に対して、入りこんでくる。色を使うのは、ステンドグラスの変形。歴史の根本に働きかけながら、今の形に変形していく。アルジェリアの村、カニの甲羅。1911年「東方への旅」に出てくるヴィラ・ドリアーナの採光窓から、教会の採光窓へ。自分の目で見たものを参照、表出して世界が広がってゆく。
槇さん:(ギリシャ、イドラの写真を映しつつ)モノクローロ=シンプル+スペース。レゴを重ねることでできる。住居の一角を切り取って外部を作る=コートハウス。白の時代の原型、ドミノ。空間を如何につなげるか。モノル、白の時代にも現れる。エスプリヌーボー館から300万人都市へ。コートハウスの集積を作り出した背後には、ヴァナキュラーなモノがあったかもしれない。コルビュジェの抱いた文化形態に近いものが、普遍性を掴みだし、現代(高層住宅)まで拡大したのではないか。
1911年の旅行記。人間の普遍性をスケッチして掘り起こしていく。普遍的なものを見ながら、現代化していった。
和辻哲郎「風土」。時間をかけて旅をした。
気心の知れたお二人による、尽きぬコルビュジェ談義。とても充実したひとときでした。
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Tak様>
こんにちは。
展示、レクチャーとも、予想よりずっと良かったです。
次回は安藤さんですね。
会場でお会いしましょう!