2007年05月30日
●レオナルド・ダ・ヴィンチの世界-各分野から見たその実像
「イタリアの春・2007」も後半。「受胎告知」の日本滞在も、残り3週間を切りました。先週末は多摩へ足を延ばして、恵泉女学園大学で開催されたシンポジウム「レオナルド・ダ・ヴィンチの世界-各分野から見たその実像」を聞きました。
多摩センター駅から多摩市複合文化施設(パルテノン多摩)へと延びる大通り。左に新緑、右に商業施設、奥に文化施設。結節点に門形を配した古典的な構成に、現代的な賑わいが入り込んだ、古くて新しい空間。
スクールバスに乗ってキャンパスへ。「恵泉スプリングフェスタ」が開催中で、活気があります。
学食でお昼を食べて、フェスタを少し見て、あっという間にシンポジウムの時間に。
シンポジウムは、先日出版された「レオナルド・ダ・ヴィンチの世界」を底本にしたトークショーかと思っていたら、著者の方たちによる1人15分x10人の梗概発表会でした。10分でチーンと鳴り、12分でチーンチーンチーンと鳴り響く鐘の音が印象的。
1.池上英洋「新しいレオナルド像」。レオナルドのアンドロギュヌスへの憧れを検証する試論。それでそれで!と思ったところで終わり。掴みはOKという感じ。
2.小倉康之「レオナルドの建築」。レオナルドの手稿を肯定的に捉えて、建築家レオナルドを検証する試み。レオナルドは都市計画がやりたかったのでは?という結びにビックリ。
3.田畑伸吾「レオナルドの工学的関心の軌跡」。レオナルドを「工学者」の先駆者として捉える試み。大量生産、コスト、問題提起力といった現代の概念からレオナルドに接するところがミソ。
4.田中久美子「北方とレオナルド」。「イタリアルネサンス」と、その元ネタ「北方ルネサンス」との比較。そしてレオナルドへの影響の考察。先日見た「イタリア・ルネサンス版画」のデューラーとライモンディの関係を思い出しました。興味津々。
5.藤田英親「レオナルドの医学・解剖学」。手稿で辿るレオナルドと解剖医学。発見、図示の発明、物体としての人体の認識。
6.森田学「音楽・観劇から見たレオナルドの実像」。即興音楽の名手レオナルドにスポットを当てる試論。当時の音楽を再現したテープを流すのが効果的。聴覚に訴える分、世界の広がりという点では抜群。
7.伊藤淳「レオナルドの彫刻とモニュメント」。伝レオナルド「少年キリスト像」の来日で注目の分野。ミケランジェロの存在がクローズアップ。
8.小谷太郎「天文学者としてのレオナルド」。レオナルドの優れた洞察と閃きを認めるも、発見を発表していないこと、器具を使った観察とは思えないことを踏まえ、天文学及び物理学への影響なしと結論。正論。
9.大竹秀実「レオナルドの<最後の晩餐>技法と修復」。専門家による、とても分かり易い「最後の晩餐」の修復過程の解説。常々感じる「ここまでオリジナルが失われると絵画というよりも遺跡では?」という疑問を質問させていただきました。
10.谷口英里「レオナルドと日本」。レオナルドが日本で有名になる過程を解き明かす試み。モナリザ盗難事件、第二次大戦下でのレオナルドブーム、モナリザ展。時代の都合に合わせて利用されるレオナルドという風に感じられて衝撃的。
最後に質疑の時間があったので、「レオナルドのアンドロギュネスへの憧れについて、解剖医学の見地からはどうお考えですか」という質問をさせていただきました。
領域の異なる複数の専門家の目を通してレオナルドを見てゆく構成は、個々の視点と認識の相違が明確でとても面白かったです。「再構築を視野に入れた解体」という枠組がとても現代的。
「深遠なる知」。その案内人としてのレオナルド像に、個人的にはとても興味があります。
2007年05月20日
●そうだ京都に行こう-奈良、大阪
翌日は奈良へ。近鉄特急が見慣れたオレンジ地にブルーのラインでないのにビックリ。伊勢志摩ライナーというらしいです。運良くサロンカーという豪華車両に乗れたので、ゆったり気分で奈良へ。
国宝、重文ゴロゴロの奈良博「神仏習合」を観た後、学園前に移動して大和文華館へ。オシャレな学園都市の趣のある駅前、門から建物が見えない広大な敷地、木々の向こうに見えてくる建物。展示館の竣工は1960年、設計は吉田五十八。源氏物語絵巻で有名な五島美術館と、同い年、同じ設計者、私鉄の社長さんが作った美術館という点でも同じ。
「松浦屏風と桃山・江戸の美術」を観ました。入ってすぐの尾形光琳筆「扇面貼混手筥」の六面に渡る光琳尽くし、人が円を描く「輪舞図屏風」の構図も面白いですが、やはり目玉は「婦女遊楽図屏風(松浦屏風)」。ほぼ等身大に描かれた遊女達が、着物の意匠を凝らし、遊興に興ずる様はとても魅力的です。彼女達の表情だけを見ればマネキン的な無表情にも見え、遊郭の大部屋の壁面を飾っていた顔見世図にも思えます。その絵を気に入った数寄者の旦那が買い受けて、屏風仕立てたのかと空想が広がります。名作というよりも怪作の類だと思うのですが、悔しいくらいに目が離せません。芸術新潮でのビックリな裏話が記憶に新しい尾形光琳筆「中村内蔵助像」も観られて良かったです。
建物は竹の生えた中庭を囲む一室のみの展示ですが、そのあっけらかんとした作りと、中ほどで海のように池を見せるバルコニーの演出が、見応えある展示と相まってとても素敵な空間になっています。期待を遥かに上回る一時でした。
近鉄電車で生駒の山を越えて、大阪へ。山を下る際の、超高層が林立する眺めがけっこう衝撃的でした。肥後橋駅から土佐堀を渡って国立国際美術館へ。川の上を高速道路が走り、その脇にニョキニョキと超高層ビルが建つ景色は西も東も同じですが、こちらの方が節操がないように思います。
国際美術館の、地上にモニュメントのみを露出させて、建物を地下に埋める構成は理に適っていると思いますが、実際の空間としては今一つ。周囲の再開発ビル群の中に埋没しています。
「様々な祖形 杉本博司 新収蔵作品展」を観ました。作家自身による会場構成は、写真を飾るパネルの並びが列柱のようです。吹抜け部に人物写真を掲げ、列柱の片面は建築シリーズ、反対面は観念の形シリーズが並びます。道具立ても作品も魅力的ですが、会場が広いわりに数が少ないせいか、薄味な展示に思えました。
最後はJRが誇る新快速でビューッと京都へ。駅の横に出現した都市型広場は健在です。色々と物議を醸しましたが、この建物は空間としては正解だと思います。
ものすごく充実した二日間でした。
2007年05月18日
●そうだ京都へ行こう-近代から現代へ
承天閣を後にして、京都府京都文化博物館へ。その別館は、1906年(明治39年)竣工の日本銀行京都支店を保存公開しているものです。設計は辰野金吾とその弟子長野宇平治、東京駅と同じ「辰野式」と称される様式建築です。
創建当初の姿に復元された吹抜空間を抜けて、渡り廊下でつながった本館へ。「丸紅コレクション 絵画と衣装 美の名品展」を観ました。「美しきシモネッタ」の目元は確かにボッティチェリ風なのですが。。。顔と体のつながり方や、背景の建物と人物の位置関係がどうも微妙に思えます。
地下鉄を乗り継いで京都国立近代美術館へ。時代は一気に下って、1986年竣工の現代建築です。設計は槇総合計画事務所。格子パターンに石、ガラス、鉄が嵌め込まれた壁面、強烈な平安神宮の軸線に直交するシンメトリーなファサード。伝統と現代が融合する超優等生建築。
3層吹抜けを登るダイナミックな大階段。一度上まで上がって、降りていく構成はグッゲンハイムと同じ。開催中の「福田平八郎展」を観ました。非常に写実的な美「雨」、観察に基づく抽象美「漣」、マンガチックな可愛らしさと墨の大胆さが同居する「池辺の家鴨」、花を描かずに桜を描く「山桜」。初期から最晩年までの名作がズラリと並び、作風の変遷を辿る構成は見応えあります。写生帳からは、観察から創作に至る過程が窺えて、こちらも興味深いです。個人的には、作風の変化が必ずしも成功しないと思える箇所もあり、非常にリアルな作家像に迫っていると感じました。
若冲ゆかりの錦小路近くで夕食後、帰路に目に入ったのは「ルイヴィトン京都大丸店」。竣工は2004年、わずか3年前です。外装設計は今をときめく青木淳建築計画事務所出身の永山祐子建築設計。ブランドの顔として、しっかりと目立ってます。
2007年05月15日
●若冲展 釈迦三尊像と動植綵絵120年ぶりの再会 その2
展示は第一展示室へと続きます。目玉展示というべき内容がゴロゴロと続くところが今回の展示の凄いところです。
新発見!若き日の若冲筆「厖児戯帚図」(画面奥)。その前で熱く語る学芸員の村田さんの話に聞き入る参加者の方々。
振り返れば若冲、若冲、若冲。多分世界で一番、若冲密度の濃い空間でしょう。この濃さは、この場所に行かないと伝わりません。
「動植綵絵」デビューのきっかけとなった「毘沙門天立像」(右)と、「動植綵絵」が飾られる「観音懺法」が行われた「円通閣」の消失にまつわる奇跡「円通閣棟札」(左)。片や秘仏、片や後世二度と開かないよう厳命された秘宝。これらの公開からも、相国寺の本展にかける熱意が伝わってきます。
「鹿苑寺大書院障壁画 葡萄小禽図床貼付床の間」と「違い棚」。空間を感じるという点で、「動植綵絵」と「釈迦三尊像」全33幅と並ぶ本展の白眉。本当に観られて良かったです。
現代的センスに満ちた奇想の魅力と、歴史的な古刹の魅力がガッチリとかみ合って、多くの人に観てもらいたいという主催者の熱意に満ちたこの展示。その充実度は、他に比較するものが思い浮かばないくらいに凄いです。
6/3までと期間が短いのが玉に瑕ですが、昔は年に一度の「観音懺法」の日にしか飾られなかったことを考えれば、20年分の公開を一度に集めたという解釈も成り立つでしょう。その千載一遇の機会に、恵まれた環境で鑑賞できたことに感謝の念が絶えません。どうもありがとういございました。
2007年05月14日
●若冲展 釈迦三尊像と動植綵絵120年ぶりの再会 その1
京都行きの理由は、相国寺承天閣美術館で開催される「若冲展 釈迦三尊像と動植綵絵120年ぶりの再会」を観ること。昨年の三の丸尚蔵館「花鳥-愛でる心、彩る技 <若冲を中心に>」と、東京国立博物館「プライスコレクション 若冲と江戸絵画展」を合わせて10回通った身としては、「動植綵絵」を一堂に会して観られる今回の企画は千載一遇の好機です。
運良く先行プレビューに参加できることになり、期待感は高まるばかり。いつも御世話になっている「弐代目・青い日記帳」のTakさんも御夫婦で参加されるとのことで、それならばと「はろるど・わーど」のはろるどさんもお誘いして、お花見カルテットで京都へと繰り出すことに。気分は大人の遠足です。
相国寺境内にある伊藤若冲のお墓にお参りして、いざ承天閣へ。
講堂で広報の方からお話を伺った上で、第二展示室へ移動。扉をくぐると、そこには「動植綵絵」と「釈迦三尊像」全33幅が!三尊像部分だけが折れ上がり、下辺を揃えたショーウィンドウ。測ったようにピッタリと収まる空間と絵画の一致。あの細密にして華麗な画面が壁と化し、全体で一つの空間を構成する驚き。しばらく言葉が出ないくらいの感動です。単体で観ても素晴らしい絵ですが、全体として観ることでその仏画としての性格が明確になります。
学芸員の村田さんから今回の展示について伺いました。絵を観るのに夢中でうろ覚えですが、印象に残った点を箇条書きします。
・展示室は「動植綵絵」を念頭に計画されており、今回の里帰りは悲願の実現。
・今回の展示では、若冲の居士としての側面から読み解いている。
・「動植綵絵」の配置順で資料から確認できたのは、「釈迦三尊像」左右の「老松白凰図」と「老松孔雀図」のみ。後は推測。
・その左右の絵は、中国における花の格付け(?)に習い、左に「牡丹小禽図」、右に「芍薬群蝶図」と推測。
・若冲には「多数の中の違」という意識があり、それが「薔薇小禽図」の一輪だけ奥を向く白薔薇(上から4番目)や「群鶏図」の一羽だけ正面を向く鶏といったところに現れているのではないか。
・「群魚図(蛸)」は単に好奇心で描いた絵ではなく、蛸薬師のエピソードに親の供養の念を込めたのではないか。
村田さんの解説はとても明瞭で興味深く、なにより若冲への熱意に溢れています。居士若冲の視点を掘り下げることで、「動植綵絵」の見方が深まりました。
展示左列最後尾は「群魚図(鯛)」、右列は「群魚図(蛸)」。個人的には「紅葉小禽図」で季節が変わり、「菊花流水図」で時空を超えるのがフィナーレと思い込んでいるので、ムムムと唸ってしまいました。
こういった順番について思いを巡らせるのも、今回の展示の醍醐味だと思います。若冲自身も当初から全体構想を固めていたわけではないそうですし、想像の余白を楽しめます。
この時点で、期待の遥か上を行っていますが、展示は第一展示室へと続きます。(今回は解説の都合上、観る順が逆でした。)
●そうだ京都へ行こう-往路
「そうだ京都へ行こう」。週末は、京都へ旅行しました。
古都の面影と、現代へと至る変化の双方が入り混じるのが魅力。
富士川越しに富士山を望む。東海道を下る際に、欠かせない景色。東海道新幹線からの眺め。
打ち水で濡れた石畳と、奥へと延びる動線。暖簾で透ける中庭。視線を制限しつつ、気配を伝えるしつらえ。京都国立博物館から少し歩いた通りにて。
真壁と朱傘のコントラスト。相国寺にて。
町中を流れる小川と、石積の護岸と、真壁と、新緑。白川沿いに東山三条から岡崎へと抜ける道中にて。
2007年05月04日
●野田の長藤、若冲と応挙@足利
素晴らしい快晴に恵まれたGW後半初日、足利へと足を伸ばしました。目的は足利フラワーパークの「野田の長藤」と、龍泉寺の「若冲と応挙」。いつも御世話になっているこちらでGW三日間のみの「若冲と応挙」展があることを知り、出かけることにしました。
去年は根津美術館で応挙「籐花図」を観、先日はモネの「藤」を観たので、今回は本物の名物藤を観ようと思い立ち、足利フラワーパークへ。園内はモネ展の新美くらいの人人人です。大藤は見頃、白藤は咲き始め、きばな藤は開花前でした。見どころはやはり「野田の長藤」。解説板によると「160cmもの長い花房を250帖の棚いっぱいにつける」そうですが、現在は7分咲きという感じです。一面に漂う芳香、空を覆う花天井、異様に太い幹と脈打つ如く伸びる枝。応挙やモネの親しみやすい世界よりも、奇想派の世界、特に狩野山雪に近い感じでした。
大渋滞に難儀しつつ、龍泉寺へ。本堂とその下階を使っての展示です。お堂は江戸絵画が中心、下階は近代から現代までの日本画を中心に、それぞれ彫刻や書も並んでいます。お寺のコレクションと近隣の所蔵家の方の協力で実現したそうですが、思っていたよりもはるかに充実した内容でした。
この展示が凄いのは、ガラスや柵といった隔てモノなしに、絵画や掛軸をじっくりと観られるところ。墨の瑞々しさ、筆捌きの機微、紙の質感まではっきりと見えます。それと床が畳敷きなこと。村の公民館の文化祭のような雰囲気で名品が観られる、稀有な機会です。
本堂左手に若冲、右手に応挙。他多数。
チラシの表紙にもなっている伊藤若冲「庭鳥双幅 雄鶏」。雄渾な筆致、足を踏ん張り目を見開くポーズ、跳ね上がる尾羽。そして何より、黒々と墨の瑞々しさを湛える保存状態の良さ。解説の方が、「細見コレクションのモノよりも上」と話すのもうなづけます。伏見人形の絵も可愛らしいです。絵葉書を作って欲しい。
円山応挙「幽居雪積図」。河合玉堂旧蔵の作品だそうです。年始に観た「雪松図屏風」を思わせる雪と松の描画。今回はぐぐっと近づいてその筆捌きの細部を観ました。となりには、とても可愛い犬の絵。こちらも絵葉書を作って欲しい。
田能村竹田のところで畠山記念美術館の名前が出たりして、解説も薀蓄に富んでいて面白かったです。
下階に移って、日本美術院に縁の画家たち。他多数。
木村武山「秋の雨」。茨城県五浦で活動した画家。秋雨に煙る中、紅葉した木の葉が房の如く垂れ下がり、その下を青い小鳥が飛ぶ。その色彩の美しさは素晴らしいです。
小川芋銭。牛久沼のほとりで農業を営みながら画を描き続けた画家。別名「河童の芋銭」。彼の日常には河童が居たのでしょう。筑波山を描いた絵も複数。
武山、芋銭共に、活動拠点が常磐線沿線にあります。解説では流山の秋元家の名前も出ていました。足利でこんなに柏近郊の話を聞くとは思いませんでした。
2007年05月01日
●パリへ―洋画家たち百年の夢
東京藝術大学大学美術館で開催中の「パリへ―洋画家たち百年の夢」を観ました。副題は「~黒田清輝、藤島武二、藤田嗣治から現代まで~」。文明開化以降パリに渡った俊英たちの作品を通して、洋画確立の軌跡を辿る企画展です。平たく言えば、教科書で見た近代以降の日本絵画がゴロゴロ並ぶ展覧会。
第1章 黒田清輝のパリ留学時代。会場入ってすぐに、本展の顔、黒田清輝「婦人像(厨房)」。グレートーンの中の冷たさと暖かさの描写、前を見据える視線が印象的。有名な「湖畔」よりも、こちらの方が好きです。
その師ラファエル・コラン「田園恋愛詩」。印象派の技法を取り入れたアカデミズムの画家。良いとこ取りな反面、人物表現の硬さや構図に唐突な感じを受けます。コランに黒田を紹介したのは画商林忠正だそうですが、彼はモネと親交があったことでも有名です。落ち目なアカデミズムよりも、人気絶頂の印象派の巨匠に弟子入りという可能性はなかったのでしょうか。
山本芳翠「浦島図」。油絵でコッテリ描かれた浦島太郎と竜宮城の人魚たち。なぜかお爺さんも混じっています。群像構図と掲げた旗が、ドラクロワ「民衆を導く自由の女神」を思わせますが、元ネタは観たのでしょうか。ごった煮の闇鍋のような面白さを感じます。
第2章 東京美術学校西洋画科と白馬会の設立。黒田清輝「智・感・情」(会期後半は「湖畔」と入れ替え)。油絵のコッテリした人物像を、金屏風に貼り付けた意欲作。でもコッテリ。印象派の表現を試みた「鉄砲百合」、「雲」。こちらも西洋のローカル化(日本化)の試作な感じ。名家に生まれ、「近代洋画の父」を約束されたこの人は、真面目な秀才だったんだろうなあ。
和田英作「野遊」。三美人像のモティーフ、ルソーを思わせる密林、天平調(?)な衣装、垂れ下がる藤。これは融合なのか回帰なのか、でも面白い。「法隆寺金堂壁画第五号壁模写」。模写とはいえ、保存状態が良くて何より。
藤島武二「女の横顔」。西洋に範をとりつつ、東洋に「昇華」するように思えて好きです。「港の朝陽」の省略された船の描写も面白い。
梅原龍三郎「北京秋天」。緑の人物画は苦手ですが、これは色彩が綺麗。
第3章 両大戦間のパリ―藤田嗣治と佐伯祐三の周辺。佐伯祐三「オーヴェールの教会」、「靴屋(コリドヌル)」、「広告塔」、「パンテオン寺院」。独特の荒々しく繊細なタッチはとても心に残ります。夭折を賞賛するような言い回しは好きではありませんが、それゆえに到達できる境地があるかと思うと複雑。
藤田嗣治の作品は去年観た「藤田嗣治展」のスーパーダイジェストという感じ。その人気っぷりは今も昔もすごいのだなと改めて実感。
小出楢重「自画像」。卒業制作で、このふてぶてしさ!佐伯や藤田の自画像も良いですが、こっちも良いです。
第5章 戦後の留学生と現在パリで活躍する人びと。現代的な作品が並び、一気に肩の力が抜けて気楽に観られる一方で、どこら辺がパリなのか良く分かりません。でも、この中から歴史を紡ぐ作品が出るかと思うと面白いです。岩田榮吉「日本人形(トロンプルイユ)」の立体騙し絵のような構成や、モリエヒデオ「ロベスピエールと革命的快楽」の生理的不快感を伴うインパクトが印象に残りました。物語の挿絵のような絵が目についたのは、絵画単独では成立しにくい時代なのでしょうか。
「オルセー美術館展」、「異邦人たちのパリ」、「大回顧展モネ」、そして本展と、パリに縁のある企画展が続きますが、その中ではちょっと地味な感じです。でも、借り物の巨匠よりも、日本発のアートを応援したいです。
上野公園の緑を抜けて、芸大へ。初夏の素晴らしい一時。
同時開催は芸大コレクション展「新入生歓迎・春の名品選」。
美術館ロビーから見える新緑。外壁のアースカラーとの対比が素敵。