2007年03月11日
●日本美術の歴史 (読了編)
「日本美術の歴史」(辻惟雄著、東京大学出版会)を読了しました。購入編のエントリーが去年の2月16日なので、一年かかったことになります。バークコレクション展の栞が懐かしいです。
この本の特徴は、豊富な知識に裏打ちされた茶目っ気たっぷりな「個人の視点で語られる美術通史」という点と、豊富な図版に尽きると思います。それは横尾忠則さんの表紙と、「縄文からマンガ・アニメまで」という白帯にも良く現れています。邪馬台国や救世観音といった歴史上の謎に触れつつ、サラッと自身の見解を添えて話を進めていくくだりは、歴史ファンのツボをくすぐります。また、「かざり」というキーワードを提示して折にふれて振り返る展開も、「変わるもの」「変わらぬもの」を浮かび上がらせて効果的です。
もう一つの魅力は、展覧会に行く際に、その位置付け、概要を振り返る副読本としての活用です。「国宝伴大納言絵巻展」も、「花鳥-愛でる心、彩る技 <若冲を中心に>」も、「美術百年の継承展」も同じ時系列の中で捉えることで、視野が格段に広がるように思います。ページにするとほんの少しですが、その行間に込められた奥行きを感じ、その先の深淵なる世界を覗き込む感覚は、なかなか得難い経験です。
建築も、その時代時代の美術との関連という文脈で登場します。限られたページ数ながら、”豆腐を切ったような”無装飾な”ツルツルピカピカした箱のような建物”という、モダニズム建築とそれまでの歴史主義との間の根幹的な亀裂まで言及されています。様々に絡み合う美術と建築の関係を辿るのも興味深いです。
現代に辿り着き、美術、アート、マンガ、アニメと枝葉を広げて、この本は終わります。「かざり」という糸で縫われた通史を踏み台に、各自がその続きを紡ぐという終わり方も、今風だと思います。
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? 日本美術の歴史 辻惟雄 from つまずく石も縁の端くれ
積読状態の本を、また一冊、やっつけた。美術史の概説なんて、面白くないものと相場が決まっていたのだが、さすがは辻先生、自分の思い入れの部分にも、サラッと触れながら... [続きを読む]
たまに語られる辻先生の思いいれたっぷりの
見解が、客観的な通史の説明の部分から
ずいぶん突出していて、面白かったです。
バークコレクション展、本当に懐かしいです。
一村雨様>
こんばんは。
エエッ!?というようなことをサラッと含ませる語り口が、この本をとっつき易くしていますね。
今は、ダ・ヴィンチ展の割引券を栞代わりに、ダ・ヴィンチ本を読んでいます。いつの日か、池上先生に西洋美術の歴史を書いていただきたいですね。
こんばんは。
お疲れさまでした。
私はまず図書館で借りて2回延長しながら読みました。
取りあえず期限付きだと集中できるかな・・・なんて(汗)。
もちろん手元に置いておくつもりなんです!
浸って楽しいひとときでした。
tsukinoha様>
こんにちは。
この本は通読する楽しみと、行間を読み込む楽しみの二通りの読み方がありますね。
僕も当初は前者でひとまず終わらせるつもりだったのですが、展覧会に合わせてランダムに読むようになって、1年経ってしまいました。
少し鞄が軽くなりました(笑)。