2006年12月31日
●キーワード 2006
今年のアート、街関連を三つのキーワードで振り返ってみます。
「今そこにある江戸」
今年は若冲の年でした。細密華麗にして個性の強い絵柄と構図がズラリと揃う「動植綵絵」。技法、真贋と何かと話題の「鳥獣花木図屏風」。昔を振り返るのでなく、「今そこにある江戸」を観ているという感覚を抱かせてくれたことが何より大きいです。
きっかけは三の丸尚蔵館の「花鳥-愛でる心、彩る技 <若冲を中心に>」(1期、2期、3期、4期、5期)。裾野を広げたのは「プライスコレクション 若冲と江戸絵画展」(1回目、2回目)。若冲に始まり、応挙、芦雪、抱一から琳派へと裾野が広がり、NHKテレビ「ギョッとする江戸絵画」で時系列が与えられ、「江戸の誘惑」で北斎や師宣も加わって江戸の喧騒までもが聞こえて来そうに。
若冲の世界に同時代性を感じたからこそ起きるこの親近感は、アートの持つ力を感じさせてくれます。
「工夫を凝らす美術館」
企画に工夫を凝らす美術館が増えていますが、出色は出光美術館。宗達、光琳、抱一、琳派の3枚看板を並べる「国宝風神雷神図屏風」。絵巻物全幅展示、徹底解説、大胆な推論を組み合わせる「国宝伴大納言絵巻展」。渾身の大型企画展の連発に、東博並みに目が離せない存在になりました。所蔵の名品を落ち着いて観られる「出光美術館名品展Ⅱ」も好印象。
工夫を凝らすという点では、千葉市美術館も健闘しています。「広重 二大街道浮世絵展」で広重の写生帳が観られたのは嬉しい出来事でした。
反対に東博は特に宣伝もなく名品を公開するので油断がなりません。「佐竹本三十六歌仙絵巻断簡」の小野小町が観られたのは、インターネットのおかげです。平成館の大行列と合わせて何とかならないものでしょうか。
「街・建築・アートの接近」
原美術館の中庭に出現した「舞い降りた桜」。銀座エルメスの屋上に出現した「天井のシェリー」。小学校の校庭に出現したアート市場「銀座あおぞらDEアート」。実寸のうねる屋根を再現する「建築|新しいリアル」。街・建築・アートが接近、重なる機会が増えています。それらは常に成功しているわけではありませんが、枠組の広がりを予感させてくれます。
その一方で、「パブリックアートとはなにか?」の講演会では危機感が前面に押し出され、「アートがまちにやってくる」や「HOKUSAI~北斎の宇宙」では再開発活動の一環としてアートが登場します。
私が興味を持つ三つの分野がどう重なり、影響を与え合うのか。今後にとても興味があります。機会があれば実際に携わる立場にも立ってみたいと思います。
本年はどうもありがとうございました。良い年をお迎え下さい。
2006年12月27日
●出光美術館名品展Ⅱ(後期)
出光美術館で開催された「出光美術館名品展Ⅱ」の後期展を鑑賞しました。「国宝風神雷神図屏風」、「国宝伴大納言絵巻展」と力の入った企画展が続き、混んでいる美術館の印象がありましたが、今回は適度な人の入りで観やすかったです。前期を見逃したのが残念。
入口を入ると左手に長谷川等伯「竹鶴図屏風」がお出迎え。濃淡で描き分ける遠近と竹の質感に等伯の世界を感じます。年明けの「松林図屏風」と合わせれば、年末年始は等伯な気分。続く「江戸名所図屏風」は「江戸の誘惑」を思い起こしつつ市街探索気分で見入ります。
次は「琳派」。伝俵屋宗達「龍虎図」のユーモラスな表情に和み、伝尾形光琳「鹿蒔絵硯箱」の流水紋に意匠の力を感じます。でも今回の白眉は酒井抱一「糸桜・萩図」の品の良さ。糸桜の枝が一本持ち上がる様の繊細な美しさに見惚れました。鈴木其一「四季花木図屏風」の野山に牡丹がニュッと顔を出す、遠近を無視した構図も少々グロテスクで印象的。
そして「浮世絵」。勝川春章「美人鑑賞図」は1枚の絵に複数の一消点パースを重ねて広がりを表現しているのが効果的。葛飾北斎「鍾馗騎獅図」は力感漲る画面が、とても85歳とは思えません。小布施に旅行したのもこの頃。来年は小布施に行かねば。でもそれ以前に承天閣は必須。
本展の副題は「競い合う個性 等伯・琳派・浮世絵・文人画と日本陶磁」。陶磁の知識はありませんが、奈良時代作とされる灰釉短頸壺等も興味深かったです。
2006年12月26日
●年の瀬日本橋2006
再開発が進行中の日本橋は、江戸、昭和、平成の面影が混在する時代絵巻のような街です。「年の瀬日本橋2006」はその特徴を際立たせています。
五街道の起点、日本橋。現在の橋は1911年建造。上空を跨ぐ首都高も含めて、時代のランドマーク的な存在です。景観再生に向けて、移設するべきは橋か、首都高か?ホットな論争のポイントでもあります。
ルネサンス様式建築、日本橋三越本店。1935年竣工。陰影に富む壁面は、現代のツルリとした質感とは異なる華やかさがあります。
もう一つの様式建築、三井本館。1929年竣工。昭和初期の壁面に浮世絵を映す試みは、日本橋ならでは。
新しい日本橋、三井タワー。低層部の列柱を思わせるデザインと、セットバックした高層部。街並の継承と新しい開発に応える優等生建築。単体だとかなり堅苦しいので、「遊び」部分の出現が待たれます。現在プラネタリウムと屋台村がある三井第三別館跡地には何が建つのでしょうか。
2006年12月25日
●HOKUSAI~北斎の宇宙
日本橋HD DVDプラネタリウムで上映中の「HOKUSAI~北斎の宇宙」を観ました。最先端プラネタリウム「メガスターII」、再生が進む「日本橋」、そして「北斎」という取り合わせは興味をかきたてられます。去年の暮れは「北斎展」が強烈な印象を残しましたが、今年も締めはこの人。流石は北斎です。交通至便な立地でプラネタリウムが観られるというのもなかなかロマンチック。
予約制かつ座席指定なので、特に混雑もなく入場、着席。リクライニングシートもなかなか快適です。プログラムはちょっと意外な始まり方をしますが、やがて北斎登場、そして満天の星に魅了されます。ドーム天井に映し出される北斎の代表作の数々、天井にうずくまる小布施の鳳凰、絵から抜け出して動き出す龍、天に瞬く星々、揺らめくオーロラ。プラネタリウムならではの大迫力、星空と北斎のコラボレーションは見応え充分。あっという間の30分でした。冒頭と末尾のドラマ(?)は要らない気もしますが、まずまず楽しめました。
来年1月からは「星空の贈りもの」と題した満天の星とヒーリングサウンドを堪能するプログラムが併映になるそうです。「メガスターII」を堪能するにはこちらの方がお勧めかもしれません。上映終了後無料招待券がもらえたので、次回はこちらを観ようと思います。
HD DVDプラネタリウムの横では「年の瀬日本橋2006」が開催中です。三井本館に投影される浮世絵の数々を、道路越しに屋台村から眺める期間限定イベントです。浮世絵、自動車の音、屋台の雑踏が混在する不思議な空間が出現しています。寒空にもかかわらず、けっこうな人出でした。
追記:こちらのブログでも取り上げておられるのでメモ。
弐代目・青い日記帳「日本橋HD DVDプラネタリウム「HOKUSAI~北斎の宇宙」」
Art & Bell by Tora「北斎の宇宙: 日本橋HD DVD プラネタリウム」
2006年12月13日
●BRUTUS Casa 「いま、ミュージアムから目が離せない」
BRUTUS Casa がミュージアム特集だったので購入しました。圧巻はダニエル・リベスキンド最新作、デンバー美術館増築棟の見開き写真。空を切り裂くように鋭角に伸びる切っ先、花のように爆発のように波打つ複数のボリューム。建築である前に、美術館である前に、その存在は圧倒的に美しい。論理ある透明性、軽さ、シンプルな建築がデザイントレンドの主流にある中で、この建物の存在感は突き抜けています。脱構築主義の流れに位置するアンビルトの建築家の実作が、こんなにも力強く美しいことも衝撃的。実際に観てみたいです。