2006年07月11日
●若冲と江戸絵画展 その2
「プライスコレクション 若冲と江戸絵画展」の鑑賞メモです。コレクションの質もさることながら、プライスさんが魅力あると感じた絵画の数々を、その感動をそのまま感じられるよう配慮されている点が非常にユニークです。
展示室に入ると長沢芦雪「猛虎図」が出迎えます。猫をベースに描かれた虎が多い中、筋肉隆々の人をベースにしているようで凛々しいです。第1室Iは「第一章 正統派絵画」から始まります。渡辺始興「鯉魚図」の垂直に滝を登る鯉の勢いある姿、伊年「芥子薊蓮華草図」の鮮やかな赤と描画の巧みさが印象的です。続いて「第二章 京の画家」。円山応挙「赤壁図」で彼の技法の幅広さを感じ、長沢芦雪「牡丹孔雀図屏風」での線の黒さが強調された幾分漫画チックな描画に師応挙との違いを感じます。山口素絢「美人に犬図」は、犬がお気に入りの芸者にじゃれつく大旦那に見えてちょっと困ります。円山応震「麦稲図屏風」は麦と稲、夏と秋、縦と横といった様々な対比と、霞を配して両者をつなぐ構成に、穏やかな中に緊張感が感じられます。最後は長沢芦雪「軍鶏図」のガニマタでのしのしあるく姿に、鶏ですら擬人化する彼のセンスにまいります。
第1室IIは「第三章 エキセントリック」です。伊藤若冲「花鳥人物図屏風」は、疾るような黒墨の勢いで描かれた鳥、巧みな濃淡で描かれた花、卵のように省略された人物が並びます。「鶴図屏風」は、卵のような胴体に鉄筋のような脚、割り箸のような嘴を挿した鶴が並びます。びっくりするくらいに大胆な省略と、巧みな描画が魅力です。そして何かと話題な「鳥獣花木図屏風」。モザイクタイルを敷き詰めたような描法は、三枚しか現存しないという事実からも、その途方もない手間が想像できます。升目に割って描くと面白いかもしれないと思いついちゃったんだろうなあ。作業を担ったであろう弟子たちの悲鳴が聞こえるようです。メルヘンタッチな動物たちと相まって異次元ワールドです。「旭日雄鶏図」、「紫陽花双鶏図」といった若冲ワールドの代表作は、後の「動植綵絵」へのつながりが興味深いです。前者は鶏に鳥の真実を見た若冲が「旭日鳳凰図」へと至る出発点のように思えます。後者は雌鶏のエロ目が後の「梅花群鶴図」へつながり、同名の絵ではなぜを雌鶏が頭を掻いています。「鯉魚図」は若冲版鯉の滝登りですが、横から捉えた構図は空を飛ぶようです。「鷲図」は最晩年の作らしいですが、双翼を高く掲げ、尾翼を垂れた三角構図はいかめしく、波から岩場、木、空へと変幻する背景と対を成して緊張感を漂わせています。
第2室「第4章 江戸の画家」、第3室「第5章 江戸琳派」を経て、第4室Iへ。ここから自然光を模した照明と、ガラスなしの展示が始まります。酒井抱一「柳に白鷺図屏風」の朝になって鳥が飛び立つ感じが素晴らしいです。光の素晴らしさを再認識します。「源氏物語図屏風」からは月明かりの時間も再現され、夜桜の美しさが引き立ちます。狩野柳雪「春日若宮御祭図屏風」は朝になって明るくなると同時に、人々の息吹、喧騒が聞こえるようで鳥肌が立ちました。第4室IIに入って、山口素絢「夏冬白鷺図屏風」の月明かりに輝くような銀画面はとても美しいです。最後は円山応挙「懸崖飛泉図屏風」。霧に霞む深山と密に描かれた水際のコントラストが巧みで、応挙の万能さを改めて知ります。L字型の変則配置と相まって、吸い込まれそうです。黄ばみの全くない保存状態の良さも驚きです。
展示は1階企画展示室にもあり、こちらでは畳に座って絵を観ることができます。この配慮も嬉しいです。
若冲を中心に据えることで、江戸絵画の楽しみがこんなに深まるとは思ってもみませんでした。数珠繋ぎのように連続する企画展と、タイミングを見計らって特集する「美の巨人たち」の相乗効果で若冲フィーバーも最高潮です。この熱病の根底には、若冲の持つ偏執狂的な魅力が、現代の価値観とリンクしていることが大きいと思います。
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.mizdesign.com/mt/mt-tb.cgi/319
? [展示]プライスコレクション 若冲と江戸絵画展 from 日刊シュガーレスゾンビ
一言にするなら「粋なデザイン」。鋭いフォルムとメリハリのある大胆な色彩によって存在の強弱が際立っているので、迫力に押されたり、空間に引き込まれたりして、結局惚... [続きを読む]
? 235 プライスコレクション 若冲と江戸絵画 from たまゆらデザイン日記
4日から東京国立博物館で開催の展覧会に行ってきました。
チラシは東京国立博物館で開催のものなので、
開催地によって違うデザインなのかもしれませんね。
資料... [続きを読む]
? プライス展の伊藤若冲 from 弐代目・青い日記帳
4日から東京国立博物館で始まった「若冲と江戸絵画」展
一昨日居ても立ってもいられず、行って来てしまいました。
以下の展示内容・感想、第三章を除いて一昨日... [続きを読む]
こんにちは。
入り口からインパクトありましたね。すばらしいコレクションの展覧会でした。
なかなか余韻から抜けだせません。
TBさせていただきました。
tsukinoha様>
こんばんは。
コレクションの内容と展示方法で、一粒で二度美味しい展示ですね。中毒性高いです(笑)。
こんばんは。TBさせていただきました。
洒落た構図、大胆な色遣い、緊張感、余白、屏風のつくる空間、と、吸い込まれっぱなしの展覧会でしたね。
江戸絵画は単なる文化としてスルーしがちだったので、まさに「再発見」でした(屏風は特に)。
こんにちは。TBさせていただきました。
mizdesignさんの細かいメモに感服です。絵を思い出しながら読ませていただきました。
パル様>
こんにちは。
今年の若冲フィーバーは、江戸絵画を再発見する絶好機ですね。僕もこんなにはまるとは思いませんでした。それに加えて、あの屏風の展示。目からウロコがボロボロ落ちました。
orangeflower様>
こんにちは。御一読ありがとうございます。
三の丸尚蔵館の「動植綵絵」と合わせて、急性若冲中毒気味です。いや、江戸絵画ホリックというべきでしょうか(笑)。
>この熱病の根底には、若冲の持つ偏執狂的な魅力が、現代の価値観とリンクしていることが大きいと思います。
上手い表現しますね。
ご尤も。
私なんてすぐ熱病にやられてしまう
ミーハーなもので、すっかりハマってます。
Tak様>
今回の若冲ブームは、若冲を通して応挙や芦雪といった江戸絵画を発見してゆく楽しみもありますね。なんというか、お宝ザクザクの冒険物語を体験していく感じ。今回の鑑賞はまさにそんな感じで楽しかったです。