2005年11月30日
●つくばカピオ 1996
つくばカピオは、つくば市の中心に建つ複合文化施設です。アリーナ、ホール、会議室、カフェ等を併設し、前面の公園と一体で文化・レクリエーション拠点として機能します。設計は谷口建築設計研究所、施工は五洋建設、竣工は1996年です。写真は1996年8月に見学会の際に撮ったものです。
大きな庇で外と中を繋げる構成は前出の法隆寺宝物館と同じです。スラリと伸びる列柱が空間を引き締め、スリット状の開口とトップライトが庇の重みを消去します。右手に公園が広がり、左手ガラス面の奥にロビー、さらに奥にアリーナがあります。
アリーナの2階ギャラリーより庇側を見たところです。下部は水平性を強調し、上部は方立てでリズムを取った軽やかなガラススクリーン。その向こうに公園の緑、そしてつくばセンタービルが見えます。アリーナ天井と庇のレベルを揃えて、景色を一枚の絵として切り取りとっています。
建物側面に配置されたカフェテラス。大味な空間が多い中心市街地の中で、落ち着きを感じられるスケールを作っています。
公園から子供たちが駆けて来て、列柱に抱きついたり鬼ごっこをはじめたりしていました。公園のデザインが古いので、つくばカピオとのチグハグっぷりが目につきますが、遊び場という点から見るとあまり関係ないみたいです。
2005年11月27日
●法隆寺宝物館
法隆寺宝物館は、東京国立博物館の敷地の中でも少し奥まったところに建つ、端正な顔立ちと光の宝石箱のような内部空間を持つとても美しい建物です。設計は谷口建築設計研究所、施工は大林組、竣工は1999年です。
ガラスの箱の中に石貼りの展示室を収め、その外側に大庇を廻して中と外を繋ぎます。その明確でダイナミックな構成は、訪れるものを魅了します。水盤に浮く橋を渡り、澄み渡る青空をスパッと切り取る大庇の下、ガラススクリーンをくぐって内部へと至ります。
ガラスの箱と石の展示室の間は「内部化したオープンスペース」となっています。細い方立てが効果的で、柔らかい光に満ちています。左が石貼りの展示室、右がガラススクリーンです。静寂の空間に見えますが、実際には1階レストランのカチャカチャという音が反響して都会の雑踏のような雰囲気です。ここらへんも「オープンスペース」らしくて私は好きです。
2階より中2階の資料室を経て1階へと続く階段。方立ての影が館内を柔らかく包み込みます。法隆寺回廊の連子窓の影を連想させます。
資料室の休憩コーナーです。ガラススクリーンの向こうに水盤、そして錦秋の眺め。計算し尽くされた空間構成です。ソファはコルビュジェ、椅子はイームズ。谷口さんの中では今もモダニズムの時代が続いているのだろうなと少しセンチになります。
2005年11月26日
●北斎展 (後編)
休日明け早々に「北斎展」を再訪しました。今回は9:35入館、入り口付近は既に混雑していたので第一期「春朗期」はとばして第二期「宗理期」から観て回りました。スムーズに鑑賞できることにちょっと感動、前回の下見(?)が生きています。今回の展覧会の醍醐味は、北斎作品を年代を追って最初から最後まで鑑賞できるところにあると思います。壁沿いに観ていくとそのすごさが良く分かります。
絵師としてのスタートが遅い北斎は、第三期「葛飾北斎期」で既に50代にさしかかります。美人図として著名な「七夕図」、縁起物をユーモラスに描く「大黒に二股大根図」、奇妙でリアルな「蛸図」。方向を異にする3様の傑作が並ぶ様に、上手いなーと感嘆します。その横には当時の売れっ子浮世絵師の合筆による「七福神図」があります。北斎の当時の評判が絵を通して伝わり、一つのピークを迎えていることが分かります。ここで前半の展示室は終わり、ラウンジへと出ます。
後半の展示室の入り口には「冨嶽三十六景はこの中です」という注意書きがあります。売れっ子絵師から世界の北斎へ、飛躍の始まりです。第四期「戴斗期」は「伝神開手 北斎漫画」のパース技法指南図にニヤリとして通過し、第五期「為一期」は「諸国瀧廻り」の「和州吉野義経馬洗滝」で感情とボリュームを持つかのごとき水の表現に鮮烈な印象を受け、満を持して「冨嶽三十六景」へと至ります。制作年代は「諸国瀧廻り」の方が後なので、「冨嶽三十六景」をクライマックスに持ってくる演出意図もあるのでしょうか。ベロリン藍の色味と研ぎ澄まされた構図は、躍動感も荒々しさも全てを静寂の中に閉じ込めたような独特の美しさをもたらしています。人の目では追えない刹那の世界を、当時の人たちはどんな目で観たのでしょうか。
展示は続きます。「長大判花鳥図」の「游亀」で前足を広げて空(?)を泳ぐ亀に「ガメラ」の御先祖様を感じたり、同じく「桜に鷹」で睨みつけるような「ギョロリ目」と、どこかグロテスク感漂う漫画チックな表現への傾倒を感じたり。そして第六期「画狂老人卍期」へ。超高速シャッターの極みのような「柳に烏図」は実に82歳の時の作品です。ここらへんまで来ると「北斎」というのは画にとり憑かれた妖怪に思えてきます。「桜に鷲図」ではギョロリ目とグロテスクな美しさが一層洗練され、北斎における老化とは視点の変化に現われるのかと思い至ります。最後は美しい「扇面散図」、空へと龍が昇る「富士越龍図」、晩年の大作「弘法大師修法図」で締めです。天へ還る龍に北斎をダブらせて、展示は綺麗に終わります。北斎自身はまだまだ描く気だったので、「続く」で終わった方が北斎らしかったかも知れません。最後に第一期「春朗期」を軽く観て鑑賞を終えました。2時間ちょっとのスーパースペクタクルでした。
館内の売店で購入した書籍です。右から「北斎展」カタログ、「和楽」北斎特集号、「もっと知りたい 葛飾北斎 生涯と作品」。カタログは必携として、「和楽」は現代の視点に興味があったので、「もっと知りたい」は解説がわかり易いので購入しました。
2005年11月22日
●代官山インスタレーション2005
今日の打合せが終わったのは、日が落ちる少し前でした。ちょうど「代官山インスタレーション2005」が開催中だったので、帰路がてら少し散策しました。
街中にアートワークを設置することで、それまで見えなかった人と街との関係を再発見できることが、この企画の魅力だと思います。
下の写真は私的一番ヒットだった「代官山リビング」です。道路の中央分離帯(空地?)に100mに及ぶ長大なテーブルを設置して、都市のリビングに仕立てています。コンセプト的なものかと思ったら、実際の居心地もけっこう良かったです。
●北斎展 (前編?)
今日は午後から都内で打合せでした。行きがけに「北斎展」を鑑賞しようと早めに事務所を出ていざ上野へ。
会場到着は10:30、すでに展示室内はかなりの人出でした。まずは会場を一巡りして全体の把握です。壁掛けの小さな絵(これが圧倒的に多い)は人波の切れ間から覗き込む感じで流し見して、空いている大判の肉筆絵や島状に展示してある絵をじっくりと観ました。二順目は壁沿いに観ようと思ったものの人波は増す一方で、近づくこともできなくなってきます。案内の方に聞いたところ「平日は開館前に来ないとちゃんと観られない。日中は人が増える一方。閉館前は空くが全体を見る時間がない。土日は人が多すぎて観られない。金曜の夜間鑑賞が比較的空いている。」とのことでした。既に絵を鑑賞する状態とは思えなかったので、早々に切り上げて法隆寺宝物館へと向かいました。会期は残り10日ほどですが、なんとか再訪したいです。
展示は北斎の活動期を六つに分け、各期を分かりやすく特徴づけています。世界中の美術館から作品を集めて全期を網羅した構成は、まさに「北斎展」です。次々と改名し常に新しい題材に取り組む活動の中では「冨嶽三十六景」でさえも一時期の作風に過ぎません。お化けをユーモラスに描く「百物語」、精緻に描き込まれた「軍鶏図」といった好奇心を剥き出しにして少々グロテスクな印象を受ける作品の方が北斎らしいと思いました。その一方でとても綺麗な「扇面散図」、コマ送りを一枚絵にしたような「柳に烏図」といった見惚れてしまう作品が最晩期に並んでいます。年を経てなお新しいものに取り組む「貪欲さ」こそが北斎なのでしょう。肉筆画中心に観たので偏った感想になってしまいました。
2005年11月12日
●横浜トリエンナーレ2005
昨日は「横浜トリエンナーレ2005」に出かけました。20人ほどの団体見学会(キュレーターとサポーターの案内付き)に参加したのですが、サポーターの方の手際の良いガイドのおかげで駆け足ながら満足のいく鑑賞が出来ました。滞在時間は3時間半ほどでした。
展覧会の副題はアートサーカス[日常からの跳躍]です。若手建築家の方達が構成した会場内に様々な非日常的体験がひしめき、全体でお祭り空間を創っています。それらは全くのフィクションではなく、日常に通常と少し見方を変える装置を加えることで異化したモノがほとんどです。実際に体験することでその楽しさが伝わり、その先にあるモノを考えることで深みを増す、そういうタイプの展覧会だと思います。サーカスの名の通り、大人数で鑑賞した方が楽しめます。それと、できれば晴天の日が良いです。
最寄駅の元町・中華街駅です。アートが駅構内まで進出しています。実はこのアートワークは・・・。近づくとちょっとびっくり。
山下公園にあるゲートです。コンテナとゲートの取り合わせという、おかしいはずなのに何故か違和感なく感じられて、日常が怪しくなっていきます。
ふ頭の先端の二つの倉庫がメイン会場になっており、その間の空間は「ナカニワ」と名付けられています。こういったケンチク用語の使い方もイマフウ。
会場内は撮影禁止なので紹介できませんが、様々な趣向の展示が並んでいます。巨大サッカーゲーム、幻想的な音と光のショー、天地に聳える金の折鶴、光るブランコ等など。さらにアーティストの方が突発パフォーマンスもしていて、そのときそのときの面白さがあります。
余談ですが、視点を右手上方に移すと超大型クレーンが聳えています。この存在感は強烈で、アートとは異なった非日常性に満ちています。
海に面した歩行空間は「ハトバ」と名付けられています。写真はそこに並ぶ屋外展示の一つです。中に入って海を眺めてみましょう。ユーラユーラ。
横浜といえば中華街です。会場は再入場ができるので、中華街でお腹一杯食べた後に再度「ナカニワ」でのライブイベントを観に戻りました。大人数で食べる中華は美味しいです。