2005年05月06日
●景観の変動要素から捉えた広重の風景画における情感
桜-景観-広重を結ぶタイムカプセルを開けてみました。私の卒論を「読み物」としてして再構成(論文としての手続きを最小限に削って、図版面を強化)したものです。元の論文は「日本建築学会大会学術講演梗概集(東北)1991年9月」に梗概が収録されています。
□目的
建物の計画において、その周辺環境を考慮することはとても大切です。特に日本は、季節及び気象による時々刻々の変化に恵まれた風土であり、古来より多くの印象や情感(例えば喜びや哀しみ)でその美しさを称え、表現してきました。また広重の風景画は日本の自然美を表現した傑作として高く評価されています。私たちはそれらを観察し、専門家による評論を分析することによって、「開放感」と「閉鎖感」の2つの印象が「情感」形成において重要であると考えました。そこで私たちは、広重の風景画を題材として、「景観の構成要素」が、画から感じられる「印象」と「情感」に対して果たす役割を明確にすることを試みます。
□方法
東京都立中央図書館に所蔵されている広重に関する文献及び図版より、私たちが特に強く情感(喜びと悲しみ)を感じる25枚を対象場面としました(図-1)。次に景観の構成要素を、「近くの山」「遠くの川」といった固定要素と、「降る雨」「満開の桜」といった変動要素に分けて定義しました。その上で上記25枚を用いて建築学科の学生12人に対してアンケート調査を行い、その結果を分析、考察しました。
□結果
「印象」と結びつきの強い「景観の構成要素」を見つけ出し、それらを結びつきの度合いに応じて「創出要因」及び、「強調要因」としました(図-2)。また、「情感」と結びつきの強い「印象」を見つけ出し、これらを情感を発生させる印象としました。また他の印象も情感を強めたり弱めたりしていると考えました(図-3)。
□展望
今回の試みで私たちは、「近くの山」や「遠くの川」といった固定要素だけでなく、「降る雨」や「満開の桜」といった変動要素もまた景観を考える上で重要であることを考察しました。建物を考える上で新たな視点となることを期待します。
図-1 画から感じられる「情感」
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建築は、晴天時を良しとするのか。あるいは、天候のような不確定なものを設計に取り込まないなのか。なんだかパーマネントな考えに満ちています。建築写真は、「晴天時がベスト」と、されているし。
それを思うと、水上さんが卒論でやったことの意味が見えてくると思いますし、小林さんの研究が必要なのでしょう。
「雨音はショパンの調べ」(いつの唄だよ!)のような建築は、どのくらいあるのでしょうか。観月亭(あるいは台)は、よくあるけど。
安藤忠雄さんや山本理顕さんといった、強烈な個性で全体を統合する力量のある方の作品は、雨の中でも画になると思います。ただ、それは空を覆う雨にも負けないくらいに毅然と対峙する力強さがあるということであって、日本建築特有の雨に溶け込む在り方とは異なります。
分かりにくい例えですが、「雨に唄えば」が「雨だけれど気にならないくらいハッピーだぜ」ってことだとすると、景観論の雨は「雨が降ってて楽しいのう」って感じでしょうか。
景観論で評価する雨景(を楽しむ鑑賞装置)は建物の機能ではないので、機能主義で語る限り脇役であり続けます。ここらへんが景観論の苦しいところ。
安藤さんの地中に埋めるというアプローチは、コンクリートの暴力性を消して鑑賞装置だけを残す、すごい解決法かもしれません。あんな手、安藤さんにしか使えませんが。
非常におもしろい視点ですね。
グラフィックデザインのヒントも沢山あるようで、なかなか奥の深いテーマです。
拝見しているうちに、この絵と文章を使って情感のレイアウトをしてみたいと思ってしまいました。職業病ですかね(笑)。そんな本があったら面白いでしょうね。
素敵なものを、ありがとうございました。
「おもしろい」と思ってもらえるのが何よりです。僕もそんな本があったら読んでみたいです。
元々は英作文の練習のために始めた再構成だったのですが、いつか日本語訳も作ろうと思いつつほったらかしにしておりました。今回は良い機会になりました。
ちなみに英語版はこんな感じでした。(http://www.mizdesign.com/story/research.htm)