2002年11月20日

●古くて新しい上野駅

上野駅は、かつては北の玄関口として、また文化施設の集まる場所として東京の顔の一翼を担っていました。
しかし近年は、新幹線の東京駅への乗り入れ、駅舎の老朽化、湾岸地区の台頭、公園の青テント村化等が重なり、その地位は相対的に低下していました。
その上野駅が今年の2月にリニューアルオープンしました。中央改札口を出て広がる大空間(ガレリア)には人々が行き交い、駅が出会いと別れに満ちた祝祭の場所であることを思い出させてくれます。その隣のレトロ館の大きな吹き抜け空間ではイベントが行われ、ギャラリーで賑わっています。また若者向けショップが増えて、駅周辺がおしゃれなスポットへと変貌しました。それだけではありません。8月からはガレリアに面したカフェで「無線による駅でのインターネット接続実験」が始まり、無料でインターネットを使えるようになりました。
ガレリアを眺めながらインターネットが使えるこの場所は、古さと新しさが共存する面白い空間になっています。またノートパソコンユーザーにとっては、軽く食事をしつつ一仕事できる非常に便利な場所です。接続実験は11/19で終了しましたが、一刻も早くかつ低価格でのサービス開始を切望せずにはいられません。
場所がもともと持っていた魅力を活かしつつ、新しい要素を盛り込んでの「場の再生」は、歴史の継続という点でも非常に意義のあることです。都市は盛衰を繰り返す生き物に例えられますが、どんなに栄えている場所も衰える時が来ます。しかし「場の記憶」を愛する人たちがいれば復活することができるのです。
スクラップアンドビルドからストック活用型社会へと移行する時代に相応しい、アーバンデザインの好例だと思います。

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2002年11月05日

●ジャーディ氏講演会

博多キャナルシティーや汐留電通本社ビル等で有名なジョン・ジャーディ氏の講演会に行ってきました。都市における外と中の間の空間(in between)を精力的に手掛けてこられた方です。都市型ショッピングモールの元祖、Houton Plaza から最新のプロジェクトまで10を超える実例が次々に示される様は圧巻でした。また、コラボレーションの大事さを説いたり、設計を辞めてデベロッパーをしていたといった体験談はとても興味深かったです。

□講演
プロジェクトを費用とアートの観点から説明していきました。費用と経済効果の数字を並べることでプロジェクトの成果を強調し、同時に図面、パース、写真を通して、空間の楽しさ、美しさを伝える。シンプルでわかりやすいプレゼンでした。
・Houton Plaza (USA)
現在の事務所の最初の仕事。
美しい色彩、シンプルなデザイン、ユーザーが楽しめる体験。
ローコストで周辺への波及効果を生むほどの価値を創造。
以前に設計の仕事をしていたときに、いくらデベロッパーに in between な空間の大事さを説明してもわかってもらえなかった。この仕事では、デベロッパーが好きにしていいといってくれた。
・LosAngeles Olympic (USA)
足場等の資材をレンタルしてタワー等を構築、オリンピックの終了後返却。資材をカタログ化。時間とコストの節約。
・Lotterdam Project
分断された二つの地域を大きなガラス屋根を架けた歩行者通路でつなぐ。
・LasVegas Project (USA)
通りにガラス屋根を架けて様々な映像を映し出す。
・SaltLake Project (USA)
自分たちが運営するショッピングモール。
・Canal City (Japan)
・Nanba Project (Japan)
1-8階建ての建物にValley(谷)と呼ぶ切り込みを入れ、屋根からアプローチできる。
・Kawasaki Project (Japan)
安価なスタッコ、美しい色彩、シンプルな形。
近日オープン。成功するのではないか。
・Roppongi Project (Japan)
・Shinagawa Project (汐留電通本社ビル, Japan)
Juan Nouvel 設計のタワーに対して、庭と入口の役割。
タワーがガラスコップでこちらが石。
・Taipei Projecct
箱と球。十層以上の吹抜け。通路は2-3層の高さに抑え、なかなか全体を把握できないつくり。
・HongKong Project

□質疑
デザイナー間の意見統一はどうやってますか?
これほどの規模のプロジェクトを一人の人間が手掛けるべきではない。例えるならばオペラのようなもの。お互いにコミュニケートできることが大事。

経済効果の予測を提案時に行いますか?
しません。ユーザーが楽しんでくれれば、結果はついてきます。

建築家を辞めて現在の仕事を始めるまでの間は何をしていましたか?またどんなことを学びましたか?
デベロッパーをしていました。相手を説得する方法を身につけました。

人々の動き、楽しみを増幅するような空間デザインが印象的ですが、動線を造形へと置き換える際にどのような点に配慮していますか?またアートの視点を実際のデザインにどう生かすかをもう少し説明していただけますか?
質問の中に答えがあります。私の事務所には60人のパートナーがおり、それぞれがチェスの駒のごとくコラボレーションを行い、提案に磨きをかけています。また私たちはプロジェクトデザインのみを行い、実際の設計作業は現地の事務所、ゼネコンが行っています。

外よりも中に関心があるようですが?
そのとおりです。私の興味は"in between"な空間にあります。

あなたが手掛けるデザインをどう定義していますか?建築?アーバンデザイン?都市計画?
"Place Maker"です。これにはすべてが含まれます。事をうまく運ぶには、すべてを知っている必要があります。入念な準備が大事です。
デベロッパーをしていたときはお金が入ってきましたが、今の仕事をするようになって入ってこなくなりました。でも今の方が楽しいです。

□感想
プロジェクトの規模を考えると、こんなにも沢山の計画が次々と実現するということは驚異的だと思います。いったいどんな人が手掛けているのだろうかと興味津々で行ってきました。内容は期待以上に面白くて、もう満喫しましたって感じです。アーバンデザインに興味のある人にとって、特にそうだったのではないでしょうか。
質疑の4番目と6番目は僕の質問です。4番目は学生の頃から思っていた、「アーバンデザインに"デザインのためのデザイン"は必要なのか?」という疑問を聞いたつもりです。十分な調査、分析に基づく動線、ボリューム計画。それらを収める器としての建物と外部空間。これらでアーバンデザインは成り立つと思えました。キャナルシティーの球形劇場の大空間、ロッテルダムのガラス屋根の架かった歩行者空間、台北プロジェクトの球形に貫入するブリッジのダイナミズムと低層に抑えた通路からのその眺め。少なくとも、僕が見たい都市の場面がそこにありました。(では建物のデザインとアーバンデザインは別物かと言われると、それもまた違うのですが。建物は都市の景観の一部なのだから、当然両者は同一のアプローチでデザインされるべきだと思っています。)6番目は、率直になんて定義するの?と思って質問したのですが、ストレートな答えにやられた!と思いました。手のひらの上で踊ってちゃだめやん。
電通ビルのガラスコップと石の組合せは面白いと思いました。現代のガラスの摩天楼と石のプラザは、その古典であるシーグラムビルと比較するとどんなを変化を見せるのでしょうか。汐留を見に行く楽しみが増えました。

(本文の内容は筆者のメモと主観に基づき構成しています。正式な記録は TNProbe を参照ください。)

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